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第22章 軍神の治める地では
第993話 神殿の聖所にて
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ひとまず奥に案内される事となったが、オレの事をどこまで知っているのか、他にもいろいろと悩ましいところはある。
「それでは私は別の命がありますので、これからは案内の者の誘導に従って下さい」
ベルヴァーニは一応は丁重な態度で引き下がるが『別の命』がエシュミールの使者に関するものなのは明らかだ。
そしてここでクロンがオレに詫びて来る。
「お主には随分と申し訳ない事になってしまったな。私の身分について黙っていた事は、騙したと言われても弁解の余地がない」
「いえ。それはやむを得ない事でしょう」
幾ら何でもあの場で『王子』だと言ってもそうそう鵜呑みには出来ないし、逆に信じた場合、オレがクロンのことをエシュミールに通報する可能性もある。
何しろオレの方もいろいろと黙っているからな。クロンを責める気にはなれない。
もしもオレが『アルタシャ』だと見当をつけているなら、クロンを『英雄』として見いだしているという話が勝手に広まっている可能性もあるな。
ここはフェスマールに問いかけるしかないか。
「ここの守護精霊はなんと言っているのですか?」
『そなたの力が寺院の守護精霊どころか、そこらの神を遥かに凌駕するものである事はある程度の精霊ならばすぐに見当はつく』
そんなことは言われるまでもなく分かっていたから、オレもひとまず聖女教会を訪れてそっちから話を通してもらおうとしたんだ。
『もしも敵対しているなら寺院の全戦力をもって迎え撃とうと考えても不思議ではないぞ』
「こちらに敵対の意志などないことは、あなたを引き渡すため、わざわざここまで来た事で分かるでしょう」
『しかしこれだけ面倒な状況であれば、ここの者達がその意図を勘ぐるのは当然だな』
確かにフェスマールの宿る『権威の宝珠』を持ち込み、その代償に中立を破棄して参戦しろと要求してくると考えない方がどうかしている。
何しろオレは『王子様』と同行して来たのだから、当然と言えば当然だ。
『短い付き合いだが、我にもそなたがどういう者なのかは分かっているつもりだ。王子の事も知らなかった事も知っている。しかしこの寺院の者達はそういうワケにもいくまい』
「それでこちらをどうするつもりなのですか?」
大司祭に合わせると言っているのだから、向こうも敵対の意志はないだろうけど、真意が分からないのはこっちも同じだ。
『そこまでは分からん。寺院の守護精霊も大司祭を含めた高位聖職者に相談は出来るが、最終的に決断するのは大司祭だからな』
まあ当然だろうな。これが『町の神』とかだったら神様自身がどうこう指図するかもしれないけど、それなりに大規模な教団である以上、判断するのは人間だ。
そしてオレ達が案内された場所は、先ほど見た黄金のドームの中だった。
ドームに上るのはダメだと念押しされていたが、招待されていれば中に入るのは構わないのだな。
当然ながら大勢の司祭が入ってきたオレ達を一斉に注目し、緊張に満ちた視線を注ぐが、黙っているように命じられているのか口を開く者はいなかった。
周囲には数多くの太陽神の彫像が円形に並べられており、正面にはケルマル神のものと思しき、槍を持った精悍な男性の像が金箔を貼られて黄金に輝いている。
ううむ。これまでにも大寺院は何度も見てきたが、そのいずれにも劣らぬ豪華さだな。
そしてケルマル神像の前には大きな祭壇がそびえ、そこには金糸で彩られた豪奢な服をまとった七十歳前後と思しき男性が椅子に腰掛けている。
元の世界の基準では現役でもおかしくないが、この世界の基準では相当の老齢だ。
もちろんオレの『霊視』や『魔法眼』には多数の霊体や魔力の存在が感じ取れるし、特に祭壇に秘められた力は相当なものだ。
恐らく寺院の守護精霊が祭壇にこもっているのだろう。
あと大司祭の隣には外見的には三十半ばほどの、金髪で青紫の瞳の女性が立っている。
恐らくはここにある聖女教会の社につとめている聖女で、老齢の大司祭の介護をしているのだろう――もしかすると大司祭の側室なのかもしれないな。
そしてオレとクロンが周囲の注目を浴びる中、ドームの中央まで進むと、大司祭はゆっくりと立ち上がって一礼する。
「よくおいで下さいました。私はケルマル神に仕えし『光の導き手』のオトリコンと申します」
「私はヒクソス王国、第二王子のクロン。こちらは――」
「そちら様は女神イロールの名高き女英雄たるアルタシャ様でございますな」
当然ではあるが、オトリコンはオレの事を事前に知っていたな。
傍らの聖女が神託を受けていたのか、フェスマールから話を聞いたこの寺院の守護精霊が見当をつけたのか。
普通だったらオレの偽者の可能性を考えたかもしれないけど、寺院の守護精霊と聖女が共に進言すれば、まずその可能性はないだろう。
だがこの言葉にクロンはオレを見つめつつ困惑の声をあげる。
「な?! なに?! アル……お、お主が?!」
ううむ。伝えるタイミングを逸してしまったのは否めないな。
クロンにもちょっと悪い事をしてしまった。
王子にはふさわしくないあからさまに動揺した様子を見て、周囲の司祭達には少しばかり動揺が広がり、先ほどの沈黙が破られる。
「なんだあの態度? クロン王子は知らなかったのか?」
「やはり何かの間違いなのではないのか……」
「いいや。話によれば本物のアルタシャは、相手が誰であろうと滅多に自分から名乗りを上げることは無いらしい。恐らくはクロン王子にも伝えていなかったのだろう」
司祭達もオレの正体と真意を測りかねているのか、小声でいろいろな話が飛び交っているが、どう考えてもオレの真意を説明しても信じてもらえそうにない状況だな。
「それでは私は別の命がありますので、これからは案内の者の誘導に従って下さい」
ベルヴァーニは一応は丁重な態度で引き下がるが『別の命』がエシュミールの使者に関するものなのは明らかだ。
そしてここでクロンがオレに詫びて来る。
「お主には随分と申し訳ない事になってしまったな。私の身分について黙っていた事は、騙したと言われても弁解の余地がない」
「いえ。それはやむを得ない事でしょう」
幾ら何でもあの場で『王子』だと言ってもそうそう鵜呑みには出来ないし、逆に信じた場合、オレがクロンのことをエシュミールに通報する可能性もある。
何しろオレの方もいろいろと黙っているからな。クロンを責める気にはなれない。
もしもオレが『アルタシャ』だと見当をつけているなら、クロンを『英雄』として見いだしているという話が勝手に広まっている可能性もあるな。
ここはフェスマールに問いかけるしかないか。
「ここの守護精霊はなんと言っているのですか?」
『そなたの力が寺院の守護精霊どころか、そこらの神を遥かに凌駕するものである事はある程度の精霊ならばすぐに見当はつく』
そんなことは言われるまでもなく分かっていたから、オレもひとまず聖女教会を訪れてそっちから話を通してもらおうとしたんだ。
『もしも敵対しているなら寺院の全戦力をもって迎え撃とうと考えても不思議ではないぞ』
「こちらに敵対の意志などないことは、あなたを引き渡すため、わざわざここまで来た事で分かるでしょう」
『しかしこれだけ面倒な状況であれば、ここの者達がその意図を勘ぐるのは当然だな』
確かにフェスマールの宿る『権威の宝珠』を持ち込み、その代償に中立を破棄して参戦しろと要求してくると考えない方がどうかしている。
何しろオレは『王子様』と同行して来たのだから、当然と言えば当然だ。
『短い付き合いだが、我にもそなたがどういう者なのかは分かっているつもりだ。王子の事も知らなかった事も知っている。しかしこの寺院の者達はそういうワケにもいくまい』
「それでこちらをどうするつもりなのですか?」
大司祭に合わせると言っているのだから、向こうも敵対の意志はないだろうけど、真意が分からないのはこっちも同じだ。
『そこまでは分からん。寺院の守護精霊も大司祭を含めた高位聖職者に相談は出来るが、最終的に決断するのは大司祭だからな』
まあ当然だろうな。これが『町の神』とかだったら神様自身がどうこう指図するかもしれないけど、それなりに大規模な教団である以上、判断するのは人間だ。
そしてオレ達が案内された場所は、先ほど見た黄金のドームの中だった。
ドームに上るのはダメだと念押しされていたが、招待されていれば中に入るのは構わないのだな。
当然ながら大勢の司祭が入ってきたオレ達を一斉に注目し、緊張に満ちた視線を注ぐが、黙っているように命じられているのか口を開く者はいなかった。
周囲には数多くの太陽神の彫像が円形に並べられており、正面にはケルマル神のものと思しき、槍を持った精悍な男性の像が金箔を貼られて黄金に輝いている。
ううむ。これまでにも大寺院は何度も見てきたが、そのいずれにも劣らぬ豪華さだな。
そしてケルマル神像の前には大きな祭壇がそびえ、そこには金糸で彩られた豪奢な服をまとった七十歳前後と思しき男性が椅子に腰掛けている。
元の世界の基準では現役でもおかしくないが、この世界の基準では相当の老齢だ。
もちろんオレの『霊視』や『魔法眼』には多数の霊体や魔力の存在が感じ取れるし、特に祭壇に秘められた力は相当なものだ。
恐らく寺院の守護精霊が祭壇にこもっているのだろう。
あと大司祭の隣には外見的には三十半ばほどの、金髪で青紫の瞳の女性が立っている。
恐らくはここにある聖女教会の社につとめている聖女で、老齢の大司祭の介護をしているのだろう――もしかすると大司祭の側室なのかもしれないな。
そしてオレとクロンが周囲の注目を浴びる中、ドームの中央まで進むと、大司祭はゆっくりと立ち上がって一礼する。
「よくおいで下さいました。私はケルマル神に仕えし『光の導き手』のオトリコンと申します」
「私はヒクソス王国、第二王子のクロン。こちらは――」
「そちら様は女神イロールの名高き女英雄たるアルタシャ様でございますな」
当然ではあるが、オトリコンはオレの事を事前に知っていたな。
傍らの聖女が神託を受けていたのか、フェスマールから話を聞いたこの寺院の守護精霊が見当をつけたのか。
普通だったらオレの偽者の可能性を考えたかもしれないけど、寺院の守護精霊と聖女が共に進言すれば、まずその可能性はないだろう。
だがこの言葉にクロンはオレを見つめつつ困惑の声をあげる。
「な?! なに?! アル……お、お主が?!」
ううむ。伝えるタイミングを逸してしまったのは否めないな。
クロンにもちょっと悪い事をしてしまった。
王子にはふさわしくないあからさまに動揺した様子を見て、周囲の司祭達には少しばかり動揺が広がり、先ほどの沈黙が破られる。
「なんだあの態度? クロン王子は知らなかったのか?」
「やはり何かの間違いなのではないのか……」
「いいや。話によれば本物のアルタシャは、相手が誰であろうと滅多に自分から名乗りを上げることは無いらしい。恐らくはクロン王子にも伝えていなかったのだろう」
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