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第22章 軍神の治める地では
第995話 いつものように誤解が積み重ねられた結果……
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とりあえずオレはケルマル大寺院の敷地内にある聖女教会の社に招待された。
クロンの方は寺院の貴賓室に案内されたので、ここでひとまずお別れではある。
もちろん白馬領としては、エシュミール軍からの使者が来ている手前、オレ達と鉢合わせさせるわけにはいかないという事情はあるだろう。
そんなわけで社の責任者であるシャーリラはもちろん、他の信徒達もオレに対して興味津々の様子だ。
そしてオレにとっては残念な事に、関心を抱いているのはそれだけではない。
「おおい! 入れてくれよ!」
「賽銭は出すから、アルタシャ様を一目見せてくれ」
聖女教会の小さな社には信徒ではない連中も押し寄せ、いつの間にやら祭りのような状態になっているな。
こうなるのがイヤだったからなるだけ穏便に済ませたかったのだが、知らなかったとは言え王子を引き連れてきてしまったのだから、弁解の余地がない。
もともとこの国の戦争になど関わる気は無く、あくまでもクロンとの個人的な友誼で首都まで送り届けるだけだったつもりなのに、無責任な噂が広まっているのは確実だ。
恐らく押し寄せている中には、オレが『白馬領の平穏』を乱す存在だと考えて、追い払いたくてきている人間もいるのではないだろうか。
もっとも普段は殆ど人がこないであろう、ケルマル大寺院の中にある小さな社としてはそれでも嬉しいのかもしれないが。
「このような貧相な社で、いろいろと騒がしくて申し訳ありません」
シャーリラは頭を下げるが、時ならぬ大盛況に何とも嬉しげだ。
オレが立ち去った後も、自慢しまくるのは目に見えているな。
案内された部屋は狭く手に持てるサイズのイロールの神像があるぐらいの質素なところだが、清潔なのでひとまず過ごすには問題は無い。
「アルタシャ様のこれまでの数々の偉業は我らにとっても誇りでありました。そのあなた様をお迎え出来た事は望外の幸運でございます」
ここでシャーリラは声を潜めて問うてくる。
「ところでクロン王子と同行されておられたのは、やはりあのお方を『英雄』と見込んでの事なのでしょうか?」
そういえばオレは行く先々で出会った男を『英雄』と見込んで恋人にしているという話が勝手に広まっているのだった。
その話を聞いている場合、オレの意図を誤解しない方がおかしいだろう。
「クロン王子は友人ですが――」
「これは非礼な事をうかがいました。お忘れ下さい」
ううむ。シャーリラはやっぱり深読みしているように見えるなあ。
「もしも我らがアルタシャ様の力になれるのならば、最善を尽くしたいと考えておりますが、なにぶんにも見ての通りの小さな社でございますから……」
これも一応は質問だけど、明らかにオレがこの白馬領を参戦させようとしてやってきたと思っている様子だ。
正直なところオレもこれまで見てきたエシュミール軍の残虐行為には嫌悪感しか抱かないが、それでも聖女教会に参戦を要求しろなどとはとても言えない。
もっともクロンは今でも白馬領と交渉はしているのだろうな。
そしてオレとクロンが別になっているのは、一緒になって参戦を要求されたら対応に苦慮すると思っているのかもしれない。
「わたしは何も求めません。ただ皆さんが平和に暮らせればそれでいいのです」
「さようでございますか。あ? もしや?」
シャーリラの表情にいきなり危機感が混じる。
「どうしました?」
「アルタシャ様がお越しになられたのは、この白馬領に危機が迫っている事を意味しているのでございましょうか?」
「そんなことはありません。あくまでも一時、訪問させていただいただけです」
「そう言って下さると私どもも安心出来ます」
オレが顔を出しただけで、何か大事件が起きるのではないかと勘ぐられるのも随分と慣れてしまった気がするな。
ここで社の正面がますます騒がしくなる。
「しばらくここでお休み下さい。私はこられている方々の相手をしてきます」
「分かりました」
一人残されたところで現状を考えるとしよう。
オレにとってはクロンを首都に送り届ける事も、フェスマールをケルマル信徒に引き渡す事もあくまでも『友人との約束を守る』という話でしかなかった。
しかしクロンが実はこの国の王子で、白馬領のケルマル信徒が政治的に難しい立場にあった事から、何とも面倒な事態となってしまったわけだ。
どうしてこうもタイミングが悪いのか。
オレの守護女神であるはずのイロールに呪われているのかと思わずにはいられない。
もちろん嘆いても何も変わらないわけで、オレとしてはクロンがどうにか話をまとめてくれるのを祈るしかない。
だがクロンは話し合いが順当に進まなければ、いま来ているエシュミールの使者を害する事で、否応なく白馬領をヒクソス王国側に引き込む事を考えているぐらいだ。
暴走して無茶な事をしないか、それがオレにすれば心配だ。
そんなことを考えていると、鐘が鳴って周囲は静かになる。
見ると外は夕暮れに染まっている。
どうやら一般の信徒は日の入りと共に、この『あまねく陽光の寺院』から強制的に引き上げさせられるようだ。
寺院が静かになっても、この白馬領の命運のかかった丁々発止のやりとりはこれからも行われるのだろう。
既にフェスマールを引き渡して、オレの目的を果たしているのだから、とっとと出て行きたいところだ。しかし――
オレが眠ろうと思って寝床に近づこうとすると、部屋の中には不気味な音を立てている存在がうごめいていたのだった。
クロンの方は寺院の貴賓室に案内されたので、ここでひとまずお別れではある。
もちろん白馬領としては、エシュミール軍からの使者が来ている手前、オレ達と鉢合わせさせるわけにはいかないという事情はあるだろう。
そんなわけで社の責任者であるシャーリラはもちろん、他の信徒達もオレに対して興味津々の様子だ。
そしてオレにとっては残念な事に、関心を抱いているのはそれだけではない。
「おおい! 入れてくれよ!」
「賽銭は出すから、アルタシャ様を一目見せてくれ」
聖女教会の小さな社には信徒ではない連中も押し寄せ、いつの間にやら祭りのような状態になっているな。
こうなるのがイヤだったからなるだけ穏便に済ませたかったのだが、知らなかったとは言え王子を引き連れてきてしまったのだから、弁解の余地がない。
もともとこの国の戦争になど関わる気は無く、あくまでもクロンとの個人的な友誼で首都まで送り届けるだけだったつもりなのに、無責任な噂が広まっているのは確実だ。
恐らく押し寄せている中には、オレが『白馬領の平穏』を乱す存在だと考えて、追い払いたくてきている人間もいるのではないだろうか。
もっとも普段は殆ど人がこないであろう、ケルマル大寺院の中にある小さな社としてはそれでも嬉しいのかもしれないが。
「このような貧相な社で、いろいろと騒がしくて申し訳ありません」
シャーリラは頭を下げるが、時ならぬ大盛況に何とも嬉しげだ。
オレが立ち去った後も、自慢しまくるのは目に見えているな。
案内された部屋は狭く手に持てるサイズのイロールの神像があるぐらいの質素なところだが、清潔なのでひとまず過ごすには問題は無い。
「アルタシャ様のこれまでの数々の偉業は我らにとっても誇りでありました。そのあなた様をお迎え出来た事は望外の幸運でございます」
ここでシャーリラは声を潜めて問うてくる。
「ところでクロン王子と同行されておられたのは、やはりあのお方を『英雄』と見込んでの事なのでしょうか?」
そういえばオレは行く先々で出会った男を『英雄』と見込んで恋人にしているという話が勝手に広まっているのだった。
その話を聞いている場合、オレの意図を誤解しない方がおかしいだろう。
「クロン王子は友人ですが――」
「これは非礼な事をうかがいました。お忘れ下さい」
ううむ。シャーリラはやっぱり深読みしているように見えるなあ。
「もしも我らがアルタシャ様の力になれるのならば、最善を尽くしたいと考えておりますが、なにぶんにも見ての通りの小さな社でございますから……」
これも一応は質問だけど、明らかにオレがこの白馬領を参戦させようとしてやってきたと思っている様子だ。
正直なところオレもこれまで見てきたエシュミール軍の残虐行為には嫌悪感しか抱かないが、それでも聖女教会に参戦を要求しろなどとはとても言えない。
もっともクロンは今でも白馬領と交渉はしているのだろうな。
そしてオレとクロンが別になっているのは、一緒になって参戦を要求されたら対応に苦慮すると思っているのかもしれない。
「わたしは何も求めません。ただ皆さんが平和に暮らせればそれでいいのです」
「さようでございますか。あ? もしや?」
シャーリラの表情にいきなり危機感が混じる。
「どうしました?」
「アルタシャ様がお越しになられたのは、この白馬領に危機が迫っている事を意味しているのでございましょうか?」
「そんなことはありません。あくまでも一時、訪問させていただいただけです」
「そう言って下さると私どもも安心出来ます」
オレが顔を出しただけで、何か大事件が起きるのではないかと勘ぐられるのも随分と慣れてしまった気がするな。
ここで社の正面がますます騒がしくなる。
「しばらくここでお休み下さい。私はこられている方々の相手をしてきます」
「分かりました」
一人残されたところで現状を考えるとしよう。
オレにとってはクロンを首都に送り届ける事も、フェスマールをケルマル信徒に引き渡す事もあくまでも『友人との約束を守る』という話でしかなかった。
しかしクロンが実はこの国の王子で、白馬領のケルマル信徒が政治的に難しい立場にあった事から、何とも面倒な事態となってしまったわけだ。
どうしてこうもタイミングが悪いのか。
オレの守護女神であるはずのイロールに呪われているのかと思わずにはいられない。
もちろん嘆いても何も変わらないわけで、オレとしてはクロンがどうにか話をまとめてくれるのを祈るしかない。
だがクロンは話し合いが順当に進まなければ、いま来ているエシュミールの使者を害する事で、否応なく白馬領をヒクソス王国側に引き込む事を考えているぐらいだ。
暴走して無茶な事をしないか、それがオレにすれば心配だ。
そんなことを考えていると、鐘が鳴って周囲は静かになる。
見ると外は夕暮れに染まっている。
どうやら一般の信徒は日の入りと共に、この『あまねく陽光の寺院』から強制的に引き上げさせられるようだ。
寺院が静かになっても、この白馬領の命運のかかった丁々発止のやりとりはこれからも行われるのだろう。
既にフェスマールを引き渡して、オレの目的を果たしているのだから、とっとと出て行きたいところだ。しかし――
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