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第22章 軍神の治める地では
第1003話 大司祭を救出したところで
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「貴様ら! 大司祭様にその不埒な行いは何だ!」
入り口からクロンは祭壇を指差しつつ糾弾の声をあげている。
しまった。オレが潜入する事ばかり考えていて、クロンの事はすっかり忘れていた。
考えてみれば警備の兵士をオレが『平静』の魔法で動きを止めていたから、クロンだって入ろうと思えば簡単にできたのだ。
しばらくはどうしていいのか分からず、途方に暮れていたけど持ち前の無鉄砲さを発揮して飛び込んできたところ、目の前で大司祭が人質になっていたわけで、それを見て我慢できるクロンではない。
しかしこれは当然ながらケルマル信徒達にも動揺が生まれるが、もちろん叫んだのは糺弾された連中だ。
「不埒者はお前だ!」
「たとえ王子と言えど、ここでは我らが法だ!」
いや。確かにクロンは不法侵入かもしれないが、どう考えてもより重大な法を犯しているのは、大司祭を捕まえて脅迫しているあんたらでしょうが。
まあ自分の事は棚に上げるのは、この世界の人間ならば当たり前なので仕方ないか。
「おい! ベルヴァーニ! 警備主任としてあやつを捕らえろ!」
さすがにベルヴァーニがこれで動く事は無いようだ。
だがここはむしろ千載一遇のチャンスか?!
いまは『穏身』の魔法で周囲からオレの存在は認識されていないが、魔法をかけるような事をすればすぐに察知されてしまう。
だからタイミングを伺っていたが、この場の全員の注意がクロンに向いている今こそ、大司祭を救い出す事が出来るかもしれないぞ。
そんなわけで祭壇に一気に近づくと、オレは改めて『平静』をかける。
まずは大司祭に武器を突きつけている警備兵が動きを止め、次にその周囲にいる連中が次々に止まっていく。
「な、なんだ?!」
「何が起きた?」
残った連中が困惑の声をあげるものの、状況が呑み込めていない様子だ。
まあ元から大司祭を捕まえて脅迫するというかなりテンパったところなのに、クロンが飛び込んできて、そこでオレが不意打ちで魔法をかけているのだから頭がついていけないのだろうな。
そして数瞬の後、大司祭の周囲にいた連中は全員が動きを止めていた。
「これは……いったい」
ただベルヴァーニ達も状況の急変に頭がついてこない様子だ。
ここでオレは身を乗り出して叫ぶ。
「今です! 大司祭様を!」
「アルタシャ様? どうしてここに?!」
「説明している場合ではありません!」
「わ、分かりました!」
ベルヴァーニは部下に命じて、硬直した連中を次々に拘束していく。
いざという時は、オレの回復魔法で治すつもりだったけど、それでも即死されたらどうしようもなかったから、流血無しで終わったのは一安心というところだ。
だが――
今度はオレに向けて槍が突きつけられる。
「我らの窮地をお救いくださった事には感謝します……しかしこれも使命ですから悪く思わずにいただけますかな」
ベルヴァーニは本当に申し訳なさそうだが、それでも槍をおろしはしなかった。
大司祭オトリコンも同様で済まなさそうな表情だが、止める気は無いようだ。
高位聖職者と護衛以外は入れない場所に部外者のオレが飛び込んだのだから、当然彼らの法に照らせば犯罪と言う事になる。
残念ながら緊急避難は認めてくれないらしい。
「おい! 私はともかくアルタシャ様には危害を加えるな! 大司祭を助けてもらっておいて、お前たちに恩義という言葉はないのか!」
同じく武器を突きつけられているクロンも文句を言っているが、やはり拘束を解いてはもらえないようだ。
こういう事も予期していたし、場合によってはとっとと逃げ出すつもりだったけど、クロンまで捕まっているとなるとそういうわけにもいかないな。
ううむ。この場合の刑罰が目をつぶすとかだったら、オレの回復魔法でどうにでもなる――これだけでもかなり感覚がズレてしまっているのは分かっている。
だがもしも死罪というなら、オレも全力で抵抗させてもらうしかない。
「……」
ただクロンの糺弾を受けたオトリコンやベルヴァーニの表情を見る限り、そんな杓子定規に法を解釈して罪に問うような事はしたくないという意志はうかがえたので、ひとまず大司祭の言葉を待つ事にしよう。
そしてオトリコンは槍を突きつけられたオレの前に立つ。
「大司祭様もご無事だったようで何よりです」
オレが話しかけると、オトリコンはもちろん周囲の面々も少しばかり面食らった様子だ。
「お助けくださったあなた様に対し、恩知らずにも武器を向けている、この私の身を心配してくださるのですか?」
「もちろんですよ」
これを聞いてオトリコンは改めて嘆息する。
「本当にあなた様は評判通り、いやそれ以上のお方でございますな……我らごときには及びもつきませんな」
「それでわたしとクロン王子の身はどうなるのですか?」
オレの質問に対し、周囲の緊張は高まる。
そこに少しばかり怖れの色が混じっているのは、たぶんオレに手を出したらやっぱり後々面倒な事になりかねないという意識もあるのだろう。
「申し訳ありませんがいかなる事情があろうと、我らの法を犯した事を大司祭として見逃すワケにはいきません。本来ならば部外者がここに入るのは死罪なのですが、あなた方はよそ者ですから『追放処分』とさせていただきます」
まあそこらが落としどころというところか。
もともと報酬など興味は無かったし、いろいろやばい事情で逃げ出すのもしょっちゅうだったから、これもいつもの事だと考えるとしよう。
入り口からクロンは祭壇を指差しつつ糾弾の声をあげている。
しまった。オレが潜入する事ばかり考えていて、クロンの事はすっかり忘れていた。
考えてみれば警備の兵士をオレが『平静』の魔法で動きを止めていたから、クロンだって入ろうと思えば簡単にできたのだ。
しばらくはどうしていいのか分からず、途方に暮れていたけど持ち前の無鉄砲さを発揮して飛び込んできたところ、目の前で大司祭が人質になっていたわけで、それを見て我慢できるクロンではない。
しかしこれは当然ながらケルマル信徒達にも動揺が生まれるが、もちろん叫んだのは糺弾された連中だ。
「不埒者はお前だ!」
「たとえ王子と言えど、ここでは我らが法だ!」
いや。確かにクロンは不法侵入かもしれないが、どう考えてもより重大な法を犯しているのは、大司祭を捕まえて脅迫しているあんたらでしょうが。
まあ自分の事は棚に上げるのは、この世界の人間ならば当たり前なので仕方ないか。
「おい! ベルヴァーニ! 警備主任としてあやつを捕らえろ!」
さすがにベルヴァーニがこれで動く事は無いようだ。
だがここはむしろ千載一遇のチャンスか?!
いまは『穏身』の魔法で周囲からオレの存在は認識されていないが、魔法をかけるような事をすればすぐに察知されてしまう。
だからタイミングを伺っていたが、この場の全員の注意がクロンに向いている今こそ、大司祭を救い出す事が出来るかもしれないぞ。
そんなわけで祭壇に一気に近づくと、オレは改めて『平静』をかける。
まずは大司祭に武器を突きつけている警備兵が動きを止め、次にその周囲にいる連中が次々に止まっていく。
「な、なんだ?!」
「何が起きた?」
残った連中が困惑の声をあげるものの、状況が呑み込めていない様子だ。
まあ元から大司祭を捕まえて脅迫するというかなりテンパったところなのに、クロンが飛び込んできて、そこでオレが不意打ちで魔法をかけているのだから頭がついていけないのだろうな。
そして数瞬の後、大司祭の周囲にいた連中は全員が動きを止めていた。
「これは……いったい」
ただベルヴァーニ達も状況の急変に頭がついてこない様子だ。
ここでオレは身を乗り出して叫ぶ。
「今です! 大司祭様を!」
「アルタシャ様? どうしてここに?!」
「説明している場合ではありません!」
「わ、分かりました!」
ベルヴァーニは部下に命じて、硬直した連中を次々に拘束していく。
いざという時は、オレの回復魔法で治すつもりだったけど、それでも即死されたらどうしようもなかったから、流血無しで終わったのは一安心というところだ。
だが――
今度はオレに向けて槍が突きつけられる。
「我らの窮地をお救いくださった事には感謝します……しかしこれも使命ですから悪く思わずにいただけますかな」
ベルヴァーニは本当に申し訳なさそうだが、それでも槍をおろしはしなかった。
大司祭オトリコンも同様で済まなさそうな表情だが、止める気は無いようだ。
高位聖職者と護衛以外は入れない場所に部外者のオレが飛び込んだのだから、当然彼らの法に照らせば犯罪と言う事になる。
残念ながら緊急避難は認めてくれないらしい。
「おい! 私はともかくアルタシャ様には危害を加えるな! 大司祭を助けてもらっておいて、お前たちに恩義という言葉はないのか!」
同じく武器を突きつけられているクロンも文句を言っているが、やはり拘束を解いてはもらえないようだ。
こういう事も予期していたし、場合によってはとっとと逃げ出すつもりだったけど、クロンまで捕まっているとなるとそういうわけにもいかないな。
ううむ。この場合の刑罰が目をつぶすとかだったら、オレの回復魔法でどうにでもなる――これだけでもかなり感覚がズレてしまっているのは分かっている。
だがもしも死罪というなら、オレも全力で抵抗させてもらうしかない。
「……」
ただクロンの糺弾を受けたオトリコンやベルヴァーニの表情を見る限り、そんな杓子定規に法を解釈して罪に問うような事はしたくないという意志はうかがえたので、ひとまず大司祭の言葉を待つ事にしよう。
そしてオトリコンは槍を突きつけられたオレの前に立つ。
「大司祭様もご無事だったようで何よりです」
オレが話しかけると、オトリコンはもちろん周囲の面々も少しばかり面食らった様子だ。
「お助けくださったあなた様に対し、恩知らずにも武器を向けている、この私の身を心配してくださるのですか?」
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これを聞いてオトリコンは改めて嘆息する。
「本当にあなた様は評判通り、いやそれ以上のお方でございますな……我らごときには及びもつきませんな」
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オレの質問に対し、周囲の緊張は高まる。
そこに少しばかり怖れの色が混じっているのは、たぶんオレに手を出したらやっぱり後々面倒な事になりかねないという意識もあるのだろう。
「申し訳ありませんがいかなる事情があろうと、我らの法を犯した事を大司祭として見逃すワケにはいきません。本来ならば部外者がここに入るのは死罪なのですが、あなた方はよそ者ですから『追放処分』とさせていただきます」
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