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第22章 軍神の治める地では
第1004話 白馬領を出たところで
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白馬領からの『追放処分』となったオレとクロンはベルヴァーニ及び兵士に付き添われ、馬車に乗せられて境界線近くまで送られていた。
一応、罪人として縛られて連行されるということで無いのは、最大限の気遣いというところだろう。
「このような扱いになってしまい、申し訳ありません」
一緒に馬車に乗っているベルヴァーニも済まなさそうに頭を下げてくる。
まあ正直なところどの道、ここはすぐに出て行くつもりだったから、さして気にしているワケではない。
実際、これからエシュミールの軍勢との戦いが起きるワケだから、むしろそっちの方が心配だ。
「ところで大司祭様は本当に引退なされるのですか?」
「ええ……あの方は元から引退を考えておられたようですが、今回の一件でそれを決意されたそうです」
ううむ。オトリコンはエシュミール軍との戦いという困難な状況になってしまったので、これ幸いと後進に丸投げしたようにも見えるがあえてツッコミを入れるまい。
「これからこの白馬領にはつらい試練が訪れるでしょうが、皆様の安全を祈っていますよ」
「最期まで恩知らずな我らの心配でございますか……ふう。つくづく格が違うのですな」
ベルヴァーニはため息をつく。
「正直に言えば、最初にあなた様を見た時、その美貌に驚きはしましたが、逆にあくまでも容姿で各国の王や要人に取り入っているのではないかとばかり思っていました。しかしそれは私ごとき凡俗の浅はかな考えだったのですね」
「そんな大した事ではありませんよ」
実際のところ、白馬領がヒクソス王国側についた事が良い結果を招くかどうか、オレには見当もつかないというところだ。
最悪の場合、失敗してエシュミール王国のゴーレムに蹂躙され、あの黄金のドームが炎に包まれる事態を招いてしまう危険性だって当然ありうる。
そんなことになっても、もちろん責任など取れないので、オレとしては追放されて少しは気が楽になるところもある。
「ところでエシュミールからの使者はどうされました?」
「言いにくいことですが……あなた方と同じく追放という事になっています」
幾ら決裂したと言っても、使者を害するのは後々問題になるだろうからな。
使者を殺してその首を相手に送りつけたり、そこまでいかずとも『ヒゲを剃る』など辱めて追い返したりするというのは、元の世界でも昔は宣戦布告としてしばしば行われていたようだが、さすがにそこまで無茶はしないか。
「つまり危険を承知で大司祭を救ったアルタシャ様と同じ扱いということか……あの使者にとっては身に余る光栄な扱いと言えるだろうな」
「……」
クロンがあからさまな皮肉を口にすると、ベルヴァーニは沈黙する。
オレの事で憤っているのは分かるが、ここは我慢してもらおう。
今後、白馬領がエシュミール軍と戦うなら、ヒクソス王国の王子であるクロンはむしろ友好関係を構築せねばならない立場だ。
もちろんクロンもそれぐらいの事が分からない程、愚かではないが感情が抑えられないのだろうな。
「クロン王子。わたしの事はいいのですよ。お気になさらず」
「しかし……」
「ご存じでしょうけど、わたしは根無し草のように一箇所にはとどまらない身です。追放されなくとも、すぐにこの地を離れた事に変わりはありません」
「そう言ってくださると、こちらも助かります」
ベルヴァーニも少しは安堵した様子を見せる。
恐らくオレが皇帝や王などあちこちの有力者と付き合いがあることは知っているだろうから、追放の腹いせにそういった連中に悪評を広めるような事をするのを恐れてはいたのだろうな。
そんなことを言っていると、どうやら境界線にまで来たらしい。
関所にてオレとクロンは下ろされ、ベルヴァーニは頭を下げつつも宣告してくる。
「それではここでお別れです。念を押しておきますが、もしも再びこの地に入れば次は生命の保障は出来ませんぞ」
「そうですか。これが最期となると名残惜しいですね。ベルヴァーニさんもこれから命がけで戦わねばなりませんが、ご無事を祈っています」
「ありがとうございます。私もアルタシャ様の事は忘れませんよ」
「ふん。せいぜい頑張ってエシュミール軍を相手に武勲を挙げるのだな」
クロンはやはり不機嫌な様子だが、捨て台詞を残して憤然と歩き出す。
「アルタシャ様。それでは行きましょう」
「ええ……」
そんなわけでオレとクロンは白馬領を出る。
ここでどうにか白馬領の事は片付き、一息ついたかと思ったが、残念ながらそう簡単に終わりはしなかった。
白馬領の盆地を出て少し離れた森の中で、周囲に不穏な空気が漂い始める。
むう。これはまさか?
いきなり周囲から大勢の兵士が姿を見せたのだ。
「貴様らはエシュミールの手の者か?!」
クロンは叫んで剣を抜く。
なるほど。白馬領は盆地だから、数カ所の道を見張れば守りやすい土地ではある。
だが山の稜線の向こうは見えないから、侵攻する軍が近づき安い地形でもあったのだ。
交渉が決裂すれば即座に侵攻する準備を整えていたに違いない。
もっとも見る限り兵士の数はそれほど多くはない、大ざっぱに数十人というところか。
恐らくは白馬領が戦う準備を整える前に、関所を襲撃して後からくる本隊のための進入路を確保するのが役目なのだろう。
やれやれ。数十人の兵士に囲まれても、まるで驚きもしなくなるとは我ながら危機になじみすぎてしまった気がするよ。
一応、罪人として縛られて連行されるということで無いのは、最大限の気遣いというところだろう。
「このような扱いになってしまい、申し訳ありません」
一緒に馬車に乗っているベルヴァーニも済まなさそうに頭を下げてくる。
まあ正直なところどの道、ここはすぐに出て行くつもりだったから、さして気にしているワケではない。
実際、これからエシュミールの軍勢との戦いが起きるワケだから、むしろそっちの方が心配だ。
「ところで大司祭様は本当に引退なされるのですか?」
「ええ……あの方は元から引退を考えておられたようですが、今回の一件でそれを決意されたそうです」
ううむ。オトリコンはエシュミール軍との戦いという困難な状況になってしまったので、これ幸いと後進に丸投げしたようにも見えるがあえてツッコミを入れるまい。
「これからこの白馬領にはつらい試練が訪れるでしょうが、皆様の安全を祈っていますよ」
「最期まで恩知らずな我らの心配でございますか……ふう。つくづく格が違うのですな」
ベルヴァーニはため息をつく。
「正直に言えば、最初にあなた様を見た時、その美貌に驚きはしましたが、逆にあくまでも容姿で各国の王や要人に取り入っているのではないかとばかり思っていました。しかしそれは私ごとき凡俗の浅はかな考えだったのですね」
「そんな大した事ではありませんよ」
実際のところ、白馬領がヒクソス王国側についた事が良い結果を招くかどうか、オレには見当もつかないというところだ。
最悪の場合、失敗してエシュミール王国のゴーレムに蹂躙され、あの黄金のドームが炎に包まれる事態を招いてしまう危険性だって当然ありうる。
そんなことになっても、もちろん責任など取れないので、オレとしては追放されて少しは気が楽になるところもある。
「ところでエシュミールからの使者はどうされました?」
「言いにくいことですが……あなた方と同じく追放という事になっています」
幾ら決裂したと言っても、使者を害するのは後々問題になるだろうからな。
使者を殺してその首を相手に送りつけたり、そこまでいかずとも『ヒゲを剃る』など辱めて追い返したりするというのは、元の世界でも昔は宣戦布告としてしばしば行われていたようだが、さすがにそこまで無茶はしないか。
「つまり危険を承知で大司祭を救ったアルタシャ様と同じ扱いということか……あの使者にとっては身に余る光栄な扱いと言えるだろうな」
「……」
クロンがあからさまな皮肉を口にすると、ベルヴァーニは沈黙する。
オレの事で憤っているのは分かるが、ここは我慢してもらおう。
今後、白馬領がエシュミール軍と戦うなら、ヒクソス王国の王子であるクロンはむしろ友好関係を構築せねばならない立場だ。
もちろんクロンもそれぐらいの事が分からない程、愚かではないが感情が抑えられないのだろうな。
「クロン王子。わたしの事はいいのですよ。お気になさらず」
「しかし……」
「ご存じでしょうけど、わたしは根無し草のように一箇所にはとどまらない身です。追放されなくとも、すぐにこの地を離れた事に変わりはありません」
「そう言ってくださると、こちらも助かります」
ベルヴァーニも少しは安堵した様子を見せる。
恐らくオレが皇帝や王などあちこちの有力者と付き合いがあることは知っているだろうから、追放の腹いせにそういった連中に悪評を広めるような事をするのを恐れてはいたのだろうな。
そんなことを言っていると、どうやら境界線にまで来たらしい。
関所にてオレとクロンは下ろされ、ベルヴァーニは頭を下げつつも宣告してくる。
「それではここでお別れです。念を押しておきますが、もしも再びこの地に入れば次は生命の保障は出来ませんぞ」
「そうですか。これが最期となると名残惜しいですね。ベルヴァーニさんもこれから命がけで戦わねばなりませんが、ご無事を祈っています」
「ありがとうございます。私もアルタシャ様の事は忘れませんよ」
「ふん。せいぜい頑張ってエシュミール軍を相手に武勲を挙げるのだな」
クロンはやはり不機嫌な様子だが、捨て台詞を残して憤然と歩き出す。
「アルタシャ様。それでは行きましょう」
「ええ……」
そんなわけでオレとクロンは白馬領を出る。
ここでどうにか白馬領の事は片付き、一息ついたかと思ったが、残念ながらそう簡単に終わりはしなかった。
白馬領の盆地を出て少し離れた森の中で、周囲に不穏な空気が漂い始める。
むう。これはまさか?
いきなり周囲から大勢の兵士が姿を見せたのだ。
「貴様らはエシュミールの手の者か?!」
クロンは叫んで剣を抜く。
なるほど。白馬領は盆地だから、数カ所の道を見張れば守りやすい土地ではある。
だが山の稜線の向こうは見えないから、侵攻する軍が近づき安い地形でもあったのだ。
交渉が決裂すれば即座に侵攻する準備を整えていたに違いない。
もっとも見る限り兵士の数はそれほど多くはない、大ざっぱに数十人というところか。
恐らくは白馬領が戦う準備を整える前に、関所を襲撃して後からくる本隊のための進入路を確保するのが役目なのだろう。
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