異世界転移したら女神の化身にされてしまったので、世界を回って伝説を残します

高崎三吉

文字の大きさ
1,004 / 1,316
第22章 軍神の治める地では

第1004話 白馬領を出たところで

しおりを挟む
 白馬領からの『追放処分』となったオレとクロンはベルヴァーニ及び兵士に付き添われ、馬車に乗せられて境界線近くまで送られていた。
 一応、罪人として縛られて連行されるということで無いのは、最大限の気遣いというところだろう。

「このような扱いになってしまい、申し訳ありません」

 一緒に馬車に乗っているベルヴァーニも済まなさそうに頭を下げてくる。
 まあ正直なところどの道、ここはすぐに出て行くつもりだったから、さして気にしているワケではない。
 実際、これからエシュミールの軍勢との戦いが起きるワケだから、むしろそっちの方が心配だ。

「ところで大司祭様は本当に引退なされるのですか?」
「ええ……あの方は元から引退を考えておられたようですが、今回の一件でそれを決意されたそうです」

 ううむ。オトリコンはエシュミール軍との戦いという困難な状況になってしまったので、これ幸いと後進に丸投げしたようにも見えるがあえてツッコミを入れるまい。

「これからこの白馬領にはつらい試練が訪れるでしょうが、皆様の安全を祈っていますよ」
「最期まで恩知らずな我らの心配でございますか……ふう。つくづく格が違うのですな」

 ベルヴァーニはため息をつく。

「正直に言えば、最初にあなた様を見た時、その美貌に驚きはしましたが、逆にあくまでも容姿で各国の王や要人に取り入っているのではないかとばかり思っていました。しかしそれは私ごとき凡俗の浅はかな考えだったのですね」
「そんな大した事ではありませんよ」

 実際のところ、白馬領がヒクソス王国側についた事が良い結果を招くかどうか、オレには見当もつかないというところだ。
 最悪の場合、失敗してエシュミール王国のゴーレムに蹂躙され、あの黄金のドームが炎に包まれる事態を招いてしまう危険性だって当然ありうる。
 そんなことになっても、もちろん責任など取れないので、オレとしては追放されて少しは気が楽になるところもある。

「ところでエシュミールからの使者はどうされました?」
「言いにくいことですが……あなた方と同じく追放という事になっています」

 幾ら決裂したと言っても、使者を害するのは後々問題になるだろうからな。
 使者を殺してその首を相手に送りつけたり、そこまでいかずとも『ヒゲを剃る』など辱めて追い返したりするというのは、元の世界でも昔は宣戦布告としてしばしば行われていたようだが、さすがにそこまで無茶はしないか。

「つまり危険を承知で大司祭を救ったアルタシャ様と同じ扱いということか……あの使者にとっては身に余る光栄な扱いと言えるだろうな」
「……」

 クロンがあからさまな皮肉を口にすると、ベルヴァーニは沈黙する。
 オレの事で憤っているのは分かるが、ここは我慢してもらおう。
 今後、白馬領がエシュミール軍と戦うなら、ヒクソス王国の王子であるクロンはむしろ友好関係を構築せねばならない立場だ。
 もちろんクロンもそれぐらいの事が分からない程、愚かではないが感情が抑えられないのだろうな。

「クロン王子。わたしの事はいいのですよ。お気になさらず」
「しかし……」
「ご存じでしょうけど、わたしは根無し草のように一箇所にはとどまらない身です。追放されなくとも、すぐにこの地を離れた事に変わりはありません」
「そう言ってくださると、こちらも助かります」

 ベルヴァーニも少しは安堵した様子を見せる。
 恐らくオレが皇帝や王などあちこちの有力者と付き合いがあることは知っているだろうから、追放の腹いせにそういった連中に悪評を広めるような事をするのを恐れてはいたのだろうな。
 そんなことを言っていると、どうやら境界線にまで来たらしい。
 関所にてオレとクロンは下ろされ、ベルヴァーニは頭を下げつつも宣告してくる。

「それではここでお別れです。念を押しておきますが、もしも再びこの地に入れば次は生命の保障は出来ませんぞ」
「そうですか。これが最期となると名残惜しいですね。ベルヴァーニさんもこれから命がけで戦わねばなりませんが、ご無事を祈っています」
「ありがとうございます。私もアルタシャ様の事は忘れませんよ」
「ふん。せいぜい頑張ってエシュミール軍を相手に武勲を挙げるのだな」

 クロンはやはり不機嫌な様子だが、捨て台詞を残して憤然と歩き出す。

「アルタシャ様。それでは行きましょう」
「ええ……」

 そんなわけでオレとクロンは白馬領を出る。
 ここでどうにか白馬領の事は片付き、一息ついたかと思ったが、残念ながらそう簡単に終わりはしなかった。
 白馬領の盆地を出て少し離れた森の中で、周囲に不穏な空気が漂い始める。
 むう。これはまさか?
 いきなり周囲から大勢の兵士が姿を見せたのだ。

「貴様らはエシュミールの手の者か?!」

 クロンは叫んで剣を抜く。
 なるほど。白馬領は盆地だから、数カ所の道を見張れば守りやすい土地ではある。
 だが山の稜線の向こうは見えないから、侵攻する軍が近づき安い地形でもあったのだ。
 交渉が決裂すれば即座に侵攻する準備を整えていたに違いない。
 もっとも見る限り兵士の数はそれほど多くはない、大ざっぱに数十人というところか。
 恐らくは白馬領が戦う準備を整える前に、関所を襲撃して後からくる本隊のための進入路を確保するのが役目なのだろう。
 やれやれ。数十人の兵士に囲まれても、まるで驚きもしなくなるとは我ながら危機になじみすぎてしまった気がするよ。
しおりを挟む
感想 104

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。

さくら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。 だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。 行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。 ――だが、誰も知らなかった。 ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。 襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。 「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。 俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。 無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!? のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...