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第22章 軍神の治める地では
第1005話 ようやく助けが来たところ……
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規律正しく並んだ兵士のうち後方の連中は弓を構えて叫ぶ。
「そこの二人。止まれ!」
「動けば射つぞ」
警告の最中に槍を持った兵士が幾人か向かってくる。
オレとクロンは見たところ、フードをかぶったただの旅人なのだから普通はスルーするところだろうけど、これから侵攻するのを見られたので身柄を拘束し、尋問で白馬領の情報も引き出そうという魂胆だろう。
もちろんそれで済めばいいと言いたいのだが、オレもクロンもエシュミール軍に調べられたら危ないのは明らかだ。
「剣を捨てろ。さもなくば死ぬことになるぞ」
クロンも剣を構えているが、この状況では多勢に無勢どころか剣を振るう前に射殺されてしまのは確実だ。
そうするとここは魔法で切り抜けるしかないな。
「クロン王子。ここは相手の言うとおり、剣を捨ててください」
「いえ。ここは私一人でどうにかしますから、アルタシャ様は逃げてください」
やっぱりどこか自己犠牲に酔っている気がするなあ。
王子という立場からするとやっぱり心配だ。
思った通りクロンは純粋で善人ではあるが、国を背負う政治家としてははなはだ心許ない。
まあまだ十代半ばなのだから、今後の成長に期待するしかないか――それまで生き残れたらの話だけど。
幸いにもここは森の中、オレのドルイド魔術が威力を発揮できる。
それに連中もこちらをただの旅人と思っているようで、幾らクロンが剣を抜いていても『取るに足らない相手』と見ている様子がうかがえる。
元の世界にいたときは武器なんぞ向けられたら、慌てふためいてとても相手の事など観察している心理的余裕など無かったろうが、本当にいろいろな事に慣れてしまったものだ。
そんなわけでまず『成長加速』をかけて、周囲の草木を急速に成長させる。
それから『植物歪曲』で植物を操る。
あっという間に森全体がまるで一つの生き物のように動き出す。
ううむ。オレ自身の魔力が更に増大したせいか効果範囲や威力がまた拡大したらしい。
あっという間に森全体に魔力が行き渡ったように感じられる。
「な、なんだ?」
「これはどういうことだ?」
周囲の変化を感じたのか、兵士達にも動揺が走る。
そしてオレの意志によって、植物は次々に兵士に絡みつく。
「うわあ! 化け物か?」
「助けてくれぇ!」
訓練された兵士で命がけで戦う覚悟はあっても、想定外の事態には恐慌が先立つのは、どこでも一緒か。
「何が起きたんだ?」
「今がチャンスです! 急いで逃げましょう」
相手がこれだけの数となると、オレの魔法でも全員を完全に拘束出来る保障がない。
そんなわけで向こうがパニックになっている間にクロンと共にさっさと逃げよう。
「わ、分かりました」
クロンも事情は分からなくとも、オレがこれを引き起こした事は見当がついたらしい。
そんなわけで一気に逃げる。
この森に兵士達が隠れている事はさすがに白馬領からは見えなかっただろうけど、森全体がうごめいている異様な状態なのは気づくだろう。
それで警戒すれば連中に奇襲されたりはしないだろうから、ここは彼らがどうにかエシュミール軍を食い止められる事を祈っておこう。
取りあえず連中からは十分に安全と思える距離を取ったところで、クロンが尋ねてくる。
「先ほどの出来事もアルタシャ様の魔法によるものだったのですか?」
「まあそんなところです」
「本当にあなた様は何でも出来るのですね。まさに女神の化身そのものです」
いや。この世界の女神様はそんなに何でも出来ませんよ。
ましてやオレの守護女神のイロールは、自分の信徒達が何をしているのかすら知らないダメ女神だからな。
「あとこれから先は今まで通り『アル』と呼んでくれますか」
「え……しかし……」
「人前で『アルタシャ』の名前を出されては困りますから」
「そうですね。分かりました」
クロンはちょっとばかり複雑そうだ。何というか僅かに嬉しそうな様子もうかがえる。
「ところでここから首都ハブールまでどれぐらいかかるのですか?」
「申し訳ありませんが……」
ここでクロンは少しばかり恥ずかしげにうつむく。
最初に出会ったところから最短距離では三日という話だったが、オレ達は何しろ寄り道しまくりだからな。
クロンにしても距離などまるで分からない手探り状態というところか。
いくら何でも離れているワケはないから、長くとも二日かそこらでつくはずだ。
だがそれはあくまでも順調に進んだ場合だ。
オレにとって異常事態が日常なのだから、そんな事などあり得ないという諦観があった。
そしてここでオレの予想通り、一団の騎馬兵が姿を見せる。
もしやまたしてもエシュミール軍の追撃か?
こう何度も繰り返されると、もうあんまり驚きもしなくなったが、もちろん緊張に身を固める。だがここで思わぬ叫びがオレの耳に飛び込んできた――
「おお! クロン王子! ご無事でしたか!」
え? これはもしかしてクロンを探していたヒクソス王国軍なのか? 助かったと安堵する場面の筈なのだが、そんなときにも先に何が待ち受けているのか身構えてしまうのはすっかり習性になってしまったな。
「そこの二人。止まれ!」
「動けば射つぞ」
警告の最中に槍を持った兵士が幾人か向かってくる。
オレとクロンは見たところ、フードをかぶったただの旅人なのだから普通はスルーするところだろうけど、これから侵攻するのを見られたので身柄を拘束し、尋問で白馬領の情報も引き出そうという魂胆だろう。
もちろんそれで済めばいいと言いたいのだが、オレもクロンもエシュミール軍に調べられたら危ないのは明らかだ。
「剣を捨てろ。さもなくば死ぬことになるぞ」
クロンも剣を構えているが、この状況では多勢に無勢どころか剣を振るう前に射殺されてしまのは確実だ。
そうするとここは魔法で切り抜けるしかないな。
「クロン王子。ここは相手の言うとおり、剣を捨ててください」
「いえ。ここは私一人でどうにかしますから、アルタシャ様は逃げてください」
やっぱりどこか自己犠牲に酔っている気がするなあ。
王子という立場からするとやっぱり心配だ。
思った通りクロンは純粋で善人ではあるが、国を背負う政治家としてははなはだ心許ない。
まあまだ十代半ばなのだから、今後の成長に期待するしかないか――それまで生き残れたらの話だけど。
幸いにもここは森の中、オレのドルイド魔術が威力を発揮できる。
それに連中もこちらをただの旅人と思っているようで、幾らクロンが剣を抜いていても『取るに足らない相手』と見ている様子がうかがえる。
元の世界にいたときは武器なんぞ向けられたら、慌てふためいてとても相手の事など観察している心理的余裕など無かったろうが、本当にいろいろな事に慣れてしまったものだ。
そんなわけでまず『成長加速』をかけて、周囲の草木を急速に成長させる。
それから『植物歪曲』で植物を操る。
あっという間に森全体がまるで一つの生き物のように動き出す。
ううむ。オレ自身の魔力が更に増大したせいか効果範囲や威力がまた拡大したらしい。
あっという間に森全体に魔力が行き渡ったように感じられる。
「な、なんだ?」
「これはどういうことだ?」
周囲の変化を感じたのか、兵士達にも動揺が走る。
そしてオレの意志によって、植物は次々に兵士に絡みつく。
「うわあ! 化け物か?」
「助けてくれぇ!」
訓練された兵士で命がけで戦う覚悟はあっても、想定外の事態には恐慌が先立つのは、どこでも一緒か。
「何が起きたんだ?」
「今がチャンスです! 急いで逃げましょう」
相手がこれだけの数となると、オレの魔法でも全員を完全に拘束出来る保障がない。
そんなわけで向こうがパニックになっている間にクロンと共にさっさと逃げよう。
「わ、分かりました」
クロンも事情は分からなくとも、オレがこれを引き起こした事は見当がついたらしい。
そんなわけで一気に逃げる。
この森に兵士達が隠れている事はさすがに白馬領からは見えなかっただろうけど、森全体がうごめいている異様な状態なのは気づくだろう。
それで警戒すれば連中に奇襲されたりはしないだろうから、ここは彼らがどうにかエシュミール軍を食い止められる事を祈っておこう。
取りあえず連中からは十分に安全と思える距離を取ったところで、クロンが尋ねてくる。
「先ほどの出来事もアルタシャ様の魔法によるものだったのですか?」
「まあそんなところです」
「本当にあなた様は何でも出来るのですね。まさに女神の化身そのものです」
いや。この世界の女神様はそんなに何でも出来ませんよ。
ましてやオレの守護女神のイロールは、自分の信徒達が何をしているのかすら知らないダメ女神だからな。
「あとこれから先は今まで通り『アル』と呼んでくれますか」
「え……しかし……」
「人前で『アルタシャ』の名前を出されては困りますから」
「そうですね。分かりました」
クロンはちょっとばかり複雑そうだ。何というか僅かに嬉しそうな様子もうかがえる。
「ところでここから首都ハブールまでどれぐらいかかるのですか?」
「申し訳ありませんが……」
ここでクロンは少しばかり恥ずかしげにうつむく。
最初に出会ったところから最短距離では三日という話だったが、オレ達は何しろ寄り道しまくりだからな。
クロンにしても距離などまるで分からない手探り状態というところか。
いくら何でも離れているワケはないから、長くとも二日かそこらでつくはずだ。
だがそれはあくまでも順調に進んだ場合だ。
オレにとって異常事態が日常なのだから、そんな事などあり得ないという諦観があった。
そしてここでオレの予想通り、一団の騎馬兵が姿を見せる。
もしやまたしてもエシュミール軍の追撃か?
こう何度も繰り返されると、もうあんまり驚きもしなくなったが、もちろん緊張に身を固める。だがここで思わぬ叫びがオレの耳に飛び込んできた――
「おお! クロン王子! ご無事でしたか!」
え? これはもしかしてクロンを探していたヒクソス王国軍なのか? 助かったと安堵する場面の筈なのだが、そんなときにも先に何が待ち受けているのか身構えてしまうのはすっかり習性になってしまったな。
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