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第22章 軍神の治める地では
第1030話 ウルバヌスが引き下がった後で
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ここでさっさとウルバヌスが引き上げてくれたらそれでいいのだが、やはり一筋縄ではいかなかった。
ウルバヌスはオレの方に手を伸ばして宣言する。
『予は引き上げるが、その娘はもらおう。それぐらいはよいであろう』
うわあ。確かにカルマノスに与えた力の源がオレだと見抜いていれば、当然の要求かもしれないがこっちは幾ら『神なる皇帝』でもあんたのものになる気はさらさらない。
『あいにくですが了承は出来ませんね』
『なぜだ。予は確かに征服者ではあるが、伴侶となったものには常に礼を持って丁重に遇してきた。それはそなたも知っておろう』
まあこいつはケチでは無いし、忠実な配下には十分に報いているのも確かだろう。
しかしどれほど贅沢をさせてもらおうと、ウルバヌスのものになるのは真っ平だ。
そう思っているとイロールはオレの身体を抱きしめる。
『アルタシャは我が娘も同然。あなたはこのわたくしを伴侶と言いながら、娘にまで手をつけようというのですか?』
正直なところ『娘』などと言われるとやっぱりいい気分はしない。
しかもこの女神は自覚していないらしいけど、オレを女に変えた張本人なのだ。
それでもここで文句を言うのはただの自殺行為なので、あえて黙っているしかないな。
『くう……相変わらずそなたは厳しいな。慈愛と癒しの女神でありながら、予に対してはいつもとげとげしくはないか?』
『あなたが征服や侵略を権能とする神でなければ、わたくしももう少し考えた事でしょう』
『そなたの娘というならば、我が娘も同じか。何とも残念だが致し方あるまい』
いかにも残念そうにウルバヌスは引き上げていった。
皇帝ともなると『ならば母娘共々愛しようでは無いか』とでも言ってくるかと心配していたが、さすがにそこまで鬼畜では無かったか。
『ではわたくしもそろそろ引き上げましょう』
ここでイロールは改めてオレに対して微笑みかける。
『念を押しておきますが、先ほどあなたを娘同然だとの言葉は偽りなき我が本心ですよ。いえ。むしろ誇らしき我が娘と胸をはって言いましょう』
「……ありがとうございます」
それで助けてもらったのだから文句は言えないが、いろいろと不本意なので心にも無い礼だけ言わせてもらおう。
『それではさようなら。また会いましょう』
その場合はまたオレが危機に陥って、イロールの力を借りるときだから、なるだけそんなときは来て欲しくないものだ。
もっともオレのそんな願いが叶う事はまずないのだがな。
複雑な思いをかみしめていると女神の存在は身体から抜けて、オレの身は普段通りに戻る。
『またその少女の姿か……』
カルマノスは化身状態の成熟した女性の姿から少女に戻ったオレを見て、少しばかり残念そうな表情をしている。
その視線が胸に注がれているところからして、コイツはそういう嗜好なのか。
『まあそれでも予は構わぬ』
結局は何でもいいのかよ。
どっちにしてもコイツにいつまでも霊力を与えてはいられないから、偉そうな事を言っていられるのも今のうちだけだ。
だがここでカルマノスは思わぬ事を口にする。
『名残惜しいが、そなたとはここでいったん別れよう』
「いったいどうするのですか?」
廃墟に居座っていたカルマノスがその意識を維持できているのは、オレが力を提供しているからだ。
いまオレから離れたら即座に消滅することは無いとしても、次第に力を失って消えていくはずだ。
まさかと思うけど、思わぬ力を得たので調子に乗って、自分の立場を忘れているのか?
『予も今はそなたに与えられた力でどうにか存在を維持できているが、それが長持ちしないことは分かっている』
さすがに現実は理解していたか。それではいったいどうするつもりなのだろうか?
『新たに予を信仰するものを見いだすとしよう』
え? いくら何でもそんなの簡単に――と思ったけど、今のカルマノスはオレの霊力を有しているから、そこらの村や町で礼拝されている精霊よりも上なのか。
そうするとその存在を見せつけて、自分を信仰させようと考えているのだな。
『あの国ではいまよりどころを失っている者も大勢いる事がそなたと一緒に旅をしている時に分かった。その者達に接して予を崇拝させるとしよう』
間違い無くそれはオレに憑いている時にずっと考えていたのだろう。
そして戦乱で乱れたヒクソス王国の状況を確認し、自分を崇拝しそうな相手に目をつけていたに違いない。
オレが必要に迫られて大半の霊力を譲り渡したのは、いくら何でも想定外だったはずだが、その力を示して信徒を獲得しようという腹だろう。
もちろんそんなことで獲得出来る信徒など限られたものなのは間違い無いが、そんな小さな教団でもカルマノスの存在を維持するぐらいは出来る筈だ。
しかし戦乱で困っている人間に対し、自分のものでもない力を示して信者にしようとは『正統なる皇帝』にしてはやることはみみっちい。
何というか『借金して豪華な衣装を身にまとい、自分を金持ちだと思わせて金を出させる詐欺師』のようなやり口だな。
だけどこの世界ではそうでもしないと生き残れない――カルマノスはとっくに死んでいるけど――小さな霊体はそれこそ無数にいるわけだ。
廃墟でくすぶった亡霊よりは格段の出世というべきなのだろうなあ。
ウルバヌスはオレの方に手を伸ばして宣言する。
『予は引き上げるが、その娘はもらおう。それぐらいはよいであろう』
うわあ。確かにカルマノスに与えた力の源がオレだと見抜いていれば、当然の要求かもしれないがこっちは幾ら『神なる皇帝』でもあんたのものになる気はさらさらない。
『あいにくですが了承は出来ませんね』
『なぜだ。予は確かに征服者ではあるが、伴侶となったものには常に礼を持って丁重に遇してきた。それはそなたも知っておろう』
まあこいつはケチでは無いし、忠実な配下には十分に報いているのも確かだろう。
しかしどれほど贅沢をさせてもらおうと、ウルバヌスのものになるのは真っ平だ。
そう思っているとイロールはオレの身体を抱きしめる。
『アルタシャは我が娘も同然。あなたはこのわたくしを伴侶と言いながら、娘にまで手をつけようというのですか?』
正直なところ『娘』などと言われるとやっぱりいい気分はしない。
しかもこの女神は自覚していないらしいけど、オレを女に変えた張本人なのだ。
それでもここで文句を言うのはただの自殺行為なので、あえて黙っているしかないな。
『くう……相変わらずそなたは厳しいな。慈愛と癒しの女神でありながら、予に対してはいつもとげとげしくはないか?』
『あなたが征服や侵略を権能とする神でなければ、わたくしももう少し考えた事でしょう』
『そなたの娘というならば、我が娘も同じか。何とも残念だが致し方あるまい』
いかにも残念そうにウルバヌスは引き上げていった。
皇帝ともなると『ならば母娘共々愛しようでは無いか』とでも言ってくるかと心配していたが、さすがにそこまで鬼畜では無かったか。
『ではわたくしもそろそろ引き上げましょう』
ここでイロールは改めてオレに対して微笑みかける。
『念を押しておきますが、先ほどあなたを娘同然だとの言葉は偽りなき我が本心ですよ。いえ。むしろ誇らしき我が娘と胸をはって言いましょう』
「……ありがとうございます」
それで助けてもらったのだから文句は言えないが、いろいろと不本意なので心にも無い礼だけ言わせてもらおう。
『それではさようなら。また会いましょう』
その場合はまたオレが危機に陥って、イロールの力を借りるときだから、なるだけそんなときは来て欲しくないものだ。
もっともオレのそんな願いが叶う事はまずないのだがな。
複雑な思いをかみしめていると女神の存在は身体から抜けて、オレの身は普段通りに戻る。
『またその少女の姿か……』
カルマノスは化身状態の成熟した女性の姿から少女に戻ったオレを見て、少しばかり残念そうな表情をしている。
その視線が胸に注がれているところからして、コイツはそういう嗜好なのか。
『まあそれでも予は構わぬ』
結局は何でもいいのかよ。
どっちにしてもコイツにいつまでも霊力を与えてはいられないから、偉そうな事を言っていられるのも今のうちだけだ。
だがここでカルマノスは思わぬ事を口にする。
『名残惜しいが、そなたとはここでいったん別れよう』
「いったいどうするのですか?」
廃墟に居座っていたカルマノスがその意識を維持できているのは、オレが力を提供しているからだ。
いまオレから離れたら即座に消滅することは無いとしても、次第に力を失って消えていくはずだ。
まさかと思うけど、思わぬ力を得たので調子に乗って、自分の立場を忘れているのか?
『予も今はそなたに与えられた力でどうにか存在を維持できているが、それが長持ちしないことは分かっている』
さすがに現実は理解していたか。それではいったいどうするつもりなのだろうか?
『新たに予を信仰するものを見いだすとしよう』
え? いくら何でもそんなの簡単に――と思ったけど、今のカルマノスはオレの霊力を有しているから、そこらの村や町で礼拝されている精霊よりも上なのか。
そうするとその存在を見せつけて、自分を信仰させようと考えているのだな。
『あの国ではいまよりどころを失っている者も大勢いる事がそなたと一緒に旅をしている時に分かった。その者達に接して予を崇拝させるとしよう』
間違い無くそれはオレに憑いている時にずっと考えていたのだろう。
そして戦乱で乱れたヒクソス王国の状況を確認し、自分を崇拝しそうな相手に目をつけていたに違いない。
オレが必要に迫られて大半の霊力を譲り渡したのは、いくら何でも想定外だったはずだが、その力を示して信徒を獲得しようという腹だろう。
もちろんそんなことで獲得出来る信徒など限られたものなのは間違い無いが、そんな小さな教団でもカルマノスの存在を維持するぐらいは出来る筈だ。
しかし戦乱で困っている人間に対し、自分のものでもない力を示して信者にしようとは『正統なる皇帝』にしてはやることはみみっちい。
何というか『借金して豪華な衣装を身にまとい、自分を金持ちだと思わせて金を出させる詐欺師』のようなやり口だな。
だけどこの世界ではそうでもしないと生き残れない――カルマノスはとっくに死んでいるけど――小さな霊体はそれこそ無数にいるわけだ。
廃墟でくすぶった亡霊よりは格段の出世というべきなのだろうなあ。
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