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第22章 軍神の治める地では
第1031話 戦争にもどうにか決着が
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カルマノスが去って行ったところで、周囲の景色がまたしても変化しはじめ、気がつくとオレのまわりは先ほどまでオレがいたエシュミール軍の陣営だった。
ウルバヌス達『神なる皇帝』のいた帝国の霊界から、現実世界に引き戻されたわけだが、気になるのはどれほどの時間が経過しているかだ。
見た限りではそれほどの違いはない様子で、遠くで行われている戦いの喧騒がはっきりと聞こえてくる。
周囲には幾つものゴーレムが倒れていたり、拳を振り上げた状態のまま固まっていたりで、見たところ全て止まっているようすだ。
どうやら『永遠の炎』を消した事でゴーレムはエネルギーの供給を断たれて停止したのは間違い無い。
だがここでそれを引き裂くように、憎しみのこもった叫びが轟いた。
「おのれ! アルタシャ! これも全てお前の仕業か!」
誰かと思えばニランザルか。
まだ生きていたのか、と言ったら敵とはいえ不謹慎かな。
「ゴーレムが暴れ出したかと思えば、全てが停止してしまった! 答えろ! お前は一体何をやったのだ!」
ニランザルの叫びを受けて周囲の兵士達も改めてオレに注目する。
狂乱していたゴーレムが停止したので、兵士達も少しは余裕が出来たらしいが、この事態を引き起こしたのがオレだと聞いて、どこか恐れた様子でこちらを見ている。
「もうあのゴーレム達は動きませんよ。いくら捕虜や罪人でも生きている人間を兵器の燃料にするなど許されることではありませんからね」
「思い上がるな! お前は何様のつもりだ!」
ここで『ただの通りすがりです』などと答えても、サマにはならないだろうなあ。
「ええい! 兵士共、あの化け物女をやってしまえ!」
ついさっき文字通り『地獄』を見てきた身としては、怒りに燃えるニランザルなどまるで恐ろしいとは思えない。それに加えて――
「アルタシャと言えば……名高い女英雄じゃないか!」
「まさかゴーレムまで操れるというのか……そんなのとても勝ち目が無いぞ……」
「たった一人で我が軍がこんな大打撃を受けるなんて……」
ニランザルの言葉から、どんどん尾ひれがついている気がするな。
まあ完全に間違いでも無いのだが、真実とも大きく異なるのでこれまた面倒だ。
どのみち説明しても信じてもらえる筈も無いから、今は兵士達が怯えて手出ししてこない間にさっさと逃げるべきだな。
だがここで別方向から鬨の声が上がる。
見るとヒクソス軍がここまで攻め込んで来たようだ。
主力兵器だったゴーレムが暴走し、エシュミール軍は大混乱に陥っていたから、ヒクソス軍の攻撃を殆ど食い止められていないのだな。
「ひぃぃ!」
「もうダメだ! 逃げろ!」
「アルタシャを敵に回してしまったら勝てるはずがなかったんだ!」
元から士気ががた落ちしていたので、兵士達はヒクソス軍を見て完全に戦意を喪失してしまった様子だ。
「こら! お前ら逃げるな!」
ニランザルはオレへの復讐しか考えていない様子だが、あんたもさっさと逃げた方が賢明というものだと思うがな。
「ぐう……何もかも全てお前のせいだ!」
まさか。最後の意地でオレを殺すために突っ込んでくる気か?
だがニランザルは踵を返して走り出す。
どうやら無駄死にする気はなかったようだな。
そしてエシュミール軍は総崩れになって逃げ去っていく様子だ。
もっとも改めて『鷹の目』で上空から見下ろしたところ、攻め込んで来ていたヒクソス軍はそれほど多くはなかったらしい。
エシュミール軍内部でゴーレムが暴れているのを見て、一部の部隊が攻め込んだが、大多数は様子見をしていたようだ。
推測だけどヒクソス軍の精鋭はこれまでの戦いで大打撃を受けていて、そんな中で首都の直前まで攻め込まれたので、動員可能な戦力をどうにかかき集めただけだったのだろう。
だから積極的に戦う気のある兵士は元々少なかったのかもしれない。
そうするとまともに戦っていたら、やっぱりヒクソス軍は危なかったろう。
そしてエシュミール軍が総崩れ状態になったのを見て、それら戦意の低い部隊もようやく動き出したというところか。
とにかく主力兵器だったゴーレムが失われた状況ではエシュミール軍はここで全滅しなくとも、もう立て直しは無理だろう。
もっともヒクソス側も首都近辺まで攻め込まれ、大打撃を受けているのは確実なので、なし崩しでも何でもいいから、オレとしてはこれ以上の流血は避けて欲しいところだ。
「アルタシャ様! ご無事でしたか!」
いろいろと考えていたところで、聞き慣れた声に振り向くとクロンがオレの方に駆けてくるのが目に入った。
王子の身でありながら先陣を切って、ここまでやってきたのかよ。
クロンが信仰している『神なる皇帝ウルバヌス』の教えでは、たとえ王であろうと戦争では前線に出てくるのが当たり前らしいから、彼らにとっては当然の行為なのかもしれないが危険というよりは無謀に近いだろう。
いや。クロンの表情を見る限り、どうもオレの事が心配でいてもたってもいられずに、エシュミール軍の陣営で異変が起きたのを見て、無理にでも攻め込んで来たらしい。
結果的にそれがエシュミール軍を一気に崩壊させる事に繋がったのだが、もしもオレが失敗していたら、クロンの命も無かった筈だ。
そんなことを承知でオレを助けに来てくれた事には感謝するが、やっぱりオレとしては複雑な気分だ。
成功しないと命に関わるけど、成功しても手放しで喜べないのもオレにとっては毎度の事なんだけどな。
ウルバヌス達『神なる皇帝』のいた帝国の霊界から、現実世界に引き戻されたわけだが、気になるのはどれほどの時間が経過しているかだ。
見た限りではそれほどの違いはない様子で、遠くで行われている戦いの喧騒がはっきりと聞こえてくる。
周囲には幾つものゴーレムが倒れていたり、拳を振り上げた状態のまま固まっていたりで、見たところ全て止まっているようすだ。
どうやら『永遠の炎』を消した事でゴーレムはエネルギーの供給を断たれて停止したのは間違い無い。
だがここでそれを引き裂くように、憎しみのこもった叫びが轟いた。
「おのれ! アルタシャ! これも全てお前の仕業か!」
誰かと思えばニランザルか。
まだ生きていたのか、と言ったら敵とはいえ不謹慎かな。
「ゴーレムが暴れ出したかと思えば、全てが停止してしまった! 答えろ! お前は一体何をやったのだ!」
ニランザルの叫びを受けて周囲の兵士達も改めてオレに注目する。
狂乱していたゴーレムが停止したので、兵士達も少しは余裕が出来たらしいが、この事態を引き起こしたのがオレだと聞いて、どこか恐れた様子でこちらを見ている。
「もうあのゴーレム達は動きませんよ。いくら捕虜や罪人でも生きている人間を兵器の燃料にするなど許されることではありませんからね」
「思い上がるな! お前は何様のつもりだ!」
ここで『ただの通りすがりです』などと答えても、サマにはならないだろうなあ。
「ええい! 兵士共、あの化け物女をやってしまえ!」
ついさっき文字通り『地獄』を見てきた身としては、怒りに燃えるニランザルなどまるで恐ろしいとは思えない。それに加えて――
「アルタシャと言えば……名高い女英雄じゃないか!」
「まさかゴーレムまで操れるというのか……そんなのとても勝ち目が無いぞ……」
「たった一人で我が軍がこんな大打撃を受けるなんて……」
ニランザルの言葉から、どんどん尾ひれがついている気がするな。
まあ完全に間違いでも無いのだが、真実とも大きく異なるのでこれまた面倒だ。
どのみち説明しても信じてもらえる筈も無いから、今は兵士達が怯えて手出ししてこない間にさっさと逃げるべきだな。
だがここで別方向から鬨の声が上がる。
見るとヒクソス軍がここまで攻め込んで来たようだ。
主力兵器だったゴーレムが暴走し、エシュミール軍は大混乱に陥っていたから、ヒクソス軍の攻撃を殆ど食い止められていないのだな。
「ひぃぃ!」
「もうダメだ! 逃げろ!」
「アルタシャを敵に回してしまったら勝てるはずがなかったんだ!」
元から士気ががた落ちしていたので、兵士達はヒクソス軍を見て完全に戦意を喪失してしまった様子だ。
「こら! お前ら逃げるな!」
ニランザルはオレへの復讐しか考えていない様子だが、あんたもさっさと逃げた方が賢明というものだと思うがな。
「ぐう……何もかも全てお前のせいだ!」
まさか。最後の意地でオレを殺すために突っ込んでくる気か?
だがニランザルは踵を返して走り出す。
どうやら無駄死にする気はなかったようだな。
そしてエシュミール軍は総崩れになって逃げ去っていく様子だ。
もっとも改めて『鷹の目』で上空から見下ろしたところ、攻め込んで来ていたヒクソス軍はそれほど多くはなかったらしい。
エシュミール軍内部でゴーレムが暴れているのを見て、一部の部隊が攻め込んだが、大多数は様子見をしていたようだ。
推測だけどヒクソス軍の精鋭はこれまでの戦いで大打撃を受けていて、そんな中で首都の直前まで攻め込まれたので、動員可能な戦力をどうにかかき集めただけだったのだろう。
だから積極的に戦う気のある兵士は元々少なかったのかもしれない。
そうするとまともに戦っていたら、やっぱりヒクソス軍は危なかったろう。
そしてエシュミール軍が総崩れ状態になったのを見て、それら戦意の低い部隊もようやく動き出したというところか。
とにかく主力兵器だったゴーレムが失われた状況ではエシュミール軍はここで全滅しなくとも、もう立て直しは無理だろう。
もっともヒクソス側も首都近辺まで攻め込まれ、大打撃を受けているのは確実なので、なし崩しでも何でもいいから、オレとしてはこれ以上の流血は避けて欲しいところだ。
「アルタシャ様! ご無事でしたか!」
いろいろと考えていたところで、聞き慣れた声に振り向くとクロンがオレの方に駆けてくるのが目に入った。
王子の身でありながら先陣を切って、ここまでやってきたのかよ。
クロンが信仰している『神なる皇帝ウルバヌス』の教えでは、たとえ王であろうと戦争では前線に出てくるのが当たり前らしいから、彼らにとっては当然の行為なのかもしれないが危険というよりは無謀に近いだろう。
いや。クロンの表情を見る限り、どうもオレの事が心配でいてもたってもいられずに、エシュミール軍の陣営で異変が起きたのを見て、無理にでも攻め込んで来たらしい。
結果的にそれがエシュミール軍を一気に崩壊させる事に繋がったのだが、もしもオレが失敗していたら、クロンの命も無かった筈だ。
そんなことを承知でオレを助けに来てくれた事には感謝するが、やっぱりオレとしては複雑な気分だ。
成功しないと命に関わるけど、成功しても手放しで喜べないのもオレにとっては毎度の事なんだけどな。
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