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第23章 女神の聖地にて真相を
第1046話 一人で乗り込む海賊船
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オレが要求通り相手の船に乗ると言ったのを聞いて、船員達にはあからさまに安堵の空気が流れる。
ヴァルゼインの女海賊達と戦うのはそれだけ恐れられているという事か。
本気で戦ったら、この『癒しの風』号の乗組員だって決してひけはとらないはずだけど、相手の船上にこれ見よがしに掲げられているイツモツの数々はそれだけ恐怖を掻き立てるのだな。
そしてドーマルも苦渋の表情で頭を下げる。
「申し訳ない。情けないオレ達に代わってアルに頑張ってもらわねばならん」
「いいんですよ。皆さんが無事にギルボック島に到着できる事を祈っていますから」
そんな話をしていると、船の下の方が少しばかり騒がしくなってくる。
恐らくは『癒やしの風』号が停船したので、外の様子が気になっているのだろう。
「いったい何が起きたの? さっきの『海の牙』はどうなったの? それにあちらの船は?」
ヴィンガが甲板に上がってきて問いかけてきている。
様子を確かめに来た――もしくは他の見習いから『見てこい』と送り出されてきた――けど事情がよく呑み込めていない様子だ。
まあ船室にいて先ほどからの急展開を察知出来る方がどうかしているけど。
「あちらはヴァルゼインの女海賊ですよ」
「ええ? さっきまで『海の牙』に追われていたのに、どういうことになっているの?」
「詳しい説明をしている時間はありませんけど、戦いを避けるためには『癒やし手』を差し出す必要があるようです」
「そ、それでどうするのよ?」
ヴィンガはあからさまに動揺する。
聖地に修行に行く途中で、下手をすれば海賊団にかっさらわれるかもしれないとなれば落ち着いているのは無理な話だ。
そういえばあちらは人数を指定していないから、オレひとりでもどうにかなるつもりだったけど、普通に考えればひとりで済むワケが無いな。
ただしこの船に乗っている一人前の聖女の殆どは、療養目的で聖地に向かう病人の付き添い――そして側室――であって、それ以外は船医だろう。
いずれも海賊に差し出すわけにはいかないか。
そうなるとヴィンガは明らかに『下っ端』だからこそ、かえってこの場を切り抜けるために『トカゲの尻尾切り』される事を想像したのだろう。
無法者の男集団におぞましい事をされたあげく、生贄にされてしまいかねない『海の牙』に比べればずっとマシだろうけど、それでもドーマルが言った通り、連中の期待に添えなかったらどんな仕打ちをされるか分からない以上、常識的にはヴァルゼインの女海賊達に同行したいと思う聖女はいないはず。
もちろんドーマル達もそんな事は分かっているからこそ、オレが自発的に名乗り出た事にホッとしているわけだ。
そしてここでヴァルゼインの船から苛立ちのこもった声が飛んでくる。
「おい! いつまで黙っているつもりだ! お前達が返答を引き延ばすだけなら、こちらから乗り込んで癒し手をいただいていくぞ!」
ううむ。せっかちだな。
ひょっとすると離脱するときに、この地域の海軍から追っ手がかかる事を心配しているかもしれない。
本当に乗り込まれたら面倒なので、船べりからオレが声をかける。
「ちょっと待ってください。いまそちらに行きますけど、その用意をしているところです」
「いいだろう。やれ!」
合図とともに船べりに縄ばしごがかけられる。
「それでこちらにこい!」
なんとも不親切だな。こっちはど素人だぞ。揺れる船同士を縄ばしごで渡るなんて、失敗して海に落ちたらどうするんだ?
まあオレは『蜘蛛登り』の魔法があるから、ロープ一本でも渡るには十分だけど、普通の聖女はそうはいくまい。
もっともあちらはこれで落ちたら、別の聖女を出せと要求するだけなのかもしれないが。
「それでは行ってきます。皆さんもご無事で」
「待って。さっきから気になっていたのだけど、あなたはもしかして……」
ここでヴィンガとドーマルが問いかけてくる。
「アル……最後にそのフードを取って、こちらに顔を見せてくれるかしら?」
「そうだ。すまんが顔をよく見せてくれまいか?」
これはヴィンガとドーマルも薄々ながらオレの正体に気付いているのか?
ううむ。この程度の事は当たり前なので、平然としすぎてしまったか。
見れば船員達もオレの態度にただならぬものを感じているらしい。
もっとも不安丸出しでアタフタしている演技しても、かえって不自然だろうから仕方ないか。
「いいですよ。どうぞ」
オレがフードを外し、容姿を晒して振り返るとヴァンガはもちろんドーマル、そして船員達は揃って息を呑む。
髪は黒く染めた状態だけど『アルタシャ』が普段はその格好なのも広く知られているからな。もうオレの正体の見当はついているだろう。
「や、やっぱりアルが――」
「本物は自分から名乗り出る事はほとんど無いと聞いていたけど……」
オレは改めてフードをかぶり直すと、一礼して縄ばしごをつかむ。
「失礼します。お元気で」
そんなわけで『癒しの風』号に背を向けて、オレは女だらけなヴァルゼインの海賊船に乗り込んだ。
いやはや。毎度の事とは言え、急展開が過ぎるだろう。
まあ最小限の流血で事態が片付いたと考える事にするか。
ヴァルゼインの女海賊達と戦うのはそれだけ恐れられているという事か。
本気で戦ったら、この『癒しの風』号の乗組員だって決してひけはとらないはずだけど、相手の船上にこれ見よがしに掲げられているイツモツの数々はそれだけ恐怖を掻き立てるのだな。
そしてドーマルも苦渋の表情で頭を下げる。
「申し訳ない。情けないオレ達に代わってアルに頑張ってもらわねばならん」
「いいんですよ。皆さんが無事にギルボック島に到着できる事を祈っていますから」
そんな話をしていると、船の下の方が少しばかり騒がしくなってくる。
恐らくは『癒やしの風』号が停船したので、外の様子が気になっているのだろう。
「いったい何が起きたの? さっきの『海の牙』はどうなったの? それにあちらの船は?」
ヴィンガが甲板に上がってきて問いかけてきている。
様子を確かめに来た――もしくは他の見習いから『見てこい』と送り出されてきた――けど事情がよく呑み込めていない様子だ。
まあ船室にいて先ほどからの急展開を察知出来る方がどうかしているけど。
「あちらはヴァルゼインの女海賊ですよ」
「ええ? さっきまで『海の牙』に追われていたのに、どういうことになっているの?」
「詳しい説明をしている時間はありませんけど、戦いを避けるためには『癒やし手』を差し出す必要があるようです」
「そ、それでどうするのよ?」
ヴィンガはあからさまに動揺する。
聖地に修行に行く途中で、下手をすれば海賊団にかっさらわれるかもしれないとなれば落ち着いているのは無理な話だ。
そういえばあちらは人数を指定していないから、オレひとりでもどうにかなるつもりだったけど、普通に考えればひとりで済むワケが無いな。
ただしこの船に乗っている一人前の聖女の殆どは、療養目的で聖地に向かう病人の付き添い――そして側室――であって、それ以外は船医だろう。
いずれも海賊に差し出すわけにはいかないか。
そうなるとヴィンガは明らかに『下っ端』だからこそ、かえってこの場を切り抜けるために『トカゲの尻尾切り』される事を想像したのだろう。
無法者の男集団におぞましい事をされたあげく、生贄にされてしまいかねない『海の牙』に比べればずっとマシだろうけど、それでもドーマルが言った通り、連中の期待に添えなかったらどんな仕打ちをされるか分からない以上、常識的にはヴァルゼインの女海賊達に同行したいと思う聖女はいないはず。
もちろんドーマル達もそんな事は分かっているからこそ、オレが自発的に名乗り出た事にホッとしているわけだ。
そしてここでヴァルゼインの船から苛立ちのこもった声が飛んでくる。
「おい! いつまで黙っているつもりだ! お前達が返答を引き延ばすだけなら、こちらから乗り込んで癒し手をいただいていくぞ!」
ううむ。せっかちだな。
ひょっとすると離脱するときに、この地域の海軍から追っ手がかかる事を心配しているかもしれない。
本当に乗り込まれたら面倒なので、船べりからオレが声をかける。
「ちょっと待ってください。いまそちらに行きますけど、その用意をしているところです」
「いいだろう。やれ!」
合図とともに船べりに縄ばしごがかけられる。
「それでこちらにこい!」
なんとも不親切だな。こっちはど素人だぞ。揺れる船同士を縄ばしごで渡るなんて、失敗して海に落ちたらどうするんだ?
まあオレは『蜘蛛登り』の魔法があるから、ロープ一本でも渡るには十分だけど、普通の聖女はそうはいくまい。
もっともあちらはこれで落ちたら、別の聖女を出せと要求するだけなのかもしれないが。
「それでは行ってきます。皆さんもご無事で」
「待って。さっきから気になっていたのだけど、あなたはもしかして……」
ここでヴィンガとドーマルが問いかけてくる。
「アル……最後にそのフードを取って、こちらに顔を見せてくれるかしら?」
「そうだ。すまんが顔をよく見せてくれまいか?」
これはヴィンガとドーマルも薄々ながらオレの正体に気付いているのか?
ううむ。この程度の事は当たり前なので、平然としすぎてしまったか。
見れば船員達もオレの態度にただならぬものを感じているらしい。
もっとも不安丸出しでアタフタしている演技しても、かえって不自然だろうから仕方ないか。
「いいですよ。どうぞ」
オレがフードを外し、容姿を晒して振り返るとヴァンガはもちろんドーマル、そして船員達は揃って息を呑む。
髪は黒く染めた状態だけど『アルタシャ』が普段はその格好なのも広く知られているからな。もうオレの正体の見当はついているだろう。
「や、やっぱりアルが――」
「本物は自分から名乗り出る事はほとんど無いと聞いていたけど……」
オレは改めてフードをかぶり直すと、一礼して縄ばしごをつかむ。
「失礼します。お元気で」
そんなわけで『癒しの風』号に背を向けて、オレは女だらけなヴァルゼインの海賊船に乗り込んだ。
いやはや。毎度の事とは言え、急展開が過ぎるだろう。
まあ最小限の流血で事態が片付いたと考える事にするか。
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