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第23章 女神の聖地にて真相を
第1047話 女だらけの海賊団で素肌をポロリと
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とりあえず相手の船に乗る前に暴力的活動を抑止する『調和』をかけておく。
これでいきなり切りつけられたりはしないだろう。
だがオレがヴォルゼインの船に渡ると、即座にレイピアが突きつけられる。
「ようこそ。我が『愛しの妻たち』号へ。歓迎するぞ」
先ほど叫んでいた女海賊と、あと部下らしき相手が二人、待ち受けていたのだ。
しかし船の名前が『愛しの妻たち』と言う事はどこかに男がいると言うことだな。
なんとも海賊船にふさわしくない名前だが、甲板上で紐に数珠繋ぎにされて、これ見よがしに干されている『男の象徴』の群れが、否応なしにこの船が身の毛もよだつ所業に手を染めていることを思い起こさせてくれるよ。
「お前が『癒し手』か。名はなんという?」
「アルと呼んでください」
ここで連中は改めて縄ばしごを注視する。どうやらオレの後に続く聖女がいないかどうか、確認しているようだ。
そして誰もこないことが分かったらしく、険しい表情で問うてくる。
「おい。この船に乗るのはお前一人だけか?」
「そうですよ」
「ふざけるな!」
女海賊はその柳眉を逆だてる。
「ふざけてなんかいません。本当にあなた方の要求通りの癒し手ですよ」
「お前のような年端もいかぬ、見習い程度の小娘一人でお茶を濁そうとは随分となめられたものだな!」
これは少々迂闊だった。
相手からすれば十代半ばの小娘が一人やってきて『ご要望の癒し手です』と答えたら、バカにしていると勘違いされるのは当然か。
「待ってください。あなた方も詳しい事は説明してくれなかったではありませんか。だからわたし一人で来たのですよ」
「なんだと……」
オレの返答を聞いて、相手は思わぬことを指摘されたと言わんばかりだな。
「聖女教会の聖女は、癒し手というだけでなく口も達者らしいな……だがな! ここはお前が今まで暮らしていたところではないのだぞ!」
ここで女海賊はレイピアを引き抜いて、オレの眼前に突きつける。
「ほう。これで眉ひとつ動かさんとはな……確かにただの小娘では無いようだ」
相手は少しばかり感心した様子だ。
普通だったらたった一人で海賊船に乗り込んで来るだけでも尋常では無いし、その上で刃を突き立てられて平然とはしていられないものな。
もっともこれが男の時のオレだったら、切り取られた『男の象徴』が並べられているのを見ただけで、落ち着いているなどあり得なかったろうけど。
「ふん。その余裕、いや虚勢がいつまで続くのか楽しみだな」
幸か不幸か今のオレは『去勢』されてしまう心配は無いので、虚勢をはる必要は無い。
「とりあえずこいつはオフクロの元に連れて行くぞ」
たぶん船長の事だな。フィクションの海賊船でも船長がしばしば『オヤジ』と呼ばれるのと同じか。
そんなわけでオレは両脇を挟まれて『愛しの妻たち』号の船内に入る事となった。
見た限りで船員は確かに女性しかいないのだが、それでも彼女たちが『異性としての男』と無縁の生活をしているわけではない事は、この船名とその装いを見れば分かる。
女海賊たちは皆、化粧や装飾品でその身を飾り立て、明らかに『男にも見せるための格好』をしているのだ。
崇拝する女神イロールが『白き貴婦人』の異名を持つが故に、正装が飾り気の無い白一色な聖女教会所属の聖女よりもある意味で女性的な格好とすら言えるかもしれない。
そうすると男はどこにいるのか? 少なくともオレの視界内には見当たらないな。
そしてしばしの後、オレは船長らしき三十代半ば過ぎの女性の元に案内される。
もちろん周囲には部下たちもいるがやはり全員女性だ。
ひょっとするとこの船には本当に男性は乗っていないのか?
そうすると男は船に乗らず、港で妻の帰りを待つという、普通とは反対の文化があるのかもしれないな。
「オフクロ。連れて来ました。名前はアルと言うそうです」
「そうかい。あたしがこの船の船長。ガルーシャさ」
ガルーシャも歴戦の海賊らしく、体や顔に幾つも傷痕が残っている。
ここでガルーシャはオレをギロリと睨みつけ近づいてきた。
「一人だけでここに来て、その態度とはね。聖女さまとやらは随分と肝も座っているようだ。それはともかく顔ぐらい見せな。それとも海賊風情にはもったいなくて見せられない、ご大層なお顔かね?」
「わかりました」
オレがフードを取るとやはり周囲の面々は息を呑む。
「ほう……これは大したもんだ。売ったらさぞかし高値がつくだろう。だけどあたしらは金が欲しくて、わざわざこんな事をしているんじゃないんだよ」
「癒し手が必要なのでしょう? よかったらその理由を教えてください」
「あいにくだけど今は教えられないね。ただあんた、自分の立場というものを分かっているか?」
この海賊団の虜囚――という意味ではなさそうだな。
「どうやら意味が分かってないようだね。あんたは自分がお仲間に都合良く切り捨てられたとは思わないのかい?」
なるほど。オレを下っ端の見習い聖女だとすれば、年長者達から嫌な役目を押し付けられたとしか思えないよな。
「聖女教会についてはよく知らないけど、年端もいかない見習いに全部押しつけて、お偉いさんは挨拶の一つも無しとは何ともご立派なところだね」
合理的な結論だけど、やっぱり大間違いなわけだ。
もちろんオレが聖女教会の弁護をしてやる理由は無いけど、ここで女海賊達がへそを曲げて『癒やしの風』号に攻め込んだりしたら、ドーマルやヴェガ達も危ない。
そんなわけでオレはどうにかして、ガルーシャ達を納得させねばならない事になってしまったのだ。
これでいきなり切りつけられたりはしないだろう。
だがオレがヴォルゼインの船に渡ると、即座にレイピアが突きつけられる。
「ようこそ。我が『愛しの妻たち』号へ。歓迎するぞ」
先ほど叫んでいた女海賊と、あと部下らしき相手が二人、待ち受けていたのだ。
しかし船の名前が『愛しの妻たち』と言う事はどこかに男がいると言うことだな。
なんとも海賊船にふさわしくない名前だが、甲板上で紐に数珠繋ぎにされて、これ見よがしに干されている『男の象徴』の群れが、否応なしにこの船が身の毛もよだつ所業に手を染めていることを思い起こさせてくれるよ。
「お前が『癒し手』か。名はなんという?」
「アルと呼んでください」
ここで連中は改めて縄ばしごを注視する。どうやらオレの後に続く聖女がいないかどうか、確認しているようだ。
そして誰もこないことが分かったらしく、険しい表情で問うてくる。
「おい。この船に乗るのはお前一人だけか?」
「そうですよ」
「ふざけるな!」
女海賊はその柳眉を逆だてる。
「ふざけてなんかいません。本当にあなた方の要求通りの癒し手ですよ」
「お前のような年端もいかぬ、見習い程度の小娘一人でお茶を濁そうとは随分となめられたものだな!」
これは少々迂闊だった。
相手からすれば十代半ばの小娘が一人やってきて『ご要望の癒し手です』と答えたら、バカにしていると勘違いされるのは当然か。
「待ってください。あなた方も詳しい事は説明してくれなかったではありませんか。だからわたし一人で来たのですよ」
「なんだと……」
オレの返答を聞いて、相手は思わぬことを指摘されたと言わんばかりだな。
「聖女教会の聖女は、癒し手というだけでなく口も達者らしいな……だがな! ここはお前が今まで暮らしていたところではないのだぞ!」
ここで女海賊はレイピアを引き抜いて、オレの眼前に突きつける。
「ほう。これで眉ひとつ動かさんとはな……確かにただの小娘では無いようだ」
相手は少しばかり感心した様子だ。
普通だったらたった一人で海賊船に乗り込んで来るだけでも尋常では無いし、その上で刃を突き立てられて平然とはしていられないものな。
もっともこれが男の時のオレだったら、切り取られた『男の象徴』が並べられているのを見ただけで、落ち着いているなどあり得なかったろうけど。
「ふん。その余裕、いや虚勢がいつまで続くのか楽しみだな」
幸か不幸か今のオレは『去勢』されてしまう心配は無いので、虚勢をはる必要は無い。
「とりあえずこいつはオフクロの元に連れて行くぞ」
たぶん船長の事だな。フィクションの海賊船でも船長がしばしば『オヤジ』と呼ばれるのと同じか。
そんなわけでオレは両脇を挟まれて『愛しの妻たち』号の船内に入る事となった。
見た限りで船員は確かに女性しかいないのだが、それでも彼女たちが『異性としての男』と無縁の生活をしているわけではない事は、この船名とその装いを見れば分かる。
女海賊たちは皆、化粧や装飾品でその身を飾り立て、明らかに『男にも見せるための格好』をしているのだ。
崇拝する女神イロールが『白き貴婦人』の異名を持つが故に、正装が飾り気の無い白一色な聖女教会所属の聖女よりもある意味で女性的な格好とすら言えるかもしれない。
そうすると男はどこにいるのか? 少なくともオレの視界内には見当たらないな。
そしてしばしの後、オレは船長らしき三十代半ば過ぎの女性の元に案内される。
もちろん周囲には部下たちもいるがやはり全員女性だ。
ひょっとするとこの船には本当に男性は乗っていないのか?
そうすると男は船に乗らず、港で妻の帰りを待つという、普通とは反対の文化があるのかもしれないな。
「オフクロ。連れて来ました。名前はアルと言うそうです」
「そうかい。あたしがこの船の船長。ガルーシャさ」
ガルーシャも歴戦の海賊らしく、体や顔に幾つも傷痕が残っている。
ここでガルーシャはオレをギロリと睨みつけ近づいてきた。
「一人だけでここに来て、その態度とはね。聖女さまとやらは随分と肝も座っているようだ。それはともかく顔ぐらい見せな。それとも海賊風情にはもったいなくて見せられない、ご大層なお顔かね?」
「わかりました」
オレがフードを取るとやはり周囲の面々は息を呑む。
「ほう……これは大したもんだ。売ったらさぞかし高値がつくだろう。だけどあたしらは金が欲しくて、わざわざこんな事をしているんじゃないんだよ」
「癒し手が必要なのでしょう? よかったらその理由を教えてください」
「あいにくだけど今は教えられないね。ただあんた、自分の立場というものを分かっているか?」
この海賊団の虜囚――という意味ではなさそうだな。
「どうやら意味が分かってないようだね。あんたは自分がお仲間に都合良く切り捨てられたとは思わないのかい?」
なるほど。オレを下っ端の見習い聖女だとすれば、年長者達から嫌な役目を押し付けられたとしか思えないよな。
「聖女教会についてはよく知らないけど、年端もいかない見習いに全部押しつけて、お偉いさんは挨拶の一つも無しとは何ともご立派なところだね」
合理的な結論だけど、やっぱり大間違いなわけだ。
もちろんオレが聖女教会の弁護をしてやる理由は無いけど、ここで女海賊達がへそを曲げて『癒やしの風』号に攻め込んだりしたら、ドーマルやヴェガ達も危ない。
そんなわけでオレはどうにかして、ガルーシャ達を納得させねばならない事になってしまったのだ。
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