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第23章 女神の聖地にて真相を
第1051話 女海賊の島にて
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数日間に渡る『愛しの妻たち』号での航海の後、かなり大きな島が近づいてきた。
どうやらあれがこの女海賊団『ソルフの娘』の母港があるヴァルゼイン島らしいな。
入り江にはさほど大きくは無いが、それなりに設備の整っている港が整備されている。
海賊達は全員、可能な限りの化粧をしていて、久しぶりに夫に会うという事でウキウキしているらしい。
ここでペンタが話しかけて来る。
「アルはおめかしはしないのかい?」
「いえ。結構です」
「はん。随分とお堅いんだね。女神さまは奔放だと聞いているけどさ。それともあんたも見習いを終えたら女神様にならうのかい」
何度もかの女神の化身になった身とすれば、たぶんこの世界にいる聖女の誰よりも近しいとは思っているし、困った事に男女関係でも女神にならったかのようにあちこちに恋人がいる事も事実なのだ。
「まあいいや。入港したら、今度こそアルには働いてもらうよ」
ペンタが少しばかり緊張した様子で話しかけてくる。
どうやら彼女達が癒やし手を求めた理由がようやく分かるらしい。
「ところであの港に皆さんの夫がおられるのですよね?」
「ああ。もちろんだとも」
それを口にしたペンタの顔は本当に愛しい人に会える喜びに満ちていた。
だがここでその表情が一瞬だが陰る。
「アル……身勝手な言いぐさだけどあんたには期待しているけどね……」
「その期待を裏切るなと言う事ですか?」
「そうなるわけだ」
癒やし手としてオレが彼女達の期待を裏切るような事になるとはまず考えられないけど、かなり複雑な事情がありそうだな。
そして港を見下ろす位置に大きな寺院がそびえている。
彼女達の崇拝する海賊神ソルフの神殿なのは間違い無いだろう。
「あれがソルフ神の神殿なのですか?」
「ああそうだ。あとこの島の女神であるヴァルゼイン神の神殿でもあるぞ。もちろん夫婦神として一緒に崇拝されているんだ」
なるほど。島の神様だったら、ここ以外で崇拝されているはずがないから、他の神様と浮名を流す事もありえないわけだ。
「もともとここには島などない、ただの海原でしかなかったのを、ヴァルゼイン神がソルフ様と一緒に暮らすために島を一晩で作ったんだ」
さすがにそれはちょっと信じがたいけど、比較的短期間で島が海底から隆起したので、そういう神話が語り継がれているのかもしれないな。
そんなわけで入港するが、ここでやはり見かけるのは全部女性だ。
「前もって言っておいてやるけど、港で働いているのもみんな女だよ」
「それでは男はどこにいるんです?」
船の操船も港での労働も力仕事なのに、男性の姿が全く見かられないとはどういうことだろうか?
元の世界でもあった『女性の社会進出』とかそんな次元の話では無いぞ。
「そんな『普通の仕事』をあたしらの夫がするわけないだろうが」
この言い方からするとやはり男性はよほど特別な存在らしい。
他にも気になることはいくつもある。
「桟橋に出迎えの人がほとんどいないようですけど、いいのですか?」
これだけ『愛しの妻たち』が夫を熱愛しているのだから、夫の方でも首を長くして帰りを待っていて桟橋で感動の対面かと思っていたが、そんな様子はさらさらない。
「当たり前だろ。誰が出迎えると言うんだ?」
「そうなんですか……」
それならなんで彼女たちは着飾っているのだろうか?
いや。こう言う場合にどんな事になっているのか、想像ぐらいはつく。
「もしかしてあなた方の夫はあの神殿にいるのですか?」
「当たり前だろう……まったく外の奴らはどうなっているんだ」
この島が世界から見て明らかに異常だと言っても、通用しないことは分かっているが、本当に不可解だな。
そしてオレはガルーシャ達に連れられて、船を降りる。
港の周囲は小さな町になっているが、やはり男の姿は見えない。道を歩いている子供ですら女の子ばかりで男子はいないらしいのだ。
もしかして男が姿を見せない事は彼女たちが癒し手を求めている理由なのか。
「ひょっとしてわたしが皆さんの夫を治療する必要があるのですか?」
「ああそうだよ。あたしらでは手に負えないから、回復魔法を使う聖女が必要になったんだ」
ううむ。元の世界のハーレムものでは特殊な事情で男が一人もいなくなって、そこに偶然ただ一人の男として主人公がやってくるという――現実には絶対にあり得ない――パターンがしばしばあったけど、それに近い状況なのか?
いや。それほどまでに深刻な状況にしては、逆に『ソルフの娘』達が落ち着きすぎだ。
いったいこの神殿の中に何があるというのだろうか?
神殿そのものはそれなりに立派なものだけど、この島の住民達で建てたものだろうから、さすがに大寺院という程では無い。
「アルはあまり着飾ることには興味が無いようだけど、それではソルフ様の御前に出るのには礼を失することになるから、相応の装いをしてもらおうよ」
「分かりました……」
オレの場合は神様の前に出る事なんてしょっちゅうだし、そのために着飾る事を余儀なくされる場合もよくある。
そんなわけで寺院の侍女達によって、オレは入念に化粧され装飾品で飾られて、ドレスをまとう事となった。
正直に言ってこの島でこれだけのモノが作れるとは思えないから、まず間違い無く海賊業で略奪した代物なのだろう。
しばしの後、寺院の奥間に案内されたオレはこの島と海賊団の真実に直面する事となるのだった。
どうやらあれがこの女海賊団『ソルフの娘』の母港があるヴァルゼイン島らしいな。
入り江にはさほど大きくは無いが、それなりに設備の整っている港が整備されている。
海賊達は全員、可能な限りの化粧をしていて、久しぶりに夫に会うという事でウキウキしているらしい。
ここでペンタが話しかけて来る。
「アルはおめかしはしないのかい?」
「いえ。結構です」
「はん。随分とお堅いんだね。女神さまは奔放だと聞いているけどさ。それともあんたも見習いを終えたら女神様にならうのかい」
何度もかの女神の化身になった身とすれば、たぶんこの世界にいる聖女の誰よりも近しいとは思っているし、困った事に男女関係でも女神にならったかのようにあちこちに恋人がいる事も事実なのだ。
「まあいいや。入港したら、今度こそアルには働いてもらうよ」
ペンタが少しばかり緊張した様子で話しかけてくる。
どうやら彼女達が癒やし手を求めた理由がようやく分かるらしい。
「ところであの港に皆さんの夫がおられるのですよね?」
「ああ。もちろんだとも」
それを口にしたペンタの顔は本当に愛しい人に会える喜びに満ちていた。
だがここでその表情が一瞬だが陰る。
「アル……身勝手な言いぐさだけどあんたには期待しているけどね……」
「その期待を裏切るなと言う事ですか?」
「そうなるわけだ」
癒やし手としてオレが彼女達の期待を裏切るような事になるとはまず考えられないけど、かなり複雑な事情がありそうだな。
そして港を見下ろす位置に大きな寺院がそびえている。
彼女達の崇拝する海賊神ソルフの神殿なのは間違い無いだろう。
「あれがソルフ神の神殿なのですか?」
「ああそうだ。あとこの島の女神であるヴァルゼイン神の神殿でもあるぞ。もちろん夫婦神として一緒に崇拝されているんだ」
なるほど。島の神様だったら、ここ以外で崇拝されているはずがないから、他の神様と浮名を流す事もありえないわけだ。
「もともとここには島などない、ただの海原でしかなかったのを、ヴァルゼイン神がソルフ様と一緒に暮らすために島を一晩で作ったんだ」
さすがにそれはちょっと信じがたいけど、比較的短期間で島が海底から隆起したので、そういう神話が語り継がれているのかもしれないな。
そんなわけで入港するが、ここでやはり見かけるのは全部女性だ。
「前もって言っておいてやるけど、港で働いているのもみんな女だよ」
「それでは男はどこにいるんです?」
船の操船も港での労働も力仕事なのに、男性の姿が全く見かられないとはどういうことだろうか?
元の世界でもあった『女性の社会進出』とかそんな次元の話では無いぞ。
「そんな『普通の仕事』をあたしらの夫がするわけないだろうが」
この言い方からするとやはり男性はよほど特別な存在らしい。
他にも気になることはいくつもある。
「桟橋に出迎えの人がほとんどいないようですけど、いいのですか?」
これだけ『愛しの妻たち』が夫を熱愛しているのだから、夫の方でも首を長くして帰りを待っていて桟橋で感動の対面かと思っていたが、そんな様子はさらさらない。
「当たり前だろ。誰が出迎えると言うんだ?」
「そうなんですか……」
それならなんで彼女たちは着飾っているのだろうか?
いや。こう言う場合にどんな事になっているのか、想像ぐらいはつく。
「もしかしてあなた方の夫はあの神殿にいるのですか?」
「当たり前だろう……まったく外の奴らはどうなっているんだ」
この島が世界から見て明らかに異常だと言っても、通用しないことは分かっているが、本当に不可解だな。
そしてオレはガルーシャ達に連れられて、船を降りる。
港の周囲は小さな町になっているが、やはり男の姿は見えない。道を歩いている子供ですら女の子ばかりで男子はいないらしいのだ。
もしかして男が姿を見せない事は彼女たちが癒し手を求めている理由なのか。
「ひょっとしてわたしが皆さんの夫を治療する必要があるのですか?」
「ああそうだよ。あたしらでは手に負えないから、回復魔法を使う聖女が必要になったんだ」
ううむ。元の世界のハーレムものでは特殊な事情で男が一人もいなくなって、そこに偶然ただ一人の男として主人公がやってくるという――現実には絶対にあり得ない――パターンがしばしばあったけど、それに近い状況なのか?
いや。それほどまでに深刻な状況にしては、逆に『ソルフの娘』達が落ち着きすぎだ。
いったいこの神殿の中に何があるというのだろうか?
神殿そのものはそれなりに立派なものだけど、この島の住民達で建てたものだろうから、さすがに大寺院という程では無い。
「アルはあまり着飾ることには興味が無いようだけど、それではソルフ様の御前に出るのには礼を失することになるから、相応の装いをしてもらおうよ」
「分かりました……」
オレの場合は神様の前に出る事なんてしょっちゅうだし、そのために着飾る事を余儀なくされる場合もよくある。
そんなわけで寺院の侍女達によって、オレは入念に化粧され装飾品で飾られて、ドレスをまとう事となった。
正直に言ってこの島でこれだけのモノが作れるとは思えないから、まず間違い無く海賊業で略奪した代物なのだろう。
しばしの後、寺院の奥間に案内されたオレはこの島と海賊団の真実に直面する事となるのだった。
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