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第23章 女神の聖地にて真相を
第1104話 『聖なる島』を離れ際に
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周囲で騒いでいた人々は、馬車を降りたオレの姿を見ていきなり沈黙する。
どうやら護衛も含めて全員が度肝を抜かれている様子だ。
今まで似たような事もあったけど、今回は特別だな。
推測だけど、先ほど大陸全土に行った『男子でも回復魔法が使用出来るようになった』発表のため、オレの神威が更に増して人々を圧倒しているのだろう。
とりあえず暴力的活動を抑止する『調和』をかけた上で馬車を降り、先ほどの少年を見ると、言葉も無く立ちすくんでいた。
見た目は十代前半でごく普通の少年だが、無理をして馬車に取り憑いたので傷を負っているな。
ひとまず『応急手当』を使って傷を癒やし、改めて声をかける。
「用件は何ですか?」
「……」
少年は硬直したままだった。
まるでオレが精神を停止させる『平静』をかけたかのようだ。
数秒後、ようやく少年は口を開く。
「あ……ああ。すみません! お、お手を煩わせてしまって……」
「いいのですよ。それよりもなぜ危険を承知でこんな事をしたのですか?」
少年はゴクリと唾を飲み込み、そして意を決した様子で話を始める。
「アルタシャ様のお陰で男でも回復魔法が使えるようになったのですね?」
「ええ……そうです」
真実を答えるわけにはいかないので、少しばかり躊躇しつつ答える。
「俺もこれから勉強すれば回復魔法が使えるようになりますか!」
「それは。あなたの努力次第です……」
このギルボック島にいて、女性化させられていない以上、この少年には回復魔法の素質はないと聖女教会が判断したという事だ。
努力しても使えるようになる見込みは低いし、仮に可能になったとしても一人前の聖女にはとても及ばないだろう。
そんなオレの複雑な気持ちなど気付くはずもなく、少年は嬉しげに叫ぶ。
「そうですか! ありがとうございます!」
「なぜあなたは回復魔法を使えるようになりたいのですか?」
「父は事故で命を落としたんです……僕の目の前で……聖女様も間に合いませんでした」
「あなたはその時、自分が回復魔法を使えたら、と思ったのですね」
少年は口惜しそうに顔を伏せる。
「僕は男ですから回復魔法は使えないので、これまでは諦めていました。しかしアルタシャ様がこんな僕でも回復魔法が使える希望を与えてくれました! 本当に感謝しています!」
そこまで褒められると、オレとしては胸が痛い。
いろいろと嘘をついているが、ここでの最大の嘘は希望に満ちた少年に回復魔法の素質が期待出来ないと言う事だ。
似たような少年は決して少なくは無いはず。
自分の行ったことに後悔はしていないが、こんな負の側面がある事は肝に銘じておかねばなるまい。
「あの……アルタシャ様。そろそろ先に進まねばなりません」
馬車を動かしていや御者から、ためらいがちな声がかかる。
いつまでも少年の相手はしていられないし、下手に我も我もと押しかけられたら収拾がつかなくなるな。
「一つ言っておきますが、人間の可能性は幾らでもあります。回復魔法だけでなく、いろいろな事に取り組んであなたにとって最も良い道を進んで下さい」
「はい! ありがとうございます!」
少年は本当に嬉しげだ。
馬車に乗って立ち去る時、少しばかり確認したが大勢の人間が彼に駆け寄ってもみくちゃにされているな。
きっと『うらやましい』だの何だと言われているのだな。
あの少年にとって『アルタシャに傷を治してもらい、話をした』さっきの出来事は、間違いなく一生の思い出と自慢話になるだろう。
将来は『道を誤ったきっかけ』になってしまわない事を祈るしかない。
オレを狙う相手はいなかったのか、それとも警備や群衆に阻まれて手を出せなかったのか、もしかするとオレの神威にうたれて手を出せなかったのか。
どれであっても関係ないか。
その後、馬車は止まることなく港に到達する。
「あちらがアルタシャ様がお乗りになる聖女教会の連絡船『女神の慈愛』号です」
示された船を見ると定期船の『癒しの風』号よりもかなり小さいが、それだけ俊敏なのだろう。
もちろんオレが来ることはとっくに広まっていて、船の周囲どころか港の中は見物人で埋め尽くされている。
騒ぎが起きる前にさっさとギルボック島を出たいところだが、オレが桟橋に足をかけたところで思わぬ事が起きた。
群衆の中から、一人の男が飛び出して一直線にオレの方へと向かってきたのだ。
「貴様! 何をしている!」
「止まれ! 止まらぬと容赦せぬぞ!」
警備員が叫ぶ中で、オレは思わず硬直した。
そこにいたのは先日、コーフールーの港町においてきたミツリーンだったからだ。
「アルタシャ様! 私です! ミツリーンです!」
このままでは確実に犯罪者として拘束されてしまうだろう。
放置しようかという意識が少しばかり心をよぎるが、さすがにそれは気の毒だ。
そして――
「アルタシャ様! ありがとうございます!」
「気にしないで下さい。コーフールーに置き去りにしてしまったことの償いみたいなものですよ」
オレとミツリーンは『女神の慈愛』号で共にギルボック島を離れた。
目的の一部である『聖女教会に性転換を止めさせる』事は達成したが、本来の目的だった『男に戻る』についてはまるで手がかりはない。
しかし絶望はしていない。この世界では神様だって地域によって性別が変わっている事はさして珍しくないのだ。
ならばオレだってそれぐらい出来ても不思議では無いだろう。
そんな事を考えつつ、遠く離れていく『聖なる島』をオレは見つめていた。
ミツリーンが一緒にいるのは腐れ縁としか言いようがないけどな。
【後書き】
これでこの章は完結です。
どうやら護衛も含めて全員が度肝を抜かれている様子だ。
今まで似たような事もあったけど、今回は特別だな。
推測だけど、先ほど大陸全土に行った『男子でも回復魔法が使用出来るようになった』発表のため、オレの神威が更に増して人々を圧倒しているのだろう。
とりあえず暴力的活動を抑止する『調和』をかけた上で馬車を降り、先ほどの少年を見ると、言葉も無く立ちすくんでいた。
見た目は十代前半でごく普通の少年だが、無理をして馬車に取り憑いたので傷を負っているな。
ひとまず『応急手当』を使って傷を癒やし、改めて声をかける。
「用件は何ですか?」
「……」
少年は硬直したままだった。
まるでオレが精神を停止させる『平静』をかけたかのようだ。
数秒後、ようやく少年は口を開く。
「あ……ああ。すみません! お、お手を煩わせてしまって……」
「いいのですよ。それよりもなぜ危険を承知でこんな事をしたのですか?」
少年はゴクリと唾を飲み込み、そして意を決した様子で話を始める。
「アルタシャ様のお陰で男でも回復魔法が使えるようになったのですね?」
「ええ……そうです」
真実を答えるわけにはいかないので、少しばかり躊躇しつつ答える。
「俺もこれから勉強すれば回復魔法が使えるようになりますか!」
「それは。あなたの努力次第です……」
このギルボック島にいて、女性化させられていない以上、この少年には回復魔法の素質はないと聖女教会が判断したという事だ。
努力しても使えるようになる見込みは低いし、仮に可能になったとしても一人前の聖女にはとても及ばないだろう。
そんなオレの複雑な気持ちなど気付くはずもなく、少年は嬉しげに叫ぶ。
「そうですか! ありがとうございます!」
「なぜあなたは回復魔法を使えるようになりたいのですか?」
「父は事故で命を落としたんです……僕の目の前で……聖女様も間に合いませんでした」
「あなたはその時、自分が回復魔法を使えたら、と思ったのですね」
少年は口惜しそうに顔を伏せる。
「僕は男ですから回復魔法は使えないので、これまでは諦めていました。しかしアルタシャ様がこんな僕でも回復魔法が使える希望を与えてくれました! 本当に感謝しています!」
そこまで褒められると、オレとしては胸が痛い。
いろいろと嘘をついているが、ここでの最大の嘘は希望に満ちた少年に回復魔法の素質が期待出来ないと言う事だ。
似たような少年は決して少なくは無いはず。
自分の行ったことに後悔はしていないが、こんな負の側面がある事は肝に銘じておかねばなるまい。
「あの……アルタシャ様。そろそろ先に進まねばなりません」
馬車を動かしていや御者から、ためらいがちな声がかかる。
いつまでも少年の相手はしていられないし、下手に我も我もと押しかけられたら収拾がつかなくなるな。
「一つ言っておきますが、人間の可能性は幾らでもあります。回復魔法だけでなく、いろいろな事に取り組んであなたにとって最も良い道を進んで下さい」
「はい! ありがとうございます!」
少年は本当に嬉しげだ。
馬車に乗って立ち去る時、少しばかり確認したが大勢の人間が彼に駆け寄ってもみくちゃにされているな。
きっと『うらやましい』だの何だと言われているのだな。
あの少年にとって『アルタシャに傷を治してもらい、話をした』さっきの出来事は、間違いなく一生の思い出と自慢話になるだろう。
将来は『道を誤ったきっかけ』になってしまわない事を祈るしかない。
オレを狙う相手はいなかったのか、それとも警備や群衆に阻まれて手を出せなかったのか、もしかするとオレの神威にうたれて手を出せなかったのか。
どれであっても関係ないか。
その後、馬車は止まることなく港に到達する。
「あちらがアルタシャ様がお乗りになる聖女教会の連絡船『女神の慈愛』号です」
示された船を見ると定期船の『癒しの風』号よりもかなり小さいが、それだけ俊敏なのだろう。
もちろんオレが来ることはとっくに広まっていて、船の周囲どころか港の中は見物人で埋め尽くされている。
騒ぎが起きる前にさっさとギルボック島を出たいところだが、オレが桟橋に足をかけたところで思わぬ事が起きた。
群衆の中から、一人の男が飛び出して一直線にオレの方へと向かってきたのだ。
「貴様! 何をしている!」
「止まれ! 止まらぬと容赦せぬぞ!」
警備員が叫ぶ中で、オレは思わず硬直した。
そこにいたのは先日、コーフールーの港町においてきたミツリーンだったからだ。
「アルタシャ様! 私です! ミツリーンです!」
このままでは確実に犯罪者として拘束されてしまうだろう。
放置しようかという意識が少しばかり心をよぎるが、さすがにそれは気の毒だ。
そして――
「アルタシャ様! ありがとうございます!」
「気にしないで下さい。コーフールーに置き去りにしてしまったことの償いみたいなものですよ」
オレとミツリーンは『女神の慈愛』号で共にギルボック島を離れた。
目的の一部である『聖女教会に性転換を止めさせる』事は達成したが、本来の目的だった『男に戻る』についてはまるで手がかりはない。
しかし絶望はしていない。この世界では神様だって地域によって性別が変わっている事はさして珍しくないのだ。
ならばオレだってそれぐらい出来ても不思議では無いだろう。
そんな事を考えつつ、遠く離れていく『聖なる島』をオレは見つめていた。
ミツリーンが一緒にいるのは腐れ縁としか言いようがないけどな。
【後書き】
これでこの章は完結です。
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