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第24章 全てはアルタシャのために?

第1112話 遠方より来た友は

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 フォンリット帝国の上層部が『アルタシャ』を使って、大陸支配に乗り出しているとなるともはや普通に話し合って止めさせるのは絶望的かもしれないぞ?
 しかも聖女教会にまで化身を送り込んで、自分達に敵対出来ないように手を打っているとなると、本当にオレに出来る事は本物の女神になることだけかもしれない。
 いや。諦めるにはまだ早い。
 神造者も決して一枚岩ではないのだ、オレを利用するのに反対している勢力だってあるだろう。
 そいつらと交渉すれば、道が開けるかもしれない。

「それでは神造者がわたしの化身を作るのを止めるにはどうすればいいのですか?」
「そんな事まで分かるわけがないだろう。ここからフォンリット帝国は殆ど大陸の反対側なんだぞ」

 そりゃそうか。大ざっぱな事は分かっても、フォンリット帝国上層部の思惑まではこんなところからでは見当もつかなくて当然だ。

「アルタシャ様……先ほどから何の話をしておられるのですか?」

 何も伝えていないミツリーンが話についていけないのは当たり前か。
 仕方ないので大ざっぱにここ数日の事を説明する。

「なんと! それでは神造者達はアルタシャ様を冒涜していると言う事ですか!」

 そこでミツリーンはテセルをにらみつける。

「そのような真似をして恥ずかしくないのか! お前たちはアルタシャ様を何だと思っているのだ!」
「おい! 待て。僕は確かに神造者だが、この件には無関係……いや。むしろアルタシャの味方だぞ!」
「そんな事を言って本当は監視しているのではないのか!」

 今は喧嘩されては困るので、とにかくミツリーンを止めるしかない。

「待って下さい! ミツリーンさん。先ほど言ったようにテセルは大切な友人です。疑うのは止めて下さい」
「こ、これはすみません。つい興奮してしまって」
「だからなんで僕が『友人』なんだよ……」

 オレの言葉を受けて、二人ともいったんは引き下がる。
 もっともテセルは『婚約者』と言って欲しい様子だが。

「とにかくなるだけ急いでフォンリット帝国に向かいたいのですが、何かよい移動手段はありますか?」

 帝国上層部が関わっているとなるとオレが出向くのは間違い無く危険だ。暗殺どころか公然と殺害しようとする可能性すら否定出来ない。
 だがこのまま何もしないわけにもいかないし、聖女教会達を扇動して宗教戦争になるような事も出来ない。
 直接出向いてどうにか事態を打開するしかないのだ。

「もっとも早いのは海路だろうけど、早い船でも一月はかかるだろうな」

 魔法で水の精霊を使えば、もっと早く行けるだろうけどいずれにしても相当な時間がかかるのは間違い無い。
 しかし他の選択肢もないのは明らかだ。

「それでお願いします。急いでフォンリット帝国に向かう船を調達して下さい」
「分かった。このエリート神造者たるこの僕に任せるがいい」
「私も同行させていただいてよろしいのですね」

 以前に置き去りにした事を気にしているのか、ミツリーンは念を押してくる。

「もちろんですよ……あれ?」
「どうしたんだ」

 オレの心に何か引っかかるものがあった。
 何者かが遠くからオレの事を呼んでいる、そんな気がするのだ。
 まさかまた神造者が何かを仕掛けてきているのか?
 いや。それにしてはどこかがおかしい。
 どういうわけかオレはその呼びかけを以前に聞いた覚えがあるし、なるだけ急いでその声に応じる必要があると思うのだ。
 そうしないと何かとんでもない事態を招くような気がする。

「すみません! 急いで行くべきところがあります!」
「おい! いったいどこに行くつもりだ?!」
「待って下さい。私も行きます」

 テセルとミツリーンがついてくる中、オレはゴドーナ市の城門をくぐり町の外に出る。

「いったいどういうつもりだ? まさか海路ではなく陸路でフォンリット帝国に向かうつもりなのか?」
「アルタシャ様が向かうところが、私の行くところです」

 どっちも違う。急いで城壁を出たのは『このまま町の中にいてはいけない』との意識があったからだ。
 そしてそれは正しかった。
 遠くの空にポツンと小さな点が見えたかと思ったら、それがドンドンと大きくなっていく。

「うん? あれは……もしや?!」
「まさか! あの姿は?!」

 近づいてくる相手は翼を生やした巨大な爬虫類、つまりドラゴンだった。
 そしてオレに呼びかけてくるドラゴンに思い当たるのは一人しかいない。
 まさかこんなところでその姿を見るとは夢にも思わなかったが、どことなく再会を喜ぶ気もあった。
 そしてあっという間に迫ってきたドラゴンは、ゆっくりとオレたち三人の眼前に着地する。

「こ、こいつは……本物のドラゴンが……」
「アルタシャ様……」

 テセルとミツリーンは恐怖に青ざめ、ゴドーナ市の方でもドラゴンの姿を認めた市民が大騒ぎしているようだ。
 そしてドラゴンはいかにも嬉しげにその牙の並んだ口を開く。

「やあ。アルタシャ。会いたかったよ」
「久しぶりですね。イオ」

 かつて『アルタシャの魔力』によって卵から急速に成長し、オレが名付け親となったドラゴン・イオ(第十三章)は甘えるようにその鼻をこすりつけてきた。
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