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第24章 全てはアルタシャのために?
第1157話 女神への願いと、女神よりの頼み
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まばゆい純白の光に満たされた聖堂の向かいには巨大な女神像がそびえている。
その巨大さはともかくこれでは普通の寺院と大差ない気がしてきたぞ。
これが神造者の領域における『イロールの姿』という事なのだろうか?
地域毎に神の形態が異なるのは、これまでも散々思い知らされて来た事ではあるけど、いくら何でもこれは不自然だ。
テセルは神造者でも聖女教会は自由に出来ないとは言っていたが、それでも一定の影響力を行使しているのは間違い無い。
待てよ。このイロールの神像はどこかで見た覚えがある。
そうだ! テセルとあった時に訪れた『酷い取引』の廃墟にあった偽女神の像に似ているんだ。
あれは治癒の女神の象徴として人々が崇拝する事で、祈れば難病でも治るという評判が広まり、それが更なる信仰を呼び込んで像に力を与え続けた。
そしてその治療の奇跡を聞きつけた神造者が『女神の複製』として半神としたが、その結果として神像は人々から命と魂を吸い上げ、自らの糧とする怪物と化してしまった。
ただしフォンリット帝国では神の姿は基本的に神造者の定めた形態を取るので、そのロクでもない神像と同じ外見だからと言って、中身が一緒というわけではない。
『おお。誰かと思えばアルタシャですか』
神像の方から意志が伝わってくる。
確かに以前に出会った『イロールを模した邪悪な半神』では無い事は明らかだが、同時に今まで接触してきた女神イロールともまた違う。
しかし崇拝される地域毎に神は異なる――何しろ外見どころか配偶者や親子関係ですら違って当たり前なのだ。
そして神造者の支配地域では彼らが定めた『正しい姿』で統一した崇拝が行われるが、それは当然、他の地域とはまた異なるものである。
その結果としてイロールも今までとは違った形態になっているのだろう。
『よく来てくれましたね。嬉しいですよ』
「なぜあなたはそのような神像の姿を取っているのですか?」
今まで見てきたのは『金髪に青紫の瞳をした絶世の美女』というものだった。
神自身の領域においてすら、このような神像の姿を取っているとはどうにも不自然だ。
この形態では恐らく動く事も出来ないはず。
いや。待てよ。もしかしたら――
『この地域においてわたくしはこのような姿でしか顕現出来ないのですよ。信徒にはこれまでと等しく癒やしの力を与える事は出来るのですが……』
やはりそうか。
聖女教会は有力な神造者に対して側室を送り込むなど、一定の影響力を有して帝国内でも独立を維持している。
だが多くの聖女が神造者の妻という事は逆に神造者の側からも影響力を与える事が可能だという事だ。
恐らく神造者はそれらの聖女を使って、イロールの力を削ぐため、このような形で実質的に封印したのだろう。
教義や教団のありように手を出せば強い反発を招くだろうけど、神様を神像そのものにすり替えてしまうのは普段、その信仰の象徴としての像しか見ていない信徒には変化が分からない。
恐らく神造者は自分たちにとって少々目障りだが、滅ぼしたり、教義を都合よく変えたりするのが難しい神の場合は。このやって実質的に封印してしまうのではないだろうか。
間違いなく神造者の支配地域では、同様の扱いを受けている神様が多数存在するはず。
これも神造者が過去の長年にわたる実験の繰り返しにより開発した『神を管理する』方法の一つなのだろう。
何にしてもこうなるとイロールは当てにできないか。
いや。もともとオレは直接、この女神に力を振るって欲しいわけではない。
あくまでも聖女教会を味方につけるための、口添えが望みでここまで来たのだからどうにかならないだろうか。
「一つお願いがあるのですが聞いてもらえますか?」
『あなたの頼みならば、わたくしに否応などあるはずが無いでしょう。何でも言ってください。助力は惜しみませんよ』
名高き『治癒の女神様』からそう言ってもらえたら、普通ならば涙を流して感激するところなんだろうなあ。
『あなたの頼みとは何ですか?』
「このフォンリット帝国の聖女教会はわたしの先日の行動を巡って揉めている様子です。そこであなたが彼女たちの夢の中にでも現れて、争いを辞めるように伝えてくれませんか」
『分かりました。この国の信徒たちに改めて男女を問わず入信を認める事と、それを成したあなたへの支持を伝えましょう』
「ありがとうございます」
幾ら神意だと言ったところで、反対派がいきなりオレの味方になってくれるとは思わない。
だけど日和見をしている勢力ならば、そいつらが動いてくれる可能性はある。
上手くいけば一気に雪崩を打つ契機になってくれるかもしれない。
そうなればしめたものだ。
あまり過大な期待は持つべきではないけど、少しでも状況を変えて欲しいところである。
『ただ……その前に一つだけわたくしの方からあなたへの頼みがあります』
「何でしょうか?」
いくら何でも推薦する相手を伴侶にしろとか、そんな無体な要求は無いだろうけど、女神からの要求となると少しばかり不安になってくるな。例えば『聖女教会のトップに立て』とか言われてもそんな責任は負えません。
『これを口にするのはわたくしにとっても少しばかり恥ずかしいのですが……』
なんだよ? 千年以上存在し続けている女神が、恥ずかしがる要求とは一体なんなんだ?
『わたくしはあなたの事をずっと我が娘だと思ってきました。だから一度でよいのでわたくしの事を母と呼んでくれますか?』
なんじゃそりゃ?! ドラマで血の繋がらない子供からずっと親扱いされてこなかった義母が、クライマックスで口にするような頼みだな!
その巨大さはともかくこれでは普通の寺院と大差ない気がしてきたぞ。
これが神造者の領域における『イロールの姿』という事なのだろうか?
地域毎に神の形態が異なるのは、これまでも散々思い知らされて来た事ではあるけど、いくら何でもこれは不自然だ。
テセルは神造者でも聖女教会は自由に出来ないとは言っていたが、それでも一定の影響力を行使しているのは間違い無い。
待てよ。このイロールの神像はどこかで見た覚えがある。
そうだ! テセルとあった時に訪れた『酷い取引』の廃墟にあった偽女神の像に似ているんだ。
あれは治癒の女神の象徴として人々が崇拝する事で、祈れば難病でも治るという評判が広まり、それが更なる信仰を呼び込んで像に力を与え続けた。
そしてその治療の奇跡を聞きつけた神造者が『女神の複製』として半神としたが、その結果として神像は人々から命と魂を吸い上げ、自らの糧とする怪物と化してしまった。
ただしフォンリット帝国では神の姿は基本的に神造者の定めた形態を取るので、そのロクでもない神像と同じ外見だからと言って、中身が一緒というわけではない。
『おお。誰かと思えばアルタシャですか』
神像の方から意志が伝わってくる。
確かに以前に出会った『イロールを模した邪悪な半神』では無い事は明らかだが、同時に今まで接触してきた女神イロールともまた違う。
しかし崇拝される地域毎に神は異なる――何しろ外見どころか配偶者や親子関係ですら違って当たり前なのだ。
そして神造者の支配地域では彼らが定めた『正しい姿』で統一した崇拝が行われるが、それは当然、他の地域とはまた異なるものである。
その結果としてイロールも今までとは違った形態になっているのだろう。
『よく来てくれましたね。嬉しいですよ』
「なぜあなたはそのような神像の姿を取っているのですか?」
今まで見てきたのは『金髪に青紫の瞳をした絶世の美女』というものだった。
神自身の領域においてすら、このような神像の姿を取っているとはどうにも不自然だ。
この形態では恐らく動く事も出来ないはず。
いや。待てよ。もしかしたら――
『この地域においてわたくしはこのような姿でしか顕現出来ないのですよ。信徒にはこれまでと等しく癒やしの力を与える事は出来るのですが……』
やはりそうか。
聖女教会は有力な神造者に対して側室を送り込むなど、一定の影響力を有して帝国内でも独立を維持している。
だが多くの聖女が神造者の妻という事は逆に神造者の側からも影響力を与える事が可能だという事だ。
恐らく神造者はそれらの聖女を使って、イロールの力を削ぐため、このような形で実質的に封印したのだろう。
教義や教団のありように手を出せば強い反発を招くだろうけど、神様を神像そのものにすり替えてしまうのは普段、その信仰の象徴としての像しか見ていない信徒には変化が分からない。
恐らく神造者は自分たちにとって少々目障りだが、滅ぼしたり、教義を都合よく変えたりするのが難しい神の場合は。このやって実質的に封印してしまうのではないだろうか。
間違いなく神造者の支配地域では、同様の扱いを受けている神様が多数存在するはず。
これも神造者が過去の長年にわたる実験の繰り返しにより開発した『神を管理する』方法の一つなのだろう。
何にしてもこうなるとイロールは当てにできないか。
いや。もともとオレは直接、この女神に力を振るって欲しいわけではない。
あくまでも聖女教会を味方につけるための、口添えが望みでここまで来たのだからどうにかならないだろうか。
「一つお願いがあるのですが聞いてもらえますか?」
『あなたの頼みならば、わたくしに否応などあるはずが無いでしょう。何でも言ってください。助力は惜しみませんよ』
名高き『治癒の女神様』からそう言ってもらえたら、普通ならば涙を流して感激するところなんだろうなあ。
『あなたの頼みとは何ですか?』
「このフォンリット帝国の聖女教会はわたしの先日の行動を巡って揉めている様子です。そこであなたが彼女たちの夢の中にでも現れて、争いを辞めるように伝えてくれませんか」
『分かりました。この国の信徒たちに改めて男女を問わず入信を認める事と、それを成したあなたへの支持を伝えましょう』
「ありがとうございます」
幾ら神意だと言ったところで、反対派がいきなりオレの味方になってくれるとは思わない。
だけど日和見をしている勢力ならば、そいつらが動いてくれる可能性はある。
上手くいけば一気に雪崩を打つ契機になってくれるかもしれない。
そうなればしめたものだ。
あまり過大な期待は持つべきではないけど、少しでも状況を変えて欲しいところである。
『ただ……その前に一つだけわたくしの方からあなたへの頼みがあります』
「何でしょうか?」
いくら何でも推薦する相手を伴侶にしろとか、そんな無体な要求は無いだろうけど、女神からの要求となると少しばかり不安になってくるな。例えば『聖女教会のトップに立て』とか言われてもそんな責任は負えません。
『これを口にするのはわたくしにとっても少しばかり恥ずかしいのですが……』
なんだよ? 千年以上存在し続けている女神が、恥ずかしがる要求とは一体なんなんだ?
『わたくしはあなたの事をずっと我が娘だと思ってきました。だから一度でよいのでわたくしの事を母と呼んでくれますか?』
なんじゃそりゃ?! ドラマで血の繋がらない子供からずっと親扱いされてこなかった義母が、クライマックスで口にするような頼みだな!
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