異世界転移したら女神の化身にされてしまったので、世界を回って伝説を残します

高崎三吉

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第24章 全てはアルタシャのために?

第1176話 『もっとも優れた体制』がもたらすものは

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 神造者の危機を呼びかける、この霊体が最高神学会に所属する神造者の最高幹部の一人だとしたら、これは尋常な事態では無いな。

「教えて下さい。これはいったい何事なのです? この最高神学会では、何が起きているのですか?」
『我ら神造者は人々の望みをかなえるため、神界を管理し公式神話を作り、世界にあまねく広まった』

 ある程度は美化しているけど、そこまでは分かる。
 だが問題なのはそこから先だ。

「その人々の望みには際限が無かったのですね。そしてあなた方、神造者が多くの支持を獲得し、支配地域を増やす毎に、更に深刻になっていったのではありませんか?」

 推測だけど最高神学会のあり方は、このフォンリット帝国がもっと小さかった時代とさほど変わっていないのではないだろうか。
 本来はさほど数が多くなかった神造者達が、作り出した神話や伝説を公正に判定し、公式神話に組み入れるかどうかをここで議論していたのは間違い無い。
 神造者の勢力が世界に広まって、各地で無数の神話や伝説に取り組んでいるにも関わらず、その体制が続けられてしまっている事が大きな歪みを生み出しているように思える。

 元の世界でもしばしば

『大きな成功を成し遂げた体制が、その実績故に正当化されて問題が見逃されてしまい、時代に合わなくなっても続けられた事が悲惨な失敗を招いた』

という話を聞いた事がある。

 困った事に神造者もまたこの世界の人間の例に漏れず『自分達こそが世界でもっとも優れた存在』だと信じていて、そのまばゆい発展を誇りにしているからこそ改革など出来ない状態なのだろう。

『その通りだ。だから我らは考えた。人々の望みを全てかなえる事が不可能ならば、その人間が捧げた霊力に応じて、望むものを与えるようにすればよいという結論に達したのだ』
「それは……人間が働きに応じて報酬を受け取り、払った対価に応じてモノを買うのと同じ考えなのですね」

 建前の上ではそれが正しくとも、現実がその通りにはいくはずがない。

『もちろんだとも。我ら神造者は常に合理的に物事を考える』

 オレの知っている神造者は、能力的にはともかく常に合理的に行動しているようにはとても思えない。
 だいたいこの最高神学会の面々同士でも、ずっと不毛な派閥抗争や神学論争をやっていたのではないのか。
 それも連中に言わせれば、合理性を追求した結果の論争に過ぎないのだろうけどな。

『我らはそのためにこそ創造神エルウリンを作り出した。信徒が捧げた信仰に応じて、創造物を与える公正な存在としてな』
「しかし……あなた方は本来ならば信徒への報酬として与えられるはずの霊力で『アルタシャの化身』を創造し、それを各地の有力者に与えて神造者の勢力拡大に利用したのではありませんか?」

 これほどまでに建前と実際の姿が乖離している事はむしろ珍しいのではないのか。

『その通りだ。しかしそれはあくまでも一時の事。我ら帝国の勢力が拡大すれば、それだけ民衆は豊かになり、人々を幸せに出来るのだ』

 神造者の支配地域が増えた事で、各地の神話を統合する手間も増大し、更に『正しい信仰』を巡って神造者同士の不毛な神学論争も拡大していったのは間違いない。
 それにも関わらず最高神学会は自分たちこそが神造者の最高権威であり、それ以外には公式神話を定める事を認めない姿勢を貫いたのだろう。
 なんとも皮肉な事に『世界でもっとも進歩的で優れた信仰』を唱え、他の勢力を『時代遅れの非効率的な存在』だと見下している勢力の総本山が、今や既得権益の権化となってしまっていたのだ。
 しかしただそれだけで、ここまで状況が悪化しているはずはない。

「そのアルタシャの化身はいまどうなっているのですか?」
『そうだ……それが我らにとって触れてはならぬ存在だった』
「つまり最高神学会の人たちも、自分たちの作ったアルタシャの化身にのめり込んでしまったのですね」

 そういえばテセルは、神造者に男女の差はないという建前だが、伝統的な男女意識から実際にはほとんどが男性で、最高神学会のメンバーは男性ばかりだと言っていたな。
 合理性を重んじていながら、そこに残った非合理性がこんなところで厄介のタネを芽吹かせていたという事なのだろうか。

『アルタシャにのめり込んだ者達はひとり、またひとりと最高神学会に顔を出さなくなり
次第にここは閑散となっていった」

 まさに『傾国の美姫』というやつだな。
 もしもオレがその場にいたら体を張ってでも警告したところだけどな。
 ひょっとすると最高神学会の面々はみんなテセルがあのまま成長したような性格だったとしたらどうだ?
 幼い頃から勉強ばかりの毎日だったので、いともたやすく『何でも言う事を聞いてくれる理想の女性』に転んでしまったと言う事は十分に考えられる。
 しかしそれだけで最高神学会がここまで閑散となるのだろうか?
 いくら何でもそれはおかしい。
 もっと深刻な、そしてもっと恐るべき事情が裏にはあるに違いない。
 これはもう予想では無く、確信と言ってもいいぐらいだ。
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