8 / 20
黎奈編
【黎奈編】#7 告白
しおりを挟む
___今日、シュン君に告白する。
私はそう心に決めた。
先日、シュン君がまた一緒に買い物に行ってくれると言ってくれた。
そして今日がその日なのだ。今日のデートの終わりに、シュン君に告白する。
あまり考えたくは無いけど、断られたくないし、その後の生活で気まずくなったりするのが怖い。でも、告白しなければ何も進展しない。琉輝の行っていた通り、好きになったら自分から積極的に行くんだ・・・!
午後11時を過ぎた頃、僕はいつものように琉輝の部屋で動画編集の手伝いをしていた。
「あとどれくらい?」
「・・・ん~、まだ掛りそうだな」
まだ作業を開始して1時間ほどなのだが、隣のパソコンで作業をしていた琉輝がそんな事を聞いてきた。
「まあ、まだ終わってないよね~」
「どした?急ぎか?」
「いや、そういう訳じゃ無いんだけど・・・」
急いで編集しないといけない動画かと思ったが、どうやら違うらしい。
そこで琉輝は少し考える素振りを見せたあとに、その答えを言う。
「明日、黎奈と買い物に行くんでしょ?」
「まあ、そうだな」
「なら今日は大丈夫だから、もう寝ていいよ」
「いいのか?じゃ、今日はもう寝させてもらうよ」
なるほど、確かに明日買い物に行くときにずっとウトウトしてても黎奈に失礼だもんな。
「琉輝、お前黎奈とそんなに仲良かったか?」
「ん、なんで?」
仲が悪くないのは分かるが、僕の見る感じそんなに凄く良いとも思わなかったのだが、少なくともYouTubeの活動に力を入れている琉輝が、黎奈のために自分の動画の投稿を遅らせることが出来るほどには仲が良いのだろう。
気づかないうちに何かあったのか?まあ、何はともあれ黎奈と琉輝の仲が良くなってるのは嬉しいものである。
「いや、お前にしては珍しいなと思っただけだよ」
「ん~まあ、気分だよ」
「気分か、なるほど納得した!」
僕はそう言いながら、部屋のドアを開けて外へ出るのだった。
「おはよ・・・」
「おう、おはよう」
翌日の午前10時、僕は前回黎奈と買い物に行った時と同じくショッピングモールの入り口で黎奈を見つけた。
「おう、おはよう。まっ・・・てたよな・・・」
「・・・ううん、今来たところ」
今日の朝、僕が8時過ぎに起きてきたときには既に家に居なかったため、少なくとも2時間近くは待っていたはずなのだけどな。
「お、黎奈。お前がオシャレするなんて珍しいな」
今日の黎奈はいつもの半袖にハーフパンツではなく、白のオーバーサイズTシャツに少し濃い色の緑のカラーパンツを履いている。
「・・・どう?」
「ああ、似合ってるよ」
「・・・でしょ?」
黎奈は嬉しそうにそう言うと、僕との距離を詰めて来て、手を握ってくる。なんだ、黎奈はこんな事をするやつだったか?
「・・・じゃあ、行こっか?」
「そうだな」
「まあいいや」と思いつつ、黎奈に手を引かれて僕はショッピングモールの中に入っていくのだった。
「香水を買う?」
「・・・うん」
ショッピングモールの2階に上がって、すぐそこにあった香水ショップの前で黎奈が「香水を買いたい」と言い出した。
「学校で香水流行ってるのか?」
「・・・そうでもない」
「そうなのか、まあ良いか。で、どれを買うんだ?」
「・・・シュン君が選んで」
「僕?良いけどさ、あんまりセンスは期待すんなよ」
こちとら、その辺のセンスは皆無に等しいんだぞ?まあ、頼まれたからには頑張って黎奈に合う香水を選ばせてもらうが。
その後、30分ほど悩みに悩んだ結果、爽やかさのある小さくてオシャレな香水を選んだ。
「すまんな、センスが無くて」
「・・・ううん、大丈夫。凄くいいよ・・・♪」
「そう言って貰えると助かる」
どうやら意外と気に入ってくれたようだ。あまり自信は無かったが、喜んで貰えると嬉しいものである。
「・・・じゃあ、次は私がシュン君に香水、選んであげるね」
「お、マジか!僕に合うのを選んでくれよ!」
黎奈はそう言って、奥の方の棚に向かう。そしてすぐに1つの香水を手に戻ってきた。
「・・・これ、嗅いでみて」
「おう・・・」
僕は黎奈にそう言われて、黎奈が持ってきた香水の匂いを確認する。
よく分からないが、なんかいい感じがする。オシャレな感じというよりは何か天然で優しい感じ(?)がする。
僕にはオシャレな感じは無いと自覚しているため、こういう匂いの方が合っていると黎奈も思ったのだろう。香水を取ってくる早さからして事前に選んでいてくれてたのだろうか?
「いいな、これ。僕に合ってると思うよ」
「・・・でしょ?」
僕のその言葉を聞いた黎奈は、少し安心したように、そして嬉しそうにそう言う。
「じゃ、会計するか」
「・・・そだね」
僕はそう言って、2つの香水を持ってレジへと向かう。
「すいませ~ん、これください」
「はいはい、3000円だよ」
レジで雑誌を読んでいたおばちゃんは、僕たちに気づくと雑誌を置く。そして、僕と黎奈に視線を向けると、何やら怪しげな笑みを浮かべてくる。
「あら、お二人さん。もしかしてデート中ですかいな?」
おばちゃんは少しテンションが上がったようにそう聞いてくる。
「まあ、そうですね。な?黎奈」
「・・・そだね」
黎奈は僕の右腕を両手で掴みながら、僕の言葉を同意する。
「あら~、若いって良いわねぇ!サービスしとくわよ」
「マジっすか、ありがとうございます!」
「・・・ありがとう、ございます」
おばちゃんはそう言って、僕たちが選んだ2つの香水を入れた紙袋の中に、もう一つ香水の様な小さな瓶を入れる。
それが何なのかは検討も付かないが、まあおまけとして貰えるなら貰っておこう。
「良いのよ~、若いうちはね、沢山恋をすればいいのよ。私なんて未だに片思いで・・・」
・・・・・恋、か。
「ありがとうございました」
おばちゃんの話が長くなりそうだったので、僕はお金を払って黎奈と一緒にお礼を言って店を出る。
「頑張るのよ~」
と言う言葉を背に。
「・・・ここ、美味しい」
香水を買ってからしばらく色々とショッピングモール内を回って、気づけば時刻も正午になった頃、通り過ぎようとした店の前で、黎奈がそう言う。
その店はどうやら少しオシャレなカフェのようだ。ちょうどお腹も空いてきたし、寄ってくか。
「お、じゃあ寄ってくか?」
「・・・うん」
黎奈もそれに同意してくれたので、カフェで昼食を取ることにする。
「いらっしゃい」
僕たちが店に入ると、カウンターで作業をしていた女性の店員からそんな言葉を受け取る。店内はオシャレな印象を受ける造りとなっており、落ち着ける。現在、店の中には僕たち意外に客は居ない。
僕は周りを見渡した後に、適当な席につき、メニューに目を通す。どうやらこの店はコーヒーをメインにしているようで、かなりの種類のコーヒーがメニューに書かれていた。
「僕は決めた。黎奈は?」
「・・・うん、決まったよ」
僕も割りと早めにメニューを選んだのだが、黎奈は既に選び終えていたみたいだ。
そういえばさっき、「ここ美味しい」と言っていたから何度か来たことがあり、それでいつものメニュー的なものが決まっていたのだろう。
「すいませ~ん!」
「あ、は~い。少々お待ちを」
選んだメニューを注文するために僕は店員を呼ぶと、カウンターの裏から男性の声が聞こえてくる。
「はい、ご注文をどうぞ」
呼んでから10秒もしない内に、男性の店員が僕たちの座っている席に注文を聞きに来た。
「・・・?」
僕はその店員を見て、少しだけ驚く。その店員は高校生くらいだろうか?もしかしたら僕と同い年くらいの高校生なのかもしれないないが、最も目を引くのは白髪で左目に黒い眼帯を付けている所だ。
「ああ、これですか?何と言うか…趣味ですよ趣味」
「そうですか、変わってますね」
「ハハッ、よく言われます。でもそんな変わってる僕と付き合ってくれる女性が居ましてね」
「そりゃまた、その人も変わってますね」
「そうっちゃそうですね。ところで、君は黎奈ちゃんの彼氏かい?」
「いや?違いますけど・・・痛った!!」
店員の質問に僕がそう答えると、向かい側に座っていた黎奈に足を踏まれる。
「ハハハ、黎奈ちゃんはよく一人でこの店に来てくれてね。今日は珍しく誰かと来たもんだから、距離もやたら近いし彼氏かと思ったんだけど、違うのかぁ」
「まあ、家族ですよ。黎奈の事よく見てるんですね」
「まあね、うちの店の店主兼僕の彼女と名前が同じだからってのもあるけど」
店員はカウンターの方をチラッと見ながらそう言う。
カウンターにいた女性はその視線に気がつくと、店員に対して少しだけ睨むような表情を見せる。
「喋り過ぎて怒られちゃったな。で、ご注文は?」
店員はそれに肩を竦める様な仕草を見せ、脱線してしまっていた注文を再度取り直す。
「えと、このコーヒーと、このワッフルで」
僕はメニューを指さしながら、おそらくこの店で最もオーソドックスであろうコーヒーと、普通に食べたかったストロベリーワッフルを注文する。
「・・・いつもの」
「了解で~す、少々お待ちを」
よくこの店に来て、店員に顔を覚えられている黎奈は「いつもの」で通じるようだ。
注文を取った店員はカウンターの女性にそれを伝えに行き、カウンターの奥の扉を開けて中の部屋に入っていった。
その後、コーヒーとワッフルを堪能した僕は、夕方まで黎奈とショッピングモール内を回って遊んでいた。買い物をしたり、たまたまやっていたイベントに参加したり、映画を見たりと、黎奈と過ごした今日という一日はとても楽しかった。
「ふぅ~、楽しかったな!」
「・・・楽しかった」
僕と黎奈は向き合って互いにそう言いあって笑みを浮かべ合う。
普段はほとんど表情を変えない黎奈だが今日のデートではかなり表情が変わっており、黎奈の様々な表情を見れて僕は満足だ。
「そろそろ帰るか?」
もう時刻も午後6時前となり、そろそろ結希が家で夕食を作り出す頃だろう。
「・・・まだ。最後に1つだけ、行きたい場所がある」
だが、黎奈は何かを決心した様子で、僕の方に視線を向けてそう言ってくる。
「分かった。結希には夕飯に遅れるって連絡しとかないとな」
結希には悪いが、ここで黎奈の誘いを断るわけにもいかないだろう。
「・・・ありがと」
「で、どこに行くんだ?」
「・・・それは____」
「夜風が気持ちいな」
「・・・今日は涼しいね」
30分ほど歩いただろうか?日も既に落ち、当たりも暗くなってきた時間帯になってきた。幸い今日は比較的涼しい日であったため、ほとんど汗もかいていない。
歩きながらふと背伸びをし、深呼吸してみると、仄かに潮の香りがして鼻を少しだけ刺激する。
「やっぱり散歩はいいもんだな」
「・・・シュン君は散歩が好きなんだね」
「ああ、なんせ健康にいいからな」
「・・・だからシュン君はいつもの元気なの?」
「・・・そうかもな!」
そんな他愛もない会話をしながら、僕たちは"目的の場所"に向かって歩いていく。
「・・・あそこだね」
「ああ、そうだな」
曲がり角を右に曲がると海岸が見えてきて、その端の方に小さなガゼボがあるのがわかる。
僕たちはそのガゼボの中に入って2人で夜の綺麗な海を眺める。
「・・・シュン君、覚えてる?2年前の事」
「そりゃもちろんさ」
心臓の鼓動音が速く、大きくなる。私はこれから告白する。私の恩人で、この世界で一番好きな人に。
2年前、事故で両親を失ってこの場所で泣いていた私に声を掛けて、話を聞いてくれたのがシュン君だった。そして独りだった私をシェアハウスに迎えてくれた。
自動車の事故で両親が死んで私だけ生き残ったせいか、感情を顔に出すことが出来なくなり、そのせいでシュン君に迷惑を掛けたこともあったが、あまり気にせずに優しく接してくれた。
シュン君と過ごしている時間だけは、自然と表情が動いた。シュン君と過ごす時間はとても幸せにだった。シュン君は私に生きる希望を与えてくれた。
だから、シュン君と出会ったこの場所で、私はシュン君と目を合わせて勇気を振り絞りその言葉を口にする。
「貴方の事がずっと好きでした」
「・・・え?」
私がその言葉を伝えた瞬間、シュン君は動揺したようにそんな声を漏らす。
それは当然だろう、いきなり告白されたのだから。
「・・・・・」
シュン君は、少し視線を落として、私から視線を外す。
そして数秒の沈黙の後、シュン君は重々しく口を開き、私が一番聞きたくなかった言葉を発する。
「・・・ごめん、黎奈。僕はお前とは付き合えない」
その言葉を聞いた瞬間、自分の頬に液体が伝っているのが分かった。
私は振られた。その事実が重々しく私の心に突き刺さる。
「あっ!黎奈!?大丈夫か!?」
悲しい表情を浮かべて涙を流す私を見て、シュン君は心配そうな声で私を抱きしめる。
私とシュン君の身長差によって、抱きしめられた私の頭はシュン君の胸の中に入る。その胸からは心臓の音が聞こえてきて、少しだけ安心感を覚える。
ずるいよ…シュン君。そんなに優しくされたら…
「ごめんな…黎奈」
「・・・ううん、大丈夫だよ」
それから何分経ったのだろうか、私が落ち着くまで私はシュン君に抱きしめられていた。
「もう大丈夫なのか?」
「・・・うん」
その時間はとても幸せで、永遠にこの状態でいたかったが、私はシュン君の胸から離れて深呼吸をする。
「・・・明日からは、いつも通り接して・・・」
「・・・ああ」
振られたのはとても悲しいが、それを引きずっていても仕方がないため、明日からはいつも通り接してくれとシュン君に頼む。
「・・・あと、もう一つお願い」
それともう一つの頼みをシュン君に伝える。
「なんだ?」
「・・・目、瞑って___」
僕が黎奈に言われた通りに目を瞑った瞬間、唇に柔らかい感触があった。
「!?」
「・・・まだ」
それに驚いて思わず目を開きそうになるが、至近距離から聞こえた玲奈の声によって何とか踏みとどまる。
「・・・もういいよ」
数秒後、黎奈のその声で僕が目を開けると、先程と変わらない位置にいる黎奈がこちらを向いて立っていた。
「・・・それじゃ、帰ろっか♪」
黎奈はそう言いながら、悪戯な笑みを浮かべ、身を翻して歩き出すのだった。
私はそう心に決めた。
先日、シュン君がまた一緒に買い物に行ってくれると言ってくれた。
そして今日がその日なのだ。今日のデートの終わりに、シュン君に告白する。
あまり考えたくは無いけど、断られたくないし、その後の生活で気まずくなったりするのが怖い。でも、告白しなければ何も進展しない。琉輝の行っていた通り、好きになったら自分から積極的に行くんだ・・・!
午後11時を過ぎた頃、僕はいつものように琉輝の部屋で動画編集の手伝いをしていた。
「あとどれくらい?」
「・・・ん~、まだ掛りそうだな」
まだ作業を開始して1時間ほどなのだが、隣のパソコンで作業をしていた琉輝がそんな事を聞いてきた。
「まあ、まだ終わってないよね~」
「どした?急ぎか?」
「いや、そういう訳じゃ無いんだけど・・・」
急いで編集しないといけない動画かと思ったが、どうやら違うらしい。
そこで琉輝は少し考える素振りを見せたあとに、その答えを言う。
「明日、黎奈と買い物に行くんでしょ?」
「まあ、そうだな」
「なら今日は大丈夫だから、もう寝ていいよ」
「いいのか?じゃ、今日はもう寝させてもらうよ」
なるほど、確かに明日買い物に行くときにずっとウトウトしてても黎奈に失礼だもんな。
「琉輝、お前黎奈とそんなに仲良かったか?」
「ん、なんで?」
仲が悪くないのは分かるが、僕の見る感じそんなに凄く良いとも思わなかったのだが、少なくともYouTubeの活動に力を入れている琉輝が、黎奈のために自分の動画の投稿を遅らせることが出来るほどには仲が良いのだろう。
気づかないうちに何かあったのか?まあ、何はともあれ黎奈と琉輝の仲が良くなってるのは嬉しいものである。
「いや、お前にしては珍しいなと思っただけだよ」
「ん~まあ、気分だよ」
「気分か、なるほど納得した!」
僕はそう言いながら、部屋のドアを開けて外へ出るのだった。
「おはよ・・・」
「おう、おはよう」
翌日の午前10時、僕は前回黎奈と買い物に行った時と同じくショッピングモールの入り口で黎奈を見つけた。
「おう、おはよう。まっ・・・てたよな・・・」
「・・・ううん、今来たところ」
今日の朝、僕が8時過ぎに起きてきたときには既に家に居なかったため、少なくとも2時間近くは待っていたはずなのだけどな。
「お、黎奈。お前がオシャレするなんて珍しいな」
今日の黎奈はいつもの半袖にハーフパンツではなく、白のオーバーサイズTシャツに少し濃い色の緑のカラーパンツを履いている。
「・・・どう?」
「ああ、似合ってるよ」
「・・・でしょ?」
黎奈は嬉しそうにそう言うと、僕との距離を詰めて来て、手を握ってくる。なんだ、黎奈はこんな事をするやつだったか?
「・・・じゃあ、行こっか?」
「そうだな」
「まあいいや」と思いつつ、黎奈に手を引かれて僕はショッピングモールの中に入っていくのだった。
「香水を買う?」
「・・・うん」
ショッピングモールの2階に上がって、すぐそこにあった香水ショップの前で黎奈が「香水を買いたい」と言い出した。
「学校で香水流行ってるのか?」
「・・・そうでもない」
「そうなのか、まあ良いか。で、どれを買うんだ?」
「・・・シュン君が選んで」
「僕?良いけどさ、あんまりセンスは期待すんなよ」
こちとら、その辺のセンスは皆無に等しいんだぞ?まあ、頼まれたからには頑張って黎奈に合う香水を選ばせてもらうが。
その後、30分ほど悩みに悩んだ結果、爽やかさのある小さくてオシャレな香水を選んだ。
「すまんな、センスが無くて」
「・・・ううん、大丈夫。凄くいいよ・・・♪」
「そう言って貰えると助かる」
どうやら意外と気に入ってくれたようだ。あまり自信は無かったが、喜んで貰えると嬉しいものである。
「・・・じゃあ、次は私がシュン君に香水、選んであげるね」
「お、マジか!僕に合うのを選んでくれよ!」
黎奈はそう言って、奥の方の棚に向かう。そしてすぐに1つの香水を手に戻ってきた。
「・・・これ、嗅いでみて」
「おう・・・」
僕は黎奈にそう言われて、黎奈が持ってきた香水の匂いを確認する。
よく分からないが、なんかいい感じがする。オシャレな感じというよりは何か天然で優しい感じ(?)がする。
僕にはオシャレな感じは無いと自覚しているため、こういう匂いの方が合っていると黎奈も思ったのだろう。香水を取ってくる早さからして事前に選んでいてくれてたのだろうか?
「いいな、これ。僕に合ってると思うよ」
「・・・でしょ?」
僕のその言葉を聞いた黎奈は、少し安心したように、そして嬉しそうにそう言う。
「じゃ、会計するか」
「・・・そだね」
僕はそう言って、2つの香水を持ってレジへと向かう。
「すいませ~ん、これください」
「はいはい、3000円だよ」
レジで雑誌を読んでいたおばちゃんは、僕たちに気づくと雑誌を置く。そして、僕と黎奈に視線を向けると、何やら怪しげな笑みを浮かべてくる。
「あら、お二人さん。もしかしてデート中ですかいな?」
おばちゃんは少しテンションが上がったようにそう聞いてくる。
「まあ、そうですね。な?黎奈」
「・・・そだね」
黎奈は僕の右腕を両手で掴みながら、僕の言葉を同意する。
「あら~、若いって良いわねぇ!サービスしとくわよ」
「マジっすか、ありがとうございます!」
「・・・ありがとう、ございます」
おばちゃんはそう言って、僕たちが選んだ2つの香水を入れた紙袋の中に、もう一つ香水の様な小さな瓶を入れる。
それが何なのかは検討も付かないが、まあおまけとして貰えるなら貰っておこう。
「良いのよ~、若いうちはね、沢山恋をすればいいのよ。私なんて未だに片思いで・・・」
・・・・・恋、か。
「ありがとうございました」
おばちゃんの話が長くなりそうだったので、僕はお金を払って黎奈と一緒にお礼を言って店を出る。
「頑張るのよ~」
と言う言葉を背に。
「・・・ここ、美味しい」
香水を買ってからしばらく色々とショッピングモール内を回って、気づけば時刻も正午になった頃、通り過ぎようとした店の前で、黎奈がそう言う。
その店はどうやら少しオシャレなカフェのようだ。ちょうどお腹も空いてきたし、寄ってくか。
「お、じゃあ寄ってくか?」
「・・・うん」
黎奈もそれに同意してくれたので、カフェで昼食を取ることにする。
「いらっしゃい」
僕たちが店に入ると、カウンターで作業をしていた女性の店員からそんな言葉を受け取る。店内はオシャレな印象を受ける造りとなっており、落ち着ける。現在、店の中には僕たち意外に客は居ない。
僕は周りを見渡した後に、適当な席につき、メニューに目を通す。どうやらこの店はコーヒーをメインにしているようで、かなりの種類のコーヒーがメニューに書かれていた。
「僕は決めた。黎奈は?」
「・・・うん、決まったよ」
僕も割りと早めにメニューを選んだのだが、黎奈は既に選び終えていたみたいだ。
そういえばさっき、「ここ美味しい」と言っていたから何度か来たことがあり、それでいつものメニュー的なものが決まっていたのだろう。
「すいませ~ん!」
「あ、は~い。少々お待ちを」
選んだメニューを注文するために僕は店員を呼ぶと、カウンターの裏から男性の声が聞こえてくる。
「はい、ご注文をどうぞ」
呼んでから10秒もしない内に、男性の店員が僕たちの座っている席に注文を聞きに来た。
「・・・?」
僕はその店員を見て、少しだけ驚く。その店員は高校生くらいだろうか?もしかしたら僕と同い年くらいの高校生なのかもしれないないが、最も目を引くのは白髪で左目に黒い眼帯を付けている所だ。
「ああ、これですか?何と言うか…趣味ですよ趣味」
「そうですか、変わってますね」
「ハハッ、よく言われます。でもそんな変わってる僕と付き合ってくれる女性が居ましてね」
「そりゃまた、その人も変わってますね」
「そうっちゃそうですね。ところで、君は黎奈ちゃんの彼氏かい?」
「いや?違いますけど・・・痛った!!」
店員の質問に僕がそう答えると、向かい側に座っていた黎奈に足を踏まれる。
「ハハハ、黎奈ちゃんはよく一人でこの店に来てくれてね。今日は珍しく誰かと来たもんだから、距離もやたら近いし彼氏かと思ったんだけど、違うのかぁ」
「まあ、家族ですよ。黎奈の事よく見てるんですね」
「まあね、うちの店の店主兼僕の彼女と名前が同じだからってのもあるけど」
店員はカウンターの方をチラッと見ながらそう言う。
カウンターにいた女性はその視線に気がつくと、店員に対して少しだけ睨むような表情を見せる。
「喋り過ぎて怒られちゃったな。で、ご注文は?」
店員はそれに肩を竦める様な仕草を見せ、脱線してしまっていた注文を再度取り直す。
「えと、このコーヒーと、このワッフルで」
僕はメニューを指さしながら、おそらくこの店で最もオーソドックスであろうコーヒーと、普通に食べたかったストロベリーワッフルを注文する。
「・・・いつもの」
「了解で~す、少々お待ちを」
よくこの店に来て、店員に顔を覚えられている黎奈は「いつもの」で通じるようだ。
注文を取った店員はカウンターの女性にそれを伝えに行き、カウンターの奥の扉を開けて中の部屋に入っていった。
その後、コーヒーとワッフルを堪能した僕は、夕方まで黎奈とショッピングモール内を回って遊んでいた。買い物をしたり、たまたまやっていたイベントに参加したり、映画を見たりと、黎奈と過ごした今日という一日はとても楽しかった。
「ふぅ~、楽しかったな!」
「・・・楽しかった」
僕と黎奈は向き合って互いにそう言いあって笑みを浮かべ合う。
普段はほとんど表情を変えない黎奈だが今日のデートではかなり表情が変わっており、黎奈の様々な表情を見れて僕は満足だ。
「そろそろ帰るか?」
もう時刻も午後6時前となり、そろそろ結希が家で夕食を作り出す頃だろう。
「・・・まだ。最後に1つだけ、行きたい場所がある」
だが、黎奈は何かを決心した様子で、僕の方に視線を向けてそう言ってくる。
「分かった。結希には夕飯に遅れるって連絡しとかないとな」
結希には悪いが、ここで黎奈の誘いを断るわけにもいかないだろう。
「・・・ありがと」
「で、どこに行くんだ?」
「・・・それは____」
「夜風が気持ちいな」
「・・・今日は涼しいね」
30分ほど歩いただろうか?日も既に落ち、当たりも暗くなってきた時間帯になってきた。幸い今日は比較的涼しい日であったため、ほとんど汗もかいていない。
歩きながらふと背伸びをし、深呼吸してみると、仄かに潮の香りがして鼻を少しだけ刺激する。
「やっぱり散歩はいいもんだな」
「・・・シュン君は散歩が好きなんだね」
「ああ、なんせ健康にいいからな」
「・・・だからシュン君はいつもの元気なの?」
「・・・そうかもな!」
そんな他愛もない会話をしながら、僕たちは"目的の場所"に向かって歩いていく。
「・・・あそこだね」
「ああ、そうだな」
曲がり角を右に曲がると海岸が見えてきて、その端の方に小さなガゼボがあるのがわかる。
僕たちはそのガゼボの中に入って2人で夜の綺麗な海を眺める。
「・・・シュン君、覚えてる?2年前の事」
「そりゃもちろんさ」
心臓の鼓動音が速く、大きくなる。私はこれから告白する。私の恩人で、この世界で一番好きな人に。
2年前、事故で両親を失ってこの場所で泣いていた私に声を掛けて、話を聞いてくれたのがシュン君だった。そして独りだった私をシェアハウスに迎えてくれた。
自動車の事故で両親が死んで私だけ生き残ったせいか、感情を顔に出すことが出来なくなり、そのせいでシュン君に迷惑を掛けたこともあったが、あまり気にせずに優しく接してくれた。
シュン君と過ごしている時間だけは、自然と表情が動いた。シュン君と過ごす時間はとても幸せにだった。シュン君は私に生きる希望を与えてくれた。
だから、シュン君と出会ったこの場所で、私はシュン君と目を合わせて勇気を振り絞りその言葉を口にする。
「貴方の事がずっと好きでした」
「・・・え?」
私がその言葉を伝えた瞬間、シュン君は動揺したようにそんな声を漏らす。
それは当然だろう、いきなり告白されたのだから。
「・・・・・」
シュン君は、少し視線を落として、私から視線を外す。
そして数秒の沈黙の後、シュン君は重々しく口を開き、私が一番聞きたくなかった言葉を発する。
「・・・ごめん、黎奈。僕はお前とは付き合えない」
その言葉を聞いた瞬間、自分の頬に液体が伝っているのが分かった。
私は振られた。その事実が重々しく私の心に突き刺さる。
「あっ!黎奈!?大丈夫か!?」
悲しい表情を浮かべて涙を流す私を見て、シュン君は心配そうな声で私を抱きしめる。
私とシュン君の身長差によって、抱きしめられた私の頭はシュン君の胸の中に入る。その胸からは心臓の音が聞こえてきて、少しだけ安心感を覚える。
ずるいよ…シュン君。そんなに優しくされたら…
「ごめんな…黎奈」
「・・・ううん、大丈夫だよ」
それから何分経ったのだろうか、私が落ち着くまで私はシュン君に抱きしめられていた。
「もう大丈夫なのか?」
「・・・うん」
その時間はとても幸せで、永遠にこの状態でいたかったが、私はシュン君の胸から離れて深呼吸をする。
「・・・明日からは、いつも通り接して・・・」
「・・・ああ」
振られたのはとても悲しいが、それを引きずっていても仕方がないため、明日からはいつも通り接してくれとシュン君に頼む。
「・・・あと、もう一つお願い」
それともう一つの頼みをシュン君に伝える。
「なんだ?」
「・・・目、瞑って___」
僕が黎奈に言われた通りに目を瞑った瞬間、唇に柔らかい感触があった。
「!?」
「・・・まだ」
それに驚いて思わず目を開きそうになるが、至近距離から聞こえた玲奈の声によって何とか踏みとどまる。
「・・・もういいよ」
数秒後、黎奈のその声で僕が目を開けると、先程と変わらない位置にいる黎奈がこちらを向いて立っていた。
「・・・それじゃ、帰ろっか♪」
黎奈はそう言いながら、悪戯な笑みを浮かべ、身を翻して歩き出すのだった。
0
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
俺にだけツンツンする学園一の美少女が、最近ちょっとデレてきた件。
甘酢ニノ
恋愛
彼女いない歴=年齢の高校生・相沢蓮。
平凡な日々を送る彼の前に立ちはだかるのは──
学園一の美少女・黒瀬葵。
なぜか彼女は、俺にだけやたらとツンツンしてくる。
冷たくて、意地っ張りで、でも時々見せるその“素”が、どうしようもなく気になる。
最初はただの勘違いだったはずの関係。
けれど、小さな出来事の積み重ねが、少しずつ2人の距離を変えていく。
ツンデレな彼女と、不器用な俺がすれ違いながら少しずつ近づく、
焦れったくて甘酸っぱい、青春ラブコメディ。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる