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陽向編
【陽向編】#1 ケーキ
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「陽向さんって甘い物好きだよね」
「まあそうね、生き甲斐?みたいな感じではあるわね」
旅館でのバイトから帰ってきた数日後、ボクがリビングに降りてくると陽向さんがゲームをしながらチョコレートを食べていた。
「甘い物っていうのはいいわよ?食べると幸せな気持ちになれるからね」
「確かに、ボクもお菓子は好きだけど…流石に陽向さん程じゃないかな」
ボクが陽向さんを見掛けるときは大体何かしら甘い物を食べており、本当に甘い物が好きなんだということはよく分かる。しかも、かなりの量を食べているのにも関わらず、陽向さんは殆ど太っていないのだ。
ほんとに、甘い物と相性がいい人なんだなと思う。
「あれ、駿君たちは?」
「買い物よ、今夜の夕食の買い出しに行ってるわ。黎奈と結希もついていったわ」
「そうなんだ」
ふと食卓の方に視線を向けると、食卓の上に1枚の写真が置いてあるのが見えた。
「ん、なんだろ…」
気になったボクは、食卓に近づいてその写真を手にとって見る。
「駿君と、陽向さんに・・・この人…確か…」
その写真には、駿君と陽向さんともう一人、綺麗な長い髪をしたスーツ姿の美人な女性だった。
「このっ!」
私…陽向は、目の前に立っている最低な男の胸ぐらを掴み上げ、そのままその男を壁に叩きつける。
「っっってぇ…」
壁にぶつけられ、頭を強打したらしい男は呻くようにそんな声を上げる。
だが、これしきの事で私の怒りは収まることは無い…
何故なら、この男は…目の前の遠江駿という男は・・・
「私の大事にしてたケーキ勝手に食べたでしょ!」
「痛ってぇな!俺は食ってねぇって言ってるだろ!」
そう、こいつは私の大切にしていたイチゴのショートケーキを勝手に食べた上に、言い訳をしているのだ。
「じゃああんたの他に誰が私のケーキを食べるのよ!」
「知らねぇよ!とにかく、俺は食ってねぇって!」
私は甘い物が大好きだ。それこそ生き甲斐と言っていいほどに…その楽しみをこの男に奪われたのが、私はどうしても許せなかったのだ…
「いい加減白状しなさいよ!」
私がそう言って、胸ぐらを掴む手に更に力を入れていると、玄関の方からドアが開かれる音がする。
「・・・帰ってきたな」
駿は小声でそう呟き、ため息を吐く。私も黙ったことで、リビングの中に静寂が訪れる。
「ただいま~!」
そんな声とともにその静寂を破り、リビングに入って来たのは、長身の女性だ。髪は黒くて長くとても艶やかな質感をしており、着ている黒いスーツととてもよく合っている。
「うん?どうしたお前ら、何やってんだ?」
私が駿の胸ぐらを掴んで壁に叩きつけている光景を目にしたその女性は、不思議そうにこちらを見て首を傾げている。
「ちょっ、はるかさん聞いてくれよ!俺が勝手にケーキを食べたって陽向が言いがかりを付けてくるんだよ!」
駿がその女性…はるかさんに向かって、必死にそう訴える。
「ああ、道理で…」
それを聞いたはるかさんは、何か納得したような表情で頷き、こちらに視線を向けて笑みを浮かべてくる。
「すまん!陽向のケーキを食べたのは私だ。」
「・・・え?」
どうやら私のケーキを食べたのは、はるかさんだったようだ。それはつまり、私は何の罪もない駿のことを勝手な勘違いで悪者にしていたと言うことで…
それを理解した瞬間、途端に恥ずかしくなった私はとっさ駿の胸ぐらを掴んでいた手を離す。
「ごめん、駿…勘違いだったみたい」
「んまぁ、分かってくれたならいいが…」
私は胸ぐらから手を離したことでようやく身動きが取れるようになった駿は、右手で頭を掻きながらそう呟く。
「でもはるかさんは許さねぇ…よくも俺に濡れ衣を着せやがって!」
「そうよ!私のケーキどうしてくれるのよ!」
そして、私と駿のヘイトは全ての元凶であるはるかさんに向く。
「ハハハッ!まぁ仕方なったんだ…許してくれないか?」
はるかさんは手のひらを合わせ、笑みを浮かべながらそう言ってくるが、無論…許す気はない。
「私のケーキ、買ってきてよ!」
「いや~すまんな、つい小腹が空いてな…」
「いやそれでも陽向のケーキは勝手に食うなよ!」
「そうよ、楽しみにしてたんだからね!」
「ほんとに申し訳ない」
その日の夜、食卓で俺たち3人はそんな会話をしながら晩飯を食べていた。ちなみに今日の献立は肉じゃがと味噌汁、それにスーパーで買ってきた適当な惣菜数点だ。
「まあ、その分のケーキは買ってきてくれたから許してあげましょうかね」
先程、はるかさんと晩飯の買い出しに行った際に、近所のケーキ屋でケーキを買ってきた。もちろん詫びの気持ちも込めてはるかさんが食べたケーキよりも高価なものも買っていた。
「にしても、陽向もしっかりとダメな事はダメと言えるようになったな…ウチに来た頃は何も否定しなかったのに。陽向が成長していて私は嬉しいよ」
「そういえば陽向が来てもう4ヶ月か」
俺が中学1年になると同時にこの家に来た同級生の陽向。最初は死んだ目をしていてほとんど口も聞いてくれず、顔すら合わせてもらえなかったが、最近では年相応の性格になっている。
「もうそんなに経つの…時間の流れって早いわね。でも、ここに来た頃の事なんて殆ど覚えて無いのよね…」
「まあ、そりゃ…な」
陽向のその言葉で、場の空気が少しだけ重くなる。まあ仕方のない事だが…
「ご馳走さまでした!んじゃ、ケーキ食うぞ!」
そんな空気を断ち切るように、俺の隣に座っていたはるかさんが席を立ち、冷蔵庫からケーキを取り出してこちらに持ってくる。
「3つ買ってきたからな、みんなで食うぞ!」
笑顔でそう言うはるかさんの姿に、俺は思わず頬が緩む。陽向の方に視線を向けると、俺と同じ様に笑みを浮かべていた。
「じゃあ、私はこれ。一番綺麗なやつ!」
「じゃあ俺はこれにする」
「ハハ、お前ら残り物には福があるって言葉を知らないのか?」
俺たちは各々ケーキを選び、それぞれの皿の上に運んでケーキを食べるのだった___
「ただいま~!」
スーパーで買った物が入った買い物袋を片手に、僕は玄関のドアを開け、家の中に入っていく。
「・・・結希、頑張って…」
「はぁ…はぁ…疲れましたぁ…」
後ろから黎奈と結希のそんな声が聞こえてくる。思いなら持つと言ってたのだが、結希は頑張ってスーパーで買ったものを運んできてくれた。えらい。
「陽向、喜べ!今日はケーキを買ってきたぞ!」
リビングに入って、ソファでゲームをしていた陽向を向けて、僕はそう知らせる。
「え、やった!ありがとっ!」
「ハハ、陽向さん嬉しそうだね」
ソファの影から琉輝の声が聞こえて来る。琉輝も降りてきてきたのか、陽向のゲームでも見ているのだろうか?まあ、陽向はかなりゲームが上手いし、何かしら参考になるものがあるのだろう。
「・・・ん?写真…どこに置いたっけ」
食卓の上に置いてあった写真が何処かに行ってしまっているのに気が付き、少しだけ疑問に思うが…まあ、誰かが持っていったのだろう。後で聞いてみるか…と、思いつつ、僕は買い物袋を食卓の上に置くのだった。
「ケーキは一人一切れな~」
夕食後、僕は買ってきたイチゴの乗ったショートケーキを5つ、冷蔵庫から取り出してきて食卓の上に置く。
「これ、いいやつだからな。味わって食ってくれよ?」
「やった、じゃあ私はこれでっ!」
「ボクはこれね」
「・・・駿、どれが良いと思う?」
「う~ん、これかなぁ…?」
「じゃあそれにする」
「私はイチゴが綺麗に乗ってるこれね」
そんな感じで皆が好きなのを取っていき、5つあったショートケーキも最後の一つになる。
「残り物には福があるんだな」
僕はそう言いながら、最後に残ったショートケーキを取る。
「しゅん、何で今日ケーキ買ってきたのよ?」
僕が取ったケーキのフィルムを剥がして食べようとしていると、隣から陽向に肩をポンポンと叩かれ、そんな事を聞かれる。
「ん、お前ケーキ好きだっただろ?」
「確かに好きだけど、何でか気になるじゃない!」
陽向は頬を膨らませながらこちらを睨んでくる。
「いや、前にさ…このケーキ食べただろ?お前が、消えたケーキを僕が食べたって言って怒ってたとき」
「ああ…あれはごめんね」
「あの日の日付が今日と同じって事に買い出しの帰りに気づいて、ケーキ屋に寄ったってだけだ。」
「そう、ありがとね」
陽向は納得したようで、こちらを向いて笑みを浮かべてくる。
「ねぇ、駿…」
「ん、何だ?」
「はい、あ~ん」
陽向が僕の方にケーキが刺さったケーキを差し出しながらそんな事を言って来た為、僕は何も考えずにその差し出されたケーキを食べてしまう。
「美味しい?」
「ああ、あの日と同じ味だよ…」
僕は驚きながらも、素直な感想を口にする。
「・・・!今、あーんて…してなかった?・・・してたよね…!?」
「いいなぁ~。駿君、ボクもしてあげよっか?」
「お兄ちゃんっ!私もあ~んしてあげますよ!」
まあ、そりゃそうだろな。正面だもんな…見られて無いわけ無いよな。
そう、頭を使っていれば、こんな状況になる事を予想して、陽向から差し出されたケーキを食べるか渋っていただろう。しかし疲れていて、そこまで頭が回らなかったのだ…
「はいはい、順番な…」
僕はため息を付きつつ、黎奈、琉輝、結希に順番にケーキを食べさせてもらうのだった。まだ、自分のケーキは一口も食べてないのだがな。
___あの日と同じ味。
確かに同じケーキなのだから味が同じなのは当然なのだが、ケーキを食べた時の感情も含めて"同じ味"なのだ。
(幸せだな…)
僕はそんな事を考えながら、昔の事を思い出し、感傷に浸るのだった___
「まあそうね、生き甲斐?みたいな感じではあるわね」
旅館でのバイトから帰ってきた数日後、ボクがリビングに降りてくると陽向さんがゲームをしながらチョコレートを食べていた。
「甘い物っていうのはいいわよ?食べると幸せな気持ちになれるからね」
「確かに、ボクもお菓子は好きだけど…流石に陽向さん程じゃないかな」
ボクが陽向さんを見掛けるときは大体何かしら甘い物を食べており、本当に甘い物が好きなんだということはよく分かる。しかも、かなりの量を食べているのにも関わらず、陽向さんは殆ど太っていないのだ。
ほんとに、甘い物と相性がいい人なんだなと思う。
「あれ、駿君たちは?」
「買い物よ、今夜の夕食の買い出しに行ってるわ。黎奈と結希もついていったわ」
「そうなんだ」
ふと食卓の方に視線を向けると、食卓の上に1枚の写真が置いてあるのが見えた。
「ん、なんだろ…」
気になったボクは、食卓に近づいてその写真を手にとって見る。
「駿君と、陽向さんに・・・この人…確か…」
その写真には、駿君と陽向さんともう一人、綺麗な長い髪をしたスーツ姿の美人な女性だった。
「このっ!」
私…陽向は、目の前に立っている最低な男の胸ぐらを掴み上げ、そのままその男を壁に叩きつける。
「っっってぇ…」
壁にぶつけられ、頭を強打したらしい男は呻くようにそんな声を上げる。
だが、これしきの事で私の怒りは収まることは無い…
何故なら、この男は…目の前の遠江駿という男は・・・
「私の大事にしてたケーキ勝手に食べたでしょ!」
「痛ってぇな!俺は食ってねぇって言ってるだろ!」
そう、こいつは私の大切にしていたイチゴのショートケーキを勝手に食べた上に、言い訳をしているのだ。
「じゃああんたの他に誰が私のケーキを食べるのよ!」
「知らねぇよ!とにかく、俺は食ってねぇって!」
私は甘い物が大好きだ。それこそ生き甲斐と言っていいほどに…その楽しみをこの男に奪われたのが、私はどうしても許せなかったのだ…
「いい加減白状しなさいよ!」
私がそう言って、胸ぐらを掴む手に更に力を入れていると、玄関の方からドアが開かれる音がする。
「・・・帰ってきたな」
駿は小声でそう呟き、ため息を吐く。私も黙ったことで、リビングの中に静寂が訪れる。
「ただいま~!」
そんな声とともにその静寂を破り、リビングに入って来たのは、長身の女性だ。髪は黒くて長くとても艶やかな質感をしており、着ている黒いスーツととてもよく合っている。
「うん?どうしたお前ら、何やってんだ?」
私が駿の胸ぐらを掴んで壁に叩きつけている光景を目にしたその女性は、不思議そうにこちらを見て首を傾げている。
「ちょっ、はるかさん聞いてくれよ!俺が勝手にケーキを食べたって陽向が言いがかりを付けてくるんだよ!」
駿がその女性…はるかさんに向かって、必死にそう訴える。
「ああ、道理で…」
それを聞いたはるかさんは、何か納得したような表情で頷き、こちらに視線を向けて笑みを浮かべてくる。
「すまん!陽向のケーキを食べたのは私だ。」
「・・・え?」
どうやら私のケーキを食べたのは、はるかさんだったようだ。それはつまり、私は何の罪もない駿のことを勝手な勘違いで悪者にしていたと言うことで…
それを理解した瞬間、途端に恥ずかしくなった私はとっさ駿の胸ぐらを掴んでいた手を離す。
「ごめん、駿…勘違いだったみたい」
「んまぁ、分かってくれたならいいが…」
私は胸ぐらから手を離したことでようやく身動きが取れるようになった駿は、右手で頭を掻きながらそう呟く。
「でもはるかさんは許さねぇ…よくも俺に濡れ衣を着せやがって!」
「そうよ!私のケーキどうしてくれるのよ!」
そして、私と駿のヘイトは全ての元凶であるはるかさんに向く。
「ハハハッ!まぁ仕方なったんだ…許してくれないか?」
はるかさんは手のひらを合わせ、笑みを浮かべながらそう言ってくるが、無論…許す気はない。
「私のケーキ、買ってきてよ!」
「いや~すまんな、つい小腹が空いてな…」
「いやそれでも陽向のケーキは勝手に食うなよ!」
「そうよ、楽しみにしてたんだからね!」
「ほんとに申し訳ない」
その日の夜、食卓で俺たち3人はそんな会話をしながら晩飯を食べていた。ちなみに今日の献立は肉じゃがと味噌汁、それにスーパーで買ってきた適当な惣菜数点だ。
「まあ、その分のケーキは買ってきてくれたから許してあげましょうかね」
先程、はるかさんと晩飯の買い出しに行った際に、近所のケーキ屋でケーキを買ってきた。もちろん詫びの気持ちも込めてはるかさんが食べたケーキよりも高価なものも買っていた。
「にしても、陽向もしっかりとダメな事はダメと言えるようになったな…ウチに来た頃は何も否定しなかったのに。陽向が成長していて私は嬉しいよ」
「そういえば陽向が来てもう4ヶ月か」
俺が中学1年になると同時にこの家に来た同級生の陽向。最初は死んだ目をしていてほとんど口も聞いてくれず、顔すら合わせてもらえなかったが、最近では年相応の性格になっている。
「もうそんなに経つの…時間の流れって早いわね。でも、ここに来た頃の事なんて殆ど覚えて無いのよね…」
「まあ、そりゃ…な」
陽向のその言葉で、場の空気が少しだけ重くなる。まあ仕方のない事だが…
「ご馳走さまでした!んじゃ、ケーキ食うぞ!」
そんな空気を断ち切るように、俺の隣に座っていたはるかさんが席を立ち、冷蔵庫からケーキを取り出してこちらに持ってくる。
「3つ買ってきたからな、みんなで食うぞ!」
笑顔でそう言うはるかさんの姿に、俺は思わず頬が緩む。陽向の方に視線を向けると、俺と同じ様に笑みを浮かべていた。
「じゃあ、私はこれ。一番綺麗なやつ!」
「じゃあ俺はこれにする」
「ハハ、お前ら残り物には福があるって言葉を知らないのか?」
俺たちは各々ケーキを選び、それぞれの皿の上に運んでケーキを食べるのだった___
「ただいま~!」
スーパーで買った物が入った買い物袋を片手に、僕は玄関のドアを開け、家の中に入っていく。
「・・・結希、頑張って…」
「はぁ…はぁ…疲れましたぁ…」
後ろから黎奈と結希のそんな声が聞こえてくる。思いなら持つと言ってたのだが、結希は頑張ってスーパーで買ったものを運んできてくれた。えらい。
「陽向、喜べ!今日はケーキを買ってきたぞ!」
リビングに入って、ソファでゲームをしていた陽向を向けて、僕はそう知らせる。
「え、やった!ありがとっ!」
「ハハ、陽向さん嬉しそうだね」
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「・・・ん?写真…どこに置いたっけ」
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「ケーキは一人一切れな~」
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「これ、いいやつだからな。味わって食ってくれよ?」
「やった、じゃあ私はこれでっ!」
「ボクはこれね」
「・・・駿、どれが良いと思う?」
「う~ん、これかなぁ…?」
「じゃあそれにする」
「私はイチゴが綺麗に乗ってるこれね」
そんな感じで皆が好きなのを取っていき、5つあったショートケーキも最後の一つになる。
「残り物には福があるんだな」
僕はそう言いながら、最後に残ったショートケーキを取る。
「しゅん、何で今日ケーキ買ってきたのよ?」
僕が取ったケーキのフィルムを剥がして食べようとしていると、隣から陽向に肩をポンポンと叩かれ、そんな事を聞かれる。
「ん、お前ケーキ好きだっただろ?」
「確かに好きだけど、何でか気になるじゃない!」
陽向は頬を膨らませながらこちらを睨んでくる。
「いや、前にさ…このケーキ食べただろ?お前が、消えたケーキを僕が食べたって言って怒ってたとき」
「ああ…あれはごめんね」
「あの日の日付が今日と同じって事に買い出しの帰りに気づいて、ケーキ屋に寄ったってだけだ。」
「そう、ありがとね」
陽向は納得したようで、こちらを向いて笑みを浮かべてくる。
「ねぇ、駿…」
「ん、何だ?」
「はい、あ~ん」
陽向が僕の方にケーキが刺さったケーキを差し出しながらそんな事を言って来た為、僕は何も考えずにその差し出されたケーキを食べてしまう。
「美味しい?」
「ああ、あの日と同じ味だよ…」
僕は驚きながらも、素直な感想を口にする。
「・・・!今、あーんて…してなかった?・・・してたよね…!?」
「いいなぁ~。駿君、ボクもしてあげよっか?」
「お兄ちゃんっ!私もあ~んしてあげますよ!」
まあ、そりゃそうだろな。正面だもんな…見られて無いわけ無いよな。
そう、頭を使っていれば、こんな状況になる事を予想して、陽向から差し出されたケーキを食べるか渋っていただろう。しかし疲れていて、そこまで頭が回らなかったのだ…
「はいはい、順番な…」
僕はため息を付きつつ、黎奈、琉輝、結希に順番にケーキを食べさせてもらうのだった。まだ、自分のケーキは一口も食べてないのだがな。
___あの日と同じ味。
確かに同じケーキなのだから味が同じなのは当然なのだが、ケーキを食べた時の感情も含めて"同じ味"なのだ。
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