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陽向編

【陽向編】#2 兄貴

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「あ~…それはあっちに持ってって・・・これはそっちに…」
「・・・ふぅ、大変」
 翌日、僕はこの家の空き部屋の整理をしていた。本来なら僕一人でやるつもりだったのだが、丁度時間が空いていたらしい黎奈が手伝ってくれるらしく、2人で作業を行う事となった。
「・・・ここ、昔は誰が居たの?」
「ん?ああ…」
 僕が部屋の物を整理していると、黎奈からそんな質問をされる。
「愁歌っていうやつだよ。よく分かんねぇ人だったけどな」
「・・・へぇ、そうなんだ…」
 黎奈はそう呟いて、部屋の中にあった古い置物を捨てるために部屋を出て階段を降りていく。
 にしても、この部屋は物が多すぎる。部屋を見渡してみると、壁一面に置かれた棚には古い置物やらアクセサリーやらが大量に並べられており、威圧感が凄い。
 定期的にこの部屋の整理…もとい掃除に来ているが、その度にこの置物達を見ることになるのだが・・・
「趣味終わってんなぁ…」
 部屋にある置物はドクロの頭や謎の文字が書かれたポスターなどがあり、THE・厨二病という感じがして非常に痛い。正直僕の厨二病の黒歴史を思い出してしまうからなるべく見たくない。
「はぁ、兄さん…あんたは何でこんなもんを置いて出て行ったんだよ・・・」
 出て行くならこの厨二病コレクションも持っていってくれよ…と、僕は心の底から思いつつ、置物に被っているホコリを払っていくのだった。

「なあ、陽向。あいつの事…どう思う?」
「あ?そりゃ勿論気持ち悪いと思ってるわよ?」
 ある日の夕方、俺はソファに座り、その隣でテレビゲームをしている陽向にそんな事を聞いていた。
 はるかさんはまだ仕事から帰ってきておらず、この家に居るのは俺と陽向だけだ。
「まあ…そうだよな・・・」
「あれはセンスは無いわぁ…厨二病拗らせすぎてるわね」
 何故か多少俺の趣味も否定されたような気がする・・・俺も、あいつ程ではないにしろ、ダークな感じの物が好きだ。だからこそ、陽向のその発言は俺にも一部ぶっ刺さってしまうのだが。
「まあ、陽向はあんまり関わってないと思うけど、意外といい奴ではあるんだけどな」
 現在この家では、俺と陽向にはるかさん…そして愁歌という俺の兄貴分が暮らしている。
 まあ、兄貴に関してはあまり家に帰って来ず、その上重度の厨二病を患っているため陽向からはそんなに好かれていないようだ。
「なんだ?俺様の話をしてるのか?」
「「・・・げっ…」」
 俺と陽向がそんな声に反応し、背後を振り向くと、そこには今リビングに入ってきたらしい兄貴が仁王立ちをしながら手を組んでいた。
「ほんと…そういう所だぞ兄貴・・・だから陽向に嫌われるんだよ」
 一人称が「俺様」で、仁王立ち…この一瞬で痛すぎる言動と行動をしてしまっている兄貴は、とりあえずその辺を自重して欲しい。
「うぇ…!?そうなのか陽向!?俺様の事が嫌いなのか!?」
「そりゃそうよね」
「こればかりは陽向に同情するよ…」
 確かに兄貴は厨二病だという点を除けば悪い人ではない…むしろ良い人間と呼ばれてもよい程だ。だが、厨二病だという、その一点で陽向に嫌われも仕方がないとも思える。
 例えば想像して欲しい。兄貴と街に遊びに行った際、「俺様はこのスイーツが好きなんだ!」や「俺様に付いて来い!」など、大声で叫ぶ様な人間と仲良くなりたいと思うだろうか?大多数の人間の答えは勿論Noな筈だ。
 しかも、陽向は過去に兄貴に、今の例えと全く同じ事をやられている。
「じゃあ俺様か駿…どちらか1人を選ぶならどっちを選ぶ?」
「なんだよその少女漫画見たいなシチュエーション…」
 俺は兄貴が陽向に出した問いにあきれつつ、ため息を付く。
「まあ、それは消去法で当然駿よね」
「お前も酷いなぁ!」
 俺が選ばれる理由は消去法なのか…もっとなんかあるだろ…俺にも魅力的なやつが…
「お互い陽向からは好かれてないな!駿!」
「少なくともアンタよりは好かれてるつもりではいるよ…」
「いや自意識過剰過ぎでしょ…」
 陽向?なんでそんな事言うんだ?酷くね?

 その後、帰ってきたはるかさんも合わせて4人で夕食を食べた後、俺は兄貴の部屋を訪ねていた。
「やっぱりいつ見てもガラクタの山にしか見えないな…」
「俺様にとっては集めてきた宝の山なんだがな!」
 そう腕を組んで誇らしげに笑う兄貴の姿は、何故かカッコいいなと思わせられてしまう。
「で、俺様に何の用だ?」
「いや、久しぶりに帰ってきたんだからゲームでも一緒にどうかと」
「おおそうか!可愛い奴めっ!」
 兄貴はそう提案した俺の背中を軽く叩き、そんな風にからかってくる。
「で、上達はしたのか?」
「ばっちり、散々陽向にボコられ続けてきたんだ、練習の成果を見せてやるよ…兄貴」
 陽向がこの家に来た10ヶ月前から陽向と共に始め、多くの試行錯誤を続けてきたこの格闘ゲーム…俺は前作からやり込んでいる兄貴に勝つことを目標に練習を積んできた。
「今日こそは勝たせてもらうぞ」

「クソが…!!」
「うぇ~い!駿君まだまだ実力が足りないねぇ!一回地獄の業火に焼かれてきたらどうだ?」
 結果は0勝8敗…惨敗だ。
 やはり兄貴は択を迫られたとき、瞬時に最適解を出してくるため、まず攻撃がまともに命中しないし、コンボも繋がらない…
「まあ、こればかりは経験の差だな!やはり経験…経験は全てを解決する!」
「それはそうだけどな…」
 にしても勝てない…経験もそうだが、兄貴には才能があるんだろうな…
 このゲームだけじゃない…兄貴はあらゆる面に置いて天才と言っても過言ではないほどの実績を持っている。
「おい駿、これやるよ」
「ん、なんだコレ…?」
 そんな風に落ち込んでいる俺の様子を見た兄貴は少し真面目な表情で、俺に何かを手渡してくる。
「それは宝石が埋め込まれたネックレスだ。頑張ってほしい相手に渡すんだよ!」
「何じゃそりゃ…」
 まあ一応受け取っておくが、多分付けることは一生無いだろうな。だってシンプルにダサいんだもの。
「俺も頑張るからお前も頑張れよ!努力は惜しむなよ」
「クッサい台詞だな…」
 俺はそう呟きながらも、そのネックレスを大事に仕舞うのだった。

「黎奈、これ上げるよ」
「・・・ネックレス…?何で?」
 兄さんの部屋の掃除が終わった僕は、自分の部屋から取ってきたネックレスを黎奈に渡す。
「このネックレス、昔貰ったは良いものの全く付けて無くてさ…黎奈が付けたら似合うと思ってな」
「・・・うん、ありがとね」
 そのネックレスを受け取った黎奈は、少し嬉しそうにしながらネックレスを首に付ける。
「・・・似合っ…てる?」
「ああ…最高にな!」
「・・・なら良かった…大切にするね」
 喜んでもらえて嬉しい限りである。
「それと、そのネックレスには意味があってだな」
「・・・何?」
「頑張って欲しい相手に渡すんだよ」
 それを聞いた黎奈は、一瞬首を傾げながらも、その後こう呟く。
「・・・ふふっ…何それ」
「ああそれ!僕と同じ反応だな」
 珍しく黎奈の笑顔が見れたため、僕はそれだけで満足するのだった___
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