大志荘の若者

ミス凡ミス

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オープニング ~大志荘の寝れない夜~

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「っふ。んっ、んっ…」

甘く低く篭った息遣い。上下する度に瑞々しく卑猥な音が静かな部屋に響き渡る。目の前の恋人はあの手此の手で俺を惑わせる。

「自分で解してるのか。この淫乱」

「ん、はっ、へ・・はやふ、いっほになひはひひ」

「っ、はは、、喋るかしゃぶるかどっちかしろ」

畳を掠るサテンの着物の生地の音、両太腿を調子良く擽る細く艶やかな髪。優しく撫でてやると俺の恥部を優しく労わりながら熱を帯びた息を吹きかけ大きな瞳を此方に向ける。瞳を輝かせる今にも溢れそうなほど溜めていた雫が愛おしそうに緩んで弾ける。

「正人さんの、美味ひっ」

嗚呼、抱きしめたい。もっと深く繋がりたい。いっそ溶けこんで俺の一部になればいいのに。

「もういいよ、こいよ。」

包み込むよう、出来るだけ優しく抱きしめてやり、薄っぺらい敷布団に寝かせる。滲んだ彼の汗が甘く刺激しより場を盛り上げる。
首筋から鎖骨に舌を這わせると艶めかしくくすぐったそうに笑う。

「っふは、正人さんの甘えん坊さん。ねえねえ、このお布団。替え時じゃない?少し湿っぽい」

「いいから、黙って脚広げろ」

すまない、こんな風情のカケラもない場所で。と居たたまれなくなる気持ちとは裏腹に出てくる言葉はぶっきら棒になる。

「どうしたの、気難しい顔して。変な気遣いならいらないよ。」

柔和な笑みに刹那く震える。
2人ではやく、永く一緒になろう。

「挿れるぞ・・・」

「ッン!・・っはあ、はあぁっ・・・」

たっぷり時間をかけて馴らした甲斐があってか息苦しそうではあるが呑み込むように俺を受け入れていく。

「っはあ・・挿った、正人さんっ、今日、優しいね。どうしたの?」

「いいから、黙ってろ・・・・」

「あ、その顔っ、すごい可愛い」

「煩せぇ」

大の男に相応しくない褒め言葉に若干不服だったが悪い気はしない。その余裕、今にみてろ。

「ふぁ!、あ、くっ、っ・・・ふぅん・・・・」

薄い壁から漏れないように口を塞ぐその白い腕を退けさせて唇て塞ぎ舌を絡めあうと、必死に求めるように背中にまわしてくる。
涙目が堪らなくクる。

湧き出る情愛をそのままありったけぶつけていく。

「っふ・・・ふっ、んっう・・っはあ!ッハ、まさっとさ、あぁ、はげしっ、!」

結合部から艶めかしい卑猥な水音が聞こえ、ぶつかり合う肌のパンパンと弾ける音が響く。悶え、喉を鳴らし、ギュッと目を瞑る姿により愛おしさが爆発する。

「あっ、ああ・・まさ、と、・・ふぅ、あっ、あ、あああっん」

いよいよ息も荒くなってきて、さらなる幸福を共有したくて体勢を変えて彼を上に乗っける。突き上げていく、激しい嬌声をあげて、ガクガク震えた後、低く唸って彼がズルリと倒れそうになる。

「っはあ・・おいおい、先に勝手にイクなよな…

・・・・ッ!!!!???」


仰け反る重みを引き寄せ再び顔を合わせると、そこには先ほどの迸るような熱っぽい表情はどこにもなく、陶器のような白い肌のその例えに相応しい冷たさが手を伝う。
生気のない黒目は助けを乞うように目一杯開かれており、聞こえないはずの悲痛の叫びが滲んでいた。

人の温もりを宿さない傷ましい物質が俺から溢れ落ちるように萎垂れていく。

さっきまで握りしめていた腕がドロッと千切れ、溢れだす血吹雪共々暗い闇に落ちいく。

迫り来る喪失感の中、やっと出た声で叫ぶ。



おい、どうしたんだよ。
なんで、こうなっちまったんだよ。


何故だ!?何故だ!!!
どうして!?

どうして、
守ってやれなかった?

何故、何故!!
頼む、頼むからっ!

俺を・・・置いてかないでくれ!


「っは!・・・はぁ、はぁ、はぁ・・・」


ガバッと身体を起こすと、そこは見慣れたいつもの部屋で辺りはまだ暗く、カーテンが開きっぱなしになっていた窓からは月明かりが差し込んでいた。

「・・・最悪の初夢だな。」

汗でぐっしょり濡れた着物が鬱陶しく背中に張り付く。荒くなっていた呼吸も次第に落ちつき、妙な気怠さに潰されてまた布団に転がる。虚ろな目で天井のシミをみつめる。

人の顔みたいなあのシミ、そのうち飛び出して喰われそうだと隣にすむ双葉が抜かしていた。その台詞が何故か今は酷く怖く感じた。

余りに心細く灯りををつけようか迷ったが昨日ちょうど電気を止められたばかりなのを思い出し、また布団に伏す。
しかし、妙な夢をみたせいで寝る気になれない。身体をゆっくり起こし、這いずるように布団をでると畳の容赦ない冷たさが足を刺す。また縮こまって布団に戻り掛け布団を取り出すと書斎とよんでいる窓辺の小さい机に橋渡しのように投げた。

机に置かれたキセルを拾い、マッチで火を灯す、煙を吸い込み鬱憤を撒き散らすように吐いた。窓からみえる満月は悍ましいほど美しくしく静寂な街並みを照らす。近くの公園を見遣るが、双葉と相方の姿はない。いつもなら夜中でも歯切れの悪い漫才と喧騒が聞こえてくるものだが。今日に限っては何処ぞの飲み屋かどっかで泣け無しの金を使ってドンチャン騒ぎしてる頃だろう。

東京都中野区。交通の便がいい割に住みやすいため日本随一の人口密度を誇るこの街は種々様々な芸術家の住処になっている。かく言う俺自身もその一人だが今となっては一体何を目指してこんな自堕落な日々を過ごしいるのかわからなくなる。こんな生活いつまで続くのか。一体何のために逃げるように地元を飛び出してきたのか。
この大都会東京では田舎のような卑しい視線もないが、大勢の人が溢れ返っても誰一人他人に関心がない。有り難くも感じるが、俺がもしこの世から居なくなっても、だれも気付かないんじゃないか、とさえ思う時もある。
このオンボロアパート大志荘はそんなひもじく心細い奴らが寄せ集まった処だ。

煙が少なくなってきた頃、玄関先からドタバタと気遣いのない音がする。聞き覚えのあるこの足音に妙な安心感を覚えた。噂をすればというやつだ。

その足音はどんどんに近づいてきて、この部屋の前で鳴り止むとすぐさまゴンゴンとドアを叩く音がする。

「開いてるよ」

次に起こることを想像するだけで気怠さが増してつっけんどんな音になる
「はいっばああああんっ!!
呼ばれて飛び出てーー
明けまして!おめで、とぅッ!!」

ドアが開くと同時に馬鹿デカい男がバカデカい声出してバカっぽいポーズを決めながら登場しやがる。

「・・・・この能無し木偶の坊、何時だと思ってんだ。」

「それはこっちの台詞や、日野!年明けっつうのになんちゅう顔してんねん?年の始まりやで?今騒がんでいつ騒ぐん?なんやその辛気臭い顔!カビ生えとるんちゃうか?縁起悪ぅっ!」

「ほっとけよ双葉。みんなが明けましておめでたい訳じゃないんだよ。」

「何いうてんねん。初日の出に、初詣!いかなあかんやろ!あとお年玉ちょおおーだいっ!」

大型犬を彷彿とする無邪気な表情と体育会系の華々しい雰囲気を持ち合わせ、長身を誇りスタイルもいい方にもかかわらず、オツムが弱いため全体的にガキみたいなノリだけのやつだが、こんなんでも自分より年上だったりする。憎めない笑顔が寝起きの俺をより苛立たせる。

「頼むから静かにしてくれよ。寒い人混みなんか行きたかあねぇんだ。」

「阿保!引きこもり!今日という今日は外連れ出したるわ!」

俺より頭一つ分大きな図体が俺の身体を持ち上げる。抵抗するが日ごろ漫才の稽古以外では引越し屋で朝から晩まで働く双葉に引きこもりの俺が勝てるはずもなくズルズルと外の廊下に引きずられる。おい、お前まさかそのまま階段降りるんじゃないよな。

「ちょっ、待て!お前!おいっ、一旦降ろせ!な?おろせ!?」

「お?ホンマか!?よっしゃあああ!やっと外に出る気になったんか?」

「ウゲッ、」

両手を挙げてはしゃぐもんだから、俺が弾かれたカエルみたいに床にビタンっと張り付く。

「とーしーの、はーじめの、かみひとえー」
「試しとて、な!」

チクショウ、この話の通じないバカはこれだから扱い難いんだよ!

「年明け早々仲良いですねー。騒々しいったらありゃしない。」

物音を立てず階段を上がってきたのは下の階に住む、線の細い優男。

「おお!宮代今日帰ってこおへんと思ってたわ!」

「僕もそのそのはずだったんですけどねぇ。お目当の可愛子ちゃんが急遽お休みになったみたいでね。せっかくの年越しのショーも興醒めして帰ってきちゃいましたよ。」

「ああ、あのゲイバー!」

「ショーパブね。ま、おんなじようなもんだけど。あそこの踊り子、今までみたどんなこより可愛いくってさ。ポールダンスなんか最高なんだよ。腰クネクネさせてさ。たまんないの。結構貢いでるんだけど、なかなか連れないのよ。そこがまたソソるんだけど。」

「つってもお前よくやるよな。こんなん知られたらファンが泣くぞ。主演俳優が演出家のおっさんとデキてて、二丁目のショーパブの売れっ子男性ストリッパーに御執心だって知られたら。」

「っはは、大丈夫だよ正人くん。僕のパパにお願いしたら何でも解決するし」

そういって端整な顔立ちにニヒルな笑みを浮かべるのは宮代丈史。舞台俳優志望。デビューして5年鳴かず飛ばずだったが、某有名な演出家に気に入られ半年前くらいから月一に公演される舞台「沖田総司武勇伝」の主役に大抜擢。その甘いマスクに女性ファンがつくようになってきた。が、その実、両刀のド変態。この変わり者だらけの大志荘の中でも極めて悪趣味な奴。まぁ、このオンボロアパートから抜け出すのも時間の問題な奴で、一番夢に近いのは奴だったりする。

「君も同業でしょ。頼まれれば遊んであげないこともないけど。僕の心配してくれるのは有難いけどさ、まず君は君の心配しなくちゃね。」

「こっちから願い下げだよ・・・・・一緒にすんな。」

「将来が明るい僕と引きこもりの君。何がどう一緒なんだろうね?」

爽やかに笑ってる割に物言いがエグい。さらに目が笑ってないのが恐ろしい。つくづく鼻持ちならねぇ。

「お前もくるやろ?宮代。初詣!」

この流れでよく言えたな。
この気遣いゼロ人間。

「うん、せっかくだけどもういってきたんだ。東京大神宮。恋の神様におねだりしてきたよ。」

お前にとっちゃ神様も愛人なのな。チッ、バチ当たれ。

「2人で楽しんできなよ。お休み」

「ほうか、ならしゃあないな、行くで!日野」

「なんでだよお!分かっ、分かったから持ち上げるな!」

強制的に連れ出された久しぶりの外は風は無かったが、吐く息は白く、地面に落ちたら無くなりそうな雪が舞っていた。






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