可愛い鮫の聖女は、スパダリ公爵パパの側で健やかに育ちます

天田れおぽん

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第四話 浄化・浄化・浄化

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「まてぇ、ピンク色のドラゴンめ」
「ちょこまかしやがって。私たちに、大人しくつかまりな」
「ふぇぇぇぇぇ~ん」

 ドラ美は怯えて情けない声を出しながら、ピンク色の体を青ざめさせ、ブルブルと震えながらヤシの木に背中を押し付けた。
 腹の大きな海賊と、胸の大きな女海賊とに挟まれて、追い詰められてしまったのだ。

 小さなお手々を繋いで島の奥へと逃げていたシャーリンとドラ美の二人だったが、砂と土、そして木の根が混在する足場の悪い場所を走っているときに、二人してコケてしまった。
 離れてしまった小さな手に気付かず、そのまま駆け出しだシャーリンは、ドラ美が海賊たちに囲まれていることに気付くのが遅れてしまったのだ。

「ドラ美ちゃんっ!」

 お友だちを置き去りにしてしまったことに気付いたシャーリンは、島の奥へと続く森の手前で叫んだ。

「逃げてぇ~、セージョちゃん!」

 森の中に入ってしまえば、小さなシャーリンの体を見つけるのは難しい。
 小さくて丸いピンクのドラゴンは、将来のバディを守ろうと必死に叫んだ。
 しかしその叫びのせいで、海賊たちにシャーリンの存在がバレてしまった。

「あそこにもいるっ!」
「捕まえろぉ~」

 シャーリンに気付いた海賊たちが、大挙して彼女の方へと押し寄せてくる。

「あぁぁぁぁぁぁ! どうしたらぁぁぁぁぁ⁉」

 次から次へと伸びてくる海賊の手をかわして逃げながら、シャーリンは叫んだ。
 そして運悪く、大きな木の根に小さな足先をとられた。

「どわっ⁉」

 足先止まれど体は動く。
 シャーリンは、勢いよくドンッと音を立てて転がった。

「いたっ!」

 ついでに鮫頭も木の根にぶつけたシャーリンの頭に、激しい痛みが走った。
 キーンとした耳鳴りもする。
 耳鳴りが酷すぎて、他の音が聞こえない。
 
(キーンって音しかしないっ! ドラ美ちゃんの声も聞こえないよぉ~)

 焦るシャーリンの頭の中で、鈴の音が響いた。

 リンリンリン、鈴の音、鈴の音、白い霧。
 頭の中が真っ白け。
 リンリンリン、鈴の音、白い霧、人の影。
 
(え? 誰?)

 シャーリンの頭の中では、鈴の音と共に白い霧のようなものが広がって。
 白く立ち込める霧の向こうから、薄絹のドレスをまとった美しい女性が現れた。

「誰っ⁉」

 驚いて叫ぶシャーリンに、女性は静かに話し出した。
 
『鮫の聖女、シャーリンよ。私は女神です』
「めがみさま?」

 女神はゆったりと大きく頷いた。

『そうです。そして、私は貴方の守護者。ねぇ、シャーリン? なぜ貴方は戦わないのですか?』
「えっ? だって海賊、怖いもん」
『貴方は鮫の聖女なのですから、逃げ回る必要などありませんよ?』
「聖女ちゃん、五歳だし。戦えない」

 べそべそしながら訴えるシャーリンに、女神はゆったりとした笑みを見せて言う。

『戦う必要などありません。貴方は鮫の聖女。あの者たちを浄化するのです』
「……浄化?」

 シャーリンは、頭を右側に傾げた。

『貴方の立派な歯。そのギザギザの歯が、何のためにあると思っているのですか?』
「ん~……甘いお菓子を食べるため? 虫歯になっても、新しいのが生えてくるし」
『ふふ。それも正解の1つですが、それだけではありません。貴方の歯は、悪人を食べるためにあるのです』

 シャーリンは、頭を左側に傾けた。
 女神さまの言うことは、五歳のシャーリンには難しすぎる。

「悪人を食べる? 人間を、食べちゃうの?」
『そうです』
「ん……まずそう」

 シャーリンは、正直な感想を述べた。

『呑み込む必要はありません。ペッしなさい、ペッって』
「ん~、悪人を食べてペッ……」

 シャーリンは大きな口を動かして、噛んではペッ、噛んではペッ、とするシミュレーションをしてみた。
 やってみたら、なんとなくやれそうな気がしたシャーリンだった。

『貴方の歯には特別な加護があります。悪人を食べても、命を奪うことはありません』
「そなの?」

 シャーリンは、鮫頭を再び右側へと傾げた。

『貴方の歯には、悪人の悪い部分だけ齧ることのできる能力があるのです』
「悪人の……悪い部分だけ? ……聖女ちゃん、お医者さん?」
『一緒ではありませんが、似たようなものです』
「うふふ。聖女ちゃんは、お医者さん。うふふ」

 シャーリンは、何だか嬉しくなって笑った。
 
『ですから、貴方が悪人たちをガジガジ齧れば、退治できます。お友だちのピンクドラゴンも、助けられますよ』
「えっ⁉ ホント⁉」

 嬉しそうに聞くシャーリンに、女神はゆったりとした優しい笑みを向けた。

『うふふ。本当ですよ。では、頑張ってくださいね。鮫の聖女、シャーリン』
「うんっ。聖女ちゃん、頑張るっ!」

 シャーリンはガッツポーズを決めて、女神を見送った。
 リンリンリンリンリン。
 鈴の音と共に女神は消え、キーンとした耳鳴りが収まると、シャーリンは海賊たちに囲まれていた。

 海賊たちは嬉しそうにシャーリンを覗き込んで、口々に勝手なことを言った。

「鮫頭の女の子か」
「高く売れるかな?」
「おっ、アレ見ろよ。鮫頭の額のあたり」
「あぁっ、聖女の印じゃないか」
「鮫頭の聖女か。こりゃ珍しい」
「高く売れるぞ」
「お宝だねぇ~」

 海賊たちは舌なめずりしながら、シャーリンを捕まえようと飛び掛かる。
 老若男女、海賊たちはみな等しく、シャーリンに向かって手を伸ばしてきた。

(聖女ちゃんはっ! お医者さんっ!)

 シャーリンは怯え震える体と心を奮い立たせるように、小さな両手をグッと握りしめた。
 そして女神の言った通り、海賊たちを齧るために、大きく大きく口を開けた。
 
 次から次へと、襲いかかるよ、海賊が。
 次から次へと、齧ってペッとするよ、鮫の聖女が。
 喰って、齧って、飛び散る肉片。
 赤い血の雨、降るよ、白い砂浜。
 あたりに立ち込めるのは、血の臭い。

「セージョちゃん……」

 ドラ美が青い顔をして震えながら心配そうに見守るなか、全ての海賊たちを食べ散らかしたシャーリンは、血にまみれた歯をニッと見せて笑顔で答えた。

「終わったよぉ~、ドラ美ちゃん」
「セージョちゃん……大丈夫?」

 ドラ美は、血まみれになったシャーリンの口元と、赤く染まった白い砂浜を、涙目で見比べながら聞いた。

「聖女ちゃんはぁ~、鮫なのでぇ~、悪人をいくら食べてもぉ~虫歯知らずなのです」

 大きく口を開けたシャーリンの、ギザギザの歯がキラリンと輝いた。
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