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公爵夫人による聞き取り調査
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「今日は使用人たちに紹介するよ」
「はい」
ここは朝食室。リネットがアスランの屋敷にして数日が経過していた。
アスランは素晴らしく魅力的な笑顔を浮かべると、椅子から立ち上がるリネットの手をとる。
(今日もアスランさまは素敵です。無敵のモテ男スマイルは完璧。エスコートはスマート。この方が私の夫なんて信じられて? 私は全く信じられませんわ)
立場としてはアスランの妻であり、カルデリーニ公爵夫人となったリネットであったが、全く実感はない。部屋は別々であったし、ふたりの間にある微妙な距離は一向に縮まる気配はなかった。
アスランとしては、花を贈ったり、宝石を贈ったりと努力しているつもりなのである。だが、リネットの方は、白い結婚なのに夫となる方は大変なのね、と、スルースキルをガッシガシと磨く方向へと突き進んでいた。
「私、使用人たちから話を聞きたいのですけど、問題はありませんよね?」
「ああ。キミの好きにしていいよ」
(あぁ、なんて理解のある夫なのでしょう。白い結婚ですけどね。私、この理解に応えられるよう、しっかり稼ぎますわっ!)
にっこり笑って許可をくれるアスランを見て、方向性の間違った決意を固めるリネットであった。
アスランに手を引かれてエントランスホールに行けば、使用人たちが一堂に会してズラッと並んでいた。
(職種の分かる制服やエプロンを身につけているわね。この辺も商売のヒントになるかもしれないわ)
などと考えているリネットの横でアスランが言う。
「皆も既に知っている通り、私はコチラにいるリネット・セナケリア公爵令嬢を妻に迎えた。リネットは当家の女主人となる。私同様、仕えるように」
使用人たちは一斉に頭を下げる。それに視線で応えるリネットの姿は、いかにも貴族女性といった雰囲気があった。
「使用人たちの後を付いて回っている方と同一人物には思えませんね」
「そうね」
「そこっ。無駄口を叩かない」
「「はい」」
メイド長の厳しい声に、メイドたちはピッと姿勢を正す。
(ご主人さまが伴侶さまを迎えられたのは喜ばしいことですけれど……変わった奥さまがいらしたものだわ。これから、この屋敷はどうなってしまうのかしら?)
メイド長は溜息をついた。
結論から言えば、メイド長の不安は杞憂に終わった。リネットは元王太子婚約者であった公爵令嬢が女主人になりました、という状態を絵に描いたように振舞ったからだ。どこに出しても恥ずかしくない貴婦人であり、奥さまぶりを見せるリネット。しかし。だからといって、油断できないのがリネットという女性なのである。そこから彼女は大胆な動きをみせた。名実ともにお客さまではなくなった彼女は、使用人たちに対して全く遠慮する必要がなくなったからである。
「商売をするには、市場調査は大切ですわ」
「お嬢さま? おひとりで動かないで下さいましね?」
「分かっているわ、アンナ。私は公爵夫人なのですもの。屋敷内と言えども勝手にひとりで動いたりはしなくてよ?」
リネットは貴族らしい微笑を浮かべて小さくコクコクと頷いてみせた。それを半信半疑の目で見る侍女アンナが言う。
「なら、良いのですが……」
「それよりも、アンナ。私をいつまで『お嬢さま』と呼ぶつもりなの? 私はもう『奥さま』よ?」
「私にとっては『お嬢さま』は『お嬢さま』です。そこは譲れません」
「んっ、譲れないなら仕方ないないわね」
髪を結い上げてリネットが思う公爵夫人らしい地味なドレスに身を包んだ彼女の後ろに、アンナが続く。地味なドレスをまとっても、輝く金髪に貴族らしく整った顔を持つ二十歳のリネットが地味になるわけなどない。キラッキラである。とても目立つ。そんな彼女が隠れて使用人たちの働きぶりを観察していたら、とても目立つ。それをお気に入りの侍女とはいえ使用人の身であるアンナがリネットに言えるはずもない。
「今日も奥さまがいらした」
「監視よ。監視されているわ」
「しっかり働きましょう」
メイドたちはコソコソと話し、それぞれの持ち場へと散っていく。
「それでお嬢さま。市場調査とは、どのようことをされるのですか?」
「使用人ひとりひとりに聞き込み調査をしようと思って」
「あー……それですと。こちらのお屋敷クラスだと、かなり時間がかかると思うのですが」
「そうなの? なら、まずは。それぞれの職場について代表するひとりに聞いてみましょうか」
観察からインタビューに方針を切り替えたリネットは、さっそく話を聞くことにした。
「と、いうことで。まずはメイド長に話を聞きたいと思って」
「そうでございますか……ご商売のヒントを得るため、ですか?」
「そうよ」
澄ました顔をして言うリネットに、メイド長はゴホンと咳をひとつして話し始めた。
「でしたら協力いたします。私はメイドの長としてメイドたちの管理をする仕事をしております。また、執事であるアルフレッドさんの補佐として、屋敷の管理や人事などについても受け持っております」
細身で神経質そうなメイド長は白髪まじりの黒髪をひっつめていて、白襟のついた黒いワンピース姿だ。その上にシワひとつない白のエプロンを付けている。
(この屋敷のメイドたちは、皆、同じ服を着ているわね。制服ということかしら?)
さりげなく服装もチェックしながら、リネットはメイド長に問う。
「そうなのね。それは、どのお屋敷でも同じなのかしら?」
「決まり事は特にありませんので、お屋敷により仕事内容は違うと聞いております。こちらのお屋敷では、執事であるアルフレッドさんの職務権限が強いです。アルフレッドさんは領地管理のお手伝いなどもされていてお忙しいので、私が補佐も務めております」
「そうなのね。大体でよいから、他の人たちの仕事内容を教えて貰えるかしら?」
「はい。そうですね。まずメイドたちですが。当家のメイドは通いの者と住み込みの者がいます。広いお屋敷なので人数も多く、やるべき事も多いですね。雑役女中も沢山おります。休みも必要ですし、女性たちには家庭でも仕事がありますので分担して働いて貰っています」
「そうなのね」
使用人たちは動かせる金額が少ない。狙うとしたら、雇用している側の人間だ。貴族や金持ちの商人がターゲットとなる。
(使用人の仕事を楽にするのも大切だけど、まずは、貴族や金持ちたちの自尊心をくすぐるような物が売れやすいと思うのよね)
「はい。曜日や時間帯で分けて仕事をして貰っていますが。その割り振りなどは私の仕事です」
「まぁ。大変そうね?」
と、口では言いながら、
(商売には結びつきそうにないわね)
と、考えるリネットであった。
「それなりには。ですけれど、今はもう慣れましたので。メイドの採用なども私の担当でございます。採用するかどうかの最終的な判断はアルフレッドさんが、ご主人さまの意向を伺ったうえで行っています。私はメイド長という肩書でございますが、忙しいアルフレッドさんに代わり、従僕や馬丁、庭師や料理人といった使用人たちの管理もいたしております」
「まぁ、忙しいのね」
「いえいえ。このお屋敷では使用人を雇う予算は十分に用意して頂いておりますので、さほどのことは……。私は仕事の割り振りをしたり、屋敷内の仕事がキチンと出来ているかどうかのチェックをしたりする程度です」
(ここに商機はないような気がします)
そう思ったリネットは、インタビュー相手を変えることにした。
「そうなのね。次は……メイドに話を聞いてもいいかしら?」
「はい」
メイド長が呼んだ女性に話を聞く。
「このお屋敷は広いので、メイドと一口に言っても仕事は分担制です。掃除を主に担当するハウスメイドや洗濯の仕事をするランドリーメイド、食器洗いが主な仕事のスカラリーメイドなどがおりますわ。私はパーラーメイドですので、お屋敷に来られた方を出迎えたり、お茶をお出しするなど接客が主な仕事となります」
「それで綺麗な身なりをしているのね」
「はい。ヘッドドレスやエプロンに汚れやシワがあったりしては、ご主人さまに恥をかかせることになってしまいますので気を付けております」
「そうなのね」
(ああ、身だしなみを清潔に保つものや、制服として支給しているエプロンなどは需要がありそうね。権力やお金を持っている人たちは、他人にそれをひけらかすのが好きなもの。上手に自尊心をくすぐれば、売れる物がありそうだわ)
「他の仕事をしている人にも話を聞きたいわ」
「承知いたしました」
リネットは次から次へと使用人たちに話を聞いた。
ランドリーメイドは、衣類やリネン類などを大量に洗わなければいけないので、手荒れを気にしている。また、エプロンが汚れていたりなど自分自身が汚れていると、せっかく洗濯を済ませたものに汚れが移ってしまうことがあって困っているようだ。季節の変わり目にはカーテンを洗ったりなど仕事が増えるので忙しい、とも言っていた。
スカラリーメイドは、食器を洗うのが主な仕事となる。仕事を始めた若い女性が就くことが多く、水仕事なので手が荒れる。若い女性にとって見た目は大切な問題だ。それに手が荒れれば痛いし、切れたりすると思わぬ所に血がついてしまうことがあり困っているようだった。
「このお屋敷には、あまり関係のない話ですが、舞踏会や晩餐会などがあると洗わなければいけないコップやお皿が増えますよね。そのようなタイミングで仕事が辛くなり、いつの間にかいなくなってしまうスカラリーメイドも多いそうです」
「まぁ、大変ね?」
「ええ。仕事を覚えてもらうために、それなりの手間をかけているわけですから。逃げられてしまうと、困ってしまうそうですわ」
リネットは数日をかけて、雑役女中や従僕、フットマンやホールボーイ。馬丁や庭師、侍従や従者などさまざまな人たちに話を聞いていった。そして最終的には自室となった奥さま部屋に引きこもった。
「どんな物なら売れるかしらね?」
リネットは、王妃教育で使っていた国内資料を引っ張り出して部屋中に広げ、それらを眺めながら何か良い物がないか考え続けていた。
「はい」
ここは朝食室。リネットがアスランの屋敷にして数日が経過していた。
アスランは素晴らしく魅力的な笑顔を浮かべると、椅子から立ち上がるリネットの手をとる。
(今日もアスランさまは素敵です。無敵のモテ男スマイルは完璧。エスコートはスマート。この方が私の夫なんて信じられて? 私は全く信じられませんわ)
立場としてはアスランの妻であり、カルデリーニ公爵夫人となったリネットであったが、全く実感はない。部屋は別々であったし、ふたりの間にある微妙な距離は一向に縮まる気配はなかった。
アスランとしては、花を贈ったり、宝石を贈ったりと努力しているつもりなのである。だが、リネットの方は、白い結婚なのに夫となる方は大変なのね、と、スルースキルをガッシガシと磨く方向へと突き進んでいた。
「私、使用人たちから話を聞きたいのですけど、問題はありませんよね?」
「ああ。キミの好きにしていいよ」
(あぁ、なんて理解のある夫なのでしょう。白い結婚ですけどね。私、この理解に応えられるよう、しっかり稼ぎますわっ!)
にっこり笑って許可をくれるアスランを見て、方向性の間違った決意を固めるリネットであった。
アスランに手を引かれてエントランスホールに行けば、使用人たちが一堂に会してズラッと並んでいた。
(職種の分かる制服やエプロンを身につけているわね。この辺も商売のヒントになるかもしれないわ)
などと考えているリネットの横でアスランが言う。
「皆も既に知っている通り、私はコチラにいるリネット・セナケリア公爵令嬢を妻に迎えた。リネットは当家の女主人となる。私同様、仕えるように」
使用人たちは一斉に頭を下げる。それに視線で応えるリネットの姿は、いかにも貴族女性といった雰囲気があった。
「使用人たちの後を付いて回っている方と同一人物には思えませんね」
「そうね」
「そこっ。無駄口を叩かない」
「「はい」」
メイド長の厳しい声に、メイドたちはピッと姿勢を正す。
(ご主人さまが伴侶さまを迎えられたのは喜ばしいことですけれど……変わった奥さまがいらしたものだわ。これから、この屋敷はどうなってしまうのかしら?)
メイド長は溜息をついた。
結論から言えば、メイド長の不安は杞憂に終わった。リネットは元王太子婚約者であった公爵令嬢が女主人になりました、という状態を絵に描いたように振舞ったからだ。どこに出しても恥ずかしくない貴婦人であり、奥さまぶりを見せるリネット。しかし。だからといって、油断できないのがリネットという女性なのである。そこから彼女は大胆な動きをみせた。名実ともにお客さまではなくなった彼女は、使用人たちに対して全く遠慮する必要がなくなったからである。
「商売をするには、市場調査は大切ですわ」
「お嬢さま? おひとりで動かないで下さいましね?」
「分かっているわ、アンナ。私は公爵夫人なのですもの。屋敷内と言えども勝手にひとりで動いたりはしなくてよ?」
リネットは貴族らしい微笑を浮かべて小さくコクコクと頷いてみせた。それを半信半疑の目で見る侍女アンナが言う。
「なら、良いのですが……」
「それよりも、アンナ。私をいつまで『お嬢さま』と呼ぶつもりなの? 私はもう『奥さま』よ?」
「私にとっては『お嬢さま』は『お嬢さま』です。そこは譲れません」
「んっ、譲れないなら仕方ないないわね」
髪を結い上げてリネットが思う公爵夫人らしい地味なドレスに身を包んだ彼女の後ろに、アンナが続く。地味なドレスをまとっても、輝く金髪に貴族らしく整った顔を持つ二十歳のリネットが地味になるわけなどない。キラッキラである。とても目立つ。そんな彼女が隠れて使用人たちの働きぶりを観察していたら、とても目立つ。それをお気に入りの侍女とはいえ使用人の身であるアンナがリネットに言えるはずもない。
「今日も奥さまがいらした」
「監視よ。監視されているわ」
「しっかり働きましょう」
メイドたちはコソコソと話し、それぞれの持ち場へと散っていく。
「それでお嬢さま。市場調査とは、どのようことをされるのですか?」
「使用人ひとりひとりに聞き込み調査をしようと思って」
「あー……それですと。こちらのお屋敷クラスだと、かなり時間がかかると思うのですが」
「そうなの? なら、まずは。それぞれの職場について代表するひとりに聞いてみましょうか」
観察からインタビューに方針を切り替えたリネットは、さっそく話を聞くことにした。
「と、いうことで。まずはメイド長に話を聞きたいと思って」
「そうでございますか……ご商売のヒントを得るため、ですか?」
「そうよ」
澄ました顔をして言うリネットに、メイド長はゴホンと咳をひとつして話し始めた。
「でしたら協力いたします。私はメイドの長としてメイドたちの管理をする仕事をしております。また、執事であるアルフレッドさんの補佐として、屋敷の管理や人事などについても受け持っております」
細身で神経質そうなメイド長は白髪まじりの黒髪をひっつめていて、白襟のついた黒いワンピース姿だ。その上にシワひとつない白のエプロンを付けている。
(この屋敷のメイドたちは、皆、同じ服を着ているわね。制服ということかしら?)
さりげなく服装もチェックしながら、リネットはメイド長に問う。
「そうなのね。それは、どのお屋敷でも同じなのかしら?」
「決まり事は特にありませんので、お屋敷により仕事内容は違うと聞いております。こちらのお屋敷では、執事であるアルフレッドさんの職務権限が強いです。アルフレッドさんは領地管理のお手伝いなどもされていてお忙しいので、私が補佐も務めております」
「そうなのね。大体でよいから、他の人たちの仕事内容を教えて貰えるかしら?」
「はい。そうですね。まずメイドたちですが。当家のメイドは通いの者と住み込みの者がいます。広いお屋敷なので人数も多く、やるべき事も多いですね。雑役女中も沢山おります。休みも必要ですし、女性たちには家庭でも仕事がありますので分担して働いて貰っています」
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使用人たちは動かせる金額が少ない。狙うとしたら、雇用している側の人間だ。貴族や金持ちの商人がターゲットとなる。
(使用人の仕事を楽にするのも大切だけど、まずは、貴族や金持ちたちの自尊心をくすぐるような物が売れやすいと思うのよね)
「はい。曜日や時間帯で分けて仕事をして貰っていますが。その割り振りなどは私の仕事です」
「まぁ。大変そうね?」
と、口では言いながら、
(商売には結びつきそうにないわね)
と、考えるリネットであった。
「それなりには。ですけれど、今はもう慣れましたので。メイドの採用なども私の担当でございます。採用するかどうかの最終的な判断はアルフレッドさんが、ご主人さまの意向を伺ったうえで行っています。私はメイド長という肩書でございますが、忙しいアルフレッドさんに代わり、従僕や馬丁、庭師や料理人といった使用人たちの管理もいたしております」
「まぁ、忙しいのね」
「いえいえ。このお屋敷では使用人を雇う予算は十分に用意して頂いておりますので、さほどのことは……。私は仕事の割り振りをしたり、屋敷内の仕事がキチンと出来ているかどうかのチェックをしたりする程度です」
(ここに商機はないような気がします)
そう思ったリネットは、インタビュー相手を変えることにした。
「そうなのね。次は……メイドに話を聞いてもいいかしら?」
「はい」
メイド長が呼んだ女性に話を聞く。
「このお屋敷は広いので、メイドと一口に言っても仕事は分担制です。掃除を主に担当するハウスメイドや洗濯の仕事をするランドリーメイド、食器洗いが主な仕事のスカラリーメイドなどがおりますわ。私はパーラーメイドですので、お屋敷に来られた方を出迎えたり、お茶をお出しするなど接客が主な仕事となります」
「それで綺麗な身なりをしているのね」
「はい。ヘッドドレスやエプロンに汚れやシワがあったりしては、ご主人さまに恥をかかせることになってしまいますので気を付けております」
「そうなのね」
(ああ、身だしなみを清潔に保つものや、制服として支給しているエプロンなどは需要がありそうね。権力やお金を持っている人たちは、他人にそれをひけらかすのが好きなもの。上手に自尊心をくすぐれば、売れる物がありそうだわ)
「他の仕事をしている人にも話を聞きたいわ」
「承知いたしました」
リネットは次から次へと使用人たちに話を聞いた。
ランドリーメイドは、衣類やリネン類などを大量に洗わなければいけないので、手荒れを気にしている。また、エプロンが汚れていたりなど自分自身が汚れていると、せっかく洗濯を済ませたものに汚れが移ってしまうことがあって困っているようだ。季節の変わり目にはカーテンを洗ったりなど仕事が増えるので忙しい、とも言っていた。
スカラリーメイドは、食器を洗うのが主な仕事となる。仕事を始めた若い女性が就くことが多く、水仕事なので手が荒れる。若い女性にとって見た目は大切な問題だ。それに手が荒れれば痛いし、切れたりすると思わぬ所に血がついてしまうことがあり困っているようだった。
「このお屋敷には、あまり関係のない話ですが、舞踏会や晩餐会などがあると洗わなければいけないコップやお皿が増えますよね。そのようなタイミングで仕事が辛くなり、いつの間にかいなくなってしまうスカラリーメイドも多いそうです」
「まぁ、大変ね?」
「ええ。仕事を覚えてもらうために、それなりの手間をかけているわけですから。逃げられてしまうと、困ってしまうそうですわ」
リネットは数日をかけて、雑役女中や従僕、フットマンやホールボーイ。馬丁や庭師、侍従や従者などさまざまな人たちに話を聞いていった。そして最終的には自室となった奥さま部屋に引きこもった。
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