ざまぁを終えた転生者はバッカス家のやり手令嬢となり楽しく生きる ~なお王子さまをメロメロにしたのは単なる事故です

天田れおぽん

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平和なお庭時間

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「もうすぐ村まつりね。それまでにエレノアは歩けるようになるかしら?」
「ふふ。奥さま。気が早いですわ」
「ばうっ」

 今日も秋晴れの良い天気。

 バッカス家の庭は、家族の笑顔が溢れていた。

「リアナ、気持ちは分かるよ。石畳の上をヨチヨチ歩く私たちの娘は可愛いだろうからね。エレノアの誕生日は10月1日。バッカス村まつりは、毎年10月31日。領民たちへのお披露目のタイミングとしてはバッチリだ」
「そうね、アナタ」
「きっと、ボクたちの妹は人気者だよ」
「うんうん。そうだよね、兄さま。きっと、大人気だ」
「ふふ。可愛い私のお姫さまを、お披露目できるのが楽しみだ」

 賑やかに外で昼食を食べた後、家族はくつろいでいた。
 皆が見守るなか、エレノアは地面に手をついてハイハイで前進していく。

「ふふ。ホラ、見て。エレノアが、またアノ木に近付いていくわ」
「そうだね、奥さん。あの子はアノ木がお気に入りのようだ」

 エレノアは目的地に着くと、太い幹を辿るようにして立ち上がった。
 見上げれば、鑑定情報が空に浮かぶように表示される。

――――――――――――――――――――――――――――
【庭の木】

 バッカス家の屋敷に植えられている木。

 屋敷の中で一番大きく太いが、樹齢の長さは三番目。

 New! エレノアが初めてつかまり立ちをした木。
――――――――――――――――――――――――――――

(鑑定情報は更新されるようね。相変わらず、この情報必要? と、思うような内容だけど)

 つかまり立ちしながら、太い幹の回りを一周グルリと回る。
 
「お嬢さま、足腰が丈夫なタイプかもしれませんね」
「ばぁやもそう思う?」
「兄さまもボクも、そう思ってるんだ。もうすぐエレノアは、かけっこができるようになるよね?」
「ふふ。それは少し気が早いかもしれませんわ、坊ちゃま方」
「ばぅ」

(でも。確かに、この体は丈夫そうね)
 エレノアは何となく、幹から手を離してみる。

「「「「「あっ!」」」」」

 エレノアはひとりで立っていた。

(あっ、いけそう)
 と、エレノアが思った次の瞬間、小さな体がグラリと揺れる。
 
「危ないっ!」
 慌てて父であるタイロンが駆け寄るが、スッとしゃがみ込んだエレノアは無事だった。

「エレノアぁ~。もう、驚かさないでよぉ~」
 タイロンがぼやきながら抱き上げるも、当の本人はキョトンとしていた。
「だぅ~」
(もう。お父さまったら、大げさね)
「でも……ふふ。エレノアが一人で立った」
「そうですわ、旦那さま」
「たっちしましたわ」
「たっちだ」
「ボクたちの妹が、たっちしたぞ」
「これなら、かけっこもすぐできるようになるねっ。兄さま」
「そうだねっ。きっとすぐだよっ」
「ふふふ。かけっこの前に、あんよが出来るようにならないとね」

 興奮する兄弟に柔らかな視線を投げて立ち上がったリアナは、夫の腕の中にいる娘の柔らかな髪を撫でた。

「あんよも、もうすぐかしらね」
「ばぅっ!」
「おお。私のお姫さまは、やる気に満ちているね?」
「ばうっ!」
「ふふ。でも、もう少し。ゆっくり大きくなっていいのよ? エレノア」

 リアナは愛しい娘の、つむじあたりにキスをする。

「ばぅ?」
「ふふ。確かに。早々に大人になられたら、少し寂しいかもしれないな」
「ばぅ?」

 前世の記憶はあるけれど。
 前世で子供を持つことはなかったエレノアには、両親の複雑な気持ちを理解するのは難しい。

――――――――――――――――――――――――――――
【庭の木】

 バッカス家の屋敷に植えられている木。

 屋敷の中で一番大きく太いが、樹齢の長さは三番目。

 New! エレノアが初めてつかまり立ちをした木。

 New! エレノアが初めてたっちした場所。
――――――――――――――――――――――――――――

(神さま……細かすぎない?)

 少し頭を傾げながら空に表示されている鑑定情報を見上げる。

(でも、何だか楽しいから。いっか)

 エレノアは、キャッキャッと笑った。 
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