わたくしは悪役令嬢なので、お気遣いなく王子さま ~ 思い込みの激しい公爵令嬢は婚約者に溺愛されている

天田れおぽん

文字の大きさ
6 / 6

第6話 犬⁉

しおりを挟む
「叔母上っ! なにをするのですかっ⁉ てかなに⁉ 視線低っ! 声高っ!」

 突然のことにニコラスは戸惑った。
 彼はつぶらな瞳で目の前で椅子に座っている叔母を見上げた。

「ふふ。魔法をかけてみました~。ニコラスは可愛いから、ポメラニアンよん。うふ。やっぱり可愛い」

 椅子の上にいるのは人間ではなく一匹のポメラニアンだ。
 ミスティアは上機嫌であるが、ニコラスは慌てた。
 慌てたところで今のニコラスは金色の毛のフッカフッカモフモフのポメラニアンである。
 可愛いことこのうえない。

「ちょっ……何をやっているのですか、叔母上っ! ポメラニアン? 犬? うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ。確かに犬は可愛いですが! 犬⁉ うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ。私を犬にしてどーすんですかっ⁉ この姿では、公務もできませんよっ⁉」
「あ、うるさい。犬らしく人語を話せないようにしないとね」

 ミスティアは再び魔法の杖を右手に取ると、ニコラスの抗議の声を払うかのように、右のこめかみのあたりで小さく振って空に円を描いた。
 キラキラした光が杖の先から流れ出て、ポメラニアンになったニコラスのフッカフカな喉元あたりで煌めていた。

「ちょっ、何を……って、キャン⁉ キャンキャンキャン⁉」
「んー可愛い」

 ポメラニアンの小さなお口から出るキャンキャンした鳴き声は、成人男性の発するブーイングよりもはるかにキュートだった。

「キャンキャンッ!」
「ん、大丈夫よ。『真実の愛』のキスで魔法は解けて、人間に戻れるから」
「キャン⁉」

 ニコラスはマジかよ⁉ といった表情を浮かべて叔母を見た。
 叔母の方はといえば、ニッコニコのよい笑顔でニコラスを見下ろしている。

「ふふふ~。ミレーユのキス、ゲットしてきてね~。さっさと済ませれば公務が滞ることもないわ。頑張ってニコラス。さぁ行ってらっしゃ~い」

 ニコラスは叔母の手により椅子からヒョイと持ち上げられると、ガゼボの外へとポイッと出されてしまった。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

【完結】泉に落ちた婚約者が雑草役令嬢になりたいと言い出した件

雨宮羽那
恋愛
 王太子ルーカスの婚約者・エリシェラは、容姿端麗・才色兼備で非の打ち所のない、女神のような公爵令嬢。……のはずだった。デート中に、エリシェラが泉に落ちてしまうまでは。 「殿下ってあのルーカス様……っ!? 推し……人生の推しが目の前にいる!」と奇妙な叫びを上げて気絶したかと思えば、後日には「婚約を破棄してくださいませ」と告げてくる始末。  突然別人のようになったエリシェラに振り回されるルーカスだが、エリシェラの変化はルーカスの気持ちも変えはじめて――。    転生に気づいちゃった暴走令嬢に振り回される王太子のラブコメディ! ※全6話 ※一応完結にはしてますが、もしかしたらエリシェラ視点バージョンを書くかも。

【短編】その婚約破棄、本当に大丈夫ですか?

佐倉穂波
恋愛
「僕は“真実の愛”を見つけたんだ。意地悪をするような君との婚約は破棄する!」  テンプレートのような婚約破棄のセリフを聞いたフェリスの反応は?  よくある「婚約破棄」のお話。  勢いのまま書いた短い物語です。  カテゴリーを児童書にしていたのですが、投稿ガイドラインを確認したら「婚約破棄」はカテゴリーエラーと記載されていたので、恋愛に変更しました。

【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい

三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。 そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。

貴方様は本当に、あの日わたしを助けてくれた王子様なのですか?

柚木ゆず
恋愛
 わたしには10年間待ち続けている、大好きな人がいました。  その人はかつて隣国で迷子になってしまった際に、優しく助けてくれた男の子。わたしはその時に恋をして、幸せなことにその子もわたしを好きになってくれたんです。  でもその人は何かしらの理由で今は名前と身分を明かせず、その上20歳になるまでは――10年経つまでは、もう会えないと仰られました。  ですのでわたし達は10年後の再会を約束し、今日がその日。迎えに来てくれる王子様をドキドキしながら待っていると、なんと筆頭公爵家の現当主様であるアルチュール様がいらっしゃったのです。  この方が、あの日の王子様。やっとお会いできて、嬉しい。  ……そう、思っていたのですが――。しばらくすると、違和感を覚えるようになりました……。  アルチュール様。貴方様は本当に、あの日わたしを助けてくれた王子様なのですか?

王太子殿下は、悪役令嬢の私を手放す気がない

茶埜
恋愛
美しくも気高い公爵令嬢ロベリア・ヴァレンティーナは、第一王子ラドヴァンの婚約者である。 互いに“愛称”で呼び合いながら秘密裏に想いを寄せ合う、誰にも言えない両片想い――。 だが、婚約はあくまで王家と公爵家の政略であり、ロベリアは“自分だけが彼を想っている”と信じ込んでいた。 そんな折、異世界から転生した少女ミア・サンフィールドが現れ、王太子の慈悲深さに惹かれて近付いていく。 ラドヴァンは王族としての責務からミアの失礼や無知を正しく指導していただけなのに、周囲は“二人が惹かれ合っている”と盛り上がり、噂は瞬く間に広まった。 ラドヴァンが公の場でロベリアを「ロベリア嬢」と呼ぶようになったことで、ロベリアは決定的な誤解を抱く。 本当は誰よりロベリアを愛している王太子と、愛されていると信じられない公爵令嬢。 すれ違う二人の前で、転生ヒロインは“物語の主人公”として行動し始め、学園は恋と誤解の渦に飲まれていく。 それでも――二人の願いはただひとつ。 「本当の気持ちを、あなたに届けたい」

婚約破棄された王太子妃候補ですが、私がいなければこの国は三年で滅びるそうです。

カブトム誌
恋愛
王太子主催の舞踏会。 そこで私は「無能」「役立たず」と断罪され、公開の場で婚約を破棄された。 魔力は低く、派手な力もない。 王家に不要だと言われ、私はそのまま国を追放されるはずだった。 けれど彼らは、最後まで気づかなかった。 この国が長年繁栄してきた理由も、 魔獣の侵攻が抑えられていた真の理由も、 すべて私一人に支えられていたことを。 私が国を去ってから、世界は静かに歪み始める。 一方、追放された先で出会ったのは、 私の力を正しく理解し、必要としてくれる人々だった。 これは、婚約破棄された令嬢が“失われて初めて価値を知られる存在”だったと、愚かな王国が思い知るまでの物語。 ※ざまぁ要素あり/後半恋愛あり ※じっくり成り上がり系・長編

家族に裏切られて辺境で幸せを掴む?

しゃーりん
恋愛
婚約者を妹に取られる。 そんな小説みたいなことが本当に起こった。 婚約者が姉から妹に代わるだけ?しかし私はそれを許さず、慰謝料を請求した。 婚約破棄と共に跡継ぎでもなくなったから。 仕事だけをさせようと思っていた父に失望し、伯父のいる辺境に行くことにする。 これからは辺境で仕事に生きよう。そう決めて王都を旅立った。 辺境で新たな出会いがあり、付き合い始めたけど?というお話です。

【完結】転生したぐうたら令嬢は王太子妃になんかになりたくない

金峯蓮華
恋愛
子供の頃から休みなく忙しくしていた貴子は公認会計士として独立するために会社を辞めた日に事故に遭い、死の間際に生まれ変わったらぐうたらしたい!と願った。気がついたら中世ヨーロッパのような世界の子供、ヴィヴィアンヌになっていた。何もしないお姫様のようなぐうたらライフを満喫していたが、突然、王太子に求婚された。王太子妃になんかなったらぐうたらできないじゃない!!ヴィヴィアンヌピンチ! 小説家になろうにも書いてます。

処理中です...