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第5話 王太子は恋の相談をする
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初夏の庭は午前中といっても日差しが強い。
ニコラスはキラキラと金髪を輝かせながら、ガゼボのなかで眉間にシワを寄せて紅茶をすすっていた。
吸い込まれそうな澄んだ青い瞳には、悩みの色が浮かんでいる。
白い天蓋に覆われたガゼボのなかは太陽の日差しに焼かれるようなこともなく、明るくて快適だ。
なのに、なぜこんなに気持ちが乱れるのか?
ふわっと膨らむ布を眺めながらニコラスは思う。
今の自分の気分には、初夏の風よりも春の嵐のほうがふさわしいと。
「ふふふ。青春ねぇ~」
ニコラスの前に座っている女性が、上品な声を上げながら笑った。
ニコラスの前に座っているのは、彼の叔母で隣国へ嫁いだミスティアだ。
「笑いごとではありませんよ、叔母上。ミレーユは本気で自分が悪役令嬢だと思い込んでしまっているのです。そのせいで、私がミレーユとの婚約を破棄する日が来ると本気で信じているのですよ? この私がっ! ミレーユのことを捨てるのだと信じて疑わないのですっ!」
ニコラスは思いのほかたくましい手でドンッとテーブルを叩いた。
ガゼボのカフェテーブルの上で食器がガチャンと音を立てる。
華奢なワイヤーフレームで出来たテーブルが倒れそうになって、ニコラスは慌ててテーブルの端を両手でつかんだ。
「おっと危ない。私としたことが、とんだ失態をお見せするところでした」
「ふふ、いいのよ。あなたは完ぺきな王子さま過ぎるのよ。たまには人間らしいところを見せてくれなきゃ面白くないわ」
「叔母上はちょっと人間らしすぎですけどね」
ニコラスの言う通り、ミスティアはとても人間味にあふれていた。
ミスティアは魔法使いだ。
しかし隣国の王妃であるため、魔法を使うことを禁じられている。
そのうさを晴らすために、里帰りするとミスティアは魔法を軽率に使い倒す。
ニコラスの目の前にいるミスティアは、紫色のローブにつばの広い帽子を合わせた魔法使いスタイルだ。
「あなたも自分を偽らずにいたらいいのに。そうすればミレーユだって分かってくれるわ」
「私は叔母上のようには人間らしくなれません」
ニコラスは頬をプクッと膨らめる。
彫りが深くて整った顔立ちのニコラスは、表情を崩してもハンサムなままだ。
それにギャップが彼を更に魅力的にみせた。
ミスティアは楽しそうに笑って言う。
「ふふ。あなたは充分に人間味あふれた人だし、とても魅力的よ」
「そうですか?」
叔母の言葉に、ニコラスは信じられないといわんばかりに眉間にシワを寄せた。
「ミレーユだって、そんなあなたのことが好きなはずよ」
ミスティアは楽天的に言うと軽やかに笑った。
「本当に、そうだといいのですが。私のミレーユへの思いは、本物なのです。私は、彼女と結婚したい。ミレーユと2人であれば、国王としての重すぎる責任も果たせると思うのです。なのにこのままでは、ミレーユから婚約の解消を言い出しかねません。私の思いとは裏腹に、彼女が逃げてしまいそうで怖いのです」
「ほほほ。青春ねぇ~」
ミスティアは、テーブルの端に置いていた魔法の杖を手に取った。
「なら、こんなのはどう?」
ミスティアは陽気に笑うと、可愛い甥っ子に魔法をかけた。
ニコラスはキラキラと金髪を輝かせながら、ガゼボのなかで眉間にシワを寄せて紅茶をすすっていた。
吸い込まれそうな澄んだ青い瞳には、悩みの色が浮かんでいる。
白い天蓋に覆われたガゼボのなかは太陽の日差しに焼かれるようなこともなく、明るくて快適だ。
なのに、なぜこんなに気持ちが乱れるのか?
ふわっと膨らむ布を眺めながらニコラスは思う。
今の自分の気分には、初夏の風よりも春の嵐のほうがふさわしいと。
「ふふふ。青春ねぇ~」
ニコラスの前に座っている女性が、上品な声を上げながら笑った。
ニコラスの前に座っているのは、彼の叔母で隣国へ嫁いだミスティアだ。
「笑いごとではありませんよ、叔母上。ミレーユは本気で自分が悪役令嬢だと思い込んでしまっているのです。そのせいで、私がミレーユとの婚約を破棄する日が来ると本気で信じているのですよ? この私がっ! ミレーユのことを捨てるのだと信じて疑わないのですっ!」
ニコラスは思いのほかたくましい手でドンッとテーブルを叩いた。
ガゼボのカフェテーブルの上で食器がガチャンと音を立てる。
華奢なワイヤーフレームで出来たテーブルが倒れそうになって、ニコラスは慌ててテーブルの端を両手でつかんだ。
「おっと危ない。私としたことが、とんだ失態をお見せするところでした」
「ふふ、いいのよ。あなたは完ぺきな王子さま過ぎるのよ。たまには人間らしいところを見せてくれなきゃ面白くないわ」
「叔母上はちょっと人間らしすぎですけどね」
ニコラスの言う通り、ミスティアはとても人間味にあふれていた。
ミスティアは魔法使いだ。
しかし隣国の王妃であるため、魔法を使うことを禁じられている。
そのうさを晴らすために、里帰りするとミスティアは魔法を軽率に使い倒す。
ニコラスの目の前にいるミスティアは、紫色のローブにつばの広い帽子を合わせた魔法使いスタイルだ。
「あなたも自分を偽らずにいたらいいのに。そうすればミレーユだって分かってくれるわ」
「私は叔母上のようには人間らしくなれません」
ニコラスは頬をプクッと膨らめる。
彫りが深くて整った顔立ちのニコラスは、表情を崩してもハンサムなままだ。
それにギャップが彼を更に魅力的にみせた。
ミスティアは楽しそうに笑って言う。
「ふふ。あなたは充分に人間味あふれた人だし、とても魅力的よ」
「そうですか?」
叔母の言葉に、ニコラスは信じられないといわんばかりに眉間にシワを寄せた。
「ミレーユだって、そんなあなたのことが好きなはずよ」
ミスティアは楽天的に言うと軽やかに笑った。
「本当に、そうだといいのですが。私のミレーユへの思いは、本物なのです。私は、彼女と結婚したい。ミレーユと2人であれば、国王としての重すぎる責任も果たせると思うのです。なのにこのままでは、ミレーユから婚約の解消を言い出しかねません。私の思いとは裏腹に、彼女が逃げてしまいそうで怖いのです」
「ほほほ。青春ねぇ~」
ミスティアは、テーブルの端に置いていた魔法の杖を手に取った。
「なら、こんなのはどう?」
ミスティアは陽気に笑うと、可愛い甥っ子に魔法をかけた。
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