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第4話 侍女と悪役令嬢
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「お嬢さまは悪役令嬢などではありませんよ」
侍女マリアは、大きな白い鏡台の前で主人の髪にブラシを入れながら断言した。
ミレーユは、椅子に座って大人しくお手入れを受けてはいるが、侍女の意見を受けいれる様子はなく、両手を胸のあたりで握りこぶしにしながら力説する。
「いえっ! わたくしは悪役令嬢なのよっ。浮気者の令嬢や令息を成敗するような出すぎた真似をする悪役令嬢なの。あぁ、可哀想なニコラスさま。こんな悪役令嬢なわたくしのことなど、ニコラスさまはお嫌いでしょうに」
「そんなことはないと思いますよ、お嬢さま」
マリアは主人の金髪をせっせとブラッシングしながら、ミレーユの危惧を速攻で否定した。
「悪役令嬢というのは、使用人のやることなすこと否定するのが常ですわ。されるがまま大人しくお世話を受ける悪役令嬢などおりません」
それがマリアの意見だ。
だがミレーユはブンブンと頭を振って否定を否定する。
「いいえ! そんなことはあるのよっ、マリア。貴女は優しいから、醜い世界のことなど知らないでしょうけれど。わたくしは悪役令嬢なの」
「お嬢さまが悪役令嬢でしたら、世の中にいる令嬢は悪役令嬢しかおりませんよ。だから大人しくお手入れを受けてくださいませ。ブラッシング中に動くと髪に傷がつきますわ」
「あぁやはり、わたくしは悪役令嬢!」
「いえ、それは違います」
力説するミレーユを軽くいなしたマリアは、ブラシを置くと手のひらにオイルをとり、温めながら広げるとミレーユの髪へせっせとつけ始めた。
マリアは鏡越しにミレーユへと笑顔を向けて言う。
「お嬢さまはお優しいですし、こんなに美しいのですもの。王太子殿下はお嬢さまにぞっこんですよ」
「あぁ、貴女は本当に優しいわね、ありがとう」
「私は心の底から言っているのですよ? それは分かってくださいませね?」
マリアはミレーユの肩にかけていたケープを外しながら、鏡越しに念を押した。
「ええ、本当にマリアは優しいわねぇ~」
ミレーユはニコニコして、お気に入りの侍女を褒めた。
「でもわたくしは悪役令嬢ですからね。いずれはニコラスさまから婚約破棄されることになるのよ」
「そんなことにはなりませんよ、お嬢さま」
「いえ。いずれそうなるのよ。ニコラスさまは真実の愛に目覚めて、わたくしとは破談するわ。そうなれば貴女は、王太子妃付きの侍女にも、王妃付きの侍女にもなれないわ。ごめんなさいね、マリア」
すまなそうな表情を浮かべたミレーユは、マリアに頭を下げた。
(こんな悪役令嬢が、いてたまるかっ!)
マリアは心の中で突っ込みを入れながら、ミレーユをなだめながらベッドへ入るのを手伝った。
侍女マリアは、大きな白い鏡台の前で主人の髪にブラシを入れながら断言した。
ミレーユは、椅子に座って大人しくお手入れを受けてはいるが、侍女の意見を受けいれる様子はなく、両手を胸のあたりで握りこぶしにしながら力説する。
「いえっ! わたくしは悪役令嬢なのよっ。浮気者の令嬢や令息を成敗するような出すぎた真似をする悪役令嬢なの。あぁ、可哀想なニコラスさま。こんな悪役令嬢なわたくしのことなど、ニコラスさまはお嫌いでしょうに」
「そんなことはないと思いますよ、お嬢さま」
マリアは主人の金髪をせっせとブラッシングしながら、ミレーユの危惧を速攻で否定した。
「悪役令嬢というのは、使用人のやることなすこと否定するのが常ですわ。されるがまま大人しくお世話を受ける悪役令嬢などおりません」
それがマリアの意見だ。
だがミレーユはブンブンと頭を振って否定を否定する。
「いいえ! そんなことはあるのよっ、マリア。貴女は優しいから、醜い世界のことなど知らないでしょうけれど。わたくしは悪役令嬢なの」
「お嬢さまが悪役令嬢でしたら、世の中にいる令嬢は悪役令嬢しかおりませんよ。だから大人しくお手入れを受けてくださいませ。ブラッシング中に動くと髪に傷がつきますわ」
「あぁやはり、わたくしは悪役令嬢!」
「いえ、それは違います」
力説するミレーユを軽くいなしたマリアは、ブラシを置くと手のひらにオイルをとり、温めながら広げるとミレーユの髪へせっせとつけ始めた。
マリアは鏡越しにミレーユへと笑顔を向けて言う。
「お嬢さまはお優しいですし、こんなに美しいのですもの。王太子殿下はお嬢さまにぞっこんですよ」
「あぁ、貴女は本当に優しいわね、ありがとう」
「私は心の底から言っているのですよ? それは分かってくださいませね?」
マリアはミレーユの肩にかけていたケープを外しながら、鏡越しに念を押した。
「ええ、本当にマリアは優しいわねぇ~」
ミレーユはニコニコして、お気に入りの侍女を褒めた。
「でもわたくしは悪役令嬢ですからね。いずれはニコラスさまから婚約破棄されることになるのよ」
「そんなことにはなりませんよ、お嬢さま」
「いえ。いずれそうなるのよ。ニコラスさまは真実の愛に目覚めて、わたくしとは破談するわ。そうなれば貴女は、王太子妃付きの侍女にも、王妃付きの侍女にもなれないわ。ごめんなさいね、マリア」
すまなそうな表情を浮かべたミレーユは、マリアに頭を下げた。
(こんな悪役令嬢が、いてたまるかっ!)
マリアは心の中で突っ込みを入れながら、ミレーユをなだめながらベッドへ入るのを手伝った。
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