【完結】あやかしになった腐女子 腐死鳥モエジーヌの爆誕 ~ 刺殺されちゃった私の楽しい妖生活~

天田れおぽん

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腐女子死す

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「ふざけんなよっ……」

 私はもう叫ぶこともできない。腹に刺さった包丁からは血が滴り落ちる。

 お気に入りの白いコートは真っ赤に染まってしまった。もう着られない。

「ストレスが溜まってんだよ、オレは」

 包丁の柄から手を離した通り魔は、立ち上がって私を見下ろしていた。

 朝のラッシュで混み合う地方都市の駅構内。

 刺され崩れ落ち床に倒れる私と犯人とを遠巻きにして見守る人たち。

 大声で駅員や警官を呼ぶ声と、混ざり合って聞き取れないざわめきの音。

 向けられる視線と携帯電話。

 動画なんて撮ってんじゃねぇよ。
 こっちは死にかけてんだ。
 空気読め。
 私は必死で空気を吸った。

「オマエみたいなブス、殺してやるだけありがたいと思えよ」

 テメェの方がよっぽどブスだよ、と、言ってやりたい醜い男が、満足気に私を見下ろしている。

 スパダリどころか美形ですらない、筋肉にも体格にも性格にも恵まれなかったヤツの憂さ晴らしに、私は殺され、死んでいくのか。

 納得できない。

 納得できないが、生き残れはしないだろう。

 痛みは既に限界突破して何も感じない。

 1月の駅構内に座り込んでるのに、寒さのひとつも感じやしないんだ。

 私は、もう終わりだ。

「早く死ねよ、ババァ」

 誰がババァだ、この野郎。まだ32歳だよっ。

 もう言い返すこともできない。

 悔しい。

 私は最後の息を吐いた。

 仕事始めの1月5日。

 その日が私の命日になった。



 白く辺りが霞んでいく。

 あの世とやらに行くのか。

 まだ行きたくないな。

 年の離れた可愛い弟の顔が浮かぶ。

 笑顔の父と母の姿。

 先立つ不孝をお許しください。

 許してくれなくってもいいけど、怒りは私を殺した野郎に向けてください。

 私は何にも悪くない。

 マジメに出社する途中だった。

 働いたら負けとは言うけれど、働きに行くのは罪じゃない。

 でも罰っぽい働き方だった。

 働き方改革ってなんだよ。

 私は、ブラック企業に勤める、ただの燃え尽きかけの社畜だ。

 そして、気に入らない上司と同僚、どちらを受けにすればスッキリするのかを日常の課題として抱える、どこにでもいる普通の腐女子だ。 

 必死で働いて、働いて。

 正月の貴重な休みを睡眠に費やし、出社する途中だったのに。

 なぜ殺されなきゃならないんだ。

 推しラノベのアニメ化がようやく決まって、楽しみにしていたってのに。

 運よく取れた推しアイドルのコンサートのチケットも、行けずじまいで無駄になるのか。

 アレか? あのチケットが取れたこと自体がフラグだったのか?
 
 そんなフラグ回収要らねぇよ。

 私はこんなトコで死ぬために必死で働いてたんじゃないっ。

 推しに貢ぐために働いてたんだっ!

 長年追い続けた漫画の続きも気になるし。

 まだ死にたくない。

 死にたくねぇよ……。


「力が……欲しいか?」

 神が現れた。

「えっ? マジ神? ただのジジィでなく? えっ、神々しいよ、えっ? 私、どうなっちゃうの?」



 ここから私、茂枝山萌子(もえやまもえこ)32歳は、数奇な運命を辿ることになるのである――――。
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