【完結】あやかしになった腐女子 腐死鳥モエジーヌの爆誕 ~ 刺殺されちゃった私の楽しい妖生活~

天田れおぽん

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阿木彰人(幼馴染)の事情

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「……と、いうわけよ。酷くない? 私、出勤途中で殺されたのに会社の人が葬式にも来ないとかさぁ。ブラックにも程があるでしょ?」

「そうだね。大変だったね」

 ニコニコとした美形が、私の隣でブランコを漕ぐ。

 ひとりでブランコを漕いでいた公園で、今度はふたりしてブランコを漕いでいる。

 白いコートを着た私は、普通の人たちの目には映らない。

 普通の人たちの目に映るのは、公園でひとり、ブランコを漕ぐ美形だけど大男の姿である。

 大人の男がひとり、ブランコを漕いでいる絵面、ヤバくない?

 となりのブランコは風に揺れている。

 映画のシーンであるかもしれないが、実際に公園で目にしたら警戒心というアンテナがバリ3になってしまう光景である。

 阿木クンがどんなに優しげな表情を浮かべていても、ひとりで笑ってブランコを漕いでいる大人の男性が警戒されがちな世の中なのだ。

 ちょっとヤバくない? 

 公園ではないほうが良いかなぁ、とは思うが、死人となっても、あやかしになっても、私は年頃の女性なので男性とふたりきりで密室はちょっと……。

 と、いうことで。極寒の公園で阿木クンから話を聞いている私なのである。

 なお私は寒さを感じないので、一方的かつ圧倒的に阿木クンのほうが不利なのだ。

 それでも耐える喪服の阿木クン。強し。

「それで阿木クンは、どうしてたの?」

「うん。ボクはね。普通に学校を出て警察官になったんだ」

「おー。警察官かぁ。カッコいい」

「もう、元警察官だけどね」

「あら。辞めちゃったんだ」

「うん」

「なぜ?」

「ボクさ、見える系の人でしょ?」

「うん?」

「萌子ちゃんのことが見えるのは嬉しいことだけどさ……」

「あー。見えちゃうんだ? 警察官のお世話になる系の、見えちゃいけない人たちが」

「うん」

「あー……殺された人とか、見えちゃうんだ……それはキツイね」

「うん。でも萌子ちゃんは別だから」

「ああ、気にしてないから大丈夫。それに私、あやかしだし」

「あやかし……えっと、何のあやかしだっけ?」

「腐死鳥!」

「あ、うん。そうなんだ……よく分からないけど……」

「うんっ。私も分からないっ」

 元気な返事で誤魔化したが。腐死鳥の特性を詰めないと。ホント、わけわからん。

「そうか……でも……まぁ、よく分からない状態なのは、ボクもなので……」

「警察官辞めて、今は何してるのは?」

「何でも屋」

「あら、意外」

「そう?」

「阿木クンなら、何にでもなれそうなのに」

 美形だし、頭も悪くなかったハズ。小学校までしか知らないけどね。

「んー……。飲食店はセクハラされるし、データ入力作業とか事務系でもセクハラされるし、物販店でもセクハラされるし……」

「飲む、打つ、買う……」

 深い意味はない。美形には美形の苦労があるんだねっ。

「セクハラから逃げるために何でも屋になったんだんだけど。主にしてるのは、逃げたペットを探す仕事だよ。見えないものが見える体質のせいか、猫探しとか得意なんだ」

「ふ~ん」

「……で、萌子ちゃんは、彼氏とかいたの?」

「いや、全然。そんな暇なかったし……」

 そもそも、そんなにモテる方じゃなかったからな!

 あ、女子は別だ。

 女子にはモテた。

 うん。

 モテた。

「それよりも阿木クンの方は? 阿木クン、モテそうだし」

 彼女か彼氏かは別にして、フリーには見えないですが?

「ボクは……ん、今は誰とも付き合ってないよ」

「そうなんだ」

「付き合うなら、ボクは……」

 阿木クンの手が私の方に伸びてくる。

 その手が私の髪に触れようとして空を切った。

「やっぱ……触れないか……」

 そんな切なそうな目で見ないで。

 美形の切なげな視線は凶器だよ。

 
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