れおぽん短編集

天田れおぽん

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第六感は告げる

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「これは……なんだ?」
 月人は体に走るビリビリとした感覚に驚いた。何かを知らせるがごとく神経はたかぶっているのに、その理由がさっぱり分からない。
『第六感ってヤツじゃないのか?』
 月人の傍らに立つ、人あらざる者が囁く。
『宿命星に射られた者は、人知を超えた力を与えられるというからな。理屈じゃなくて、本質を鋭く掴み取る力でもあるんだろ。ホラ、来るぞ』
 人あらざる者の言う通り、何かが来るのが月人には分かった。それは、風や雨のような揺らぎある自然のものではない。もっと確信を持った不気味で異質なモノ、得体の知れない――何か。
「そこかっ!?」
 空を見上げ叫んだ瞬間。頭上から無数の光が降り注ぐ。
「あれは……」
 凄まじい速度で落下するソレは、それぞれに意思を持って地上へと迫っていた。
「まずい!」
 月人は咄嗟に身を翻す。だが、意思を持った光をかわす方法など無かった。大地目指して落ちてくると見えた光は、方向を変えた。一瞬、黒い影が自分を庇うように覆った気がした。だが次の瞬間、耳をつんざく轟音と共に、強い衝撃が月人を襲う。
「うわぁあっ!!」
 叫び声と共に、月人の体は地面に叩きつけられていた。
『おい⁉ 大丈夫か!』
 人あらざる者の声が、遠い。
『しっかりしろよ!!』
 ―― 無理だって ――
 人あらざる者にツッコミを入れながら、月人は意識を手放した。

***

「……ここは?」
 気付けば、月人は見覚えのない場所に居た。慌てて起き上がろうとした体に鋭い痛みが走る。
「いっ……てぇ……」

 ―― アレは、一体なんだったのか ――

 辺りを見回してみたが、答えはなさそうだ。視界に入るのは青々とした草原だけ。辺り一面には、背の高い草花が生い茂っているだけだ。
「夢……か?」

 ―― 確か、僕は……光に撃たれた ――

 それが幻ではなかったことは、体の痛みが伝えている。
『おっ、気付いたか』
 声がした方を見ると、そこには黒い犬がいた。いや、犬のように見える何かだ。黒い獣の体は揺らめきながら光に溶けたり、現れたりしていた。
「君は?」
『お前が、人あらざる者、って呼んでた何かだよ』
 黒い獣は笑いながら言った。
『お前は運が良いな。普通なら死んでたぞ』
「死んでた……」
 確かにその通りだと、月人も思う。あの光を見た時には、もうダメだ、と、思った。なのに、生きている。運が良い。奇跡と言えるほど、運が良い。
「僕は救われたのか?」
『かもな』
 黒い獣は笑った。
「君は……何者だ?」
『あん?』
 月人に問われ、黒い獣は少し考えるようなしぐさを見せた。
『オレは……アレだ。神獣ってヤツさ』
「……神獣?」
 月人は首を傾げた。
『お前……ホントに何も知らないんだな』
「知らない?」
 何を知っているのが適切なのか、月人には分からなかった。
『ハッハッハッァ! ホントに何も知らずに来たってのか?』
「あぁ」
『……そっか。お前も大変だな』
 同情するように言われ、月人は少しだけムッとする。
「どういう意味?」
『いや、まぁ、いいじゃねぇか。細かいことは』
「……」
『宿命星に射られるってのは。やっかいなんだよ。特別な力は得られるが。その特別な力ってのも、まぁ大概はろくでもないもんだしな』
「僕には、特に変わったところは無いよ」
『んー。生まれる前、魂を射られるんで。変わってても自分じゃ分からんよ』
「じゃあ僕は……」
『選ばれし者ってトコじゃねぇか? お前の場合は特殊みたいだな。恐らく宿命星の力を使って、ここまでやって来たんだろうが。普通の人間には、入れねぇ場所だぞ、ココは』
「……」
『お前の力は、ちょっと変わってるみてぇだな。それにしても、あんなモン食らっても生きてるとか、どんだけの悪運の持ち主だよ』
「いや、あれは僕を狙ったものじゃないと思う」
『ん? そうなのかい?』
 黒い獣は笑った。
「それに、アナタが僕を庇ったでしょ?」
『そうだったかなぁ……。咄嗟のことで分かんねぇや。まぁいいじゃねーか。早くココから出ようぜ』
「出る?」
 月人は怪しげな表情を浮かべた。
『ああ、出ようぜ』
 黒い神獣はニヤリと笑った。

 ―― 僕は……僕の役目は…… ――

 月人には記憶が無かった。だが第六感は告げていた。この神獣を名乗る者、人あらざる者を倒さなければ真の救いは無いのだと。
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