れおぽん短編集

天田れおぽん

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吾輩は猫の手である 体はまだ無い

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 吾輩は猫の手である。
 体はまだ無い。
 手だけでぴょこんぴょこんと動くのだ。
 キモカワイイと評判だ。

「どうして、そんなになったかな」
 
 吾輩を肩に乗せた下僕が呟く。
 吾輩に分かるわけがない。
 そりゃオマエ、猫の手を借りた結果であろう、と、言わざるおえない。

「まぁ、トイレの心配も、エサの心配もしなくて済むからいいけどさー。体はどこにいっちゃったかな」

 下僕にモフモフとされながら、吾輩も思う。
 体はどこにいったのか、と。
 そもそも、なぜ手だけなのか、と。

 これは、アレだ。
 流行りの異世界転生で、手と体が別世界に行っちゃった系だな。
 体のほうは、顔も体もあるし、足も三本はあるはずだ。
 生きるのには困らない。
 吾輩の白くてフワフワの毛並みを見れば、体のほうも相当に美形であることは察せられる。
 そりゃ、モテモテだろう。無敵だろう。何も困らないだろう。

「手だけでもカワイイけどなー」
 
 ほら実際、手だけであっても下僕には大好評なのである。
 鳴きもしないし、覗き込んだりもしないし、シッポでペシペシもナシなのである。

「あー、坂上くん。今日も猫の手カワイイ~」
「おっ、お……尾野さん……」

 それでも吾輩は、大好評をいただいているのだ。
 下僕の片思い相手である尾野さんもメロメロである。
 まったくもって愛されキャラは罪なのだ。
 手だけでも愛されちゃうのだ。スゴイのだ。

「でも、なんで猫の手を借りたの?」

 おー、いい質問だ。尾野さん。
 さすが下僕が片思いするだけのことはある。
 サラッサラの黒髪ボブヘアが似合う色白デカ目の美少女キャラというだけではないね。
 吾輩も気になっているのだよ。
 なぜ借りられたのか。

「だって、オレの左手が行方不明だからさ。やっぱ不便じゃん? 代わりに猫の手を借りたのさ」

 え?
 下僕の左手って、本来はあったの?
 吾輩は下僕の左手は最初から無いのかと思っていたよ。

「それって、猫の手借りるより、左手探したほうがよくない?」

 真っ当な尾野さんのツッコミに吾輩も大きく頷いた。
 何度も、何度も、頷いた。

「んー。でも、今んとこ痛くもないし。ちょっと不便なだけだし」

 下僕は事も無げに言う。

「オレの左手は、猫の体と旅しているのかもしれないから。別に困んない」

 困れー。
 下僕の左手と旅する吾輩の体への迷惑を考えろー。
 左手連れ歩いていたら、いくらカワイイ体をしてても不気味だろー。

「へー……そうなんだ……」

 ほら実際、尾野さんも引いている。

 吾輩は初めて、体の心配をした。
 左手連れた片手の無い猫は、ちゃんとエサを貰えているだろうかと。
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