れおぽん短編集

天田れおぽん

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雨に滲むは最後の想い

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「知らせはまだか!?」
「はい。密偵からの知らせは届いていません」
「決起するタイミングを逃したくないものだ」
「はい、少佐。連絡が入り次第、お知らせします」
「ああ、よろしく頼む」

 ココは反政府組織ネコの本部だ。
 ガラクタを寄せ集めたようなテント内は殺気立っていた。
 テントを叩く雨は、やみそうにない。
 
 もう、限界だ。

 環境破壊の進んだ土地に置き去りとなった庶民は肩を寄せ合って暮らしている。
 降り続く雨のせいで実りは期待できない。
 過ぎた水分に植物は溶けてしまった。
 
 物資が足りない。

「飢えて死ぬか。戦って死ぬか」
「オレなら戦って死ぬよ、少佐殿」
「あっ、ボクも」
「私も」
「分かってるよ」

 とはいえ、ココにいるのはドームに入ることが出来なかった庶民だ。
 戦力が高いとは言えない。
 
 なぜ、こんなことになってしまったのか?

 科学技術は進んだが、政府は金と手間を惜しんだ。
 結果として環境は破壊され、汚染が広がった。
 今となっては、自然の中にありのままの姿で立つだけで死ねる。
 地球全体の汚染を除去しようとしたら大変だ。
 だから政府は、ドームを作った。
 ドーム内は気象がコントロールされていて汚染もない。
 その分、環境破壊の影響を引き受けているのがドームの外だ。
 ドームに入るには金が要る。
 結果として、庶民は今も環境汚染に苦しんでいるのだ。

「力でどうにかしようと思っても、我らは弱い。勢いで行っても死ぬだけだ」
「分かってますよ、大佐」
「イラつくのは分かるが、密偵からの連絡を待とう」
「分かってますよ、大佐」

 言葉では理解していても、気持ちは付いて行かない。
 少佐はイライラとしながら密偵からの連絡を待った。

「少佐! 大佐もいらしたのですね。密偵より連絡はいりました!」
「そうか! それで、内容は!?」
「我々では分かりません。それで少佐に見て貰おうと」
「ん? どうした?」

 差し出された手紙は、雨に濡れていた。

「どうにか本部との連絡は成功しましたが、密偵は……」
「……密偵は……誰だ?」

 少佐の声はか細く揺れていた。
 手紙にはインクと血が滲み、そこに書かれている字に少佐は覚えがあった。

「オーロラです」
「!?」
「連絡はどうにかとれましたが、彼女は……」
「!?」

 少佐は震える手で手紙を広げた。
 インクが雨で滲んでいる。
 所々に飛び散った血もまた、雨に滲んでいた。

「我々には判読不明の暗号です。少佐なら分かるのではないでしょうか?」
「……あぁ……あぁ……」

 見慣れた筆跡。
 懐かしい字。
 
(オーロラは、彼女は、オレの……)

 少佐は字面を追う。
 所々滲んで判読不明になっているソレは、既に暗号としての機能も失っていた。

 ハッキリと判読できるのは一箇所だけ。

(オレも……愛してる、オーロラ)

 ドーム外の気象は常に荒れている。
 ドーム内に入ることが出来てさえいれば。

(彼女は……今もオレの側に居た)

 解き明かせない暗号は、答えなどくれない。

「それで、少佐?」
「何が書いてあるんだ、少佐?」

 周囲の目が少佐に集まっていた。
 今、この場では。
 彼の決断が、皆の決断に化ける。

「決起するなら今、と」

 皆の声が沸き上がる。

「チャンスが巡ってきたっ!」
「待ってろよ、金持ちどもっ!」
「目に物見せてやるわっ!」

 それぞれに装備を固める。
 物資の足りない状況での、最大の装備。

「足りないモノは奪ってやれ」
「ああ。中に入っちまえば、コッチのもんだ」
「たるみきった金持ち連中から奪うのなんてチョロいもんよ」

 以前からドームの弱点と思われていた場所。
 そこを目指して、走る。
 本当に、そこが弱点かどうかは、分からない。

 いずれにせよ、限界だった。

 我々は雨の中を突っ走っていく。
 未来があろうと、なかろうと。
 唯一の希望へと繋がる場所へと。
 我々は走った。
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