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【短編 一万文字はない】聖女だって真実の愛が欲しい
真実の愛
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「なぜ、アナタがここにいらっしゃるのかしら? アスラル王太子殿下」
「冷たいことを言うね、セーラ嬢」
「今日も無駄に銀髪がキラキラしているようで。ご機嫌麗しゅう殿下」
「キミのラズベリー色の長い髪も迷惑なほどキラキラしているね」
ココはセリウス公爵家の応接室。なぜか、わたくしと王太子殿下は背が低くて洒落たデザインのテーブルを挟んで向かい合って座っています。
「そんな事よりも。セリウス公爵家に来ているというのに、王太子殿下と顔を合わせなければならないのか分かりませんわ」
「うん。それはオレがセリウス公爵家に来たからだね」
「なぜ王太子殿下がいらしたのか、私も知りたいですわ、殿下」
「ルル嬢。あなたがなぜ同席しているのか? それをオレは知りたいね」
「私も殿下がいらした理由を知りたいですわ」
「リリー嬢。あなたも、なぜ当然のように同席しているのかな?」
「それは殿下。ココが我が家の応接室だからではないですかね?」
「セリウス公爵。確かにココは、あなたの家の応接室だね。うん」
「それで、殿下? なぜ、ココに来たのか。わたくしがココに呼ばれた理由は何なのかを教えてくださいませ」
「んー……それを、今聞いちゃう?」
「はい。今聞きますわ」
「えーとだね……あれから父上に怒られたよ」
「あれから、とは?」
「キミに婚約破棄を申し渡した後だ」
「あら、婚約破棄について国王陛下はご存じなかったのですか?」
「まぁ、オレの独断だな」
「それは怒られて当然ですわ」
「そうですわ」
「そうですよ」
「んん? オレの味方はいないのか?」
「ココにはおりませんね」
「セリウス公爵まで。なぜオレばかりが責められる……」
「愚かだから仕方ありませんわ」
「愚かだとっ!」
「えぇ。愚かですわ、殿下」
「キミはいつもそうだっ。オレの機嫌を損ねてばかりいる」
「だって、どなたもおっしゃらないのですもの。わたくしが言う以外、ありませんでしょ?」
「そうね」
「そうよ」
「そうだな」
「それで。国王陛下は、何とおっしゃったのです?」
「ん。セーラは聖女というだけではなく、公爵令嬢だから婚約破棄はならぬ、という事らしい」
「でしょうね」
「そうね」
「そうよ」
「そうだな」
「公爵令嬢だから、というか。わたくし以外に、王太子殿下と釣り合いがとれて王家にメリットのある貴族女性はおりませんもの。国王陛下がお怒りになられても仕方ありませんわ」
「ん。怒るというか、呆れられたがな」
「まぁ。そうなりますよね」
「そうね」
「そうよ」
「そうだな」
「そこでだ。婚約破棄は破棄しようと思う」
「そうなのですか」
「ああ、そうなんだ」
「それで、わたくしがすんなり申し出を受けると思います?」
「……思わないな」
「でしたら、なぜ、殿下はおいでになったのですか?」
「そうせざる負えないからさ」
「それは、どういう意味でしょう?」
「そのままの意味さ。キミと婚約を継続するためには、まず会って直接言わないと」
「それを……わたくしに受け入れろ、と?」
「……」
「都合が良すぎる話ではございませんか?」
「……」
「わたくしに、どんな得があるというのかしら?」
「……」
「ねぇ、殿下?」
「……ダメ、か?」
「そんな頼りなげな表情してもダメですよ。なぜ婚約破棄を申し出たのか、ハッキリおっしゃってください」
「……えっ?」
「キチンとおっしゃって下さい」
「えっ……とぉ……」
「わたくしは、あなたの口から理由を聞きたいのです」
「ん……ホントにキミは……」
「わたくしが、何ですの?」
「キミは、はっきりとモノを言う」
「もちろん言いますわ。だって、ハッキリ言わないと、殿下は理解して下さらないではありませんか」
「でも……オレは、そこまでハッキリ言えない……」
「だったら、ハッキリ言う習慣をお持ちになったらいかがですか?」
「ホント……キミときたら……」
「貴族たるもの感情は外に出さない、など基本的なお説教は結構です」
「……」
「そんなことを聞きたいわけではありませんわ」
「……」
「わたくしたちは、結婚するわけですよね? それは、他の貴族方とは一線を画す立場ではありませんか?」
「……」
「でしたら、そのための努力も必要なのではないですか?」
「……」
「ハッキリ言わないことや感情を読まれないことも必要でしょう。ですが、結婚をするとなれば話は別です。ましてや、あなたは国を背負われる立場の方。生半可な気持ちでは寄り添えません」
「……」
「わたくしに、ごくごく普通の貴族令嬢の姿を求めるのなら、婚約は破棄したままで結構です」
「……」
「ですが、王妃として、国王のパートナーとして、寄り添って欲しいというのであれば。話は別です」
「……」
「ですから、聞かせていただきたいのです。婚約破棄を口にされた本当の理由は何なのですか?」
「……キミが……」
「はい? わたくしが、何なのですか?」
「キミが、あまりに大変そうに見えたから……」
「……」
「聖女の仕事に王妃教育。キミはいつも忙しそうで……大変そうで……」
「……」
「それはオレとの婚約を解消すれば、必要のない大変さで……」
「……」
「だからオレは、キミに聖女の力が無くなったのを理由に……キミを解放してあげたかったんだ……」
「……」
「ホントは嫌だったけど……キミ以外は嫌だったけど……キミに大変な思いをさせているのが自分だと思うと……いたたまれなくて……」
「……」
「……バカだ……」
「そうね……バカよ……」
「そうだな……バカだ……」
「……」
「……ホント……バカな人……」
「分かってるよ……」
「バカで、バカで、しょうがない人ね」
「バカバカ言うなよ、不敬だぞ」
「分かってるわよ」
「オレも自分でバカだと思ってるよ……キミを解放したら……キミは別の人と……」
「そうよ。別の人と結婚するのよ。そんなの分かり切った事じゃない」
「……それを考えたら、たまらなくなって……」
「ホント、バカだわ」
「バカバカ言うな。ホントにバカになる。バカで結構、ってなる」
「それは困るわね。国王がバカでは困るわ」
「だったら、もうバカって言うなよ」
「そうね」
「もう、言わないのか?」
「それは、分からないわ。……わたくしだってバカだし……愚かだもの……」
「……」
「ねぇ、殿下」
「なんだい?」
「殿下は……アスラルさまは、わたくしで良いのね?」
「ああ。キミがいい。キミでないと困る。キミに側に居て欲しい」
「ならば、プロポーズして下さらない?」
「えっ?」
「親同士が決めたものでもなく、国が求めたからというのでもなく。公爵令嬢や聖女という立場で求められているのではないと感じたいの。王太子殿下という立場だからということでもなくて、アスラル。あなたという個人が、わたくしを求めているのだと、感じさせて欲しいわ」
「そんなこと……」
「あなたにとっては、ツマラナイことかもしれないけれど、アスラルさま。わたくしにとっては、大事なことなのよ」
「でも……」
「わたくしは、セーラという一人の女性として求められたいの。そして、アスラルという男性を求めているのよ」
わたくしの言葉に、しばし考え込んだアスラル王太子殿下でしたが、やがて静かに立ち上がり、わたくしの手をとって片膝をついた。
「セーラ。オレと結婚してくれませんか」
「ハイ、喜んで」
わたくしの答えを聞いたセリウス公爵家の皆さんは、嬉々として一斉に拍手をした。
「おめでとうございます、セーラさま」
「ありがとう、ルル」
「おめでとうございます、セーラおねえさま」
「ありがとう、リリー」
「おめでとうございます。セーラ嬢」
「ありがとうございます、アレン公爵さま」
こうして婚約破棄は破棄されて。
わたくしと王太子殿下の結婚式は、国を挙げての華やかなものとなったのでした。
「冷たいことを言うね、セーラ嬢」
「今日も無駄に銀髪がキラキラしているようで。ご機嫌麗しゅう殿下」
「キミのラズベリー色の長い髪も迷惑なほどキラキラしているね」
ココはセリウス公爵家の応接室。なぜか、わたくしと王太子殿下は背が低くて洒落たデザインのテーブルを挟んで向かい合って座っています。
「そんな事よりも。セリウス公爵家に来ているというのに、王太子殿下と顔を合わせなければならないのか分かりませんわ」
「うん。それはオレがセリウス公爵家に来たからだね」
「なぜ王太子殿下がいらしたのか、私も知りたいですわ、殿下」
「ルル嬢。あなたがなぜ同席しているのか? それをオレは知りたいね」
「私も殿下がいらした理由を知りたいですわ」
「リリー嬢。あなたも、なぜ当然のように同席しているのかな?」
「それは殿下。ココが我が家の応接室だからではないですかね?」
「セリウス公爵。確かにココは、あなたの家の応接室だね。うん」
「それで、殿下? なぜ、ココに来たのか。わたくしがココに呼ばれた理由は何なのかを教えてくださいませ」
「んー……それを、今聞いちゃう?」
「はい。今聞きますわ」
「えーとだね……あれから父上に怒られたよ」
「あれから、とは?」
「キミに婚約破棄を申し渡した後だ」
「あら、婚約破棄について国王陛下はご存じなかったのですか?」
「まぁ、オレの独断だな」
「それは怒られて当然ですわ」
「そうですわ」
「そうですよ」
「んん? オレの味方はいないのか?」
「ココにはおりませんね」
「セリウス公爵まで。なぜオレばかりが責められる……」
「愚かだから仕方ありませんわ」
「愚かだとっ!」
「えぇ。愚かですわ、殿下」
「キミはいつもそうだっ。オレの機嫌を損ねてばかりいる」
「だって、どなたもおっしゃらないのですもの。わたくしが言う以外、ありませんでしょ?」
「そうね」
「そうよ」
「そうだな」
「それで。国王陛下は、何とおっしゃったのです?」
「ん。セーラは聖女というだけではなく、公爵令嬢だから婚約破棄はならぬ、という事らしい」
「でしょうね」
「そうね」
「そうよ」
「そうだな」
「公爵令嬢だから、というか。わたくし以外に、王太子殿下と釣り合いがとれて王家にメリットのある貴族女性はおりませんもの。国王陛下がお怒りになられても仕方ありませんわ」
「ん。怒るというか、呆れられたがな」
「まぁ。そうなりますよね」
「そうね」
「そうよ」
「そうだな」
「そこでだ。婚約破棄は破棄しようと思う」
「そうなのですか」
「ああ、そうなんだ」
「それで、わたくしがすんなり申し出を受けると思います?」
「……思わないな」
「でしたら、なぜ、殿下はおいでになったのですか?」
「そうせざる負えないからさ」
「それは、どういう意味でしょう?」
「そのままの意味さ。キミと婚約を継続するためには、まず会って直接言わないと」
「それを……わたくしに受け入れろ、と?」
「……」
「都合が良すぎる話ではございませんか?」
「……」
「わたくしに、どんな得があるというのかしら?」
「……」
「ねぇ、殿下?」
「……ダメ、か?」
「そんな頼りなげな表情してもダメですよ。なぜ婚約破棄を申し出たのか、ハッキリおっしゃってください」
「……えっ?」
「キチンとおっしゃって下さい」
「えっ……とぉ……」
「わたくしは、あなたの口から理由を聞きたいのです」
「ん……ホントにキミは……」
「わたくしが、何ですの?」
「キミは、はっきりとモノを言う」
「もちろん言いますわ。だって、ハッキリ言わないと、殿下は理解して下さらないではありませんか」
「でも……オレは、そこまでハッキリ言えない……」
「だったら、ハッキリ言う習慣をお持ちになったらいかがですか?」
「ホント……キミときたら……」
「貴族たるもの感情は外に出さない、など基本的なお説教は結構です」
「……」
「そんなことを聞きたいわけではありませんわ」
「……」
「わたくしたちは、結婚するわけですよね? それは、他の貴族方とは一線を画す立場ではありませんか?」
「……」
「でしたら、そのための努力も必要なのではないですか?」
「……」
「ハッキリ言わないことや感情を読まれないことも必要でしょう。ですが、結婚をするとなれば話は別です。ましてや、あなたは国を背負われる立場の方。生半可な気持ちでは寄り添えません」
「……」
「わたくしに、ごくごく普通の貴族令嬢の姿を求めるのなら、婚約は破棄したままで結構です」
「……」
「ですが、王妃として、国王のパートナーとして、寄り添って欲しいというのであれば。話は別です」
「……」
「ですから、聞かせていただきたいのです。婚約破棄を口にされた本当の理由は何なのですか?」
「……キミが……」
「はい? わたくしが、何なのですか?」
「キミが、あまりに大変そうに見えたから……」
「……」
「聖女の仕事に王妃教育。キミはいつも忙しそうで……大変そうで……」
「……」
「それはオレとの婚約を解消すれば、必要のない大変さで……」
「……」
「だからオレは、キミに聖女の力が無くなったのを理由に……キミを解放してあげたかったんだ……」
「……」
「ホントは嫌だったけど……キミ以外は嫌だったけど……キミに大変な思いをさせているのが自分だと思うと……いたたまれなくて……」
「……」
「……バカだ……」
「そうね……バカよ……」
「そうだな……バカだ……」
「……」
「……ホント……バカな人……」
「分かってるよ……」
「バカで、バカで、しょうがない人ね」
「バカバカ言うなよ、不敬だぞ」
「分かってるわよ」
「オレも自分でバカだと思ってるよ……キミを解放したら……キミは別の人と……」
「そうよ。別の人と結婚するのよ。そんなの分かり切った事じゃない」
「……それを考えたら、たまらなくなって……」
「ホント、バカだわ」
「バカバカ言うな。ホントにバカになる。バカで結構、ってなる」
「それは困るわね。国王がバカでは困るわ」
「だったら、もうバカって言うなよ」
「そうね」
「もう、言わないのか?」
「それは、分からないわ。……わたくしだってバカだし……愚かだもの……」
「……」
「ねぇ、殿下」
「なんだい?」
「殿下は……アスラルさまは、わたくしで良いのね?」
「ああ。キミがいい。キミでないと困る。キミに側に居て欲しい」
「ならば、プロポーズして下さらない?」
「えっ?」
「親同士が決めたものでもなく、国が求めたからというのでもなく。公爵令嬢や聖女という立場で求められているのではないと感じたいの。王太子殿下という立場だからということでもなくて、アスラル。あなたという個人が、わたくしを求めているのだと、感じさせて欲しいわ」
「そんなこと……」
「あなたにとっては、ツマラナイことかもしれないけれど、アスラルさま。わたくしにとっては、大事なことなのよ」
「でも……」
「わたくしは、セーラという一人の女性として求められたいの。そして、アスラルという男性を求めているのよ」
わたくしの言葉に、しばし考え込んだアスラル王太子殿下でしたが、やがて静かに立ち上がり、わたくしの手をとって片膝をついた。
「セーラ。オレと結婚してくれませんか」
「ハイ、喜んで」
わたくしの答えを聞いたセリウス公爵家の皆さんは、嬉々として一斉に拍手をした。
「おめでとうございます、セーラさま」
「ありがとう、ルル」
「おめでとうございます、セーラおねえさま」
「ありがとう、リリー」
「おめでとうございます。セーラ嬢」
「ありがとうございます、アレン公爵さま」
こうして婚約破棄は破棄されて。
わたくしと王太子殿下の結婚式は、国を挙げての華やかなものとなったのでした。
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