そんなに妹がお好きなら結婚したらどうですか? ほか短編・中編ファンタジー系まとめてみたよ短編集

天田れおぽん

文字の大きさ
7 / 93
【短編 一万文字はない】巻き込まれ召喚された聖女じゃない方は静かに森で暮らしたい

親友と巻き込まれ召喚

しおりを挟む
 噂に聞いていたソレは突然、やってきた。

「ちょっ……なに? この光っ」

「あぁぁ、なんかヤバそう。ひっぱられるっ!」

「アリサ⁈」

「ああっ、体が持っていかれるっ! マリモっ、助けてっ!」 

 ついさっきまで私たちは平常営業だったのに。
 
 高校からの帰り道。

 私、森下マリモと江川アリサは幼馴染の仲良しさん。

 私たちは、いつも通りキャッキャウフフしながらバスを降りて自宅に向かっていた。

 秋の深まる十月の終わり。

 少し肌寒い風を受けながら、同じ高校に通う私たちは、お揃いの制服を着て通い慣れた道を歩く。

 家から近い事と制服の可愛さで選んだ高校だ。

 当然ながら可愛い制服を着た私たちは可愛い。

 箱ひだのスカートは茶色にグリーンのチェック柄。

 茶色のブレザーには、スカートと同じ生地がポイントとして使われている。

 白の長袖シャツには、えんじ色のリボン。

 白のハイソックスに濃い茶色のローファー。

 それが一体、どうしてこうなった?

 足元に光が走って意味の分からない模様が浮かび上がり、ついでとばかりに私たちも浮き上がる。

「ちょっとー! ナニコレッ魔法陣⁈ あぁ、ヤバい!」

「ちょっ、アリサーーーっ⁈」

 あきらかにアリサ狙いの魔法陣に、アリサの体がグイグイ持って行かれる。

 そんな彼女の体を引き留めようと、その手を掴んだ私の体もグイグイ持って行かれているのだ。

 ヤバい。

 コレはヤバい。

 本格的にヤバい空気しかない。

「コレって、アレ⁈」

「異世界召喚⁈」

「ちょっと、ちょっと、ダメダメつ、ちょい待ちぃ~」

「ああ、ヤバいっ! 私、せっかくコンサートのチケット取ったのにぃ~!」

「私なんて待ちに待ったグッズの受け取りが明日っ!」

「ああっー⁈ マズイ、マズイ、マズイー!」

「キャー! 引き込まれるぅ~!」

 などと騒いでいる間に。

 哀れ私たちは、真っ白な光のなかに取り込まれてしまったのだった。


 目が覚めた時。

 私とアリサは抱き合っていた。

 そんな私たちを取り囲む人たちは、見慣れない衣装を着ている。

 ついでに言えば、場所だって見慣れない。

 室内のようだが、やたと白い。

 荘厳な感じで広いのに余分なモノが置いていない、スペース使いが贅沢な場所だ。

 天井もやたらと高い。

『聖女さまが召喚されましたー!』
『神官たちを集めろー』
『護衛騎士が足りないー』

 大声で怒鳴り合う声とバタバタした気配が伝わって来る。

 私たちがうずくまっているのは大理石の床のようだ。

 ひんやりとしている。

 それでも寒いとは思わなかった。

 そこそこ気温の高い時期なのか、暖房が入っているのか。

「あの……聖女、さま?」

 抱き合いながらキョロキョロしている私たちに声を掛けてきたのは白い服を着た男性だ。

「私は神官のカークと申します」

 うん、知ってた。

 その白のズルズルした感じの衣装は神官のだよね。

「あ、ども」

「こんにちは」

 私とアリサはとりあえず挨拶をした。

 カーク神官は、長い青みがかかった銀髪をキラキラさせて言う。

「いきなり召喚してしまって申し訳ありません。突然の事で驚かれたでしょうが、事前にお伺いする手段など無く……かつ、緊急の事態が起こっております。つきましては、私どものお願いを聞いて頂きたく存じますが、よろしいでしょうか?」

「はぁ……」
「……」

 よろしくねぇーよっ、バカヤロウ!

 怒鳴ってやりたかったが、耐えた。

 こちとら知らない場所に二人きり。

 いきなり連れて来られてしまった弱い立場だ。

 いきなりケンカをふっかけて寝床やご飯の心配をしなきゃいけなくなるのは願い下げ。

「カーク神官どの。いきなり話を始めるのは、ちょっと……。まずは落ち着いて話の出来る場所に移動するのが先ではないかな?」

「これはアーサー王太子殿下。そうですね。失礼いたしました。では、お茶の用意でもさせますので。まずは場所を変えましょう」

「はぁ……」

「分かりました。行きましょう、マリモ」

「うん、アリサ」

 案内されたのは、またまた広い応接室。

 大きなテーブルの上には色とりどりのお菓子が並べられていて、紅茶のよい香りが漂っていた。

「これって全部、焼き菓子みたいね」

「そうね、マリモ。生菓子とかは、なさそうな世界ね」

 案内された席に座り、一同を見渡す。

 先ほどの神官と、ほかにも数名の白い服を着た人たちが一箇所に集まって座っている。

 大きなテーブルの一角が白い。

 反対側には黒い騎士服を着た人たちがいた。

 その中でもひときわ体の大きい、褐色の肌に黒い短髪、黒い瞳の男臭い騎士が名乗った。

「オレは騎士のスノウ。こちらにいるのは、オレの部下です。アナタたちの護衛を任されました」

「はぁ」

「よろしくお願いします」

 護衛が必要な世界なのかぁ。

 顔をしかめてアリサを見れば、彼女もしかめっ面をしていた。

 治安の良い日本の女子高生だ。

 治安が悪い世界は、ちょいビビる。

「私はアーサー。この国の第一王子です。我が国を守るために、アナタたちを召喚させて貰った。いきなりの召喚について、お詫びさせて頂きたい」

 青い騎士を着た男が自己紹介した。金色のキラキラ光る髪に整った顔。青い瞳。いかにも王子さま、といった風貌のアーサーがニッコリと笑ってこちらを見ている。

「はぁ」

「そうですか……事情を話していただけますか?」 

「それはボクの方から離させて頂こうかな」

 そこには、神官たちと同じ衣装の上から赤い布を羽織っている男がいた。

「あぁ、賢者ライさま。いらしていたのですね」

「はい」

 ニコニコしているライは、茶髪茶目の優しそうな男だ。

 賢者、と、呼ばれている割に若く見える。

 細身で小柄なせいかもしれない。

「こちらの人たちは年齢不詳ね」

「そうね。日本人も年齢が分からないっていうけど。この世界の人たちも年齢が分からないわ。しかも、美形揃い」

「うんうん、アリサもそう思った?」

 二人でコソコソ話をしていると、ライがゴホンとわざとらしい咳をした。

「では、説明をさせて頂きます、聖女さま。この世界には瘴気というものがあります。瘴気が少なければ自然に分解されて悪影響はないのですが、最近は増えてきて危機を迎えているのです。瘴気が増えると作物は枯れ、獣は魔獣化し、空気も汚染され、しまいには太陽さえも隠れてしまう、と言い伝えられています」

「言い伝えなのね?」

「まだ危機的状況じゃ、ないんだ」

「ええ。まだ大丈夫です。ですが時間の問題なのです。そこで聖女さまに来て頂いたのです。聖女さまが祈ることにより、瘴気は浄化され無害化します。お願いです、聖女さま。ボクたちのために祈りを捧げて下さいませんか?」

「えーと、祈りといいますと?」

「私たち、ただの日本人女子高生だから祈りとか分からないんだけど」

「そうですか。では、私の真似をしてください」

 カーク神官はお手本を見せた。

 手を合わせて何かモゴモゴと言っている。

「それでいいのね?」

 アリサはモゴモゴの部分が聞き取れたのか、すぐに真似をして祈った。

 すると、アリサの回りがキラキラと光り出したではないか。

「おお。これぞ異世界っ!」

 私が手を叩きながら感動していると、周囲からも拍手が沸き起こった。

『聖女だ』
『聖女さまが来て下さったんだ』
『これで、この国は安泰だ』

 ザワザワとした声が聞こえる。

「感動していないで。マリモもやってみて」

「うっ……うん」

 私も手を合わせて祈った。

 祈ってみた。

 モゴモゴに当たる部分もテキトーに何か言ってみた。

「……あら?」

「こちらのお嬢さんは、聖女ではなかったようですね」

「あらら? それじゃ、マリモは……私が巻き込んじゃったわけ?」

「はぅっ」

 これは……私は要らない子の流れ?

 さっきまで歓迎ムードだった人たちの雰囲気が変わったぞ。

 ……いぢめる? わたし、召喚されたオマケの子として、いぢめられちゃうのぉ~? 
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【長編版】この戦いが終わったら一緒になろうと約束していた勇者は、私の目の前で皇女様との結婚を選んだ

・めぐめぐ・
恋愛
神官アウラは、勇者で幼馴染であるダグと将来を誓い合った仲だったが、彼は魔王討伐の褒美としてイリス皇女との結婚を打診され、それをアウラの目の前で快諾する。 アウラと交わした結婚の約束は、神聖魔法の使い手である彼女を魔王討伐パーティーに引き入れるためにダグがついた嘘だったのだ。 『お前みたいな、ヤれば魔法を使えなくなる女となんて、誰が結婚するんだよ。神聖魔法を使うことしか取り柄のない役立たずのくせに』 そう書かれた手紙によって捨てらたアウラ。 傷心する彼女に、同じパーティー仲間の盾役マーヴィが、自分の故郷にやってこないかと声をかける。 アウラは心の傷を癒すため、マーヴィとともに彼の故郷へと向かうのだった。 捨てられた主人公がパーティー仲間の盾役と幸せになる、ちょいざまぁありの恋愛ファンタジー長編版。 --注意-- こちらは、以前アップした同タイトル短編作品の長編版です。 一部設定が変更になっていますが、短編版の文章を流用してる部分が多分にあります。 二人の関わりを短編版よりも増しましたので(当社比)、ご興味あれば是非♪ ※色々とガバガバです。頭空っぽにしてお読みください。 ※力があれば平民が皇帝になれるような世界観です。

偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて

奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】 ※ヒロインがアンハッピーエンドです。  痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。  爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。  執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。  だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。  ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。  広場を埋め尽くす、人。  ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。  この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。  そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。  わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。  国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。  今日は、二人の婚姻の日だったはず。  婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。  王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。 『ごめんなさい』  歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。  無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。

【完結】次期聖女として育てられてきましたが、異父妹の出現で全てが終わりました。史上最高の聖女を追放した代償は高くつきます!

林 真帆
恋愛
マリアは聖女の血を受け継ぐ家系に生まれ、次期聖女として大切に育てられてきた。  マリア自身も、自分が聖女になり、全てを国と民に捧げるものと信じて疑わなかった。  そんなマリアの前に、異父妹のカタリナが突然現れる。  そして、カタリナが現れたことで、マリアの生活は一変する。  どうやら現聖女である母親のエリザベートが、マリアを追い出し、カタリナを次期聖女にしようと企んでいるようで……。 2022.6.22 第一章完結しました。 2022.7.5 第二章完結しました。 第一章は、主人公が理不尽な目に遭い、追放されるまでのお話です。 第二章は、主人公が国を追放された後の生活。まだまだ不幸は続きます。 第三章から徐々に主人公が報われる展開となる予定です。

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

【完結】濡れ衣聖女はもう戻らない 〜ホワイトな宮廷ギルドで努力の成果が実りました

冬月光輝
恋愛
代々魔術師の名家であるローエルシュタイン侯爵家は二人の聖女を輩出した。 一人は幼き頃より神童と呼ばれた天才で、史上最年少で聖女の称号を得たエキドナ。 もう一人はエキドナの姉で、妹に遅れをとること五年目にしてようやく聖女になれた努力家、ルシリア。 ルシリアは魔力の量も生まれつき、妹のエキドナの十分の一以下でローエルシュタインの落ちこぼれだと蔑まれていた。 しかし彼女は努力を惜しまず、魔力不足を補う方法をいくつも生み出し、教会から聖女だと認められるに至ったのである。 エキドナは目立ちたがりで、国に一人しかいなかった聖女に姉がなることを良しとしなかった。 そこで、自らの家宝の杖を壊し、その罪を姉になすりつけ、彼女を実家から追放させた。 「無駄な努力」だと勝ち誇った顔のエキドナに嘲り笑われたルシリアは失意のまま隣国へと足を運ぶ。 エキドナは知らなかった。魔物が増えた昨今、彼女の働きだけでは不足だと教会にみなされて、姉が聖女になったことを。 ルシリアは隣国で偶然再会した王太子、アークハルトにその力を認められ、宮廷ギルド入りを勧められ、宮仕えとしての第二の人生を送ることとなる。 ※旧タイトル『妹が神童だと呼ばれていた聖女、「無駄な努力」だと言われ追放される〜「努力は才能を凌駕する」と隣国の宮廷ギルドで証明したので、もう戻りません』

(完結)お荷物聖女と言われ追放されましたが、真のお荷物は追放した王太子達だったようです

しまうま弁当
恋愛
伯爵令嬢のアニア・パルシスは婚約者であるバイル王太子に突然婚約破棄を宣言されてしまうのでした。 さらにはアニアの心の拠り所である、聖女の地位まで奪われてしまうのでした。 訳が分からないアニアはバイルに婚約破棄の理由を尋ねましたが、ひどい言葉を浴びせつけられるのでした。 「アニア!お前が聖女だから仕方なく婚約してただけだ。そうでなけりゃ誰がお前みたいな年増女と婚約なんかするか!!」と。 アニアの弁明を一切聞かずに、バイル王太子はアニアをお荷物聖女と決めつけて婚約破棄と追放をさっさと決めてしまうのでした。 挙句の果てにリゼラとのイチャイチャぶりをアニアに見せつけるのでした。 アニアは妹のリゼラに助けを求めましたが、リゼラからはとんでもない言葉が返ってきたのでした。 リゼラこそがアニアの追放を企てた首謀者だったのでした。 アニアはリゼラの自分への悪意を目の当たりにして愕然しますが、リゼラは大喜びでアニアの追放を見送るのでした。 信じていた人達に裏切られたアニアは、絶望して当てもなく宿屋生活を始めるのでした。 そんな時運命を変える人物に再会するのでした。 それはかつて同じクラスで一緒に学んでいた学友のクライン・ユーゲントでした。 一方のバイル王太子達はアニアの追放を喜んでいましたが、すぐにアニアがどれほどの貢献をしていたかを目の当たりにして自分達こそがお荷物であることを思い知らされるのでした。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 全25話執筆済み 完結しました

【完結】たぶん私本物の聖女じゃないと思うので王子もこの座もお任せしますね聖女様!

貝瀬汀
恋愛
ここ最近。教会に毎日のようにやってくる公爵令嬢に、いちゃもんをつけられて参っている聖女、フレイ・シャハレル。ついに彼女の我慢は限界に達し、それならばと一計を案じる……。ショートショート。※題名を少し変更いたしました。

聖女の、その後

六つ花えいこ
ファンタジー
私は五年前、この世界に“召喚”された。

処理中です...