【完結】冷遇された瘴気払いの夜伽聖女は、召喚した呪われ王子に溺愛される

天田れおぽん

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第五話 ムフフな召喚魔法を試します

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「ん……これでよし、と」

 レイチェルは、必要な物を揃えて床に並べた。
 絨毯も敷かれていない場所とはいえ、王宮の床は美しい。

「汚さないといいけど……」

 ちょっとしたリスクはあるが、レイチェルに止めるという選択肢はない。
 窓はしっかり閉まっていて、厚手のカーテンが引かれている。
 外は夜の帳が下りていて、夕食も済ませたレイチェルの部屋へ訪れる者は誰もいない。
 白いワンピース型のナイトウエアに着替えも済ませた。
 他人の目を気にすることなく、ゆっくりと自分のために時間を使える。

「1人になれる時間が長くて、ちょうどよかったわ」

 誰に聞かせるともなく、レイチェルは呟く。

(神殿時代に、先生役の先輩聖女から聞いたことがある。魔力豊富な聖女は、召喚魔法を使えるって)

 王宮で暮らすには、それなりの決まり事がある。
 魔法を勝手に使うことは、基本的には禁止だ。

(でも呪いなんて、そこかしこで色んな人たちがかけているわけだし。今さらよね。それにわたしは、次の『国王の夜伽聖女』なわけだし。みんな馬鹿にしているけど、この国での聖女の地位は高いんだから。少しくらい勝手な事をしたっていいわよね)

 国王が一番上で、王妃がその次。
 高位貴族たちも控えているが、側妃の地位も見逃せない。
 権力闘争が激しいこの国では、誰が次点かクルクル変わる。
 側妃相当の地位を持つ『国王の夜伽聖女』は、豊富な魔力量と、その魔力を聖力に転換できる力を持っていることもあって、王妃とさして変わらない権力を持っているのだ。

(今の王妃さまは『国王の夜伽聖女』でもあるルシアナさまだから……実質、国王と王妃の権力は変わらない。次点といえば、王妃派の高位貴族かしらね。ホルツさまは、いまのところ未参戦といったところだわ)

 ルシアナはホルツの母だ。
 前王妃であり、クロイツ王子の母でもあるクロエ王妃は、息子よりも先に亡くなっている。

(クロイツ王子が亡くなることもなく、クロエ王妃も生きていたら。わたしだって、こんなに冷遇されていなかったと思うのよ)

 前王妃から王妃の地位を引き継ぎ、『国王の夜伽聖女』でもあるルシアナの権力は強大だ。
 シュルツ現国王と同等か、それ以上と言われている。
 そのせいか、王太子の地位に就いたホルツのレイチェルへの態度は更に酷くなった。
 娼婦扱いして軽蔑していた夜伽聖女が、自分と同等かそれ以上の力を持つ可能性に気付いてしまったからだろう。

(だからって、わたしの瘴気払いを拒否する必要はないのに。わたしには後ろ盾がないのだから、権力が国王を上回ることは万に1つもないわ。お母さまであるルシアナさまが王妃になったことで、ホルツさまへと向けられる呪いは、より強くなっているというのに)

 ノラに全幅の信頼を置いているホルツが、神殿で瘴気払いしてもらっているとは思えない。

(今となっては、この国に王子はホルツさましかない。ホルツさまに万が一のことがあれば、この国は亡びる。なのにあの方には、その自覚がない)

 いずれ沈む泥舟に乗せられている気分をレイチェルは味わっていた。
 それと同時に、不必要な侮辱も。

(なんて理不尽なのかしら。でも、流されるまま不幸になるなんてイヤ! わたしは、自分なりに幸せを求めさせていただきます!)

 レイチェルは一冊の本を開いた。
 複数の本をチェックしてみたが、コレが一番よさそうだと思ったからだ。

(聞いたのは間男を召喚して楽しむ夜伽聖女の話だけど。わたしの『聖女紋』には『国王の夜伽聖女』としての紋が追加されているから、男性を召喚してもやましいことは出来ないわ。……いえ、やましいことがしたいというわけではないけど……いや興味はあるけど……。そういうことじゃないっ!)

 レイチェルは頭を横にブンブンと振った。
 ピンク色の髪がフワフワと揺れる。
 
(エッチなことがしたいのではなくて、わたしが求めているのは、わたしなりの幸せよ。このまま孤独でいることが嫌なの)

 灯りを減らして部屋を薄暗くすると、レイチェルは本を床に広げ、自分も床に腰を下ろした。

「えーと……」

 レイチェルは本へ視線を落としながら、自らの欲する機能を加えた魔法陣を思い描く。
 すると足を折りたたんで床に座るレイチェルの膝の少し先の辺りから、ピンク色に発光する線が現れ始めた。
 それはみるみるうちに床を這い、模様を描いていく。
 
「お試しだから、こんな感じでいいかな」

 レイチェルは満足そうな笑みを浮かべて頷くと、目を閉じて集中した。
 一気に高まった魔力が聖力となり、魔法陣に力が注がれる。
 バンッと風圧と共に魔法陣が浮き上がった気配を感じて、レイチェルは目を開けた。
 そして、ブツブツと聞き取れない言葉で呪文を唱えた。
 ひときわ輝きを増した魔法陣が七色の光を巡らせながら動き出す。
 呪文の詠唱を終えたレイチェルの顔が光の中に浮かび上がる。
 ピンク色の髪がバサバサと音を立てて後ろになびき、アメジスト色の瞳は期待に輝く。
 
「さぁ、いらっしゃい。わたしの寂しさを埋めるものよ。ここへ――――」

 目の眩むまばゆい光がパアァァァッと魔法陣から立ち上り、薄暗い部屋を明るく照らした。
 それは、ほんの一瞬のこと。
 スッと光が収まると魔法陣ごと消えて。
 黒くて小さな犬が不思議そうに首を傾げ、「きゅ~ん」と小さな声で鳴きながらレイチェルを見ていた。
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