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第八話 煌めく金色のポメラニアン?
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(うぅ~ん……眩しい……もう朝? あら? いつメイドがカーテンを開けに来たのかしら?)
レイチェルは、何となく眩しくて目が覚めた。
だがメイドの冷たい声を聞いた覚えがない。
不思議に思ってモゾモゾしながら目を開けると、視界に金色の毛並みが映った。
(え? 金色? なぜ? 私が一緒に寝たのは黒いポメラニアンだったはず……)
レイチェルは目だけ動かして窓辺を見た。
カーテンはキチンと閉まったままで、メイドの気配もない。
隙間から入り込む光も見えないところをみると、窓の外はまだ暗いようだ。
なのに、目の前が灯りをつけたように明るい。
レイチェルは事態を察して飛び起きた。
金色のポメラニアンも、その衝撃で目が覚めたようだ。
目を丸くしてパチパチとまばたきしている。
レイチェルはベッドの上に座った。
そして金色のポメラニアンの左右の脇に右手と左手を差し込んで抱き上げ、自分の目の高さに持ってきて覗き込む。
「あなた……呪われていたのね」
レイチェルは夜伽聖女だ。
魔力量も多いので大掛かりな呪いも撥ね退けることができるし、一緒にいるだけで呪いを払うこともできる。
その分、呪いの気配には敏感であった。
一緒にいるだけでも自然に呪いを解き、様々な瘴気も浄化してしまう能力があるので、気付かずにいると消耗しすぎてしまう恐れがあるからだ。
時には命の危険を招いてしまうこともある能力であるゆえに、干渉してくる力や悪意に対して敏感であるし、そうあるべく訓練も受けている。
しかし昨夜は、犬から呪いの気配を感じとることはできなかった。
魔力量の多いレイチェルは、感知能力にも長けている。
(わたしが感じ取れないほどの呪いなんて……この犬には、どれだけ高度な術が使われているの?)
ポメラニアンの毛並みは光り輝く金色になっているが、瞳は黒いままだ。
「この気配は……まだ呪いが解けきってない?」
レイチェルは犬を膝に置き、手のひらを使って全身をくまなく撫でた。
手の平から魔力を軽く放出しながら撫でて、呪いの痕跡などを探るためだ。
レイチェルは金色のポメラニアンの全身を丁寧に探っていく。
(解けかけてはいるけど、まだ呪われている。……それにしても、これはなに? 体内に呪いへ対抗するための魔法陣とか色々なものがたくさん仕込まれているっ。しかもかなり高度で複雑なタイプの……)
そこでレイチェルはハッとして金色のポメラニアンを抱え上げると、その顔を再び覗き込んだ。
「もしかして……あなたは、犬ではない?」
聞かれたポメラニアンは、プルプル小刻みに震えながら顔を傾げている。
頼りなく小刻みに顔を動かすポメラニアンは可愛らしいが、本性が可愛いかどうかは分からない。
なぜならレイチェルが探った対抗魔法陣のなかに、別の動物に化けて呪いをかわすものがあったからだ。
それならば呪われた犬が出来上がっても不思議はない。
「まだ人間として反応できるほど、呪いが解けてないのかしら? でも……ここまでの対抗策を仕込んでもらえる立場の人間といったら限られる……」
1つの可能性に思い当たって、レイチェルは顔色を変えた。
「もしかして……クロイツ王太子殿下⁉」
思わず声が出てしまって、レイチェルは口を押えた。
急に手を離された犬は、ポテッと彼女の膝の上に落ちた。
(ちょっと待って⁉ この犬がクロイツ王太子殿下だったら、大変なことだわっ!)
レイチェルは両手で口を押えたまま、膝の上でこちらを見上げてくる小さな犬を、恐々と見つめた。
(夜伽聖女だったヘレンさまが惨い死に方をされたというのもあるけれど……クロイツ王太子殿下が生きていたとなれば、ホルツさまの立場も変わる。王位争いになれば厄介だわ)
小さな犬が黒い毛だろうと金色の毛だろうと問題はないが、王位争いが起きれば政治が荒れる。
(それにクロイツ王太子殿下殺害にはクロエ王妃が関わっているのではないか、という噂もあったわ。いずれにせよ、これは大変なことになる!)
金色のポメラニアンは何も分かってはいなさそうな顔をして、ハッハッと息を吐きながらレイチェルを見上げていた。
(あぁぁぁぁぁぁっ、なんて可愛いの! 厄介なことになろうと、大変なことになろうと。金色のポメラニアンをそのままになんてしておけないっ)
「仕方ないわ。乗り掛かった舟よ」
レイチェルは枕元にあった魔道具を起動して光や音が漏れないよう室内を遮蔽し、状況がよく見えるように魔法で光を灯した。
そして膝の上にいる金色のポメラニアンへ手をかざし、目を閉じて集中した。
彼女の手の平から青い光がジワジワと零れ始める。
青い光は金色の毛皮へと滴り落ちるようにして染み込んでいく。
レイチェルがブツブツと聞き取れない言葉で呪文を唱えると、青い光は犬の体の全体へと発光しながら広がっていった。
彼女がパッと目を開けると、アメジスト色の瞳と同じ色の光が全身から発せられた。
同時に額に聖女紋が浮き上がる。
七色に輝くそれは、ハートの模様に蔦が絡んでいるような文様をしていた。
発光した聖女紋は、生きているように彼女の体を伝って広がっていく。
どこからともなく巻き上がる風に彼女のピンク色の髪がバサバサと音を立ててなびいた。
「解けよ呪い。この者から立ち去れ!」
気合を込めた声を浴びた金色のポメラニアンは驚きの表情を浮かべて小さく「キャン」と鳴く。
つぶらな瞳がレイチェルを凝視している。
黒かった瞳はみるみるうちに色を失っていき、金色の瞳に変わった。
聖女の文様は彼女の体から更に伸び、白いベッドの上を縁取るようにして七色に輝いている。
(やはりこの方は……)
レイチェルが確信した瞬間。
ボンッと音を立てて犬の小さな体が白い光に包まれ、衝撃が強風となって周囲に散らばった。
レイチェルは、何となく眩しくて目が覚めた。
だがメイドの冷たい声を聞いた覚えがない。
不思議に思ってモゾモゾしながら目を開けると、視界に金色の毛並みが映った。
(え? 金色? なぜ? 私が一緒に寝たのは黒いポメラニアンだったはず……)
レイチェルは目だけ動かして窓辺を見た。
カーテンはキチンと閉まったままで、メイドの気配もない。
隙間から入り込む光も見えないところをみると、窓の外はまだ暗いようだ。
なのに、目の前が灯りをつけたように明るい。
レイチェルは事態を察して飛び起きた。
金色のポメラニアンも、その衝撃で目が覚めたようだ。
目を丸くしてパチパチとまばたきしている。
レイチェルはベッドの上に座った。
そして金色のポメラニアンの左右の脇に右手と左手を差し込んで抱き上げ、自分の目の高さに持ってきて覗き込む。
「あなた……呪われていたのね」
レイチェルは夜伽聖女だ。
魔力量も多いので大掛かりな呪いも撥ね退けることができるし、一緒にいるだけで呪いを払うこともできる。
その分、呪いの気配には敏感であった。
一緒にいるだけでも自然に呪いを解き、様々な瘴気も浄化してしまう能力があるので、気付かずにいると消耗しすぎてしまう恐れがあるからだ。
時には命の危険を招いてしまうこともある能力であるゆえに、干渉してくる力や悪意に対して敏感であるし、そうあるべく訓練も受けている。
しかし昨夜は、犬から呪いの気配を感じとることはできなかった。
魔力量の多いレイチェルは、感知能力にも長けている。
(わたしが感じ取れないほどの呪いなんて……この犬には、どれだけ高度な術が使われているの?)
ポメラニアンの毛並みは光り輝く金色になっているが、瞳は黒いままだ。
「この気配は……まだ呪いが解けきってない?」
レイチェルは犬を膝に置き、手のひらを使って全身をくまなく撫でた。
手の平から魔力を軽く放出しながら撫でて、呪いの痕跡などを探るためだ。
レイチェルは金色のポメラニアンの全身を丁寧に探っていく。
(解けかけてはいるけど、まだ呪われている。……それにしても、これはなに? 体内に呪いへ対抗するための魔法陣とか色々なものがたくさん仕込まれているっ。しかもかなり高度で複雑なタイプの……)
そこでレイチェルはハッとして金色のポメラニアンを抱え上げると、その顔を再び覗き込んだ。
「もしかして……あなたは、犬ではない?」
聞かれたポメラニアンは、プルプル小刻みに震えながら顔を傾げている。
頼りなく小刻みに顔を動かすポメラニアンは可愛らしいが、本性が可愛いかどうかは分からない。
なぜならレイチェルが探った対抗魔法陣のなかに、別の動物に化けて呪いをかわすものがあったからだ。
それならば呪われた犬が出来上がっても不思議はない。
「まだ人間として反応できるほど、呪いが解けてないのかしら? でも……ここまでの対抗策を仕込んでもらえる立場の人間といったら限られる……」
1つの可能性に思い当たって、レイチェルは顔色を変えた。
「もしかして……クロイツ王太子殿下⁉」
思わず声が出てしまって、レイチェルは口を押えた。
急に手を離された犬は、ポテッと彼女の膝の上に落ちた。
(ちょっと待って⁉ この犬がクロイツ王太子殿下だったら、大変なことだわっ!)
レイチェルは両手で口を押えたまま、膝の上でこちらを見上げてくる小さな犬を、恐々と見つめた。
(夜伽聖女だったヘレンさまが惨い死に方をされたというのもあるけれど……クロイツ王太子殿下が生きていたとなれば、ホルツさまの立場も変わる。王位争いになれば厄介だわ)
小さな犬が黒い毛だろうと金色の毛だろうと問題はないが、王位争いが起きれば政治が荒れる。
(それにクロイツ王太子殿下殺害にはクロエ王妃が関わっているのではないか、という噂もあったわ。いずれにせよ、これは大変なことになる!)
金色のポメラニアンは何も分かってはいなさそうな顔をして、ハッハッと息を吐きながらレイチェルを見上げていた。
(あぁぁぁぁぁぁっ、なんて可愛いの! 厄介なことになろうと、大変なことになろうと。金色のポメラニアンをそのままになんてしておけないっ)
「仕方ないわ。乗り掛かった舟よ」
レイチェルは枕元にあった魔道具を起動して光や音が漏れないよう室内を遮蔽し、状況がよく見えるように魔法で光を灯した。
そして膝の上にいる金色のポメラニアンへ手をかざし、目を閉じて集中した。
彼女の手の平から青い光がジワジワと零れ始める。
青い光は金色の毛皮へと滴り落ちるようにして染み込んでいく。
レイチェルがブツブツと聞き取れない言葉で呪文を唱えると、青い光は犬の体の全体へと発光しながら広がっていった。
彼女がパッと目を開けると、アメジスト色の瞳と同じ色の光が全身から発せられた。
同時に額に聖女紋が浮き上がる。
七色に輝くそれは、ハートの模様に蔦が絡んでいるような文様をしていた。
発光した聖女紋は、生きているように彼女の体を伝って広がっていく。
どこからともなく巻き上がる風に彼女のピンク色の髪がバサバサと音を立ててなびいた。
「解けよ呪い。この者から立ち去れ!」
気合を込めた声を浴びた金色のポメラニアンは驚きの表情を浮かべて小さく「キャン」と鳴く。
つぶらな瞳がレイチェルを凝視している。
黒かった瞳はみるみるうちに色を失っていき、金色の瞳に変わった。
聖女の文様は彼女の体から更に伸び、白いベッドの上を縁取るようにして七色に輝いている。
(やはりこの方は……)
レイチェルが確信した瞬間。
ボンッと音を立てて犬の小さな体が白い光に包まれ、衝撃が強風となって周囲に散らばった。
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