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第十二話 謁見
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クロイツは白地に金刺繍と金モールを飾った王太子らしい貴族服で身を包んだ。足元は白の革靴だ。
(服を着たクロイツさまも素敵~)
レイチェルは、うっとりと自分の主を見つめた。
クロイツが発見された後、国王との謁見は速やかに整えられた。
謁見の間へ出向くため準礼装に身を包んで廊下を歩くクロイツの後ろに、レイチェルは聖女の正装で続いた。
(わたしはいつものスリップドレスに、貫頭衣のような白い上着を羽織っただけだから質素ではあるけれど……これが聖女の正装なのだから仕方ないわ)
ズルズルした印象の衣装は正装というにはラフな印象だ。
しかし、スタイルがよくてピンクの髪を持つレイチェルが地味に見えることはない。
質素な衣装だからこそ、整った顔立ちの派手さやアメジスト色の瞳がよく映える。
聖女という神に仕える特別な力を持つ存在でありながら、緩くてすぐに脱がせられそうな衣装をまとうレイチェルに、性的な視線が向けられるのは日常的なことだ。
だがクロイツの後ろに控えている今は、あの絡みつくようないやらしい視線は感じない。
(立場のある方と一緒にいるのはストレスがないわね。……あら? わたしはもともと王太子のための夜伽聖女ではなかったかしら?)
誰に言うわけでもないが、嫌みな気持ちがよぎっていっても仕方ない。
ホルツの夜伽聖女であるにもかかわらず、彼がレイチェルを守ることはなかった。
(夜伽相手は限定されていても、視線までは防げない。わたしには心があるのだから、触れられなければ守られているってわけではないわ。そんなこと、ホルツさまには気になるような事ではなかったのかもしれないけど。でも、罰は当たったわよね)
国王との謁見が終わる頃には、王太子の座はホルツからクロイツへと移ることだろう。
そうなればホルツは次期国王にはなれない。
(ルシアナ王妃にとっては、面白くないことかもしれないけど仕方ないわ。そもそもクロイツさまに呪いをかけた相手は、まだ分かっていないのだもの。ここからの一波乱は見ものだわ)
クロイツ王太子が行方不明になった当時、父であるシュルツ国王は悲しんだものの、さして探索する様子もなかった。
血眼で犯人捜しをすることもなく、淡々とホルツを次の王太子に決めた。
ルシアナ王妃の力が働いたのではないかと、もっぱらの評判だ。
(ノラさまも王太子でなくなったホルツさまにどこまで寄り添うことか。フィックス伯爵家の思惑もあるでしょうし。こちらも見ものね)
夜伽聖女には護衛はつかないが、王太子にはつく。
だから今、レイチェルのそばには護衛がいた。
(王宮にきてしばらく経つけど、この状況も初めてだわ)
改めて自分がどれだけ異常な状態にいたのかを思って、レイチェルは苦く笑った。
謁見の間に入っていくと、国王が王座に座って待っていた。
国王の隣には王妃が座っている。
クロイツの顔を見て、国王は信じられないといった表情を浮かべて立ち上がった。
シュルツ国王は金色の髪に金の瞳で、クロイツとよく似た見た目をしている。
「あぁ、クロイツ。本当にクロイツなのか?」
「はい、父上」
国王はふらふらと歩み寄り、クロイツの顔を両手で挟み込むようにして覗きこんだ。
「あぁ、あぁ、クロイツだ。我が息子のクロイツだ」
「はい、父上」
国王は震えながら目に涙を浮かべて、行方不明だった息子の両肩を両手で軽くバンバンと叩き、クロイツの存在を確認している。
一方のクロイツは、穏やかに満面の笑みを浮かべて佇んでいるだけだ。
王妃は、その光景をただ眺めていた。
(国王の反応は予想通り。ルシアナ王妃のほうは平気そうな顔を装っているけれど、内心は歯噛みしているでしょうね。頬から顎にかけて力が入っているわ)
レイチェルは後ろに控えながら冷静に事の成り行きを見守っていた。
本来はこれも聖女の仕事の1つである。
状況を分析し、瘴気払いの必要が生じたときには即対応するためだ。
(ホルツさまは、聖女を連れ歩く本当の意味を知らないから。ノラさまも一応は聖女だから、わたしは何も言うつもりはなかったし。今となっては関係のない人だわ)
そこにホルツも血相を変えてやってきた。
お供にノラも連れている。
話し合いをするまでもなく、国王の腹は決まっていた。
国王はクロイツの肩を抱いて宣言した。
「クロイツが戻ってきた。これより先、王太子はホルツからクロイツに変わる。クロイツの呪いを解いてくれた聖女はレイチェルだ。まずは礼を言わせてくれ。息子を取り返してくれて、ありがとう」
「もったいないお言葉です、陛下」
レイチェルは美しいカーテシーをとり、頭を下げた。
「お前はもともと次期国王の夜伽聖女だ。これからはクロイツに仕えてくれ」
「承知いたしました」
国王は七色に輝くバラを右手に掲げて嬉しそうに言う。
「こんなに美しい聖女花が咲くなんて。クロイツと君の相性はとてもよいのだね」
ニコニコしながら言う国王の言葉を聞いて、レイチェルは頬を赤く染めた。
「ふふ。父上。女性にそのようなことを聞くなんて、失礼ですよ」
「あぁ、そうか。いや、めでたいことが重なって、興奮してしまった。配慮が足りなかったな」
クロイツと国王は顔を見合わせて笑った。
レイチェルはチラッとホルツを見た。
ホルツは単純な男だ。
淡い金髪に金の瞳と王族として分かりやすい外見はしていたが、ギリギリと歯を噛み締め、色黒な肌の色が変わるほど感情を表に出してしまう人間が、国王にふさわしいとレイチェルは思わない。
身長が高く筋肉にも恵まれた男臭い王子は、軍を率いるほうが向いている。
(これでよかったのよ。兄の生還を喜ぶのではなく、怒りや悔しさを表に出すような人間は国王に向いていない)
レイチェルはノラへと視線を向けた。
ノラも顔色が悪い。
もともと白い肌は青ざめ、氷のように冷たい青い瞳でレイチェルを睨んでいた。
(ふふ。あぁ、怖い怖い。ノラさまも人間ね。国王の側妃の立場が期待できなくなって、分かりやすく動揺しているわ。でもホルツさまが王族であることに変わりはない。それなりのものが期待できるのではないかしら?)
風向きが変わったことを実感しながら、レイチェルはほくそ笑んだ。
(ざまぁみろ、だわ。他人のことを馬鹿にしているから、足元をすくわれるのよ)
レイチェルは過去の因縁を振り切るように、視線をクロイツへと向けた。
(わたしは名実ともに次期国王の夜伽聖女になったのよ!)
「我が息子にして次期国王のクロイツが戻った! さぁ国民にも伝えよ。お披露目のための夜会も開くぞ!」
クロイツとよく似た外見の国王が興奮気味に叫ぶ。
側近たちは頭を下げてそそくさと謁見の間を出ていった。
事態は変わった。
(クロイツさま。わたしの主。わたしの愛する男性)
レイチェルはクロイツを見た。
謁見の間の華やかさにも勝るとも劣らない美貌の王太子がそこにいた。
そして彼も、レイチェルを見ている。
(冷遇された惨めで孤独な夜伽聖女はもういない。)
レイチェルは、昨日までの惨めな自分と別れを告げた。
(服を着たクロイツさまも素敵~)
レイチェルは、うっとりと自分の主を見つめた。
クロイツが発見された後、国王との謁見は速やかに整えられた。
謁見の間へ出向くため準礼装に身を包んで廊下を歩くクロイツの後ろに、レイチェルは聖女の正装で続いた。
(わたしはいつものスリップドレスに、貫頭衣のような白い上着を羽織っただけだから質素ではあるけれど……これが聖女の正装なのだから仕方ないわ)
ズルズルした印象の衣装は正装というにはラフな印象だ。
しかし、スタイルがよくてピンクの髪を持つレイチェルが地味に見えることはない。
質素な衣装だからこそ、整った顔立ちの派手さやアメジスト色の瞳がよく映える。
聖女という神に仕える特別な力を持つ存在でありながら、緩くてすぐに脱がせられそうな衣装をまとうレイチェルに、性的な視線が向けられるのは日常的なことだ。
だがクロイツの後ろに控えている今は、あの絡みつくようないやらしい視線は感じない。
(立場のある方と一緒にいるのはストレスがないわね。……あら? わたしはもともと王太子のための夜伽聖女ではなかったかしら?)
誰に言うわけでもないが、嫌みな気持ちがよぎっていっても仕方ない。
ホルツの夜伽聖女であるにもかかわらず、彼がレイチェルを守ることはなかった。
(夜伽相手は限定されていても、視線までは防げない。わたしには心があるのだから、触れられなければ守られているってわけではないわ。そんなこと、ホルツさまには気になるような事ではなかったのかもしれないけど。でも、罰は当たったわよね)
国王との謁見が終わる頃には、王太子の座はホルツからクロイツへと移ることだろう。
そうなればホルツは次期国王にはなれない。
(ルシアナ王妃にとっては、面白くないことかもしれないけど仕方ないわ。そもそもクロイツさまに呪いをかけた相手は、まだ分かっていないのだもの。ここからの一波乱は見ものだわ)
クロイツ王太子が行方不明になった当時、父であるシュルツ国王は悲しんだものの、さして探索する様子もなかった。
血眼で犯人捜しをすることもなく、淡々とホルツを次の王太子に決めた。
ルシアナ王妃の力が働いたのではないかと、もっぱらの評判だ。
(ノラさまも王太子でなくなったホルツさまにどこまで寄り添うことか。フィックス伯爵家の思惑もあるでしょうし。こちらも見ものね)
夜伽聖女には護衛はつかないが、王太子にはつく。
だから今、レイチェルのそばには護衛がいた。
(王宮にきてしばらく経つけど、この状況も初めてだわ)
改めて自分がどれだけ異常な状態にいたのかを思って、レイチェルは苦く笑った。
謁見の間に入っていくと、国王が王座に座って待っていた。
国王の隣には王妃が座っている。
クロイツの顔を見て、国王は信じられないといった表情を浮かべて立ち上がった。
シュルツ国王は金色の髪に金の瞳で、クロイツとよく似た見た目をしている。
「あぁ、クロイツ。本当にクロイツなのか?」
「はい、父上」
国王はふらふらと歩み寄り、クロイツの顔を両手で挟み込むようにして覗きこんだ。
「あぁ、あぁ、クロイツだ。我が息子のクロイツだ」
「はい、父上」
国王は震えながら目に涙を浮かべて、行方不明だった息子の両肩を両手で軽くバンバンと叩き、クロイツの存在を確認している。
一方のクロイツは、穏やかに満面の笑みを浮かべて佇んでいるだけだ。
王妃は、その光景をただ眺めていた。
(国王の反応は予想通り。ルシアナ王妃のほうは平気そうな顔を装っているけれど、内心は歯噛みしているでしょうね。頬から顎にかけて力が入っているわ)
レイチェルは後ろに控えながら冷静に事の成り行きを見守っていた。
本来はこれも聖女の仕事の1つである。
状況を分析し、瘴気払いの必要が生じたときには即対応するためだ。
(ホルツさまは、聖女を連れ歩く本当の意味を知らないから。ノラさまも一応は聖女だから、わたしは何も言うつもりはなかったし。今となっては関係のない人だわ)
そこにホルツも血相を変えてやってきた。
お供にノラも連れている。
話し合いをするまでもなく、国王の腹は決まっていた。
国王はクロイツの肩を抱いて宣言した。
「クロイツが戻ってきた。これより先、王太子はホルツからクロイツに変わる。クロイツの呪いを解いてくれた聖女はレイチェルだ。まずは礼を言わせてくれ。息子を取り返してくれて、ありがとう」
「もったいないお言葉です、陛下」
レイチェルは美しいカーテシーをとり、頭を下げた。
「お前はもともと次期国王の夜伽聖女だ。これからはクロイツに仕えてくれ」
「承知いたしました」
国王は七色に輝くバラを右手に掲げて嬉しそうに言う。
「こんなに美しい聖女花が咲くなんて。クロイツと君の相性はとてもよいのだね」
ニコニコしながら言う国王の言葉を聞いて、レイチェルは頬を赤く染めた。
「ふふ。父上。女性にそのようなことを聞くなんて、失礼ですよ」
「あぁ、そうか。いや、めでたいことが重なって、興奮してしまった。配慮が足りなかったな」
クロイツと国王は顔を見合わせて笑った。
レイチェルはチラッとホルツを見た。
ホルツは単純な男だ。
淡い金髪に金の瞳と王族として分かりやすい外見はしていたが、ギリギリと歯を噛み締め、色黒な肌の色が変わるほど感情を表に出してしまう人間が、国王にふさわしいとレイチェルは思わない。
身長が高く筋肉にも恵まれた男臭い王子は、軍を率いるほうが向いている。
(これでよかったのよ。兄の生還を喜ぶのではなく、怒りや悔しさを表に出すような人間は国王に向いていない)
レイチェルはノラへと視線を向けた。
ノラも顔色が悪い。
もともと白い肌は青ざめ、氷のように冷たい青い瞳でレイチェルを睨んでいた。
(ふふ。あぁ、怖い怖い。ノラさまも人間ね。国王の側妃の立場が期待できなくなって、分かりやすく動揺しているわ。でもホルツさまが王族であることに変わりはない。それなりのものが期待できるのではないかしら?)
風向きが変わったことを実感しながら、レイチェルはほくそ笑んだ。
(ざまぁみろ、だわ。他人のことを馬鹿にしているから、足元をすくわれるのよ)
レイチェルは過去の因縁を振り切るように、視線をクロイツへと向けた。
(わたしは名実ともに次期国王の夜伽聖女になったのよ!)
「我が息子にして次期国王のクロイツが戻った! さぁ国民にも伝えよ。お披露目のための夜会も開くぞ!」
クロイツとよく似た外見の国王が興奮気味に叫ぶ。
側近たちは頭を下げてそそくさと謁見の間を出ていった。
事態は変わった。
(クロイツさま。わたしの主。わたしの愛する男性)
レイチェルはクロイツを見た。
謁見の間の華やかさにも勝るとも劣らない美貌の王太子がそこにいた。
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