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第二十話 思い出のドレス
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朝というよりも午後に近い日差しが窓から入ってくる。
今日も気持ちの良い日だ。
窓辺のカーテンが風を孕んで膨らみながら揺れているのを見てレイチェルは思った。
(この部屋でこんな気持ちになれるなんて……わたし、いまとても満ち足りているわ)
ホルツからの愛が無いことの証明に割り当てられた部屋は、今となってはクロイツからの愛を証明する部屋へと変わった。
クロイツの愛を受ける部屋。
(そう考えると、ちょっと照れるし恥ずかしいわ)
レイチェルは1人、頬を赤らめた。
昨夜はクロイツの欲望に振り回されて、かなり消耗したような気がする。
(でも寝たからだいぶ魔力も回復している。体は……ちょっと痛いところがあるかもしれないけど……それより何より気分がいい)
ベッドの中で1人照れたレイチェルは、掛布を顔まで引き上げて左右にゴロゴロと転がった。
「ん? レイチェル、起きたかな。おはよう」
1人だと思っていた部屋にはクロイツがいて、天蓋から下がるカーテン越しにヒョイと顔を出し、ベッドを覗き込んできた。
「ぁっ……はい、クロイツさま。おはようございます……痛っ」
焦ったレイチェルは、慌てて起き上がろうとする。
だが苦痛に呻いて再びベッドへと沈み込んだ。
「あぁ、無理しないで。昨夜は無理をさせたから……おとといの夜もか」
「……っ」
ニマニマ笑うクロイツに改めて言われて、レイチェルの肌は赤く染まった。
「ふふふ、寝たままでいいよ。今ね、母のドレスを持ち込ませているから」
「クロエさまのドレスを、ですか?」
レイチェルが不思議そうに聞くと、クロイツが説明する。
「ん、ぼくが戻った記念に、夜会を開くからね。君のドレスを用意しなきゃいけないけど、作るのに時間がかかる。そこで母のドレスから気に入った物を選んで、手直ししてもらおうと思ってさ」
「まぁ、いいのですか?」
レイチェルは興奮して答えた。
「ふふ、それはこっちのセリフだよ。母のお古で嫌じゃないかい?」
「そんなこと……光栄ですっ!」
(クロイツさまのお母さまであるクロエ王妃は、お洒落で有名だった方。その方が着られていたドレスを、このわたしが着ていいの⁉ こんな嬉しいことがあって⁉ いや、ないっ!)
レイチェルの脳裏には、過去に見たことがあるクロエ王妃の姿や、噂に聞いたドレスのことがボンッと思い出された。
(ただでさえ王妃が着用されるドレスといったら豪華で素敵なものばかり。なかでもクロエ王妃といったら、ファッションセンスに定評があった方よ? そのドレスを近くで見られるのなら、それだけでも興奮するっ)
レイチェルは質素な中に置かれても平気なタイプではあるが、綺麗なものを見るのは大好きだ。
「ふふ、アメジスト色の瞳がキラキラしてる。そんなに喜んでもらえて嬉しいよ。今持ってきてあるドレスを見てみるかい?」
「はいっ……っ痛っ」
元気に答えて起き上がろうとしたレイチェルだったが、やはり腰が痛くて起き上がれない。
「あぁ、無理しないで。こっち側のカーテンを開けたら見えるからね」
そう言いながらクロイツは、ベッドの天蓋から下がるカーテンの足元側を開けた。
「うわぁ……」
思わずレイチェルの口から感嘆の溜息が漏れた。
いつの間にか部屋には沢山のトルソーが持ち込まれていて、それらのすべてが美しいドレスを着ていた。
赤に青、ピンクやグリーンとカラフルで、花柄やチェック柄と柄も様々だ。
レースに、刺繍に、フリルと飾りも色々と施されているドレスたちが並んでいた。
「保管状態はよいと思うけど……母が若い頃に着ていたものを中心に持ってこさせてみたんだ」
「もしかして……クロエ王妃殿下が、ご結婚前の?」
「ああ。そのほうがレイチェルに似合うかと思って」
可愛らしいデザインのピンクやイエローのドレスは、華やかではあるが少々デザインが古い。
「母が若い頃の流行りはゴテゴテしている物が多かったから……派手なフリルとかレースとか外して、薄衣を重ねたりするといいって話なのだけど……レイチェルの好みに合わせるから、好きなのを選んでね」
「えっ、いいんですか⁉」
(思い出の品を変えてしまっていいのかしら?)
レイチェルの考えが表情に透けていたのか、クロイツはふっと笑って言う。
「母の物は沢山あるから遠慮はいらないよ。置いておくだけと邪魔になるくらいだ。使ってもらったほうが、母も喜ぶ」
「ええっ。そうなのですか? そんなことを言われたら、遠慮なく使っちゃいますよ?」
「ふふ。どうぞ」
(うわぁ。こんなに沢山あると迷っちゃう!)
公爵家出身の王妃であるクロエのドレスは、どれもこれも生地や仕立てがよくて高そうなものばかりだ。
(……あら? 古いデザインの物に混ざって、比較的最近のデザインの物もあるような……しかも、新しい?)
レイチェルの視線に気付いたクロイツが説明する。
「こちらは新しい物……ぼくの妻になる女性へ着せたいといって仕立てさせていたドレスだよ」
(クロイツさまの伴侶となる方へ用意されていたなんて……)
レイチェルは、その理由に思いあたるものがあったが、あえて口にはしなかった。
「本当にお洒落が大好きだったのですね」
「ん。母の実家は豊かだからね。金で困ることもなくて……趣味で色々な物を作らせていたよ」
クロイツが少し遠い目をした。
(やはりクロイツさまは、お母さまであるクロエ王妃殿下のことが大好きだったのね。早くに亡くされて、お寂しかったことでしょう)
レイチェルがしんみりした気分になっていると、クロイツがキラキラと輝く物を沢山乗せた大きなトレーを彼女の膝の上に乗せた。
「アクセサリーも沢山あるからね。選び放題だよ」
「うわぁ~、凄いっ! でもこんなにあったら選べません~」
「ん、それは侍女に手伝ってもらおうね。まずは腹ごしらえだ」
クロイツの合図と共に、レイチェルの膝の上にあった装身具のたっぷり乗ったトレーがサッと片付けられ、次には食事の乗ったトレーが運ばれてきた。
この日の午後。
レイチェルはベッドの中で昼食を摂り、クロイツと侍女たちのアドバイスをもらいながら、じっくりと夜会に着ていくドレスとアクセサリーを選んだ。
今日も気持ちの良い日だ。
窓辺のカーテンが風を孕んで膨らみながら揺れているのを見てレイチェルは思った。
(この部屋でこんな気持ちになれるなんて……わたし、いまとても満ち足りているわ)
ホルツからの愛が無いことの証明に割り当てられた部屋は、今となってはクロイツからの愛を証明する部屋へと変わった。
クロイツの愛を受ける部屋。
(そう考えると、ちょっと照れるし恥ずかしいわ)
レイチェルは1人、頬を赤らめた。
昨夜はクロイツの欲望に振り回されて、かなり消耗したような気がする。
(でも寝たからだいぶ魔力も回復している。体は……ちょっと痛いところがあるかもしれないけど……それより何より気分がいい)
ベッドの中で1人照れたレイチェルは、掛布を顔まで引き上げて左右にゴロゴロと転がった。
「ん? レイチェル、起きたかな。おはよう」
1人だと思っていた部屋にはクロイツがいて、天蓋から下がるカーテン越しにヒョイと顔を出し、ベッドを覗き込んできた。
「ぁっ……はい、クロイツさま。おはようございます……痛っ」
焦ったレイチェルは、慌てて起き上がろうとする。
だが苦痛に呻いて再びベッドへと沈み込んだ。
「あぁ、無理しないで。昨夜は無理をさせたから……おとといの夜もか」
「……っ」
ニマニマ笑うクロイツに改めて言われて、レイチェルの肌は赤く染まった。
「ふふふ、寝たままでいいよ。今ね、母のドレスを持ち込ませているから」
「クロエさまのドレスを、ですか?」
レイチェルが不思議そうに聞くと、クロイツが説明する。
「ん、ぼくが戻った記念に、夜会を開くからね。君のドレスを用意しなきゃいけないけど、作るのに時間がかかる。そこで母のドレスから気に入った物を選んで、手直ししてもらおうと思ってさ」
「まぁ、いいのですか?」
レイチェルは興奮して答えた。
「ふふ、それはこっちのセリフだよ。母のお古で嫌じゃないかい?」
「そんなこと……光栄ですっ!」
(クロイツさまのお母さまであるクロエ王妃は、お洒落で有名だった方。その方が着られていたドレスを、このわたしが着ていいの⁉ こんな嬉しいことがあって⁉ いや、ないっ!)
レイチェルの脳裏には、過去に見たことがあるクロエ王妃の姿や、噂に聞いたドレスのことがボンッと思い出された。
(ただでさえ王妃が着用されるドレスといったら豪華で素敵なものばかり。なかでもクロエ王妃といったら、ファッションセンスに定評があった方よ? そのドレスを近くで見られるのなら、それだけでも興奮するっ)
レイチェルは質素な中に置かれても平気なタイプではあるが、綺麗なものを見るのは大好きだ。
「ふふ、アメジスト色の瞳がキラキラしてる。そんなに喜んでもらえて嬉しいよ。今持ってきてあるドレスを見てみるかい?」
「はいっ……っ痛っ」
元気に答えて起き上がろうとしたレイチェルだったが、やはり腰が痛くて起き上がれない。
「あぁ、無理しないで。こっち側のカーテンを開けたら見えるからね」
そう言いながらクロイツは、ベッドの天蓋から下がるカーテンの足元側を開けた。
「うわぁ……」
思わずレイチェルの口から感嘆の溜息が漏れた。
いつの間にか部屋には沢山のトルソーが持ち込まれていて、それらのすべてが美しいドレスを着ていた。
赤に青、ピンクやグリーンとカラフルで、花柄やチェック柄と柄も様々だ。
レースに、刺繍に、フリルと飾りも色々と施されているドレスたちが並んでいた。
「保管状態はよいと思うけど……母が若い頃に着ていたものを中心に持ってこさせてみたんだ」
「もしかして……クロエ王妃殿下が、ご結婚前の?」
「ああ。そのほうがレイチェルに似合うかと思って」
可愛らしいデザインのピンクやイエローのドレスは、華やかではあるが少々デザインが古い。
「母が若い頃の流行りはゴテゴテしている物が多かったから……派手なフリルとかレースとか外して、薄衣を重ねたりするといいって話なのだけど……レイチェルの好みに合わせるから、好きなのを選んでね」
「えっ、いいんですか⁉」
(思い出の品を変えてしまっていいのかしら?)
レイチェルの考えが表情に透けていたのか、クロイツはふっと笑って言う。
「母の物は沢山あるから遠慮はいらないよ。置いておくだけと邪魔になるくらいだ。使ってもらったほうが、母も喜ぶ」
「ええっ。そうなのですか? そんなことを言われたら、遠慮なく使っちゃいますよ?」
「ふふ。どうぞ」
(うわぁ。こんなに沢山あると迷っちゃう!)
公爵家出身の王妃であるクロエのドレスは、どれもこれも生地や仕立てがよくて高そうなものばかりだ。
(……あら? 古いデザインの物に混ざって、比較的最近のデザインの物もあるような……しかも、新しい?)
レイチェルの視線に気付いたクロイツが説明する。
「こちらは新しい物……ぼくの妻になる女性へ着せたいといって仕立てさせていたドレスだよ」
(クロイツさまの伴侶となる方へ用意されていたなんて……)
レイチェルは、その理由に思いあたるものがあったが、あえて口にはしなかった。
「本当にお洒落が大好きだったのですね」
「ん。母の実家は豊かだからね。金で困ることもなくて……趣味で色々な物を作らせていたよ」
クロイツが少し遠い目をした。
(やはりクロイツさまは、お母さまであるクロエ王妃殿下のことが大好きだったのね。早くに亡くされて、お寂しかったことでしょう)
レイチェルがしんみりした気分になっていると、クロイツがキラキラと輝く物を沢山乗せた大きなトレーを彼女の膝の上に乗せた。
「アクセサリーも沢山あるからね。選び放題だよ」
「うわぁ~、凄いっ! でもこんなにあったら選べません~」
「ん、それは侍女に手伝ってもらおうね。まずは腹ごしらえだ」
クロイツの合図と共に、レイチェルの膝の上にあった装身具のたっぷり乗ったトレーがサッと片付けられ、次には食事の乗ったトレーが運ばれてきた。
この日の午後。
レイチェルはベッドの中で昼食を摂り、クロイツと侍女たちのアドバイスをもらいながら、じっくりと夜会に着ていくドレスとアクセサリーを選んだ。
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