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25 再会
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「私は先日から、こちらの客室に滞在しているマリナと申します」
「見たところ、我が国の者ではないようだな?」
私の頭に獣耳が付いていないことから、獣人でないということは一目瞭然だろう。私は素直に頷いた。
「はい。私は獣人ではありません」
「何故、獣人でもない者がここにいる?」
「第一王子に呼ばれまして……」
「デュルク兄上に?」
金髪碧眼の第二王子は兄の名を聞いた途端、碧玉色の瞳を細めて警戒の色を浮かべた。そういえば、兄弟で王位を争っているのだから第一王子の名前を出すのはまずかったかと、別の人物について述べることに方向転換する。
「はい。こちらのことは、よく分からないので侍女のロゼッタにお世話になってます」
「ロゼッタだと? 最近、見かけぬと思っていたが……」
プラチナブロンドの侍女について触れるとレナード王子は目を見開いて、やや身を乗り出した。想像以上に関心を示してきて少し驚く。
「ああ。私がこちらに来てから、ロゼッタは私が滞在している客室の隣にいてくれるので……。その関係かも知れませんね」
「そうか……。ロゼッタは客室の隣に」
「あの、レナード王子とは幼馴染みだとロゼッタから聞いたんですが?」
「ああ。確かに私とロゼッタは幼馴染みだ。……だが、それだけではない」
「それだけではないと言いますと?」
「ロゼッタにはプロポーズしたことがある」
「えっ!」
レナード王子から、まさかの発言を聞き仰天していると金髪碧眼の第二王子は冗談めかした表情で、肩をすくめ苦笑した。
「幼い頃の話だがな……」
「ああ、子供時代の話でしたか。そうですよね……。レナード王子には婚約者の公爵令嬢がいるんですものね」
「婚約者か……」
公爵令嬢の話をした途端、第二王子の瞳から光が消えた。そして、長いまつげが碧玉色の瞳に昏い影を落とした。
「もしかして……。レナード王子は、まだロゼッタのことを?」
「そうだったとしても、詮無きことだ」
「どうしてですか? ロゼッタもレナード王子もまだ結婚してる訳じゃないんですから、その気になれば……」
「無理だ。宰相の一人娘である公爵令嬢リリアンヌとの婚約を破棄すれば王位継承争いが不利になる」
金髪碧眼の王子が苦々しい表情で呟いたが、私はどうにも納得できなかった。
「レナード殿下は、そんなに王位が大事ですか? ロゼッタよりもですか?」
好きでもない相手と結婚するよりも思いあっている相手がいるなら、その人と共にいたいと考えるのが普通なのではないかと率直に尋ねれば、第二王子は眉をひそめてこちらを見た。
「そなたは、何も知らぬのだな……」
「え?」
「王位継承争いに敗れた者は辺境に飛ばされるか最悪、あらぬ罪を着せられて処刑されるのが目に見えている」
「この国で王位継承争いって、そんなことに?」
「ああ。特に世継ぎが生まれれば王位争いの余計な火種となる者は排除される。我が兄上の性格を考えれば間違いないだろう……。そうなれば、仮にロゼッタと結婚して子供を作っても国王になったデュルク兄上に妻子ともども命運を握られる」
「そんな」
「だからこそ私は、何としても王位に就いて生き残らねばならないのだ。すべてはそこからだ」
静かだが強い決意を秘めた目でレナード王子は自身の手をぐっと握りしめた。確かに自分の生死や運命がかかっているのなら、第二王子にとって王位継承問題を優位に進めるというのは最優先なのだろう。
こんな事情があるのなら、ロゼッタのことを考えて欲しいなどとはとても言えない。そう思っていた時、後方から、誰かが近づいてくる足音が聞こえてきた。
「あ、マリナ様。こんな所にいたのですね。探したんですよ」
「ロゼッタ……」
「え、レナード王子!?」
私を探してやってきたプラチナブロンドの侍女は、まさかここに第二王子がいるとは思っていなかったらしく水宝玉色の瞳を大きく見開いて唖然としている。
「久しぶりだな、ロゼッタ。私は……」
「あら、こんな所で何のお話かしら?」
プラチナブロンドの侍女に何かを話しかけようとした第二王子の言葉をさえぎるように現れたのは、茶髪の侍女を引き連れた第二王子の婚約者。公爵令嬢リリアンヌだった。
「見たところ、我が国の者ではないようだな?」
私の頭に獣耳が付いていないことから、獣人でないということは一目瞭然だろう。私は素直に頷いた。
「はい。私は獣人ではありません」
「何故、獣人でもない者がここにいる?」
「第一王子に呼ばれまして……」
「デュルク兄上に?」
金髪碧眼の第二王子は兄の名を聞いた途端、碧玉色の瞳を細めて警戒の色を浮かべた。そういえば、兄弟で王位を争っているのだから第一王子の名前を出すのはまずかったかと、別の人物について述べることに方向転換する。
「はい。こちらのことは、よく分からないので侍女のロゼッタにお世話になってます」
「ロゼッタだと? 最近、見かけぬと思っていたが……」
プラチナブロンドの侍女について触れるとレナード王子は目を見開いて、やや身を乗り出した。想像以上に関心を示してきて少し驚く。
「ああ。私がこちらに来てから、ロゼッタは私が滞在している客室の隣にいてくれるので……。その関係かも知れませんね」
「そうか……。ロゼッタは客室の隣に」
「あの、レナード王子とは幼馴染みだとロゼッタから聞いたんですが?」
「ああ。確かに私とロゼッタは幼馴染みだ。……だが、それだけではない」
「それだけではないと言いますと?」
「ロゼッタにはプロポーズしたことがある」
「えっ!」
レナード王子から、まさかの発言を聞き仰天していると金髪碧眼の第二王子は冗談めかした表情で、肩をすくめ苦笑した。
「幼い頃の話だがな……」
「ああ、子供時代の話でしたか。そうですよね……。レナード王子には婚約者の公爵令嬢がいるんですものね」
「婚約者か……」
公爵令嬢の話をした途端、第二王子の瞳から光が消えた。そして、長いまつげが碧玉色の瞳に昏い影を落とした。
「もしかして……。レナード王子は、まだロゼッタのことを?」
「そうだったとしても、詮無きことだ」
「どうしてですか? ロゼッタもレナード王子もまだ結婚してる訳じゃないんですから、その気になれば……」
「無理だ。宰相の一人娘である公爵令嬢リリアンヌとの婚約を破棄すれば王位継承争いが不利になる」
金髪碧眼の王子が苦々しい表情で呟いたが、私はどうにも納得できなかった。
「レナード殿下は、そんなに王位が大事ですか? ロゼッタよりもですか?」
好きでもない相手と結婚するよりも思いあっている相手がいるなら、その人と共にいたいと考えるのが普通なのではないかと率直に尋ねれば、第二王子は眉をひそめてこちらを見た。
「そなたは、何も知らぬのだな……」
「え?」
「王位継承争いに敗れた者は辺境に飛ばされるか最悪、あらぬ罪を着せられて処刑されるのが目に見えている」
「この国で王位継承争いって、そんなことに?」
「ああ。特に世継ぎが生まれれば王位争いの余計な火種となる者は排除される。我が兄上の性格を考えれば間違いないだろう……。そうなれば、仮にロゼッタと結婚して子供を作っても国王になったデュルク兄上に妻子ともども命運を握られる」
「そんな」
「だからこそ私は、何としても王位に就いて生き残らねばならないのだ。すべてはそこからだ」
静かだが強い決意を秘めた目でレナード王子は自身の手をぐっと握りしめた。確かに自分の生死や運命がかかっているのなら、第二王子にとって王位継承問題を優位に進めるというのは最優先なのだろう。
こんな事情があるのなら、ロゼッタのことを考えて欲しいなどとはとても言えない。そう思っていた時、後方から、誰かが近づいてくる足音が聞こえてきた。
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「え、レナード王子!?」
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「あら、こんな所で何のお話かしら?」
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