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29 中毒
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実際にユリの毒に関しては、そもそも猫にとってユリが猛毒だということが判明してから年月が浅いというのもあって詳しい研究が進んでいないのだ。
だが、それは私が知る人間世界の話であって、異世界である獣人世界ではどうなのか分からない。猫獣人であるアルベルトさんなら知っているだろうと、ロゼッタの手を握りしめている銀髪の騎士に視線を向けた。
「アルベルトさんは、ユリ毒の解毒剤について聞いたことありますか?」
「いや、無い。ひとたび猫獣人がユリ中毒になれば摂取量にもよるが長く持っても、せいぜい一週間か十日ほどで死にいたると聞いたことはあるが……」
ぐったりとしながら、目を閉じている自身の妹を見るアルベルトさんは苦々しい表情でうつむきながら述べる。その声に反応したプラチナブロンドの侍女はゆっくりとまぶたを上げた。
「そうですか……。私は、ユリ中毒になってしまったのですね」
「ロゼッタ!?」
「これは、きっと天罰です……。私が自分のことしか考えないから、天罰が下ったのです」
「何をバカなことを!」
金髪碧眼の第二王子がその言葉を即座に否定するとロゼッタは苦しげに面を上げたあと、息を吐いて血の気が失せた顔をほころばせた。
「でも、最後にこうしてレナード殿下にお目にかかれて良かった」
「ロゼッタ……!」
プラチナブロンドの侍女が金髪碧眼の王子を見ながら切なげに微笑み、水宝玉色の瞳から頬にひとすじの涙が流れた。それを見たレナード王子の目から堪えきれなかった涙がこぼれ落ちる。
その光景を横目に私は控えの部屋を見渡す。棚の上に洗面器のような白い陶器が置かれているのを発見し、手に取るとロゼッタの口元に持っていった。
「あきらめるのは、まだ早いわ! ロゼッタ、意識があるなら吐いて!」
「え?」
「胃の中に入ってる、ユリ毒が含まれてる水を吐き出すのよ! ヴィットリオさん!」
私は困惑しているロゼッタの背中をさすりながら、名前を呼ぶと赤髪の騎士は軽く緋色の目を見開いた。
「何だ?」
「水を持って来て下さい! 飲めるほど綺麗な水を大目に! それとバケツも!」
「ば、バケツ?」
「早く! 急いで!」
「お、おう……。分かった!」
私の意図を把握していない様子ではあったが赤髪の騎士は水とバケツを用意すべく、急いで部屋を出た。
「ひとまず、ロゼッタを隣の客室に移動させましょう。ここは床にガラスの破片が床に散らばっていて危ないですから」
「そうだな」
「私が運ぼう」
銀髪の騎士と第二王子の手を借りロゼッタは控えの部屋から運ばれた。そしてプラチナブロンドの侍女は髪を乱しながら眼前に出された洗面器に何とか胃の内容物を吐こうとして、何度も試すが上手くいかず、苦悶の表情を浮かべた。
「ロゼッタ! もう少し頑張って!」
「だ、駄目です……。これ以上は、もう……」
「廊下で出会ったヴィットリオが血相を変えて『客室に行け』と言っていたので来てみれば、これは……」
靴音と共に眉をひそめながら黒縁眼鏡をクイと上げ、客室に現れたのは長髪の魔術師だった。
「グラウクスさん!? そうだ、魔法が使えるなら!」
「私の魔法が必要なら、手を貸すのはやぶさかではないですが……。事情を説明して頂けますか?」
「ロゼッタがユリ毒を摂取してしまったせいで、ユリ中毒になっているんです! 魔法には回復魔法もあるんですよね? グラウクスさんなら、魔法でロゼッタを助けられるんじゃないですか!?」
期待を込めて尋ねたが、長髪の魔術師は黒縁眼鏡の奥で鳶色の瞳を曇らせた。
「……結論から言えば、この状況で回復魔法をかけることはできません」
「なんでですか!?」
「回復魔法は身体を活性化させて治癒力を高める物です。胃に猛毒が入った状態で回復魔法を使えば、胃が活性化して毒を摂取するのを助け、死期が早まるだけです」
「そんな……。魔法でも無理なんて」
だが、それは私が知る人間世界の話であって、異世界である獣人世界ではどうなのか分からない。猫獣人であるアルベルトさんなら知っているだろうと、ロゼッタの手を握りしめている銀髪の騎士に視線を向けた。
「アルベルトさんは、ユリ毒の解毒剤について聞いたことありますか?」
「いや、無い。ひとたび猫獣人がユリ中毒になれば摂取量にもよるが長く持っても、せいぜい一週間か十日ほどで死にいたると聞いたことはあるが……」
ぐったりとしながら、目を閉じている自身の妹を見るアルベルトさんは苦々しい表情でうつむきながら述べる。その声に反応したプラチナブロンドの侍女はゆっくりとまぶたを上げた。
「そうですか……。私は、ユリ中毒になってしまったのですね」
「ロゼッタ!?」
「これは、きっと天罰です……。私が自分のことしか考えないから、天罰が下ったのです」
「何をバカなことを!」
金髪碧眼の第二王子がその言葉を即座に否定するとロゼッタは苦しげに面を上げたあと、息を吐いて血の気が失せた顔をほころばせた。
「でも、最後にこうしてレナード殿下にお目にかかれて良かった」
「ロゼッタ……!」
プラチナブロンドの侍女が金髪碧眼の王子を見ながら切なげに微笑み、水宝玉色の瞳から頬にひとすじの涙が流れた。それを見たレナード王子の目から堪えきれなかった涙がこぼれ落ちる。
その光景を横目に私は控えの部屋を見渡す。棚の上に洗面器のような白い陶器が置かれているのを発見し、手に取るとロゼッタの口元に持っていった。
「あきらめるのは、まだ早いわ! ロゼッタ、意識があるなら吐いて!」
「え?」
「胃の中に入ってる、ユリ毒が含まれてる水を吐き出すのよ! ヴィットリオさん!」
私は困惑しているロゼッタの背中をさすりながら、名前を呼ぶと赤髪の騎士は軽く緋色の目を見開いた。
「何だ?」
「水を持って来て下さい! 飲めるほど綺麗な水を大目に! それとバケツも!」
「ば、バケツ?」
「早く! 急いで!」
「お、おう……。分かった!」
私の意図を把握していない様子ではあったが赤髪の騎士は水とバケツを用意すべく、急いで部屋を出た。
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「そうだな」
「私が運ぼう」
銀髪の騎士と第二王子の手を借りロゼッタは控えの部屋から運ばれた。そしてプラチナブロンドの侍女は髪を乱しながら眼前に出された洗面器に何とか胃の内容物を吐こうとして、何度も試すが上手くいかず、苦悶の表情を浮かべた。
「ロゼッタ! もう少し頑張って!」
「だ、駄目です……。これ以上は、もう……」
「廊下で出会ったヴィットリオが血相を変えて『客室に行け』と言っていたので来てみれば、これは……」
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期待を込めて尋ねたが、長髪の魔術師は黒縁眼鏡の奥で鳶色の瞳を曇らせた。
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「なんでですか!?」
「回復魔法は身体を活性化させて治癒力を高める物です。胃に猛毒が入った状態で回復魔法を使えば、胃が活性化して毒を摂取するのを助け、死期が早まるだけです」
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