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32 吸着

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 ロゼッタにそう説明したあと、私は寝ているロゼッタの上にゴムチューブと繋げたロートを持ち上げ、上方からヴィットリオさんが持って来た水をロートに注ぎ入れた。

 すると上にあるロートからゴムチューブを通ってロゼッタの胃に直接、水が注ぎ込まれていく。ゴムチューブからゴポゴポという水音が聞こえてくると突然、胃袋に大量の水を送り込まれた違和感とノドにゴムチューブを挿入されている苦しさからプラチナブロンドの侍女は苦しそうに咳き込んだ。

 それを見て、ロートをゴムチューブから外すと今度は、口から出ているゴムチューブをロゼッタが横になっているソファより低い位置にしてバケツを用意する。

「さ、胃の内容物を吐き出しましょう。大丈夫よ。ゴムチューブを通して自然に吐き出されるから」

「ぐっ、ゲホッ」

 私はロゼッタの顔を横にあるバケツの方に向ける。プラチナブロンドの髪が乱れ、苦しげなロゼッタの口元をタオルでぬぐいながら声をかけるとゴムチューブからロゼッタの胃に入っていた濁った液体が排出された。

「毒が出たのか!?」

「まだ完全ではありません……。これを繰り返して、透明な水が出るようになるまで繰り返します」

 宣言した通り、ロゼッタの唇から出ているオレンジ色のゴムチューブの先端に再びロートを付けて、またロゼッタの上方から水を注ぎ入れる。

 再びロゼッタが咳き込んだので水差しを置き、少し外に出かけたゴムチューブを再び右手で挿入して位置を調整した後、胃の内部に注入した水が達したのを見計らって再びロゼッタの顔を横向きにしてロートを外し、ゴムチューブから胃の内容物を金属製バケツに吐き出させた。その作業を繰り返し、ついにロゼッタの胃からは透明な水しか出なくなった。

「透明な水になったと言うことは……」

「胃の洗浄が出来たのか?」

 銀髪の騎士と金髪碧眼の第二王子が尋ねて来たので一つ、頷いた。

「そうですね。ひとまず、水での洗浄は終わりました」

「では、ロゼッタは助かったのか!?」

「まだやることがあります」

 レナード王子は半信半疑といった表情で質問してきたが、ロゼッタへの処置が終わっていないため気を緩めることができない。

 私は白いポリ容器を手にとってフタを開けた。中には黒色の粉末活性炭が入っている。それを水と混ぜて再びロートから注入し、ゴムチューブを通してロゼッタの胃に流し込んだ。

「今の黒い粉末はなんだ?」

「医療用の活性炭です」

「活性炭? なんだそれは? 聞いたことがないが、薬か?」

「薬ではありません。簡単に言えば炭の粉末です」

「炭だと!? そんな物を胃に入れて大丈夫なのか?」

 怪訝そうに眉をひそめる第二王子に、私は医療用活性炭が入った白色のポリ容器を見せた。

「これは普通の炭ではありません。医療用の活性炭は高温で作られ特殊な処理がされているので、普通の炭よりも表面に細孔が多いのです。そして活性炭には不純物を吸着するという特性があります」

「不純物を吸着?」

「つまり、ロゼッタの胃袋から水で洗い流せるユリ毒は除去しましたが、まだ流しきれなかった微量のユリ成分が胃の内部に残っているはずです。活性炭を胃に流し込むことで残ったユリ毒の成分を、少しでも活性炭に吸着させるのが狙いです」
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