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55 贈り物
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「魔術師グラウクスに聞いたぞ。元の世界に戻りたいが為に魔力を使う際に集中できず、未だ初歩的な魔法も使うことができないと」
「え、ええ……」
突如現れたディルク王子に戸惑いながらも頷くと、第一王子は口角を上げた。
「今日はそなたの迷いを断ち切るために、持ってきた物がある」
「物?」
「入れ」
「はっ!」
第一王子が客室のドアに視線を向けて声をかければ、茶褐色の木箱を両手で持っている召使いが現れた。その召使いの後ろから黒縁眼鏡の魔術師も姿を見せる。
「グラウクスさん?」
「マリナさん……。そちらはディルク殿下からの贈り物だそうですよ」
黒縁眼鏡の奥で、どことなく冷めた目をした長髪の魔術師に告げられるのと、ほぼ同時に召使いがローテーブルの上に木箱を置いた。
「贈り物!? この箱が?」
「開けてみるがよい」
突然のことに戸惑っているとダークブロンドの第一王子は眼前で悠然と微笑んだ。確かに、眼前に置かれた箱の中身は気になるので促されるまま木箱を開いてみると、中には色とりどりの美しい宝飾品や金貨がたっぷりと入った袋がぎっしりと詰まっていた。
「これは……!?」
「どうだ? どれも美しかろう。ガーネットのペンダントにエメラルドの周囲にダイヤモンドをあしらったブローチ。紫水晶と銀細工のイヤリング。大粒真珠があしらわれた彫金細工の髪飾りに真珠のネックレス。月光石がはめ込まれたブレスレッド」
「な、何なんですか。これは!?」
「先ほどグラウクスも言ったろう? 俺から黒髪の聖女へ贈り物だ」
「贈り物って……。これ、かなり高価な物ですよね? 理由もなく頂けないですよ」
困惑しながらテーブルの上にある宝飾品や金貨の譲渡を拒否しようとしたが、第一王子はうろたえる私を見て微笑した。
「まぁ、聞け。おまえが魔法を習得して俺の役に立てば、ここにあるアクセサリーよりも遥かに高価な宝飾品も思いのままだ」
「別にそんなの……」
「なんだ、宝石は好きではないのか? では、最高級のドレスか? それとも……」
「そういう問題ではありません! ディルク王子。前からお伝えしたいと思っていたんですが、私は元の世界に帰りたいんです!」
思わず声を荒げてしまったが、第一王子には私の言葉が響かなかったようで眉をひそめられた。
「何故だ?」
「元の世界には家族もいるし、将来を約束した相手だっているんです!」
「おまえが将来を約束した相手というのは、俺と出会う前のことだろう?」
「は?」
「考えてみろ。このまま魔法を習得して、おまえが聖女として役に立つなら俺の妃にしてやると言っただろう?」
「それは確かに聞きましたが、私は……」
「まぁ、この宝飾品や金貨は置いていく。これを見ながら、ゆっくりとよく考えるのだ。俺の妃になれば何不自由なく暮らせる。決して悪い話ではないはずだ」
「え、ちょっと……」
勝ち誇ったような笑みを浮かべながら言いたいことを全て語り終えると、第一王子ディルクは赤いマントをなびかせながら召使いや長髪の魔術師を引きつれて立ち去ってしまった。
「行ってしまわれましたね」
「困るわこんなの。ねぇ、ロゼッタ……。このアクセサリーってやっぱり相当、高価なのよね?」
「はい。これほど見事な宝飾品を持っている者は王侯貴族の中にも中々いないと思います」
「……やっぱり、いらないって言って来る」
「マリナ様?」
「こういうのは、私の国だと『タダより高い物はない』って言われてるのよ! こんなの受け取れないわ!」
「え、ええ……」
突如現れたディルク王子に戸惑いながらも頷くと、第一王子は口角を上げた。
「今日はそなたの迷いを断ち切るために、持ってきた物がある」
「物?」
「入れ」
「はっ!」
第一王子が客室のドアに視線を向けて声をかければ、茶褐色の木箱を両手で持っている召使いが現れた。その召使いの後ろから黒縁眼鏡の魔術師も姿を見せる。
「グラウクスさん?」
「マリナさん……。そちらはディルク殿下からの贈り物だそうですよ」
黒縁眼鏡の奥で、どことなく冷めた目をした長髪の魔術師に告げられるのと、ほぼ同時に召使いがローテーブルの上に木箱を置いた。
「贈り物!? この箱が?」
「開けてみるがよい」
突然のことに戸惑っているとダークブロンドの第一王子は眼前で悠然と微笑んだ。確かに、眼前に置かれた箱の中身は気になるので促されるまま木箱を開いてみると、中には色とりどりの美しい宝飾品や金貨がたっぷりと入った袋がぎっしりと詰まっていた。
「これは……!?」
「どうだ? どれも美しかろう。ガーネットのペンダントにエメラルドの周囲にダイヤモンドをあしらったブローチ。紫水晶と銀細工のイヤリング。大粒真珠があしらわれた彫金細工の髪飾りに真珠のネックレス。月光石がはめ込まれたブレスレッド」
「な、何なんですか。これは!?」
「先ほどグラウクスも言ったろう? 俺から黒髪の聖女へ贈り物だ」
「贈り物って……。これ、かなり高価な物ですよね? 理由もなく頂けないですよ」
困惑しながらテーブルの上にある宝飾品や金貨の譲渡を拒否しようとしたが、第一王子はうろたえる私を見て微笑した。
「まぁ、聞け。おまえが魔法を習得して俺の役に立てば、ここにあるアクセサリーよりも遥かに高価な宝飾品も思いのままだ」
「別にそんなの……」
「なんだ、宝石は好きではないのか? では、最高級のドレスか? それとも……」
「そういう問題ではありません! ディルク王子。前からお伝えしたいと思っていたんですが、私は元の世界に帰りたいんです!」
思わず声を荒げてしまったが、第一王子には私の言葉が響かなかったようで眉をひそめられた。
「何故だ?」
「元の世界には家族もいるし、将来を約束した相手だっているんです!」
「おまえが将来を約束した相手というのは、俺と出会う前のことだろう?」
「は?」
「考えてみろ。このまま魔法を習得して、おまえが聖女として役に立つなら俺の妃にしてやると言っただろう?」
「それは確かに聞きましたが、私は……」
「まぁ、この宝飾品や金貨は置いていく。これを見ながら、ゆっくりとよく考えるのだ。俺の妃になれば何不自由なく暮らせる。決して悪い話ではないはずだ」
「え、ちょっと……」
勝ち誇ったような笑みを浮かべながら言いたいことを全て語り終えると、第一王子ディルクは赤いマントをなびかせながら召使いや長髪の魔術師を引きつれて立ち去ってしまった。
「行ってしまわれましたね」
「困るわこんなの。ねぇ、ロゼッタ……。このアクセサリーってやっぱり相当、高価なのよね?」
「はい。これほど見事な宝飾品を持っている者は王侯貴族の中にも中々いないと思います」
「……やっぱり、いらないって言って来る」
「マリナ様?」
「こういうのは、私の国だと『タダより高い物はない』って言われてるのよ! こんなの受け取れないわ!」
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