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怪鳥の問いかけを受けて、兄が厚手の黒い手袋をはめたまま自分のアゴに触れて考え始めた。
「ふむ……。以津真天の主張を信じるなら、鹿の遺体に毒を仕込んだというのは金森ということになるな」
「え! なんで金森さんが!?」
「この周辺でジビエの鹿肉を出す宿泊施設は金森のペンションだけだ……。あいつは日常的にエゾ鹿を狩猟で殺害している。ペンションからの距離的にも、この鹿に人間の手で毒が仕込まれていたなら金森の仕業と考えるのが自然だ」
「金森さんがエゾ鹿を狩っているのは食べる為よ! 無為に殺害してる訳じゃ無いわ! 鹿の遺体にわざわざ毒を仕込んで、関係ない野生の生き物を殺してるなんてありえない……。金森さんは自分やお客さん達が食べる肉しか狩猟しないってことをポリシーにしてる人なのよ!」
私は首を横に振って、声を荒げながら兄の推測を否定した。食堂で金森さんが言ってた言葉を聞いた身としては、金森さんが仕留めた獲物の屍肉にわざわざ毒を仕込むなんて到底、信じられる話ではない。
「シカシ、現にそのオオワシは人間が狩猟で殺した鹿の死肉をついばんだ直後、毒の所為で動けなくなっタ。そして毒で長く苦しんだ末、死に至ったのダ」
「そんな……」
以津真天の主張と、私の主張は完全に平行線だ。そんな中、兄は雪の上に横たわる鹿の死骸に再び近づいて片膝をついた。そして懐中電灯で鹿の頭部から首筋、前脚、後ろ脚、胴体を念入りに観察している。もっとも胴体は白い肋骨が浮かび、内臓はカラスや猛禽についばまれたのだろう。殆ど残っていない空洞状態だ。
しかし、ほぼ空洞と化している胴体部分を見ていた兄の黒曜石色の目が大きく見開かれ、はめていた黒い手袋を取ると肋骨で覆われている鹿の胴体部分に手を突っ込んだ。私は兄が野生生物の内臓部分に直接、素手で触れるという光景に愕然とした。
「ちょっと! なにやってるの!?」
「これだ……」
「え、何それ?」
兄が鹿の胴体から取り出したのは歪にひしゃげた指先ほどの大きさの黒い物体だった。兄は目を細めてそれを見つめた後、取り出した青いハンカチで包んでダウンジャケットのポケットに入れた。
「毒を仕込んだ奴は状況を理解していない可能性がある。俺が今から帰って必ず説明する。理解すれば、もう毒が仕込まれることは無いはずだ」
以津真天はじっと兄の言葉を聞き、真っ直ぐに瞳を見据えている。やはりこちらに危害を加えようという意図や敵意は見られない。
「ひとまず、鹿とカラスの亡骸に雪をかけておこう……。このまま、放置しておくのは拙い」
「う、うん……」
兄の指示で鹿やカラス、オオワシの遺体に雪をかけた。そして私は兄とコロちゃんと共に、その場を立ち去る。私が途中で一度、振り返ると怪鳥は雪をかけられた死骸の傍でずっと「イツマデ……。イツマデ……」と小さい声で嘆き続け、冷たい満月の光を浴びながらその場にとどまっていた。
「ふむ……。以津真天の主張を信じるなら、鹿の遺体に毒を仕込んだというのは金森ということになるな」
「え! なんで金森さんが!?」
「この周辺でジビエの鹿肉を出す宿泊施設は金森のペンションだけだ……。あいつは日常的にエゾ鹿を狩猟で殺害している。ペンションからの距離的にも、この鹿に人間の手で毒が仕込まれていたなら金森の仕業と考えるのが自然だ」
「金森さんがエゾ鹿を狩っているのは食べる為よ! 無為に殺害してる訳じゃ無いわ! 鹿の遺体にわざわざ毒を仕込んで、関係ない野生の生き物を殺してるなんてありえない……。金森さんは自分やお客さん達が食べる肉しか狩猟しないってことをポリシーにしてる人なのよ!」
私は首を横に振って、声を荒げながら兄の推測を否定した。食堂で金森さんが言ってた言葉を聞いた身としては、金森さんが仕留めた獲物の屍肉にわざわざ毒を仕込むなんて到底、信じられる話ではない。
「シカシ、現にそのオオワシは人間が狩猟で殺した鹿の死肉をついばんだ直後、毒の所為で動けなくなっタ。そして毒で長く苦しんだ末、死に至ったのダ」
「そんな……」
以津真天の主張と、私の主張は完全に平行線だ。そんな中、兄は雪の上に横たわる鹿の死骸に再び近づいて片膝をついた。そして懐中電灯で鹿の頭部から首筋、前脚、後ろ脚、胴体を念入りに観察している。もっとも胴体は白い肋骨が浮かび、内臓はカラスや猛禽についばまれたのだろう。殆ど残っていない空洞状態だ。
しかし、ほぼ空洞と化している胴体部分を見ていた兄の黒曜石色の目が大きく見開かれ、はめていた黒い手袋を取ると肋骨で覆われている鹿の胴体部分に手を突っ込んだ。私は兄が野生生物の内臓部分に直接、素手で触れるという光景に愕然とした。
「ちょっと! なにやってるの!?」
「これだ……」
「え、何それ?」
兄が鹿の胴体から取り出したのは歪にひしゃげた指先ほどの大きさの黒い物体だった。兄は目を細めてそれを見つめた後、取り出した青いハンカチで包んでダウンジャケットのポケットに入れた。
「毒を仕込んだ奴は状況を理解していない可能性がある。俺が今から帰って必ず説明する。理解すれば、もう毒が仕込まれることは無いはずだ」
以津真天はじっと兄の言葉を聞き、真っ直ぐに瞳を見据えている。やはりこちらに危害を加えようという意図や敵意は見られない。
「ひとまず、鹿とカラスの亡骸に雪をかけておこう……。このまま、放置しておくのは拙い」
「う、うん……」
兄の指示で鹿やカラス、オオワシの遺体に雪をかけた。そして私は兄とコロちゃんと共に、その場を立ち去る。私が途中で一度、振り返ると怪鳥は雪をかけられた死骸の傍でずっと「イツマデ……。イツマデ……」と小さい声で嘆き続け、冷たい満月の光を浴びながらその場にとどまっていた。
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