神楽坂探偵社の妖怪事件簿

中野莉央

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「しかし、平成28年に電車が線路を通過する時間に鳥獣害対策用の超音波装置を発して、電車の通過中は線路上から鹿を退避させるというシステムが作られ線路上に設置された。特に鹿の衝突事故が多かった三重県の駅に試験的に設置してみた所、鹿と電車との接触事故の件数は大幅に減少した」

「え! じゃあ、その超音波装置を全国の線路に設置すれば鹿と電車との事故は、今よりずっと減るのね!?」

「ああ。すでに近畿をはじめ本州の鉄道会社では導入が前向きに検討されているようだ……。しかし、路線の長い区間で全ての場所に超音波装置を設置するのは予算的な問題もあって難しい」

「そっか……。特に北海道みたいに平地で森林が多い場所に鹿がたくさんいるんじゃあ、大変よね」

「ただ鹿の場合、通行する道がある程度きまっている。北海道のような積雪がある地方だと足跡で特に分かりやすいが、鹿が通行する場所に複数の足跡が残り『獣道』となっている」

「線路上を通る場所が『獣道」として決まっているなら、その場所に超音波装置を設置すれば良いのね?」

「理論上はな……。ただ、野生の生き物だから、完全にこちらが想定した通りに動いてくれるわけじゃ無いだろう。それに、北海道の鉄道会社は関西地方や東海地方などの鉄道会社と違って赤字経営が常態化して問題になっている。人口が多い札幌近郊以外は採算が取れず、赤字路線の廃止が次々と決定しているような状況だ。何しろ北海道の全路線が赤字というからな」

「ぜ、全路線が赤字!?」

 一瞬、聞き間違いかと思って私の声が裏返ってしまったが、兄は落ち着き払って平然と頷いた。

「ああ。そういう事情があるから、鹿の接触事故が多い区間だと分かっていても、赤字路線に鹿対策の予算を簡単につぎ込めないという切実な経営事情もあるだろう」

「なんで北海道の鉄道って、そんなに赤字なの?」

「雪国ということで積雪対策の費用が必要な上、自然災害が多いと路線などの被害が大きくなり修復の費用もかさむ。さらに自然災害の余波で北海道への観光客が減ればそれも収入減に直結するなど問題は複数ある……。さらに平成18年だと新幹線の営業赤字が大きい。新幹線の利用客が少ない上に線路や設備の修復工事による負担がかさんでいる。収入面では過疎化で乗客が減少していて芳しくない。新幹線以外は、新しい車両導入の目途が立たず老朽化した古い車両を長期間に渡って利用していたり、線路の保線を行うための充分な予算を組むのも難しい状況のようだからな……。こんな状態で赤字路線に、エゾ鹿対策の最新設備を導入するというのは現実的に考えて厳しいだろう」

「そうなんだ……。鉄道会社って、どこも黒字で大儲けしてるのかと思ってたけど違うのね」

 都内近郊に住んでいると電車の利用者は多いし、駅などの施設は常に綺麗で清潔に保たれている。車両だって定期的に新車両が導入されてるから赤字の鉄道会社があるとか、予算が足りなくて設備を新しくできない鉄道会社があるなんて信じられない話だ。

 東京近郊のような都会なら人口が密集していて近距離でも乗客が常にたくさんいるから黒字経営だけど、逆に北海道の場合は路線間の距離が長すぎる割に乗客が少ないのもあって赤字に陥りやすいのだろう。

「ああ。だから北海道の鉄道会社としては、鹿が電車に衝突することによって車両が一部破損したり、接触事故によって列車の運行状況に遅れが出ることによる経済的損失と天秤にかけて予算を組むだろう。まぁ、鹿をはねた所で列車に大きな破損や故障が出ることはまずない。現状を考えれば長い北海道の線路上に超音波装置を設置するのは難しいと言わざるをえないだろうな……」
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