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黒熊のベルント

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 俺は飢えていた。


 俺は人間の姿をしているが、俺の先祖には熊獣人がいる。その先祖の血が色濃く出たらしく、俺の身体能力は熊並みの剛力だった。もっとも外見は完全に人間なので、いわゆるクマ耳などはついていない。

 体格や身体能力に関してはクマ獣人の血が入ってる影響で、筋肉隆々のいかつい体格。顔もそれに見あった、いわゆるコワモテというやつだ。

 眼光はするどく、ガラの悪い連中も、俺の姿を見れば「ヒッ!」と震えあがり道をあける。子供と目があった日には、何もしていないのに泣き出される始末だ。

 めぐまれた体格や筋力を生かして冒険者稼業をしている内に、そこそこ名の知られる冒険者となり『黒熊ベルント』と言えば、熊並みの腕力を持つ獣人の冒険者として恐れられるようになっていった。

 そうなると元々、筋骨隆々で目立つ容姿をしているため、街で何気なく買い物をしていても、翌日には同業の冒険者やゴロツキの間で噂になるということも、しばしばあった。


 そうなると困ることがあった。俺はこんな見た目だが、大の甘党だった。熊獣人の血が入っているせいか、特にハチミツには目が無い。はっきり言ってハチミツは大好物だ。

 ほかにも甘い物全般、大好きだ。だが想像してほしい。筋骨隆々で眼光鋭いコワモテの男が嬉しそうにハチミツたっぷりの菓子にかじりついている姿を。


 そんな姿を目撃された日には、格好の笑い話のネタとなるだろう。そればかりか、ガラの悪い冒険者やゴロツキ共にあなどられ、面倒なケンカを次々ふっかけられるのは間違いない。

 売られたケンカを買って負ける気はしないが、嘲笑の的になるのは避けたいと思うのは、当然の心理だろう。だから俺は涙をのんで甘い物をガマンする生活を送っている。外食の時は冒険者らしく、大衆居酒屋のような場所に入って周囲の注目を浴びる。


「飲み物は何にしましょう?」

「……ビール。食事は適当に持ってきてくれ」


 おずおずと店員から尋ねられれば一瞬、甘い物を頼みたい。という衝動がわき上がるが、周囲の目を気にして結局、無難なオーダーをしてしまうのだ。

 せめてオレンジジュースでも頼めれば、欲求が満たされるのだろうが大衆居酒屋に、肩を怒らせた大男が一人でやって来て、開口一番「オレンジジュース」も無いだろう……。

 俺はダメな男だ……。戦闘であれば、素手で凶暴なモンスターを倒すことも可能なのに。甘い物を注文したり、買ったりすることは出来ない。そんなわけで、俺はひどく飢えていた。甘い物に……。
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