秘密の聖女(?)異世界でパティスリーを始めます!

中野莉央

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黒熊のベルント

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 ハチミツを使った新商品を食べて貰えないかと尋ねられ、俺は頭が真っ白になりながらも即座に頷いていた。そして、気付けば市場を出て談笑するパティスリー店長、セリナ嬢と道を歩いている。


「ベルントさんは熊獣人の血をひいてらっしゃるんですね」

「ああ……。しかし、本当にいいのか? 俺が試食など……」

「実はウチで働いてくれてる子たちが、連休で試食してくれる人がいないんですよ」

「そうなのか……」

「ええ。それに、その子たちにも、試作品の試食をよくお願いするんですけど、甘い物が好きな子たちで、何を食べても『美味しい!』って言っちゃうんですよね」

「それは……」

「『美味しい』って言ってもらえるのは嬉しいんですけど、たまにはちゃんと普段、甘い物を食べてない人の意見も聞きたかったので」

「なるほど……」

 どうしてセリナ嬢が、俺に「試食をしてほしい」と申し出たのか一応、納得できた。

「試食を引き受けていただけて嬉しいです」

「いや、俺など、役に立てるとは思えないが……」

 彼女に伝えてはいないが、俺は隠れ甘党なのだ。後ろめたい気持ちもあって若干、落ち込んでいるとセリナ嬢はあわてた。

「あんまり気にしないで、軽い気持ちで食べてくださいね。一応、助けていただいた、お礼のつもりもあるので……」

「そ、そうか?」

「ベルントさんは、私を助けたせいでリンゴが一つ、台無しになってしまったわけですし。遠慮しないで下さいね」

 リンゴについては場の流れで、俺が自分で勝手に潰してしまっただけなので、それに関して彼女が悪いわけでは無いのだが……。

 しかし、まさかリンゴと引き替えに一度はあきらめた、専門店の菓子を食べることが出来ようとは……。試作品の試食とはいえ内心、期待とドキドキが止まらなかった。



 セリナ嬢に先導され『パティスリー・セリナ』に入ると、店内にはハチミツの甘い香りが充満しているのを感じる。セリナ嬢からハチミツの香りがしたのは、この店でハチミツのケーキを焼いていたからなのだと理解できた。

 そして、店内を見渡せば清掃が行き届いた綺麗なショーケースが置かれている。もっとも、ショーケースの中は空っぽだったが。

「この店は持ち帰りのみで、店内でお客様が食べるスペースは無いんですよ」

「そうなのか……」

「ええ。ですから狭いんですけど、こちらへ」

 セリナ嬢にうながされて奥へ入れば、そこはダイニングルームだった。

「ケーキだけ試食して頂くのもなんですから、お茶も入れますね。どうぞ、おかけになってお待ち下さい」
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