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銀狼ヴォルフ

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 熱砂の砂漠を後にして船で川を北上すれば、やがて広大な内海に出る。船の上で潮風が頬に当たる。普段なら、サファイアとアクアマリンを溶かし込んだような美しい色合いの大海原を眺められる筈なのだが、王の呪いによって視界が霞み、美しい景色を堪能することは出来なかった。

「もう、残された時間は少ないな……」

 完全に視界を奪われれば単身の移動は実質、不可能になる。呪いの進行があまりにも早く、焦燥感が増すが最後の望みをかけ、そのまま船で北西し、陸地に上がってからは馬車で解呪魔法の使い手がいるという金獅子国を目指す。


 やがて金獅子国の王が住まうという大きな白亜の宮殿が、遠目にぼんやりと見えたがそちらに用は無い。緑の木々に囲まれた宮殿を横目に過ぎ去り、ようやく目的地にたどり着いた。

 高名な神官がいると聞いていたので、それなりに規模の大きな建物なのかと思っていたが、そこは石造りの壁に青い三角屋根、そこから一本の尖塔に銀色の鐘が吊るされているだけのごく小さな教会だった。

「本当に、こんな所に呪いを解ける神官とやらがいるのか……」

 訝しみながら教会の中に入れば、ステンドグラスの窓から光が差し込む教会の中で、まだ俺より年下と思しき金髪の男が祭壇に向かって祈りを捧げていた。白を基調とした神職者の服装をしている。この男に聞けば間違いないだろうと思い、祈りが一段落したであろうと思われるところで声をかけることにする。

「すまないが」

「はい?」

「ここに解呪魔法が使える神官がいると聞いて来たのだが……」

「ああ、それなら私のことです」

 淡いプラチナブロンドを揺らして、にこやかに微笑むエメラルド色の瞳をした神職者に、俺は戸惑った。

「おまえが?」

「ええ。私は呪いについての研究をしておりますので、その一環で解呪魔法も嗜んでおります」

 微笑を浮かべる物腰の柔らかな青年の言葉に驚く。高名な神官と聞いていたので、まさかこんなにも若いとは思っていなかったのだ。しかし最早、この目の前にいる若い神官以外に頼るあては無い。

「そうなのか……。俺はヴォルフ。冒険者だ。あんたは?」

「私の名はクレストです。解呪のことで尋ねて来られたということは、呪いでお困りのことが?」

「実は俺にかけられた呪いを解いてほしいんだが」

「詳しい話を伺ってもよろしいですか?」

「ああ。俺が呪いにかかった原因は、砂漠の王墓に足を踏み入れたのが切っ掛けで……」

 俺は何故、呪いにかかったのかという理由とすでに味覚、嗅覚、痛覚が失われ聴覚、視覚も危うくなっているという事実を説明した。するとクレストは愕然とし、困惑した表情を見せた。

「そのような恐ろしい呪いがあるなんて初耳です。少なくとも金獅子国……。いや、この大陸にはそのような呪いは存在しません」

「だが、俺は実際に呪いに犯され日々、症状が悪化している」

「そんな……」

「このままなら、近い中に視覚と聴覚も完全に失われるだろう」

「分かりました。どこまでやれるか分かりませんが、出来る限りの手は尽くしてみます」

「頼む」
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