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銀狼ヴォルフ

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 唖然としていると、店内にただよう甘い香りに刺激されたのか突然、俺の胃が空腹をうったえて大きな音を立てた。

「あら」

「すまない……。ここ数日、何も食っていなかったものだから」

 その事実に気づいた途端、空っぽの胃が悲鳴を上げるかのようにキリキリと痛み出した。だが、痛みを感じるということは痛覚が戻ったということだ。

 そういえば、甘い匂いを感じるということは嗅覚も戻ったということである。痛む胃をおさえながら信じられない思いで、呆然としていると少女は立ち上がった。

「ちょっと待っていてください」

 そう言い残し、店の奥に入っていった。しばらくすると少女は手に陶器の大きなカップを持ってきた。

「何日も食べてない状態で、いきなり固形物を食べると胃がびっくりしてしまうと思いますから、じょじょに慣らしていった方がいいでしょう。これを飲んで下さい」

「これは?」

「点滴もないですし、スポーツドリンク代わりにと……」

「てんてき? スポーツドリンク?」

「あ、いえ……。その、経口補水液というか」

「けいこうほすいえき?」

 聞いたことの無い単語に困惑していると、少女は苦笑した。

「えっと、脱水症状の治療に使われる飲み物です」

「治療に……」

「といっても、お湯にハチミツと、少量の塩とレモンを加えただけの簡単な物です」

「お湯にハチミツ……」

「ええ。変なモノは入ってませんから安心して下さい」

「ああ、いや……。決して、疑った訳ではないんだ」

「さぁ、どうぞ。そんなに熱くはないと思いますが、少しずつ、ゆっくり飲んで下さい」


 優しい微笑を浮かべる少女にうながされるまま、経口補水液とやらを少しづつ味わいながら胃に流し込む。ハチミツの優しい甘さとレモンの酸っぱさを感じて、失われていた味覚が、確かに戻ったことを実感する。

 少女が作ってくれた温かな飲み物が、ノドを通り胃に流れ込めば、そこから五臓六腑にしみわたるような感覚がして生き返る思いだった。


「あ……。何日も食べてないということは、胃の中も荒れていると思いますから、回復魔法をかけましょう」

「君は回復魔法が使えるのか?」

「ええ。ほんの少しだけですが、心得があります。……失礼しますね」

 俺の胃に向けて服の上から彼女が手をかざせば、温かい魔力で癒されるのが分かった。ジクジクと痛みを訴えていた胃が回復魔法によって癒され、落ちついていくのが分かる。

「すごいな……。君はいったい?」

「私はこのパティスリーの店長です」

「パティスリー?」

「ケーキ屋さんです。お菓子を作っているんです」

「菓子……」

「立ち上がることはできますか? 冷たい床の上に座っていると、体温が奪われると思いますから。可能なら奥にあるダイニングルームの椅子に」

「ああ」
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