秘密の聖女(?)異世界でパティスリーを始めます!

中野莉央

文字の大きさ
194 / 450
女官ミランダ

194

しおりを挟む
 王太子レオン様は、すでに成人の儀も終えている。地位も美貌も兼ね揃えているのだから周囲の女性たちが放っておく筈もなく、常に熱い視線を送られていると言うのに浮名を流しているという噂は、ついぞ聞こえてこない。

 普通、あの年齢の王侯貴族なら、恋人の一人や二人いてもおかしくはない。まして、金獅子国の次期国王ともなれば後宮にハーレムを持つ事になる身。王太子という身分であるにもかかわらず、あまりにも女っ気が無さ過ぎて心配だという声が上がるのも尤もだろう。


「そこでミランダが女官長となった際には折を見て、おまえの口から適当な寵妃を持つよう薦めて欲しいのです」

「私などよりも、ゾフィー様からレオン殿下にお伝えした方がよろしいのでは?」

 王太子殿下に対して諫言めいたことを口にするなど、恐れ多いと遠回しに返したが白髪の女官長は、すげなく首を横に振る。

「すでに何度かお伝えしましたが、煩そうに煙たがられるばかりです。私のような年寄りよりも、あなたのように王太子殿下と年齢の近い者の方が、殿下も耳を傾けて下さるでしょう」

「そうでしたか。しかし、私の言葉を聞いて頂けるか……」

「これは孫の誕生を待ち望んでいる、王妃リオネーラ様のご意向でもあります。頼みましたよ、ミランダ」

「……かしこまりました」


 女官長になると同時に、王太子殿下に対して寵妃も薦めねばならないとは……。レオン殿下に寵妃を薦めたと知られれば、王太子妃に怨まれかねない。

 しかも、これまで寵妃を薦める女官長ゾフィー様を王太子殿下が煙たがっていたことを考えれば、私も同じように王太子殿下に煙たがられ不興を買う可能性が大きい。

 かと言って王太子殿下の機嫌を損なわぬ為、何も言わないままレオン様が寵妃をはべらせないようなら、早く孫の顔を見たい王妃リオネーラ様がお怒りになられるだろう。

 女官長室を退出して、外で待っていた茶髪の侍女見習いジョアンナと共に後宮の廊下を歩きながら、早くも頭が痛くなる。思わず、こめかみを押さえていると前方からスカートのすそを両手でやや上げて、小走りにやって来る侍女の姿が見えた。

「何ですか。騒々しい!」

「申し訳ありません。ですが、国王陛下が……」

 侍女は酷く動揺した様子で、顔色も蒼白。もしやという思いが胸をよぎった。

「陛下がどうしたと言うのです?」

「ライオネル陛下が……。崩御されました」

「何ですって!? まことですか?」

「はい。ミランダ様、間違いございません。たった今、息を引き取られたのです」

「国王陛下が……」

 私は逡巡した後、女官長ゾフィー様に伝えるべく来た道を引き返した。
しおりを挟む
感想 445

あなたにおすすめの小説

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜

Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。 飲めないお酒を飲んでぶったおれた。 気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。 その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

襲ってきた王太子と、私を売った婚約者を殴ったら、不敬罪で国外追放されました。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

異世界に召喚されたけど、聖女じゃないから用はない? それじゃあ、好き勝手させてもらいます!

明衣令央
ファンタジー
 糸井織絵は、ある日、オブルリヒト王国が行った聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界ルリアルークへと飛ばされてしまう。  一緒に召喚された、若く美しい女が聖女――織絵は召喚の儀に巻き込まれた年増の豚女として不遇な扱いを受けたが、元スマホケースのハリネズミのぬいぐるみであるサーチートと共に、オブルリヒト王女ユリアナに保護され、聖女の力を開花させる。  だが、オブルリヒト王国の王子ジュニアスは、追い出した織絵にも聖女の可能性があるとして、織絵を連れ戻しに来た。  そして、異世界転移状態から正式に異世界転生した織絵は、若く美しい姿へと生まれ変わる。  この物語は、聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界転移後、新たに転生した一人の元おばさんの聖女が、相棒の元スマホケースのハリネズミと楽しく無双していく、恋と冒険の物語。 2022.9.7 話が少し進みましたので、内容紹介を変更しました。その都度変更していきます。

処理中です...