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忍び寄る影

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「この程度の炎なら消すのはたやすい!」

 レオン陛下が叫ぶと同時に金色の瞳が妖しく光を放ち始めた。そして、部屋の中で強い疾風が吹き荒れ室内の窓ガラスが高い音を立てて砕け散った。

 あまりの風の強さに思わず目を閉じた後、恐る恐る開くと室内で燃え盛っていた炎は消え去り、僅かに何ヶ所か小さな煙が出ているのみという状態になっていた。

「すごい……」

「いや、まだ火種が残っているだろう」
 
 そう言いながら陛下は、私を横抱きにしたまま歩いて炎が消えたばかりの部屋を出た。通路には茶髪の侍女ジョアンナが涙目で立ちつくし、私と陛下の姿を見るや目を見開いた。

「ああ、二人ともご無事で……! よかった!」

「ジョアンナ……。ごめんなさいね。心配をかけてしまって、でも何故、こんな……」

 誰かに後頭部を殴打され首を絞められた所までは記憶にあるが何故、自分の部屋が火事になっていたのか。目が覚めた瞬間、どうして陛下に抱きかかえられていたのか全く分からずジョアンナに尋ねるが、茶髪の侍女は困惑の表情を浮かべた。

「私が戻った時には、もう室内から炎が出て中に入れなかったのよ。そこに陛下がやって来て、ローザが室内にいるかも知れないと言ったら、止める間もなく陛下が炎の中に飛び込んで行かれて……」

「そうだったのね……。陛下、助けて下さってありがとうございます」

「いや、間に合って良かった」

 破顔する金髪の国王陛下の頬に、炎の中へ飛び込んだ時に負ったのであろう痛々しい火傷が出来ているのを発見し私は愕然とした。

「あっ! 陛下、頬に火傷を!」

「この程度の傷どうという事も無い。……そなたが無事で何よりだ」

 穏やかに微笑みながら自分のケガよりも、私の身を案じて下さる陛下の優しさに熱い物が込み上げ、視界がにじんできた。

「陛下……。うっ!」

「ローザ?」

「どうしたのだ?」

「あ、頭が……」

 目が覚めた瞬間、陛下の腕に抱かれていたのと炎に包まれようとしていた衝撃が大きすぎて忘れていたけど、私は後頭部から出血するほどのケガを負っていたのだった。生命の危機を脱して、安堵し頭部のケガを思い出したことで、忘れていた筈の激痛がどんどん酷くなってきた。

「頭がどうしたと?」

「陛下……。ローザの髪に血が!」

 ジョアンナの指摘でレオン陛下も、そこで初めて私が後頭部に傷を負っているという事実に気付き顔色を変えた。

「これは! 急いで医師を呼べ!」

「は、はいっ!」

「すぐに医師が来る。ローザ、気をしっかり持て」

「陛下……」

 通路の奥から黒髪の女官長や医師であろう老婆の姿が遠くに見えたが、私は激痛と重くなる瞼に耐え切れず陛下の腕の中で再び意識を手放した。
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