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羅什の道
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序章
この物語は釈尊の説教の中でも極説中の極説である法華経を訳したことで、名高い鳩摩羅什の足跡を辿ってゆく。
第一章 亀茲国
今日の亀茲国は天気の良い初夏の陽気である。そんな暑さを意に介さずに、今日も朝から漢文をひたぶるに学んでいる青少年がここ亀茲国には居る。「おーい羅什、こんな暑いのにまた昼間から勉強か?今日は天気も良いし狩りにでも行こうぜ!」羅什の朋輩が部屋に呼びかける。「今日は狩りはやめとくよ!君たちだけで行ってくれ!」こう答えたその少年こそ後年数々の仏典を翻訳して仏教流布において絶大な貢献をすることになる名翻訳家、すなわちその名も鳩摩羅什である。「羅什は頭良いからなぁ!分かった!釣りは俺たちだけで行くよ!」。明日からはまた学舎で授業であるが、羅什は休日にはこのように決まって学童仲間の遊びの誘いを断って宿題などの勉強に励む生徒なのである。彼は母である耆婆が聡明であったこともあり、智慧は優れていたほうである。それを物語るのが彼は年15にして近隣5カ国の言語を習得していたのである。もちろん亀茲国の国語や文学などにはほとんど精通していた。1週間後の朝「おはよう羅什!今週こそは一緒に狩りに行く約束だったよなー!」狩りが好きな王室生まれの仲間がまた朝から勉強している羅什の部屋に向かって呼びかける。「そうだったっけ?僕は気が乗らないや!また君たちだけで行ってくれ!」このようなやりとりがここ最近の休日に続いている。夏休みはどうやって友だちの誘いを断ろうかと考える羅什であった。ここ亀茲国の夏は暑い。だが勉強する習慣がついている羅什は涼みに避暑地に行く先でも漢学書などを読んでいた。これ程まで学ぶようになったのは、父である鳩摩羅炎の影響も大きかった。やがて16歳頃から仏教を学ぶために漢土の臨淄に留学して本格的に漢語で書かれた仏教を学ぶこととなる。そこでも途端に難解とされる仏教理論などが書かれた仏教書をマスターしていき、大小乗のあらゆる論書を学び尽くす勢いであった。とりわけ彼は法華経の教えに惹かれるようになる。そして彼は将来法華経の教えを中国の漢語に訳すという志を抱くようになる。
第二章 伝導
臨淄での学びの課程を修了すると、彼は即座に漢土有数の訳経僧が入る僧院に出家する。そこで彼は優れた三蔵として名高いかつてより尊敬している須利耶蘇摩三蔵に出会う。その日はたまたま出家した日の記念講座があり名門で知られる僧院に訳経講座の講師として呼ばれて来ていたのである。その素晴らしい講座を聞いていた羅什は須利耶蘇摩三蔵を師匠としていくことに決める。ほどなくしてそこでも彼は頭角を表していく。やがて僧院で正規の訳経僧として経典を訳す免許を得た彼は、まずはじめに阿含部の比較的簡単な小乗経典などの論経書を訳す。そして腕を認められた彼は三蔵という称号を得ることとなり、膨大な量を誇る般若経や大集経などの方等部にあたる経書の翻訳にとりかかる。この頃になると羅什の名は亀茲国はおろか漢土近隣諸国まで轟いていた。ただまだ若い羅什の才を快く思わない年配の訳経僧も少なからずいた。「あの羅什三蔵が大乗の論書を訳すだと?あのような青二才は小乗だけ訳してればいいわ!」このような罵詈雑言もあったが、羅什は負けずに大乗仏典の翻訳に取り組んでいく。やがて師匠である須利耶蘇摩から正式に法華経を訳すことを承認される。
第三章 名訳
須利耶蘇摩から免許皆伝された彼は早速本題である法華経の翻訳に着手する。一部訳したところで師匠須利耶蘇摩三蔵に見せたが、「弟子羅什よ!汝はそれでも三蔵か!」今までに何度師匠である須利耶蘇摩から叱責されたかはわからないが、このときばかり厳しい叱責はなかったであろう。その理由はこうであった。意味は合っていたのだが、例えば仏の智慧を説く部分の漢字を智慧と訳すべきところを知恵などの字に訳してしまっていたなどである。つまり羅什の仏や経典なかんずく法華経への敬意が欠けているところを諫められたのである。かくしてなんど訳し直したか分からないが、遂に彼は志を果たすことになる。
終章
今、我々が法華経を拝謁することができるのもひとえに彼の功績であると言っても過言ではない。確かに他の三蔵の訳もあることにはあるが、彼らの訳は名訳とは言い難い。なぜなら彼らは、法華経の訳に私見を挟んだり自分の我見で意訳したりしているからである。羅什が一流の訳経僧であった理由の一つがこの我見を挿し挟まない姿勢にあると言える。ただし、ただ自分の意見を挟まないだけでそのまま訳したわけではなく、彼の訳が優れているのはサンスクリット語やパーリ語を漢語という漢字の持つ特性を活かして独創的かつダイナミックに文字通り魂を込めていたと思われる。
この物語は釈尊の説教の中でも極説中の極説である法華経を訳したことで、名高い鳩摩羅什の足跡を辿ってゆく。
第一章 亀茲国
今日の亀茲国は天気の良い初夏の陽気である。そんな暑さを意に介さずに、今日も朝から漢文をひたぶるに学んでいる青少年がここ亀茲国には居る。「おーい羅什、こんな暑いのにまた昼間から勉強か?今日は天気も良いし狩りにでも行こうぜ!」羅什の朋輩が部屋に呼びかける。「今日は狩りはやめとくよ!君たちだけで行ってくれ!」こう答えたその少年こそ後年数々の仏典を翻訳して仏教流布において絶大な貢献をすることになる名翻訳家、すなわちその名も鳩摩羅什である。「羅什は頭良いからなぁ!分かった!釣りは俺たちだけで行くよ!」。明日からはまた学舎で授業であるが、羅什は休日にはこのように決まって学童仲間の遊びの誘いを断って宿題などの勉強に励む生徒なのである。彼は母である耆婆が聡明であったこともあり、智慧は優れていたほうである。それを物語るのが彼は年15にして近隣5カ国の言語を習得していたのである。もちろん亀茲国の国語や文学などにはほとんど精通していた。1週間後の朝「おはよう羅什!今週こそは一緒に狩りに行く約束だったよなー!」狩りが好きな王室生まれの仲間がまた朝から勉強している羅什の部屋に向かって呼びかける。「そうだったっけ?僕は気が乗らないや!また君たちだけで行ってくれ!」このようなやりとりがここ最近の休日に続いている。夏休みはどうやって友だちの誘いを断ろうかと考える羅什であった。ここ亀茲国の夏は暑い。だが勉強する習慣がついている羅什は涼みに避暑地に行く先でも漢学書などを読んでいた。これ程まで学ぶようになったのは、父である鳩摩羅炎の影響も大きかった。やがて16歳頃から仏教を学ぶために漢土の臨淄に留学して本格的に漢語で書かれた仏教を学ぶこととなる。そこでも途端に難解とされる仏教理論などが書かれた仏教書をマスターしていき、大小乗のあらゆる論書を学び尽くす勢いであった。とりわけ彼は法華経の教えに惹かれるようになる。そして彼は将来法華経の教えを中国の漢語に訳すという志を抱くようになる。
第二章 伝導
臨淄での学びの課程を修了すると、彼は即座に漢土有数の訳経僧が入る僧院に出家する。そこで彼は優れた三蔵として名高いかつてより尊敬している須利耶蘇摩三蔵に出会う。その日はたまたま出家した日の記念講座があり名門で知られる僧院に訳経講座の講師として呼ばれて来ていたのである。その素晴らしい講座を聞いていた羅什は須利耶蘇摩三蔵を師匠としていくことに決める。ほどなくしてそこでも彼は頭角を表していく。やがて僧院で正規の訳経僧として経典を訳す免許を得た彼は、まずはじめに阿含部の比較的簡単な小乗経典などの論経書を訳す。そして腕を認められた彼は三蔵という称号を得ることとなり、膨大な量を誇る般若経や大集経などの方等部にあたる経書の翻訳にとりかかる。この頃になると羅什の名は亀茲国はおろか漢土近隣諸国まで轟いていた。ただまだ若い羅什の才を快く思わない年配の訳経僧も少なからずいた。「あの羅什三蔵が大乗の論書を訳すだと?あのような青二才は小乗だけ訳してればいいわ!」このような罵詈雑言もあったが、羅什は負けずに大乗仏典の翻訳に取り組んでいく。やがて師匠である須利耶蘇摩から正式に法華経を訳すことを承認される。
第三章 名訳
須利耶蘇摩から免許皆伝された彼は早速本題である法華経の翻訳に着手する。一部訳したところで師匠須利耶蘇摩三蔵に見せたが、「弟子羅什よ!汝はそれでも三蔵か!」今までに何度師匠である須利耶蘇摩から叱責されたかはわからないが、このときばかり厳しい叱責はなかったであろう。その理由はこうであった。意味は合っていたのだが、例えば仏の智慧を説く部分の漢字を智慧と訳すべきところを知恵などの字に訳してしまっていたなどである。つまり羅什の仏や経典なかんずく法華経への敬意が欠けているところを諫められたのである。かくしてなんど訳し直したか分からないが、遂に彼は志を果たすことになる。
終章
今、我々が法華経を拝謁することができるのもひとえに彼の功績であると言っても過言ではない。確かに他の三蔵の訳もあることにはあるが、彼らの訳は名訳とは言い難い。なぜなら彼らは、法華経の訳に私見を挟んだり自分の我見で意訳したりしているからである。羅什が一流の訳経僧であった理由の一つがこの我見を挿し挟まない姿勢にあると言える。ただし、ただ自分の意見を挟まないだけでそのまま訳したわけではなく、彼の訳が優れているのはサンスクリット語やパーリ語を漢語という漢字の持つ特性を活かして独創的かつダイナミックに文字通り魂を込めていたと思われる。
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