歴史人物烈伝

zukitaishi

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赤壁への道

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 序章
 これは赤壁の炎はいかにして燃え上がったのかを辿る炎の男周瑜の一生の物語である。
ここ孫呉の地に赤壁の炎の種が芽生えた。彼の名は周公瑾。
 第一章 幼き火種
 孫呉の軍閣の産婆室で産声をあげた声がここ修練場へも響き渡った。それを聞いて喜ぶ魯粛先生。魯粛先生は今後この美少年周瑜に兵法学を教授する任を孫堅から命じられてより緊張していた。それにしてもどうしてここまでこの周瑜周坊やは美しいのであろうか。おなごと見間違えるほどである。
 周瑜周坊やは血筋も素晴らしく孫呉の希望の星と仰がれている。それは大切に育てられるであろう。しかし皆の願いとは裏腹に周瑜坊やには困難な幼少期が待ち受けていた。まず一つには彼には耳が聞こえないのかなかなか話すようにならなかった。しかし驚いたことにそれは彼があまりにも賢く、あまり人前で多くしゃべるのは馬鹿馬鹿しいから話さなかったと後年魯粛先生に話している。
 そうしてすくすく育っていく周瑜坊やには不思議なことが数多く起こる。まず初めに彼は西南を指さして我が智及ばずと言った。また東を眺めて我が宿敵猛々し言った。もう一つ彼は夜の星を眺めていると時々一人で笑い出した。そこで理由を聞くと我が星宿他を寄せ付けずと言った。
 第二章 若き焔
 近頃周瑜青年は孫策とばかり狩りに行ったり修練所に一緒に籠ったり枚挙に暇がない。しかしながら周瑜公と孫策は対照的な才を持っている。周瑜は兵法学に抜きん出ており、対して孫策は武術に抜きん出ている。しかし周瑜は弓術では孫策に負けないくらい秀でていた。
 魯粛に兵法を学ぶうちに周瑜公は才覚人に優れること虎の力の如くであった。塀法学舎を出るころには他の軍師に劣らないほどの計略家となっていた。それを物語るのに黄巾の乱のさなか隣国に傀儡する張角一派の軍勢をいかに寄せ付けずに破砕できるか軍法会議に招かれた彼は他の計略家の意見を論破して未来予想論を述べたところ皆納得したのだ。それにすべて彼の論通りの顛末になったのである。
 軍師任命の通知が周瑜のもとに届いたのは遅くはなかった。周瑜はやはりかとつぶやき任命通知書を魯粛先生に献じた。出師の日は春の陽気漂う四月三日の朝だった。その朝任命式があり、正式に周瑜は軍師となった。出席していた孫策や魯粛先生は感激していたが周瑜は意に介さないかのように冷静だった。その日の夜の酒宴の席でも彼は感情を表に出さなかった。なぜなら彼は後の戦いで軍師を務めるのを達観していたからである。まえまえからそうなるであろうと思いその時が来たかとぐらいにしか考えていなかった。だが彼の胸の内はいままでこの時のために兵法を学び、いつの日か曹操の軍を大火計で焼き尽くすという理想で燃えていた。
 第三章 燃え滾る壮年
 赤壁の戦いの火ぶたを切る前に周瑜は諸葛亮と接見したが期待していたいでたちとはかけ離れた彼の容姿に少しがっかりしたが東南の風が吹くことを予期していたことには脱帽した。なぜなら周瑜が天体観測していた時にはたしかに東南の風が吹くと予測したが、それを孔明ははるか以前から知っていたからである。
 周瑜は蜀との軍法会議ではあらかじめ諸葛亮との約束通りお互いの策を手のひらに一字でもって作戦を披露する場では火と墨書したがそのとき諸葛亮の手のひらには炎と書いてあった。
 終章 老いたる灰儘
 晩年周瑜は赤壁の戦いを振り返って悔し涙を流した。なぜなら彼が一生を懸けて体得した兵法をもってしても曹魏を焼き尽くせなかったからである。彼は陣中にある篝火をみるたびに悔しさが込み上げてきた。だが今では怒りの炎は消え虚しい灰のような虚無感しかないのだ。
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