子育てママは突然の異世界に、ワクワクしかありません

イトウ 

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再会

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 バタンというドアを開ける大きな音。
 同時に、全速力で走ってきたと分かるくらいに激しく息をする音が聞こえる。

「……っ、二人とも……、無事?」

 そこには、呼吸さえも苦しそうな。でも、何とか声を出そうとしているノルドの姿があった。

「パパーーー! もう、遅いよっ!」

 私が何かを言う前に、号泣をしながらリンクがすごい勢いで抱きつく。
 私だって、早く抱きつきたい。でも、何も動けなくて、立ちすくむ。

「ごめん、待たせた。どこか、痛いところとか、気持ち悪いとか……ない?」

 もう、どこにも行かないで、と言うように、両足に巻き付いているリンクの頭を撫でながら、私の体調を気遣う。

「大丈夫」
「それなら、良かった」
「……迷子にでも、なってたの?」
「勝手に、離れてごめん」

 ノルドがいなくなってから、1週間。
 どれだけ心配したか、言いたくて仕方ない。でも、彼の私を見る目は不安そうに揺らいでいて、何かをこわがっていた。だから、突然いなくなった事を責めるなんて出来ない。
 文句さえ言わせてくれないし、許すしかない。
 
「もう。今回だけだよ」
「ありがとう」
「リンクのおかげ。頑張ってくれたんだよ」
「そうか。……守ってくれて、ありがとう。あれ?」
「……立ったまま、寝ちゃってるね。」

 緊張がとけたのか、足の間に顔をうずめてスヤスヤと寝息を立てていた。そん器用な姿に、ついつい笑みがこぼれる。

「ノルド、疲れてるでしょ? 私がリンクを抱っこするね」

 返事を待たずに「よいしょ」と、持ち上げてユラユラと揺らす。
 もう、3歳児にもなれば重いけれど、自然と私に体重を預けてくれるから、さほど負担はない。

 幸せな夢を見てるのか、笑みを浮かべている。そんな姿を2人で愛おしげに見ていたら、ノルドがリンクごと私を包みこんでくれた。
 見た目より密度の高い体躯は、私が知っているよりも温かくて安心する。

「……サクラも、リンクも、明るい顔で良かった」
「迷子のノルドが見つかったから、ね」
「ごめん。……僕も、探してた」
「私たちを?」
「そう。あと、ずっと一緒にいられる方法」

 ぎゅっと、私を抱く力が強まる。
 その言葉に裏には、本来なら私たちは離れなくてはならないとい意味が隠されている。

「その方法は、見つかった?」
「一人じゃ、無理だった」
「そう」
「……ねえ、サクラ。ここがどこなのか、ウイルから簡単には聞いた?」
「異世界だとか、異世界じゃないとか」
「異世界……?どっちだろう」

 不思議そうに横に目線を動かす表情を見ていたら、確かにどちらでも良い気がしてきた。

「私も、概念は良く分かってないけどね」

この話は終わりと言うように、首を振る。

「……うん、待ってて。リンクを寝かせてくる。ちゃんと、後悔しないように説明したいから」
「分かった。……大丈夫だよ」

 ノルドはうなずくけれど、下を向いた顔は少し暗くて心配になる。
 きっと、食事もしていないだろう。
 さっきのクッキーの残りと新しいお茶をテーブルに並べて、扉の外に立っていたウイルも呼んだ。
 なんとなく、自分たちだけじゃない方が良い気がする。
 何でも話し合いは、第三者の意見も聞いた方が良い。

「ウイルは、すべて知ってるの?」
「はい。ノルド様が日本にいる時に、連絡球で指示を頂いてましたので……」
「あ。もしかして、たまに仕事の話をしに行ってた相手って……!」
「私ですね」

 まじまじと、表情のない真面目そうな顔を見る。
 あの優しさのかたまりのノルドが、この強そうな人に偉そうにしている姿は想像できない。

「……おまたせ」

 ノルドが戻ってきたが、やはり顔色が悪い。早く話を終わらせた方が良いだろう。
 考えすぎてしまう彼には、まわりくどく言うよりもサクッと解決させてあげた方が良い。

「……で、元の世界に戻れるの?」
「まず、そうだよね。戻れるけど。きっと、戻れない」

どっちなのか。でも、戻れないという事なのだろう。


「じゃ、次ね。この先、私たちは一緒に住める?」
「住める、けど。……でも、サクラはそれで良いの?」
「そっか。なら、問題なしだよ」

 離れ離れになってた時間を思ったら、住む世界が変わることなんて何でもない。
 だから、心配そうな顔をしないで。

「サクラが、もし帰りたいなら……、」
「その選択を選ぶと大変なんでしょ? なら、良いよ。だって外を見て」
「……そと?」

 空と川と草むら、のどかな農村地帯をグルグルと指差す。

「一緒だよ。今までと」
「それは、似てる所も多いけど……」
「一瞬でも同じ景色がないところが、一緒」
「どういう……?」
「雲も、すぐに生まれて消えるじゃない。だったら、昔だって今だって、これからだって同じように変わっていくから」

 なら。ここに居たって、何処だって、かまわない。
 たった一つの、変わらないものさえ失わなければ、私は生きていけるから。

「私は、ずっとノルドが居る場所にいるよ」

 一番、大切なこと。
 もし、元の世界にいることで、その願いが叶わない可能性があるなら……、戻りたくない。

「……ありがとう」
「すっごく、悩んだんでしょ?」
「サクラとリンクの確認を取らずに、こっちの世界に呼んじゃったから」
「そっか。なにか、事情があるんだね」

 少しだけ、落ち着いてきたノルドにお茶をすすめる。ウイルが選んでくれた、ハーブの豊かな香りは心を落ち着かせてくれるだろう。

「良い香り」
「はい。あと、クッキーも食べて。その後……、ちゃんと説明してもらうから」
「……分かった」

 どうして、こうなったのか。
 それと、これからどうしたらよいのか。
 ちゃんと、相談しなくちゃ。もう、2度と離れたくない。

「ウイルも、補足説明よろしくね」




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